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第八章 再びリアン魔国へ
第百五十七話 急転
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宝鍵を見つけたことを話すと、ジークさんとハミルさんは大きく目を見開いて、それを見せてほしいと言ってきた。
昨日の服のポケットに入れていたはずだと言えば、それならばマーサが気づいたはずだということで、即座にマーサが呼ばれる。
「こちらでしょうか?」
「あっ、うん、それ」
金の鍵を持ってきたマーサは、それを私に手渡そうとして……横からハミルさんに取り上げられる。
「……安全確認してからね」
思わずハミルさんをじとっとした目で見ると、狼狽えたような表情で、そう告げてくる。どうやら私は、安全確認がなされていないものには触れないらしい。
「だが、これでエーテ城での目的は達成したことになるな」
「うん、後は、マリノア城だけど……やっぱり手がかりがないよね」
確かに、二人の言う通り、新たに手に入れた手がかりはない。けれど……。
「あの本に何か書かれてるのかも……」
「あの本? あぁ、あの二冊あったうちの一冊というやつか。すまない、ユーカ。まだそれは見つかってないんだ」
「僕の方も、それらしいものは見つけられてないよ。ごめんね」
あの『建国神話』らしき光景の中にあった、二冊の本。一冊は『建国史』で間違いなかったけれど、もう一冊は不明のままだ。どこにあるのかも分かっていない。
「なら、まずはその本を探すところから始めてみましょう」
そうして、とりあえずの方針を決めたところで、ハミルさんが仕事に呼ばれる。何やら、緊急の謁見が入ったとのこと。しかも、それはレイシー公爵家からの謁見ということで、私達はあの紙を渡してきたレイシー公爵を思って顔を見合わせる。もしかしたら、まだ何か情報があるのかもしれない。
「とりあえず、僕は行ってくるね。ユーカはジークと一緒に待ってて」
大急ぎで去っていったハミルさんの背中を見送り、私は、しばらくジークさんとのんびりとお茶を飲むことにする。
……事態が動いたのは、ハミルさんが戻ってきてからだ。
「? どうした? ハミル?」
どこか殺気だった状態で戻ってきたハミルさんに、ジークさんが真っ先に声をかける。
「レイシー公爵家が、二分した。片方はユーカを守ろうと、そして、もう片方はユーカを攻撃しようと準備しているらしい」
「何だと?」
一気に殺意を膨らませるジークさん。二人の魔王の殺意が一気に溢れだして、この空間はとんでもなく危険な場所となっていたらしいけれど、私はそれを感知することなく、ただ疑問に思ったことだけを告げる。
「ベイランさんは、どちら側なんでしょうか?」
かつて出会ったレイシー公爵家当主。ベイラン・レイシーは、いったいどちらの立場なのかと、私は問いかけてみる。
「ベイランはユーカを守る側みたいだよ。まぁ、完全には信用はできないけど、ね?」
「何がきっかけで二分したんだ?」
「それが、どうやらあの時ユーカに渡された紙は、レイシー公爵家にとって重要なものだったらしくてね……それを知ったベイランの息子、次男と三男が反旗を翻したらしい」
「えっ? あの紙が、ですか?」
「何でも、あれはレイシー家に伝わる予言であって、破滅をもたらすとも、平和をもたらすとも言われているらしい。それで、鍵となるのは、ユーカにそれを見せるかどうかだったから、揉めたらしいよ」
『鍵はユウカ、ただ一人』その文章を思い出して、あれはレイシー公爵家のための言葉だったのだと今、気づく。そして、恐らく、破滅か平和かというのは、私が邪王を討伐できるか否かの問題でもあるのだろう。けれど、恐らくレイシー公爵家ではそこまでのことは分かっていない。分かっていないからこそ、私に見せるのが危険だと判断する者が居たのだ。
「謁見には、ベイラン本人が来てたけど、あの紙を持って城に来たのは相当な覚悟があったんだろうね。片腕を失っていたよ」
「それは……ならば、あの紙をもらい受けることができたのは奇跡のようなものだったということか」
「次男と三男は、それを燃やそうとさえしていたらしいしね。後、ユーカを襲撃したのもその次男と三男の策略だったことが判明した。だから、これから少しばかり、そいつらのところに行って暴れてくることにするよ」
だんだんと事態を把握し始めた私は、ハミルさんの最後の言葉にギョッとする。
「えっ!? ハミルさん、行くんですかっ!? 危険ですよっ!」
『そいつら』とは、十中八九、その次男と三男のところだろう。けれど、相手がどれだけの戦力を有しているのかも想像できない私は、ひたすらに不安に駆られる。
「あぁ、ユーカ。心配してくれてありがとう。でも、心配いらないよ? すぐに終わらせて戻ってくるからねっ」
パチリとウインクをして、余裕そうな表情のハミルさん。けれど、私の不安はそんなことでは晴れない。
「っ……怪我、したら、一週間口を利きませんっ」
「っ!? わ、分かった! 無傷で戻ってくるよっ!」
こう言っておけば、きっと不用意な怪我をすることはない。そう思って、私は勢いのままに告げる。
「ユーカはこちらで預かる。終わったらすぐに城に来い」
「うん、もちろんっ」
そうして、慌ただしい中、私はジークさんとともにマリノア城へ転移するのだった。
昨日の服のポケットに入れていたはずだと言えば、それならばマーサが気づいたはずだということで、即座にマーサが呼ばれる。
「こちらでしょうか?」
「あっ、うん、それ」
金の鍵を持ってきたマーサは、それを私に手渡そうとして……横からハミルさんに取り上げられる。
「……安全確認してからね」
思わずハミルさんをじとっとした目で見ると、狼狽えたような表情で、そう告げてくる。どうやら私は、安全確認がなされていないものには触れないらしい。
「だが、これでエーテ城での目的は達成したことになるな」
「うん、後は、マリノア城だけど……やっぱり手がかりがないよね」
確かに、二人の言う通り、新たに手に入れた手がかりはない。けれど……。
「あの本に何か書かれてるのかも……」
「あの本? あぁ、あの二冊あったうちの一冊というやつか。すまない、ユーカ。まだそれは見つかってないんだ」
「僕の方も、それらしいものは見つけられてないよ。ごめんね」
あの『建国神話』らしき光景の中にあった、二冊の本。一冊は『建国史』で間違いなかったけれど、もう一冊は不明のままだ。どこにあるのかも分かっていない。
「なら、まずはその本を探すところから始めてみましょう」
そうして、とりあえずの方針を決めたところで、ハミルさんが仕事に呼ばれる。何やら、緊急の謁見が入ったとのこと。しかも、それはレイシー公爵家からの謁見ということで、私達はあの紙を渡してきたレイシー公爵を思って顔を見合わせる。もしかしたら、まだ何か情報があるのかもしれない。
「とりあえず、僕は行ってくるね。ユーカはジークと一緒に待ってて」
大急ぎで去っていったハミルさんの背中を見送り、私は、しばらくジークさんとのんびりとお茶を飲むことにする。
……事態が動いたのは、ハミルさんが戻ってきてからだ。
「? どうした? ハミル?」
どこか殺気だった状態で戻ってきたハミルさんに、ジークさんが真っ先に声をかける。
「レイシー公爵家が、二分した。片方はユーカを守ろうと、そして、もう片方はユーカを攻撃しようと準備しているらしい」
「何だと?」
一気に殺意を膨らませるジークさん。二人の魔王の殺意が一気に溢れだして、この空間はとんでもなく危険な場所となっていたらしいけれど、私はそれを感知することなく、ただ疑問に思ったことだけを告げる。
「ベイランさんは、どちら側なんでしょうか?」
かつて出会ったレイシー公爵家当主。ベイラン・レイシーは、いったいどちらの立場なのかと、私は問いかけてみる。
「ベイランはユーカを守る側みたいだよ。まぁ、完全には信用はできないけど、ね?」
「何がきっかけで二分したんだ?」
「それが、どうやらあの時ユーカに渡された紙は、レイシー公爵家にとって重要なものだったらしくてね……それを知ったベイランの息子、次男と三男が反旗を翻したらしい」
「えっ? あの紙が、ですか?」
「何でも、あれはレイシー家に伝わる予言であって、破滅をもたらすとも、平和をもたらすとも言われているらしい。それで、鍵となるのは、ユーカにそれを見せるかどうかだったから、揉めたらしいよ」
『鍵はユウカ、ただ一人』その文章を思い出して、あれはレイシー公爵家のための言葉だったのだと今、気づく。そして、恐らく、破滅か平和かというのは、私が邪王を討伐できるか否かの問題でもあるのだろう。けれど、恐らくレイシー公爵家ではそこまでのことは分かっていない。分かっていないからこそ、私に見せるのが危険だと判断する者が居たのだ。
「謁見には、ベイラン本人が来てたけど、あの紙を持って城に来たのは相当な覚悟があったんだろうね。片腕を失っていたよ」
「それは……ならば、あの紙をもらい受けることができたのは奇跡のようなものだったということか」
「次男と三男は、それを燃やそうとさえしていたらしいしね。後、ユーカを襲撃したのもその次男と三男の策略だったことが判明した。だから、これから少しばかり、そいつらのところに行って暴れてくることにするよ」
だんだんと事態を把握し始めた私は、ハミルさんの最後の言葉にギョッとする。
「えっ!? ハミルさん、行くんですかっ!? 危険ですよっ!」
『そいつら』とは、十中八九、その次男と三男のところだろう。けれど、相手がどれだけの戦力を有しているのかも想像できない私は、ひたすらに不安に駆られる。
「あぁ、ユーカ。心配してくれてありがとう。でも、心配いらないよ? すぐに終わらせて戻ってくるからねっ」
パチリとウインクをして、余裕そうな表情のハミルさん。けれど、私の不安はそんなことでは晴れない。
「っ……怪我、したら、一週間口を利きませんっ」
「っ!? わ、分かった! 無傷で戻ってくるよっ!」
こう言っておけば、きっと不用意な怪我をすることはない。そう思って、私は勢いのままに告げる。
「ユーカはこちらで預かる。終わったらすぐに城に来い」
「うん、もちろんっ」
そうして、慌ただしい中、私はジークさんとともにマリノア城へ転移するのだった。
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