私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第九章 邪王討伐

第百六十三話 邪王達

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「ジークさんっ、ハミルさんっ!」


 私を庇った二人は、衝撃が強かったのか、そのまま倒れ込んでしまう。私は、尻餅をついた状態から、とにかく這って二人の側へと向かう。
 あの黒いモヤモヤは、今は見えないため、二人の状態確認が優先だ。とにかく二人を仰向けにして、口元に手を当てて、首筋で脈を取って、まだ生きていることを確認する。


「ジークさんっ……ハミルさんっ……」


 意識を失った様子の二人を、私は涙目でユサユサと揺さぶる。けれど、二人が目覚める様子はない。
 次に考えたのは、助けを呼ぶことで、入ってきた扉に駆け寄るものの、なぜか扉が開かない。


「そん、な……閉じ込められた?」


 それならばと思って、攻撃魔法を放ってみるものの、私の攻撃魔法は総じてへなちょこだ。まだ、扉を手で叩く方が威力があるくらいだったため、私の頭の中は絶望で彩られる。


『姫っ、大丈夫ですからっ!』


 そんな聖剣の声も聞こえないまま、私はもう一度二人の側に駆け寄り、先程より強く、二人の体を揺さぶる。


「いやっ、死なないでっ! お願いっ、お願いだからっ」


 あの黒いモヤモヤの正体は分からないけれど、十中八九良くないものだ。もしかしたら、このままでは二人が死んでしまうかもしれない。そう思うと、心が張り裂けそうだ。


「お願いっ、お願いっ……一人に、しないで……」


 一人にしないと、約束してくれたのに。ずっと側に居ると言ってくれたのに。今、私の目の前で、二人が同時に意識不明だ。背後ではまだ、聖剣が何かを言っている様子だけれど、そのどれもが頭に入ってこない。


「ジークさんっ、ハミルさんっ……目を、覚ましてっ」


 特に苦しそうではないけれど、何が起こるか分からないという不安の中、私はポロポロと涙を溢す。


「わた、しの……せい、でっ」


 私を庇ったせいで、二人が死にかけているかもしれない。そんな状況が、ガリガリと心を蝕んでいく。


「ごめ、なさいっ、ごめん、なさいっ」


 そうして泣きじゃくっていると、ふいに、ジークさんの手がピクリと動く。


「……えっ?」


 それを視界の端に捉えた私は、一気に膨れ上がった希望を胸に、ジークさんとハミルさんを揺さぶる。


「ジークさんっ、ハミルさんっ!」

「ん……」

「く……ここ、は……?」


 私の声に、ようやく二人は目を覚ましてくれた。


「ジークさんっ、ハミルさんっ、どこか痛いとか、辛いとかありません……か……」


 二人の状態がとにかく気になる私はそう声をかけ、二人の瞳を覗いて絶句する。


「えっ? なん、で、瞳の色が……?」


 二人の瞳の色は、なぜか、血のようにどす黒い赤だった。そして、どうやら焦点が合っていない様子でもある。


「……シズク?」


 その様子に戸惑っていると、ジークさんが、誰かの名前を呼ぶ。


「シズク……シズクっ! 良かった! 無事だったんだっ! ごめんねっ、怖い思いをさせて、ごめんっ!」


 そして、今度はハミルさんが、私を見て、誰か別の人の名前を呼び、私をギュウッと抱き締める。


「えっ? えっ?」

「本当にっ……良かっ……ふ、ふぇぇえっ!」


 ジークさん……のはずである人物が、今度は大泣きを始めて、ハミルさん……らしき人物とともに私を抱き締める。

 何が何だか分からない私は、とにかく疑問符ばかりを浮かべていたけれど、次第に周りの声も聞こえるようになってきて、状況を少しだけ理解する。


『姫っ、姫っ、その二人は、邪王達に乗っ取られておりますっ! どうぞ、私を使って、彼らを討伐してくださいっ』


 前半の言葉は分かった。確かに、あの『建国神話』の中で、邪王となる前の二人の魔族は、『シズク』という名前の少女を呼んでいた。だから、彼らは私を『シズク』だと勘違いしているのであろうことだって理解できた。けれど……。


(討、伐?)


 誰が? 誰を?

 分かりたくない。理解したくない言葉に、私は完全に思考停止に陥る。


「シズクぅっ!」

「ふぎゅっ」

「はっ!? ごめんっ、シズクっ!」


 ギュムッとハミルさんを乗っ取った邪王に抱き締められて、私は思わず声を上げる。すると、大慌てで彼は私を抱き締める腕の力を緩めてくれる。


「シズク、一人にしてごめんね。これからは、俺もレイも、ずっと、ずーっと一緒だよ?」

「ふぅ、ひっく、僕も、一緒っ。僕も、ルーとずっと、ずーっと、側に居るからっ、離れないからっ!」


 ハミルさんとジークさんの顔で、私が一番欲しかった言葉をくれる邪王達。ただ、その仕草が、話し方が、これはジークさんでもハミルさんでもないのだと心に訴えかける。


「…………て」

「シズク?」

「? どうした? シズク?」


 ジークさんとハミルさんを乗っ取った邪王が、『シズク』という名の少女だと思っている私に問いかける。


「返してっ! ジークさんとハミルさんをっ、返してよっ!」


 心の赴くままに、私は精一杯の叫び声を上げた。
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