片翼シリーズ番外編

星宮歌

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私、異世界で監禁されました!?の番外編

リドルの片翼(三)(リドル視点)

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 片翼の説明を終えれば、アリシアは難しい顔を、そして、レティはオロオロとした表情で困惑していた。


「悪いけど、僕達にも精霊としての特性がある。そして、その特性ゆえに、君達についていくことはできない」

「っ、何でもするっ! 俺は、アリシアを諦められないっ」

「俺もだ。片翼なんていらないと思っていた自分が嘘みてぇに、今ではレティがほしくてたまらないっ。頼むっ、どうか、レティの側に居させてくれっ!」

「そうは言ってもねぇ……」


 片翼がいらないなんて、俺はなんてバカなことを考えていたのだろうと、今ならそう思える。片翼は、魂の片割れだ。決して、欠かすことのできない、大切な、大切な存在だ。それを手離すなど、今の俺には考えられなかった。レティが死ねば、俺も死ぬだろうというくらいに、一瞬の邂逅で深く心に刻まれた。


「まず、確認だけど、君達は精霊の特性について知ってる?」


 一つの特徴を偏愛する性質のことを言っているのだろうかと確認すれば、アリシアは大きくうなずく。


「どうも、外の世界では、あまり伝わってないみたいだけど、僕達精霊には、必ず一つ以上、偏愛する要素がある。それは、性格だったり、背格好だったりってことが多いけど、僕らは、僕らが持つ偏愛要素を全て満たしている人物にしか、欲情できないんだ」

「ア、アリシア!? ストレート過ぎますっ」

「大丈夫だよ。というか、このくらいストレートに言わなきゃ、誤解を招くって」

「そ、それは……ですが……」


 アリシアのあまりにもストレートな表現に、俺達は少しだけ思考を停止させてしまったものの、次第に、ジワジワとその意味を理解する。


「つまり……俺達は、その要素を満たしてないから、恋愛対象にすらならない、と?」


 まだ固まっているナリクの代わりに問いかければ、首肯が返ってくる。どうやら、俺達はその条件を満たすことから始めなければならないらしい。


「では、その、アリシアの条件は?」


 魔族で言う、片翼の条件の逆バージョンかと思っていると、硬直から復活したナリクが早速条件を尋ねていた。しかし……。


「分からないよ」

「えっ?」

「君達魔族だって、片翼の条件は分からないだろう? 僕達もそれは同じで、何となく、推測することしかできない。しかも、僕もレティも、精霊としては若い方だから、経験もない。色々試してみるしか方法はないんだよ」

「試す……?」

「人が多いところに出て、誰に惹かれるかを見てみるとか?」


 しれっととんでもないことを言ったアリシアに、ナリクは血相を変える。


「ダ、ダメだっ! アリシアが他の奴に惹かれるところなんて、見たくもないっ!」

「じゃあ、やっぱり方法はないね」


 スパッと切り捨てたアリシアに俺とナリクの心には絶望が生まれる。しかし、少しして、一つだけ方法を思い付いた。


「なぁ、それって、性格であることが多かったりするのか?」

「ん? そうだね。大抵、性格で……背格好に関しては、結構大雑把なことが多いかな?」


 聞けば、背格好に関しては本当に、化粧をしていたら良いとか、ズボンをはいていたら良いとか、その程度らしい。そして、精霊は、自分の中の偏愛要素に一つでも当てはまっている相手が居れば、それは分かるらしい。結局のところ、全てが当てはまらないと意味はないのだが、それでも、その情報は多いに俺の中に希望の光をもたらした。


「なぁ、俺は、何か一つでもその要素を持ってたりしないか?」

「っ、俺は、どうだ?」


 俺のレティに向かって紡いだ言葉に続いて、ナリクもまた、アリシアへと確認する。


「えっと、ありません」

「僕も、当てはまってる感じはしないかな」


 そんな答えを聞いて、今度は、今までに一つでも当てはまった人物がいなかったかを問いかけてみる。すると……。


「居ます。ただ、女性であるということ以外に、共通点はみられなくて……あっ、でも、アリシアは当てはまりませんね」

「僕は、そうだな……やたらと明るい奴だと当てはまってる感じがするかも?」


 俺達は、そんな彼女らの話を聞いて、どんどんその情報を分析していく。


「分かった。次来る時には、色々試してみることにする」


 ナリクのそんな言葉に、アリシアは驚いたような表情を浮かべる。


「えっ? ここは普通、諦めるところじゃ?」

「その程度で片翼を諦められるものではない」


 全くもって、ナリクの言う通りだ。俺も、諦めるつもりは毛頭ない。……少しばかりこれから試すことを思うと気が遠くなるものの、それも片翼のためなら致し方ない。
 本当は、いつまでも一緒に居たかったものの、レティに振り向いてもらうためには準備が必要だ。ナリクも、色々と準備をする必要があるらしく、名残惜しそうにしながらも、もう一度ここに来ることをアリシアと約束していた。


「レティ。俺も、お前を諦められない。また、ここに来る」

「えっと……はい」


 困惑した表情のままの彼女を、いずれは笑顔にさせたいと願う俺は、その白魚のような手を取って口づけを落とす。


「名残惜しいが、ここで失礼することにしよう」

「はい。その、リド、さん? 今度は、ちゃんと歓迎しますね」

「あぁ、ありがとう。そして、俺としたことがちゃんと名乗ってなかったな。俺は、リドル・テイカーだ」

「レティシアです」

「そうか。レティと呼んでも?」

「えっと……はい」

「それじゃあレティ。またな」


 まだ離れたくないと訴え続ける思考を、どうにか理性で制御して、俺はナリクの元へと向かう。転移でリュシー霊国の入り口まで戻った俺達は、それぞれ無言で、己の片翼のためにどんな自分を演じれば良いのか、計算を始めるのだった。
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