私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

文字の大きさ
上 下
172 / 173
エピローグ

第百六十七話 おわり

しおりを挟む
 邪王を討伐してからは、それなりに穏やかな日々が続いた。
 もう一度宝鍵で開けた空間に聖剣を仕舞い、宝鍵はハミルさんが管理してくれるということで、今はエーテ城のどこかにあるらしい。
 聖剣を持つ私を見て、ジークさんやハミルさんがなぜかビクビクしていたとか、厨房で包丁を持っていただけなのに、『危険だから』と真っ青な顔で取り上げられたりということはあったけれど、それ以外は特に問題はない。
 ……いや、モフモフの刑の影響で、二人が中々、猫姿に変化してくれなくなったのは、ちょっと残念かもしれない。

 そんなこんなで、特に代わり映えのない日々の中、私は夜、庭へとジークさんとハミルさんに呼び出された。何でも、大切な話があるらしい。

 月光に照らされた、庭は、クリスタルフラワーに囲まれて、キラキラと幻想的な雰囲気に満ちている。
 最近、少しだけ暑くなってきたけれど、まだまだ夜は肌寒い。ピンクのカーディガンを羽織って、そこに出てきた私は、いつもお茶をしているテーブルがある場所へと向かう。


「ユーカ、呼び出して悪かった」

「ごめんね、ユーカ」

「いえ、大丈夫です」


 ジークさんとハミルさんの言葉に軽く応えると、二人はどこか緊張した面持ちで、ゆっくり、私の前にひざまづく。


「ジークさん? ハミルさん?」


 何事だろうかと目を丸くしていると、ジークさんとハミルさんに、それぞれ右手と左手を取られる。


「ユーカ、初めて会った時から、俺の心はユーカから離れなかった。声を奪ってしまったことは、今でも後悔している」

「最初は、猫の姿でユーカを見かけて、その時から僕はユーカに夢中だったよ。拘束してしまって、本当にごめんね」


 まずは謝罪から入る二人に、私は首を横に振って、もう気にしていないと告げる。


「俺の心には、ユーカだけ。ユーカさえ居てくれれば、俺は他に何もいらない。ユーカが愛しくて仕方がない」

「愛するユーカのためなら、僕はどんなことだってするよ。ユーカが側に居てくれたら、僕はずっと安らげる」


 『だから』、と続けて、サファイアの瞳と、トパーズの瞳が、私の目をじっと見つめる。


「俺達と」

「僕達と」

「「結婚してくださいっ」」


 しんっ、と、怖いくらいの沈黙が夜の冷たい空気を支配する。
 私は、ゆっくりと息を吸って、その冷たい空気で肺を満たすと、胸から溢れそうになるそれを思いっきりぶつける。


「はいっ、よろしくお願いしますっ。大好きです。ジーク、ハミル」


 ギュウッと抱き締められた私は、そのまま寝室へと連れられて……おいしくいただかれてしまったのは、言うまでもないだろう。








皇魔歴九千六十四年のある日。


「母さんっ! これ見て!」

「なぁに? ルーク?」


 ジークとハミルの二人と契った私は、人間では考えられない長い寿命を得て、五人の子宝と二人の孫に恵まれた。そして今、愛しい息子の言葉に耳を傾ける。
 彼は、ルークは、ジークに良く似た翡翠色の髪とサファイアの瞳を持って、私の身長を完全に追い越し、ジークとは兄弟にしか見えないような姿だ。


「これ、母さんが書いたんだよねっ。僕、これを絵本にしてみたいっ。良いかな?」


 そう言われて見せられたのは、とても懐かしい文章。『青赤の星々』というタイトルの文章だ。

 邪王を倒し、全てが終った後、あの絵本はどこを探しても見当たらなかった。だから、あの絵本を読んだ三人で……いや、主に、ほぼ一字一句覚えていたらしいジークとハミルに頼って、その文章を書き起こしておいたのだ。


(そういえば、あの絵本の絵は、『ルーク』が書いたんだったよね?)


 今になって、息子が絵の書き手だったという事実を知った私は、ルークの要望通りに絵本を作ることにする。もちろん、私の名前は『くゆらあすか』で。

 その後、ハミルの子供であるレイナードが時空間魔法を暴走させて、完成したばかりのその絵本をどこかに飛ばしてしまったりとか、どうにか苦心して、それを取り戻したりとかといったことはあったけれど、まぁ、それは予想の範囲内だ。きっと、あの絵本は一時的に過去の私達に届いてくれたのだろう。


「見ーつけたっ」

「ユーカ、こんなところにいたのか。そろそろ部屋に戻るぞ」

「うん」


 クリスタルフラワーが咲き誇る庭でぼんやりしていると、ジークとハミルがやってきて私に上着をかけてくれる。


「ふふっ」

「? どうしたの? ユーカ?」

「ううん、そういえば、ここでプロポーズされたんだったなぁって……」


 もう、千年も昔のことだけれど、今でも鮮明に覚えている。


「そうだったな」

「うん、僕達は、ユーカが受け入れてくれるかどうか分からなくて、心臓バックバクだったけど」

「そうは見えなかったよ?」


 実際、あのプロポーズの時は、緊張しているようではあったけれど、そんなことを思っているだなんて思いもしなかった。


「ユーカ、愛してる」

「大好き。愛してるよ。ユーカ」


 同時に両頬に口づけられて、そのまま様々な場所へと口づけが落とされる。


「ちょっ、ジークっ、ハミルっ」

「さぁ、部屋へ戻ろう」

「続きはベッドでゆっくり、ね?」


 最初は、右も左も分からない異世界で、二人に監禁されることになったけれど……今は、この二人の腕に閉じ込められることこそが幸せになってしまった。


「えっと、お、お手柔らかに?」


 深まった笑みに、戦々恐々としながら、それでも、私は今、とっても幸せだ。


(完)
しおりを挟む
お気に入り登録や感想を、ありがとうございます。これを励みに楽しく更新していきますね。
感想 273

あなたにおすすめの小説

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

転生先は男女比50:1の世界!?

4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。 「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」 デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・ どうなる!?学園生活!!

私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる
恋愛
不憫系男子をこよなく愛するヒロインの恋愛ストーリーです。 私は確か、日本人のおばさんだったはずなんですが、気がついたら西洋風異世界の貴族令嬢になっていました。 せっかく美しく若返ったのだから、人生勝ち組で楽しんでしまいましょう。 そう思っていたのですが、自分らしき令嬢の日記を見ると、クラスメイトの男の子をいじめていた事が分かって……。 正義感強いおばさんなめんな! その男の子に謝って、きっとお友達になってみせましょう! 画像はフリー素材のとくだ屋さんからお借りしました。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

処理中です...