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第一章 ドラグニル竜国へ
第五話 日々の暮らし
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寵妃としての暮らしは、公爵家での暮らしよりも数段上の豊かな暮らしぶりとなった。
まず、食べ物が美味しい。ドラグニル竜国では普通のことなのらしいけれど、甘辛いタレや様々な香辛料というものが存在しており、中々にスパイシーなものが多い。それが、私の好みにマッチしたのだ。
「んーっ、この辛いのとマイルドなのが何とも言えませんっ」
「シェイラ様は、辛いものがお好きなんですね」
穀物を擂り潰して作った皮に、野菜や鶏肉を挟み、チリソースやマヨネーズといった調味料で味付けしたそれを頬張りながら、私は側に控えるベラの言葉に、満面の笑みを浮かべる。
「えぇ、ここに来て初めて、辛い食べ物を口にしましたが、刺激的で良いものですね」
「そうでしょう、そうでしょう」
大きくうなずくベラとも、今は随分と仲良くなれたように思える。ただ、未だにアルム様の態度がお姉様に誤解を与えているであろう話はできていない。
「あっ、それとシェイラ様っ。先ほど、アルム様から一緒にお茶をしないかとお誘いがありましたよ。どうしますか?」
現在はお昼時。お茶というならば、きっと、あと三時間くらい後のこととなるのだろう。
「分かりました。そのお誘いをお受けします」
実は、こんなお誘いは初めてのことではない。この国に来たばかりの日こそなかったものの、それ以外はほぼ毎日のように一緒にお茶会をしていた。
その目的は主に、お姉様の素晴らしさを語るためのもの……なのと、一応、私の近況報告の場でもある。お互いにお姉様のことが大好きなだけあって、結局はお姉様についてのお話で終わることが多いものの、アルム様も私のことを気にかけてはいるのだ。
昼食を終えた私は、ベラに急かされるままにアルム様と会う準備を始める。
入浴やマッサージ、へアセットやらお化粧やら、やることはたくさんだ。
「さぁっ、できましたよっ」
今日は、青と白を基調とした、スラリとした体を強調するような美しいドレスで、アルム様と会うことになるようだ。
(こんな生地のドレス、レイリン王国にはありませんでしたね)
そのドレスの生地は滑らかで、とても着心地が良い。食べ物だけでなく、布も、レイリン王国より上の水準にあるらしかった。
「さぁ、それでは参りましょうっ」
私よりも張り切っている様子のベラに苦笑しながら、私はアルム様の元へと向かう。まだ、この国に来て一週間も経っていないものの、それなりに道を覚えている私は、そろそろアルム様の元へと辿り着くことを確信して、ふと、足を止める。
「いやぁね、人間風情が」
「全くですわ」
それは、この国の貴族であるご婦人方の声。この場所は、別に閉鎖されているわけでもないため、たまにこんな風に他の貴族の声が聞こえてくることがある。
(姿は見えませんが、言うなら正々堂々とおっしゃいなさいなっ)
明らかに、寵妃とされた私に対しての陰口であるそれに、ベラもやはり気づいて眉間のシワを深くする。
「……くびり殺せないでしょうか?」
そして、私に聞かせる気はなかったのだろうけれど、そんな一言を呟くベラに戦慄する。
「ベラ、行きましょう」
「っ、はいっ」
じっと声がした方を見ていたベラは、私の言葉にさっと我に返り、道案内役を再開する。
(まぁ、この程度の陰口なら可愛いものです)
実害を伴わない陰口など、気にするだけ無駄というものだ。もしも、私の立場が寵妃なんていうものでなければ、この国の一貴族だったならば……私は容赦なく、彼女達を口で言い負かせていただろう。
(今は大人しくしていないと、ですね)
せっかく寵妃として匿ってくれているのに、ここで問題を起こすわけにはいかない。だから、私は彼女達を無視する。
(あぁ、後、お姉様には内緒にしておかなければ……)
お姉様はきっと、定期的に私の元に来てくれる。その時、お姉様を心配させるような情報を漏らすわけにはいかない。これは、私の戦いなのだから。
「陛下、シェイラ様がお越しです」
「入れ」
美しい庭園が見える席で、一人腰かけるアルム様。その様子はどこか物憂げで……お姉様を想っていることが丸わかりだ。
「お招きいただき、ありがとうございます」
「あぁ、早速話そう」
私が挨拶をすれば、アルム様はその視線を私に向けて微笑む。その蕩けるようなその笑みに、私も同様の笑みを浮かべてうなずく。きっと、ここだけを切り取って見るならば、相思相愛だと取られてもおかしくはない。
「はいっ、ぜひとも、お姉様のお話を!」
そうして、楽しい楽しいお茶会は始まるのだった。
まず、食べ物が美味しい。ドラグニル竜国では普通のことなのらしいけれど、甘辛いタレや様々な香辛料というものが存在しており、中々にスパイシーなものが多い。それが、私の好みにマッチしたのだ。
「んーっ、この辛いのとマイルドなのが何とも言えませんっ」
「シェイラ様は、辛いものがお好きなんですね」
穀物を擂り潰して作った皮に、野菜や鶏肉を挟み、チリソースやマヨネーズといった調味料で味付けしたそれを頬張りながら、私は側に控えるベラの言葉に、満面の笑みを浮かべる。
「えぇ、ここに来て初めて、辛い食べ物を口にしましたが、刺激的で良いものですね」
「そうでしょう、そうでしょう」
大きくうなずくベラとも、今は随分と仲良くなれたように思える。ただ、未だにアルム様の態度がお姉様に誤解を与えているであろう話はできていない。
「あっ、それとシェイラ様っ。先ほど、アルム様から一緒にお茶をしないかとお誘いがありましたよ。どうしますか?」
現在はお昼時。お茶というならば、きっと、あと三時間くらい後のこととなるのだろう。
「分かりました。そのお誘いをお受けします」
実は、こんなお誘いは初めてのことではない。この国に来たばかりの日こそなかったものの、それ以外はほぼ毎日のように一緒にお茶会をしていた。
その目的は主に、お姉様の素晴らしさを語るためのもの……なのと、一応、私の近況報告の場でもある。お互いにお姉様のことが大好きなだけあって、結局はお姉様についてのお話で終わることが多いものの、アルム様も私のことを気にかけてはいるのだ。
昼食を終えた私は、ベラに急かされるままにアルム様と会う準備を始める。
入浴やマッサージ、へアセットやらお化粧やら、やることはたくさんだ。
「さぁっ、できましたよっ」
今日は、青と白を基調とした、スラリとした体を強調するような美しいドレスで、アルム様と会うことになるようだ。
(こんな生地のドレス、レイリン王国にはありませんでしたね)
そのドレスの生地は滑らかで、とても着心地が良い。食べ物だけでなく、布も、レイリン王国より上の水準にあるらしかった。
「さぁ、それでは参りましょうっ」
私よりも張り切っている様子のベラに苦笑しながら、私はアルム様の元へと向かう。まだ、この国に来て一週間も経っていないものの、それなりに道を覚えている私は、そろそろアルム様の元へと辿り着くことを確信して、ふと、足を止める。
「いやぁね、人間風情が」
「全くですわ」
それは、この国の貴族であるご婦人方の声。この場所は、別に閉鎖されているわけでもないため、たまにこんな風に他の貴族の声が聞こえてくることがある。
(姿は見えませんが、言うなら正々堂々とおっしゃいなさいなっ)
明らかに、寵妃とされた私に対しての陰口であるそれに、ベラもやはり気づいて眉間のシワを深くする。
「……くびり殺せないでしょうか?」
そして、私に聞かせる気はなかったのだろうけれど、そんな一言を呟くベラに戦慄する。
「ベラ、行きましょう」
「っ、はいっ」
じっと声がした方を見ていたベラは、私の言葉にさっと我に返り、道案内役を再開する。
(まぁ、この程度の陰口なら可愛いものです)
実害を伴わない陰口など、気にするだけ無駄というものだ。もしも、私の立場が寵妃なんていうものでなければ、この国の一貴族だったならば……私は容赦なく、彼女達を口で言い負かせていただろう。
(今は大人しくしていないと、ですね)
せっかく寵妃として匿ってくれているのに、ここで問題を起こすわけにはいかない。だから、私は彼女達を無視する。
(あぁ、後、お姉様には内緒にしておかなければ……)
お姉様はきっと、定期的に私の元に来てくれる。その時、お姉様を心配させるような情報を漏らすわけにはいかない。これは、私の戦いなのだから。
「陛下、シェイラ様がお越しです」
「入れ」
美しい庭園が見える席で、一人腰かけるアルム様。その様子はどこか物憂げで……お姉様を想っていることが丸わかりだ。
「お招きいただき、ありがとうございます」
「あぁ、早速話そう」
私が挨拶をすれば、アルム様はその視線を私に向けて微笑む。その蕩けるようなその笑みに、私も同様の笑みを浮かべてうなずく。きっと、ここだけを切り取って見るならば、相思相愛だと取られてもおかしくはない。
「はいっ、ぜひとも、お姉様のお話を!」
そうして、楽しい楽しいお茶会は始まるのだった。
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