私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第九章 邪王討伐

第百六十二話 王の間へ

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 聖剣の言葉を聞いた私達は、とにかく一度王の間に向かうこととした。もちろん、私は待っているように止められたけれど、邪王は私が討伐しなければならないはずだと言い張って、粘りに粘った。


「……分かった。俺達から絶対に離れるな」

「はいっ」


 実際のところ、邪王の討伐を前にした私は、怖くて仕方がない。邪王が、両翼を失った二人の魔族のことを指すということは、私はその二人を殺さなくてはいけないということだ。到底、聖剣なんて凶器を持つ気にはなれなかった。


(それでもっ)


 それでも、私はジークさんやハミルさんを失いたくない。このヴァイラン魔国に居る大切な人達も、リアン魔国に居る大切な人達も、できることなら守りたい。


(守るために必要なら、私も覚悟を決めないとっ)


 人を、魔族を殺す覚悟。そんなもの、日本に居る頃なら決める必要などどこにもないどころか、そんなことをしてはいけないというのが常識だ。
 けれど、ここは違う。この世界では、命のやり取りはざらにある。覚悟がなければ、死ぬのは自分だけではない。周りの大切な人達までも巻き込むのだ。


(大丈夫。大丈夫……)


 ジークさんやハミルさんは、きっと私を甘やかして、私が直接手を下すことがないようにしようとしてくれるだろう。聖剣が私以外を受け入れないという部分も、魔法でどうにかしようとするに決まっている。


(甘えちゃいけない。私も、戦わなきゃっ)


 ジークさんやハミルさんの速度に何度も遅れては待ってもらうことを繰り返し、それでも走り続けた私達は、とうとう王の間の扉前まで辿り着く。
 そこで、一度探知魔法を展開すれば、異様な魔力が王の間に溢れかえっているのが確認できた。


「これが、邪王の魔力……」

「ユーカ、やっぱりユーカは部屋に戻るべきだよ。邪王は僕らが討伐するからさ」


 冷や汗を浮かべるジークさんに、無理矢理笑みを浮かべて私を避難させようとするハミルさん。
 二人がそんな反応を示す原因は、私にも良く分かった。邪王の魔力が、あまりにも高過ぎるのだ。


『無駄ですよっ。邪王は私を使った姫以外に討伐はできません』

「「黙ってろっ!」」

『あふんっ』


 会話を邪魔されたジークさんとハミルさんは、容赦なく聖剣を蹴り飛ばす。


「……行きます」

「ユーカ?」

「私が役に立てるなら、行きます」

「ダメだよ。ユーカ。これ以上は危険だ」


 必死に引き留めてくるハミルさんだったけれど、私もこればかりは譲れない。


「行かせてください」

「「……」」


 頭を下げて頼み込むと、その場には沈黙が下りる。


「分かった」

「っ、ジーク!?」

「ユーカは俺達が必ず守る。だから、決して、俺達より前に出るな? それを守れるなら許可しよう」

「っ、はいっ!」


 最初に折れたのはジークさんで、その許可を聞いて、私は元気良く返事をする。

 ジークさんもハミルさんも、そんな私の様子に渋い顔だったけれど、前言を撤回することはなさそうだ。


『お任せあれ。姫は当然、この私が守ってみせましょうっ!』

「はっ、たかが聖剣よりも僕達の方が数倍強いに決まっている」

「ユーカは俺達が、守る。お前は極力ユーカの側に居れば良い」


 そんな言い合いをしながら、扉をジークさんがゆっくりと開く。そして……。


「っ!?」


 扉を開けた瞬間、襲いかかってきたのは、黒いモヤモヤとしたものの固まりだった。

 咄嗟に結界を張り巡らせたジークさん。黒いモヤモヤはとりあえずそれに当たって弾け飛ぶ。ただ、モヤモヤは一つではなかった。もう一つは、ジークさんの結界の側を素通りして、ハミルさんに迫る。


「ふんっ、この程度なら弾き飛ばせるね」


 バチっと音がして、ハミルさんの宣言通り、モヤモヤは結界を越えることなく、そのまま弾かれる。


(あの黒いモヤモヤは、何か良く分からないけれど……)

「嫌な感じがする」


 そう、なぜだか、黒いモヤモヤを結界で弾けることが分かったというのに、私は不安で仕方なかった。


「では、片付けてくる」

「すぐに終わらせてくるからねっ」


 そう言って、ジークさんは炎、ハミルさんは氷の先端が尖った人の頭サイズの塊をモヤモヤへと向かわせる。けれど、モヤモヤはどこかに目でもあるのか、素早くそれを避ける。そして……それは一直線に、私の方へと向かってきた。


「「っ、ユーカ!」」


 二人が同時に叫び、私の回りに結界を二つ、重ねがけをしてくれたけれど、今回は、その結界をモヤモヤはすり抜けた。


「なっ」

「嘘っ」


 このままでは、直撃する。そう思った直後だった。急接近したジークさんとハミルさんにトンッと押されて、私に直撃するはずだったモヤモヤが、二人の背中に直撃してしまったのは。


「ジークさんっ、ハミルさんっ!」


 私は、その光景を前に、悲痛に叫ぶのだった。
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