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第九章 邪王討伐
第百六十五話 実刑判決
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あの後、邪王討伐が完了したらしいことに安堵した私は、気絶したジークさんとハミルさんの様子を確認して、そのまま座り込んでしばらくの時間を過ごした。ちょっと、色々とあり過ぎて疲れが出たのもある。
聖剣は何やら色々と話しかけてきたけれど、正直、相手をする気にはなれなかった。
いつの間にか眠ってしまった私は、どうやら、かなりぐっすり眠っていたらしい。目が覚めると、そこはいつもの私の部屋で、明るい日射しが窓から入り込み、昨日の出来事全てが夢であったかのような錯覚に囚われた。けれど……。
『お目覚めですかっ、姫! さぁ、邪王討伐が成った今、新たな伝説を作る時ですっ! この私に相応しい敵が必ず何処かに居るはずですっ! さぁさぁさぁっ、私を手に取って旅に「静かにして」……はい』
朝っぱらからの聖剣の明るすぎる演説に、私は、昨日のことが夢ではないことを自覚して……。
「っ、ジークさんとハミルさんはっ!」
「「フギャッ」」
ガバッと起き上がって、その瞬間、何かの悲鳴を聞きつける。
「えっ?」
不思議に思って、声がした方向を見てみると……起き上がった衝撃で、ベッドから弾き出されたくーちゃんとあーちゃんがカーペットの上に転がっていた。
「ご、ごめんなさいっ」
「……ニャア」
「ニャ」
仕方ないな、とでも言うかのように鳴く二人に、私はホッとしかけて……一つ、思い出す。
「ジークさん、ハミルさん。朝食の後にお話ししたいことがあります。時間は取れますか?」
「「ニャアッ」」
もちろん、と言うように大きくうなずいた二人を確認した私は、思い出したことに一旦、蓋をして、二人を部屋の外に返し、朝の準備を終わらせていく。
「「「ユーカお嬢様。ご無事で何よりですっ」」」
なぜか、メアリー、ララ、リリの三人がかりで準備を進められた私は、何度も何度も心配だという視線と言葉を受けたけれど、私には怪我なんて一つもない。何かあるとすれば、ジークさんとハミルさんの方なのだけれど、三人はジークさん達を心配する様子は欠片も見せなかった。
「さぁ、本日はポトフがあるそうですよ。早く朝食に向かいましょうね」
「美味しいオムレツもあります」
「デザートは、アップルパイだそうですっ」
メアリー、ララ、リリがいつも以上に積極的に話しかけてくる様子に、私は心配をかけてしまったことを自覚して、申し訳なくなる。けれど、この世界に来てから受け取り始めた心配という言葉で、同時に胸が暖かくもなった。
日本では、誰も心配してくれるような人なんて居なかった。だから、今、心配してもらえるのが嬉しい。
「ありがとう、皆」
自然とお礼を言っていた私は、涙ぐむメアリー達に微笑みかけて、朝食に向かう。朝食は、メアリー達が話していた通りのもので、私は、やはり心配してきたジークさんとハミルさんに『大丈夫だから』と言葉を返して、食事に臨むのだった。
「それで、ユーカ、話とは何だ?」
朝食が終わり、執務室へと向かった私達は、とりあえず丸テーブルを囲って座る。
ジークさんとハミルさんは、最初、私を膝に乗せたがったけれど、それは断固として拒否させてもらった。そんな私の様子を見て、何かおかしいと思ったらしい二人は、私の様子を伺うようにして眺めてきている。
「……ジークさん、ハミルさん、私に何か言うことはありませんか?」
まずは、チャンスをあげようと、私はそんな問いかけをする。
「ユーカ、本当に体調が悪いとかはないか?」
「ユーカはあの聖剣を持ってたから、何か変なところとかない?」
ただ、ほしかった言葉とは違う言葉選びをしてしまった二人を見て、これは有罪だと判断する。
「……ジークさんは、私に『一人にしない』って約束ました。ハミルさんは、『ずっと一緒』って約束ました……何か、言い訳はありますか?」
それは、ムルムルの森から転移して、エーテ城の隠し扉から脱出した後のこと。一人で不安だった私に、二人がしてくれた約束だ。
「そ、れは……」
「えっと……」
私が問い詰めたことで、二人はようやく、『自分を殺してほしい』と言ったことで、私を一人にしてしまいかけていたことを思い出したようだ。
何も言い訳が思いつかないらしい二人は、ガックリとうなだれる。
「すまない、ユーカ」
「ごめん、ユーカ」
私だって、分かっている。邪王に乗っ取られた二人の暴走を止めようと思ったら、聖剣がなかったら殺すしかなかったであろうことを。ただ、だからといって、私の心が納得してくれるわけでもない。
「……二人は有罪、ということで良いですね?」
「あぁ、何か罰があるのであれば、受け入れる」
「僕も、もちろん、受け入れるよ」
わざと裁く立場の物言いをすれば、ジークさん達も、私が何らかの罰を用意していることに気づいたらしい。真剣な面持ちで私の言葉を待つ二人に、私は重々しく口を開く。
「それでは、実刑判決を下します。ジークさんとハミルさんは、丸一日の休みが取れ次第、一日中猫姿になって私にモフモフされること。すなわち、モフモフの刑ですっ」
「「モフモフの刑?」」
声を合わせて首をかしげる二人に、私は真剣な表情を作って宣言する。
「そうです。私が満足するまでその一日は、ずーっと猫姿で過ごしてもらいます。良いですねっ?」
「あ、あぁ」
「う、ん……でも、それって罰というより、ご褒美じゃ……」
ハミルさんが返事の後ボソボソと呟いていたけれど、残念ながらそれは聞こえなかった。
「私、本当に傷ついたんですからねっ。だから、早めに休みを取って、罰を受けてくださいね?」
「分かった」
「うん」
一見、甘い罰に見えるかもしれないけれど、私は手加減をするつもりはない。きっと、地獄を見せてみせよう。
穏やかに微笑むジークさんとハミルさんを前に、私は内心、黒いことを考えて、計画を練るのだった。
聖剣は何やら色々と話しかけてきたけれど、正直、相手をする気にはなれなかった。
いつの間にか眠ってしまった私は、どうやら、かなりぐっすり眠っていたらしい。目が覚めると、そこはいつもの私の部屋で、明るい日射しが窓から入り込み、昨日の出来事全てが夢であったかのような錯覚に囚われた。けれど……。
『お目覚めですかっ、姫! さぁ、邪王討伐が成った今、新たな伝説を作る時ですっ! この私に相応しい敵が必ず何処かに居るはずですっ! さぁさぁさぁっ、私を手に取って旅に「静かにして」……はい』
朝っぱらからの聖剣の明るすぎる演説に、私は、昨日のことが夢ではないことを自覚して……。
「っ、ジークさんとハミルさんはっ!」
「「フギャッ」」
ガバッと起き上がって、その瞬間、何かの悲鳴を聞きつける。
「えっ?」
不思議に思って、声がした方向を見てみると……起き上がった衝撃で、ベッドから弾き出されたくーちゃんとあーちゃんがカーペットの上に転がっていた。
「ご、ごめんなさいっ」
「……ニャア」
「ニャ」
仕方ないな、とでも言うかのように鳴く二人に、私はホッとしかけて……一つ、思い出す。
「ジークさん、ハミルさん。朝食の後にお話ししたいことがあります。時間は取れますか?」
「「ニャアッ」」
もちろん、と言うように大きくうなずいた二人を確認した私は、思い出したことに一旦、蓋をして、二人を部屋の外に返し、朝の準備を終わらせていく。
「「「ユーカお嬢様。ご無事で何よりですっ」」」
なぜか、メアリー、ララ、リリの三人がかりで準備を進められた私は、何度も何度も心配だという視線と言葉を受けたけれど、私には怪我なんて一つもない。何かあるとすれば、ジークさんとハミルさんの方なのだけれど、三人はジークさん達を心配する様子は欠片も見せなかった。
「さぁ、本日はポトフがあるそうですよ。早く朝食に向かいましょうね」
「美味しいオムレツもあります」
「デザートは、アップルパイだそうですっ」
メアリー、ララ、リリがいつも以上に積極的に話しかけてくる様子に、私は心配をかけてしまったことを自覚して、申し訳なくなる。けれど、この世界に来てから受け取り始めた心配という言葉で、同時に胸が暖かくもなった。
日本では、誰も心配してくれるような人なんて居なかった。だから、今、心配してもらえるのが嬉しい。
「ありがとう、皆」
自然とお礼を言っていた私は、涙ぐむメアリー達に微笑みかけて、朝食に向かう。朝食は、メアリー達が話していた通りのもので、私は、やはり心配してきたジークさんとハミルさんに『大丈夫だから』と言葉を返して、食事に臨むのだった。
「それで、ユーカ、話とは何だ?」
朝食が終わり、執務室へと向かった私達は、とりあえず丸テーブルを囲って座る。
ジークさんとハミルさんは、最初、私を膝に乗せたがったけれど、それは断固として拒否させてもらった。そんな私の様子を見て、何かおかしいと思ったらしい二人は、私の様子を伺うようにして眺めてきている。
「……ジークさん、ハミルさん、私に何か言うことはありませんか?」
まずは、チャンスをあげようと、私はそんな問いかけをする。
「ユーカ、本当に体調が悪いとかはないか?」
「ユーカはあの聖剣を持ってたから、何か変なところとかない?」
ただ、ほしかった言葉とは違う言葉選びをしてしまった二人を見て、これは有罪だと判断する。
「……ジークさんは、私に『一人にしない』って約束ました。ハミルさんは、『ずっと一緒』って約束ました……何か、言い訳はありますか?」
それは、ムルムルの森から転移して、エーテ城の隠し扉から脱出した後のこと。一人で不安だった私に、二人がしてくれた約束だ。
「そ、れは……」
「えっと……」
私が問い詰めたことで、二人はようやく、『自分を殺してほしい』と言ったことで、私を一人にしてしまいかけていたことを思い出したようだ。
何も言い訳が思いつかないらしい二人は、ガックリとうなだれる。
「すまない、ユーカ」
「ごめん、ユーカ」
私だって、分かっている。邪王に乗っ取られた二人の暴走を止めようと思ったら、聖剣がなかったら殺すしかなかったであろうことを。ただ、だからといって、私の心が納得してくれるわけでもない。
「……二人は有罪、ということで良いですね?」
「あぁ、何か罰があるのであれば、受け入れる」
「僕も、もちろん、受け入れるよ」
わざと裁く立場の物言いをすれば、ジークさん達も、私が何らかの罰を用意していることに気づいたらしい。真剣な面持ちで私の言葉を待つ二人に、私は重々しく口を開く。
「それでは、実刑判決を下します。ジークさんとハミルさんは、丸一日の休みが取れ次第、一日中猫姿になって私にモフモフされること。すなわち、モフモフの刑ですっ」
「「モフモフの刑?」」
声を合わせて首をかしげる二人に、私は真剣な表情を作って宣言する。
「そうです。私が満足するまでその一日は、ずーっと猫姿で過ごしてもらいます。良いですねっ?」
「あ、あぁ」
「う、ん……でも、それって罰というより、ご褒美じゃ……」
ハミルさんが返事の後ボソボソと呟いていたけれど、残念ながらそれは聞こえなかった。
「私、本当に傷ついたんですからねっ。だから、早めに休みを取って、罰を受けてくださいね?」
「分かった」
「うん」
一見、甘い罰に見えるかもしれないけれど、私は手加減をするつもりはない。きっと、地獄を見せてみせよう。
穏やかに微笑むジークさんとハミルさんを前に、私は内心、黒いことを考えて、計画を練るのだった。
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