私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

文字の大きさ
上 下
163 / 173
第九章 邪王討伐

第百五十八話 帰ってきたハミルさん

しおりを挟む
 ヴァイラン魔国に戻って、三日の時が過ぎた。その間、私はほとんどの時間をジークさんと過ごしたけれど、さすがに仕事の都合上、私を連れていけない時もあった。そんな時は、必ずメアリー達のうちの誰かを私の側に置いて、ジークさんは最速で仕事を終わらせて帰ってきていた。
 ただ……夜は、今までと違って、とっても大変だった。


「ふ、ぁ……ジーク、さん……」

「ん、ユーカ。可愛いな……」

「ふ、ぅん……」


 なぜか、ジークさんはくーちゃんの姿になってくれず、夜、寝る時は、これでもかというくらいに抱き締められ、唇以外の場所に口づけられるようになった。
 今もまた、鎖骨の辺りに口づけを落とされて、思わず甘い声が出る。慌てて口許を両手で押さえるものの、ジークさんは甘く蕩ける声でゆっくりと首筋に唇を這わせてくる。

 最初はもちろん抗議した。心臓がもたないとか、気絶してしまうとか、色々と言った。けれど、そう言えば、ジークさんは『元の姿の俺は嫌いか?』と、捨てられた子犬のような目で私を見てきたため、さんざん悩んで、最終的に受け入れることにしたのだ。実際には、心臓はこれでもかというくらいバクバクするし、何度も気が遠くなることはあったけれど、簡単には気絶できないらしいという、知りたくなかった事実が判明するのだった。


「も、やめ……ジーク、さんっ」

「ユーカが許してくれるまで、これ以上はしない。……だから、もう少し」

「ひゃあっ」


 思わず顔を背けた直後、剥き出しになった耳を齧られて、そのヌルリとした感触に悲鳴を上げる。


「明日には、ハミルも帰ってくるだろう。だから、今だけは、俺だけのユーカだ」


 低く腰に響く声で、独占欲を丸出しにするジークさんに、私はフルリと震える。


(気絶、したいなぁ……)


 そんなことを思いながら、私をしっかりと堪能したジークさんは、そのうち、私を抱き締めて、私が眠れるように、ずっと頭を優しく撫でてくれるのだった。








(うぅ、日に日にジークさんの色気が増してる気がする……)


 四日目の朝、私はジークさんが仕事で外している間にそっとため息を吐く。

 現在、本探しはあまり進んでいない。覚えているのは、本の背表紙の色だけ。しかも、その色がありがちな黒という色のため、候補が多過ぎて中々見つけられないのだ。一日の大半を図書室に籠って探しても、中々目的のものは見つけられない。けれど、原因はそれだけではない。


(それもこれも、ジークさんがあんなことをするから……)


 夜の出来事を思い出してしまった私は、そのまま赤面して、勢い良く机の上に突っ伏す。


「ユーカお嬢様!?」


 ララが慌てたような声を出すけれど、それに構う元気すらない。と、いうより、今だけは放っておいてほしい。
 思い出す度に止まる作業。候補の本は、うず高く積み上げられているというのに、それを処理する私の方がポンコツ状態だった。


「ユーカお嬢様、休憩しますか?」


 本日何度目ともしれないその問いかけに、私も何度目か分からない否定の言葉を口にする。


「ううん、大丈夫。頑張るから」

「さようですか……」


 心配そうなララには悪いけれど、何で悩んでいるのかなんて話す気にはなれない。そもそも、ハミルさんは今もなお、危険な場所に居るはずなのだ。だから、私はジークさんのことより、ハミルさんの心配をするべきだと思考を切り替える。


(今日辺りには帰ってくるって言ってたけれど……)


 怪我はないだろうか? ちゃんと食事をしているだろうか?
 心配なことはいくつもあるけれど、私には確かめる手段がない。

 そうしてハミルさんを思っていた気持ちが通じたのだろうか。手を止めて、ため息を吐いた直後、図書室の扉が大きく開け放たれる。


「ユーカ! 帰ったよっ!」


 それは、待ちに待ったハミルさんの声で、私はすぐに振り返ってハミルさんの方に駆け出そうとして……気づく。


「ユーカっ、ただいまっ!」


 笑顔でニコニコしているハミルさんを前に、私はサァッと青ざめて、無言のままダッシュする。
 両腕を広げるハミルさんを前にして、私は、まず、首の辺りの服の布を力一杯掴む。


「ぐぇっ」

「ユ、ユーカお嬢様?」


 ハミルさんが蛙の潰れたような声を出したことも、ララが困惑したような声を出したことも、今はどうでも良い。今はとにかく……。


「ハミルさん……脱いでくださいっ」

「えっ?」

「はいっ?」


 私の言葉に、わけが分からないといった表情をしているハミルさんを見て、待っていられない私は、そのままプチプチとボタンを外していく。


「えっ? ちょっ、えっ? ユ、ユーカ!? いや、その、気持ちは嬉しいけど、まだそんな時間じゃないというか……いや、ま、待って!?」

「待ちませんっ」

「ユ、ユーカお嬢様が大胆に……これは、報告案件?」


 抵抗するハミルさんに、私はとりあえず魔法で拘束することを思いついて、即座に実行する。


「《風の縄よ、縛れ》」

「へっ!?」


 見事、ハミルさんの拘束に成功した私は、さっさとハミルさんの服を取り払って、上半身を裸にする。……中々に鍛えられているその体に、私は一瞬狼狽えるけれど、目的を思い出して、目を皿のようにしてじーっと観察を始める。


「ユ、ユーカ?」

「どこですか?」


 ビクビクと問いかけてくるハミルさんに、私はとにかく問いただす。


「えっ?」

「怪我したのは、どこですかっ?」


 ハミルさんの服は、血に濡れていた。所々破けてもいて、つい先程まで戦いの場に居たことは明白だった。だから、私は急いで怪我の具合を確認しようとしたのだけれど……それは一つも見当たらない。


「えっと……怪我はしてないよ?」

「っ、でもっ、服に血がっ!」

「あぁ、あれは全部返り血だよ」

「だとしても、服が破けてますっ!」

「うん、体には全くダメージはなかったんだけど、竜巻に巻き込まれてね」

「竜巻!?」

「け、怪我はしてないよっ!」

「……本当ですか?」

「う、うん、本当に」


 ビクビクしながら答えるハミルさんに、私はようやく安堵の息を吐く。そして、それと同時に、思考が現実へと戻ってきて……。


「っ!!??!?」


 目の前に、上半身裸のハミルさんが所在なさげに立っているのを改めて認識して、私は赤面する。


「ご……」

「『ご』?」

「ごめんなさいぃぃいっ!」


 とんでもないことをしてしまったという事実に、私は耐えきれずに逃げ出した。ちなみに、拘束を解除し忘れていたことに気づくのは、この五時間後になるのだった。
しおりを挟む
お気に入り登録や感想を、ありがとうございます。これを励みに楽しく更新していきますね。
感想 273

あなたにおすすめの小説

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる
恋愛
不憫系男子をこよなく愛するヒロインの恋愛ストーリーです。 私は確か、日本人のおばさんだったはずなんですが、気がついたら西洋風異世界の貴族令嬢になっていました。 せっかく美しく若返ったのだから、人生勝ち組で楽しんでしまいましょう。 そう思っていたのですが、自分らしき令嬢の日記を見ると、クラスメイトの男の子をいじめていた事が分かって……。 正義感強いおばさんなめんな! その男の子に謝って、きっとお友達になってみせましょう! 画像はフリー素材のとくだ屋さんからお借りしました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

転生先は男女比50:1の世界!?

4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。 「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」 デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・ どうなる!?学園生活!!

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

捕まり癒やされし異世界

波間柏
恋愛
飲んでものまれるな。 飲まれて異世界に飛んでしまい手遅れだが、そう固く決意した大学生 野々村 未来の異世界生活。 異世界から来た者は何か能力をもつはずが、彼女は何もなかった。ただ、とある声を聞き閃いた。 「これ、売れる」と。 自分の中では砂糖多めなお話です。

処理中です...