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第九章 邪王討伐
第百五十八話 帰ってきたハミルさん
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ヴァイラン魔国に戻って、三日の時が過ぎた。その間、私はほとんどの時間をジークさんと過ごしたけれど、さすがに仕事の都合上、私を連れていけない時もあった。そんな時は、必ずメアリー達のうちの誰かを私の側に置いて、ジークさんは最速で仕事を終わらせて帰ってきていた。
ただ……夜は、今までと違って、とっても大変だった。
「ふ、ぁ……ジーク、さん……」
「ん、ユーカ。可愛いな……」
「ふ、ぅん……」
なぜか、ジークさんはくーちゃんの姿になってくれず、夜、寝る時は、これでもかというくらいに抱き締められ、唇以外の場所に口づけられるようになった。
今もまた、鎖骨の辺りに口づけを落とされて、思わず甘い声が出る。慌てて口許を両手で押さえるものの、ジークさんは甘く蕩ける声でゆっくりと首筋に唇を這わせてくる。
最初はもちろん抗議した。心臓がもたないとか、気絶してしまうとか、色々と言った。けれど、そう言えば、ジークさんは『元の姿の俺は嫌いか?』と、捨てられた子犬のような目で私を見てきたため、さんざん悩んで、最終的に受け入れることにしたのだ。実際には、心臓はこれでもかというくらいバクバクするし、何度も気が遠くなることはあったけれど、簡単には気絶できないらしいという、知りたくなかった事実が判明するのだった。
「も、やめ……ジーク、さんっ」
「ユーカが許してくれるまで、これ以上はしない。……だから、もう少し」
「ひゃあっ」
思わず顔を背けた直後、剥き出しになった耳を齧られて、そのヌルリとした感触に悲鳴を上げる。
「明日には、ハミルも帰ってくるだろう。だから、今だけは、俺だけのユーカだ」
低く腰に響く声で、独占欲を丸出しにするジークさんに、私はフルリと震える。
(気絶、したいなぁ……)
そんなことを思いながら、私をしっかりと堪能したジークさんは、そのうち、私を抱き締めて、私が眠れるように、ずっと頭を優しく撫でてくれるのだった。
(うぅ、日に日にジークさんの色気が増してる気がする……)
四日目の朝、私はジークさんが仕事で外している間にそっとため息を吐く。
現在、本探しはあまり進んでいない。覚えているのは、本の背表紙の色だけ。しかも、その色がありがちな黒という色のため、候補が多過ぎて中々見つけられないのだ。一日の大半を図書室に籠って探しても、中々目的のものは見つけられない。けれど、原因はそれだけではない。
(それもこれも、ジークさんがあんなことをするから……)
夜の出来事を思い出してしまった私は、そのまま赤面して、勢い良く机の上に突っ伏す。
「ユーカお嬢様!?」
ララが慌てたような声を出すけれど、それに構う元気すらない。と、いうより、今だけは放っておいてほしい。
思い出す度に止まる作業。候補の本は、うず高く積み上げられているというのに、それを処理する私の方がポンコツ状態だった。
「ユーカお嬢様、休憩しますか?」
本日何度目ともしれないその問いかけに、私も何度目か分からない否定の言葉を口にする。
「ううん、大丈夫。頑張るから」
「さようですか……」
心配そうなララには悪いけれど、何で悩んでいるのかなんて話す気にはなれない。そもそも、ハミルさんは今もなお、危険な場所に居るはずなのだ。だから、私はジークさんのことより、ハミルさんの心配をするべきだと思考を切り替える。
(今日辺りには帰ってくるって言ってたけれど……)
怪我はないだろうか? ちゃんと食事をしているだろうか?
心配なことはいくつもあるけれど、私には確かめる手段がない。
そうしてハミルさんを思っていた気持ちが通じたのだろうか。手を止めて、ため息を吐いた直後、図書室の扉が大きく開け放たれる。
「ユーカ! 帰ったよっ!」
それは、待ちに待ったハミルさんの声で、私はすぐに振り返ってハミルさんの方に駆け出そうとして……気づく。
「ユーカっ、ただいまっ!」
笑顔でニコニコしているハミルさんを前に、私はサァッと青ざめて、無言のままダッシュする。
両腕を広げるハミルさんを前にして、私は、まず、首の辺りの服の布を力一杯掴む。
「ぐぇっ」
「ユ、ユーカお嬢様?」
ハミルさんが蛙の潰れたような声を出したことも、ララが困惑したような声を出したことも、今はどうでも良い。今はとにかく……。
「ハミルさん……脱いでくださいっ」
「えっ?」
「はいっ?」
私の言葉に、わけが分からないといった表情をしているハミルさんを見て、待っていられない私は、そのままプチプチとボタンを外していく。
「えっ? ちょっ、えっ? ユ、ユーカ!? いや、その、気持ちは嬉しいけど、まだそんな時間じゃないというか……いや、ま、待って!?」
「待ちませんっ」
「ユ、ユーカお嬢様が大胆に……これは、報告案件?」
抵抗するハミルさんに、私はとりあえず魔法で拘束することを思いついて、即座に実行する。
「《風の縄よ、縛れ》」
「へっ!?」
見事、ハミルさんの拘束に成功した私は、さっさとハミルさんの服を取り払って、上半身を裸にする。……中々に鍛えられているその体に、私は一瞬狼狽えるけれど、目的を思い出して、目を皿のようにしてじーっと観察を始める。
「ユ、ユーカ?」
「どこですか?」
ビクビクと問いかけてくるハミルさんに、私はとにかく問いただす。
「えっ?」
「怪我したのは、どこですかっ?」
ハミルさんの服は、血に濡れていた。所々破けてもいて、つい先程まで戦いの場に居たことは明白だった。だから、私は急いで怪我の具合を確認しようとしたのだけれど……それは一つも見当たらない。
「えっと……怪我はしてないよ?」
「っ、でもっ、服に血がっ!」
「あぁ、あれは全部返り血だよ」
「だとしても、服が破けてますっ!」
「うん、体には全くダメージはなかったんだけど、竜巻に巻き込まれてね」
「竜巻!?」
「け、怪我はしてないよっ!」
「……本当ですか?」
「う、うん、本当に」
ビクビクしながら答えるハミルさんに、私はようやく安堵の息を吐く。そして、それと同時に、思考が現実へと戻ってきて……。
「っ!!??!?」
目の前に、上半身裸のハミルさんが所在なさげに立っているのを改めて認識して、私は赤面する。
「ご……」
「『ご』?」
「ごめんなさいぃぃいっ!」
とんでもないことをしてしまったという事実に、私は耐えきれずに逃げ出した。ちなみに、拘束を解除し忘れていたことに気づくのは、この五時間後になるのだった。
ただ……夜は、今までと違って、とっても大変だった。
「ふ、ぁ……ジーク、さん……」
「ん、ユーカ。可愛いな……」
「ふ、ぅん……」
なぜか、ジークさんはくーちゃんの姿になってくれず、夜、寝る時は、これでもかというくらいに抱き締められ、唇以外の場所に口づけられるようになった。
今もまた、鎖骨の辺りに口づけを落とされて、思わず甘い声が出る。慌てて口許を両手で押さえるものの、ジークさんは甘く蕩ける声でゆっくりと首筋に唇を這わせてくる。
最初はもちろん抗議した。心臓がもたないとか、気絶してしまうとか、色々と言った。けれど、そう言えば、ジークさんは『元の姿の俺は嫌いか?』と、捨てられた子犬のような目で私を見てきたため、さんざん悩んで、最終的に受け入れることにしたのだ。実際には、心臓はこれでもかというくらいバクバクするし、何度も気が遠くなることはあったけれど、簡単には気絶できないらしいという、知りたくなかった事実が判明するのだった。
「も、やめ……ジーク、さんっ」
「ユーカが許してくれるまで、これ以上はしない。……だから、もう少し」
「ひゃあっ」
思わず顔を背けた直後、剥き出しになった耳を齧られて、そのヌルリとした感触に悲鳴を上げる。
「明日には、ハミルも帰ってくるだろう。だから、今だけは、俺だけのユーカだ」
低く腰に響く声で、独占欲を丸出しにするジークさんに、私はフルリと震える。
(気絶、したいなぁ……)
そんなことを思いながら、私をしっかりと堪能したジークさんは、そのうち、私を抱き締めて、私が眠れるように、ずっと頭を優しく撫でてくれるのだった。
(うぅ、日に日にジークさんの色気が増してる気がする……)
四日目の朝、私はジークさんが仕事で外している間にそっとため息を吐く。
現在、本探しはあまり進んでいない。覚えているのは、本の背表紙の色だけ。しかも、その色がありがちな黒という色のため、候補が多過ぎて中々見つけられないのだ。一日の大半を図書室に籠って探しても、中々目的のものは見つけられない。けれど、原因はそれだけではない。
(それもこれも、ジークさんがあんなことをするから……)
夜の出来事を思い出してしまった私は、そのまま赤面して、勢い良く机の上に突っ伏す。
「ユーカお嬢様!?」
ララが慌てたような声を出すけれど、それに構う元気すらない。と、いうより、今だけは放っておいてほしい。
思い出す度に止まる作業。候補の本は、うず高く積み上げられているというのに、それを処理する私の方がポンコツ状態だった。
「ユーカお嬢様、休憩しますか?」
本日何度目ともしれないその問いかけに、私も何度目か分からない否定の言葉を口にする。
「ううん、大丈夫。頑張るから」
「さようですか……」
心配そうなララには悪いけれど、何で悩んでいるのかなんて話す気にはなれない。そもそも、ハミルさんは今もなお、危険な場所に居るはずなのだ。だから、私はジークさんのことより、ハミルさんの心配をするべきだと思考を切り替える。
(今日辺りには帰ってくるって言ってたけれど……)
怪我はないだろうか? ちゃんと食事をしているだろうか?
心配なことはいくつもあるけれど、私には確かめる手段がない。
そうしてハミルさんを思っていた気持ちが通じたのだろうか。手を止めて、ため息を吐いた直後、図書室の扉が大きく開け放たれる。
「ユーカ! 帰ったよっ!」
それは、待ちに待ったハミルさんの声で、私はすぐに振り返ってハミルさんの方に駆け出そうとして……気づく。
「ユーカっ、ただいまっ!」
笑顔でニコニコしているハミルさんを前に、私はサァッと青ざめて、無言のままダッシュする。
両腕を広げるハミルさんを前にして、私は、まず、首の辺りの服の布を力一杯掴む。
「ぐぇっ」
「ユ、ユーカお嬢様?」
ハミルさんが蛙の潰れたような声を出したことも、ララが困惑したような声を出したことも、今はどうでも良い。今はとにかく……。
「ハミルさん……脱いでくださいっ」
「えっ?」
「はいっ?」
私の言葉に、わけが分からないといった表情をしているハミルさんを見て、待っていられない私は、そのままプチプチとボタンを外していく。
「えっ? ちょっ、えっ? ユ、ユーカ!? いや、その、気持ちは嬉しいけど、まだそんな時間じゃないというか……いや、ま、待って!?」
「待ちませんっ」
「ユ、ユーカお嬢様が大胆に……これは、報告案件?」
抵抗するハミルさんに、私はとりあえず魔法で拘束することを思いついて、即座に実行する。
「《風の縄よ、縛れ》」
「へっ!?」
見事、ハミルさんの拘束に成功した私は、さっさとハミルさんの服を取り払って、上半身を裸にする。……中々に鍛えられているその体に、私は一瞬狼狽えるけれど、目的を思い出して、目を皿のようにしてじーっと観察を始める。
「ユ、ユーカ?」
「どこですか?」
ビクビクと問いかけてくるハミルさんに、私はとにかく問いただす。
「えっ?」
「怪我したのは、どこですかっ?」
ハミルさんの服は、血に濡れていた。所々破けてもいて、つい先程まで戦いの場に居たことは明白だった。だから、私は急いで怪我の具合を確認しようとしたのだけれど……それは一つも見当たらない。
「えっと……怪我はしてないよ?」
「っ、でもっ、服に血がっ!」
「あぁ、あれは全部返り血だよ」
「だとしても、服が破けてますっ!」
「うん、体には全くダメージはなかったんだけど、竜巻に巻き込まれてね」
「竜巻!?」
「け、怪我はしてないよっ!」
「……本当ですか?」
「う、うん、本当に」
ビクビクしながら答えるハミルさんに、私はようやく安堵の息を吐く。そして、それと同時に、思考が現実へと戻ってきて……。
「っ!!??!?」
目の前に、上半身裸のハミルさんが所在なさげに立っているのを改めて認識して、私は赤面する。
「ご……」
「『ご』?」
「ごめんなさいぃぃいっ!」
とんでもないことをしてしまったという事実に、私は耐えきれずに逃げ出した。ちなみに、拘束を解除し忘れていたことに気づくのは、この五時間後になるのだった。
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