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第八章 再びリアン魔国へ
第百五十四話 宝鍵
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「ジークさん? ハミルさん?」
突然、ジークさんとハミルさんが消えた。それも、私の目の前で。
「ジークさんっ! ハミルさんっ!」
(どうしてっ! どこにっ!)
怖い。もし、ジークさんやハミルさんに何かあったのだとしたら……怖くて怖くて仕方がない。
霧の中だというのに、私は必死に探知魔法を展開したままジークさんとハミルさんの名前を呼び続ける。けれど、一向に返事はなく、不安ばかりが胸を占める。
「や、いや……一人に、しないでっ」
また、私は一人になってしまったのだろうか? また、日本に居た時のように、誰にも見向きされないのだろうか?
そんな不安で泣き出しそうになったその時だった。一陣の風が吹き、あれだけ濃かった霧が一気に晴れたのは……。
「ふぇ?」
目の前に現れたのは、あの森ではなかった。石造りの薄暗い回廊。どこか冷たい空気が流れるその場所に、私はキョロキョロと辺りを見渡して混乱する。
「ここ、どこ?」
(どうしよう、もう、泣きたい)
どうやら、私一人がジークさんやハミルさんと引き離されて、別の場所に移動してしまったらしい。いや、もしかしたら、この前の『建国神話』のように、ただ映像を見せられているだけなのかもしれなかったけれど、残念ながらそれを判別する方法は知らない。
とにかく不安で不安で仕方ない私は、うずくまってしまいそうな自分を懸命に叱咤する。
「進ま、なきゃ」
どちらの場合であっても、ここでじっとしているのは意味がない。何としてもここから脱出して、ジークさんとハミルさんの元に帰らなければならないのだから。
私は、ポケットに入れた青の輝石をギュッと握りしめて、ゆっくりと歩き出す。
「本当に、どこなんだろう? ここ?」
探知魔法は、展開したままだ。けれど、どうにもそれは妨害されているらしく、ここがどんな場所なのかの手がかりは全く掴めない。進めば進むほどに、空気は冷たくなっていき、ついには肌寒いといえるほどになる。
「扉……?」
肌を擦りながら歩いていくと、その先には大きな黒い扉があった。
「っ、入ってみないと、だよね?」
本当は、怖い。この先に何があるのか分からないから。そして何より、一人で居ることが怖い。
大きな扉に両手を当てると、力を込めていないにもかかわらず、扉は大きくきしんで開いていく。
「っ……」
心臓がいやにバクバクと音を立て、ブルリと震えが走る。それは、寒さゆえか、恐怖ゆえかは分からなかったけれど、良いものではないことだけは確かだった。
扉の奥には、小さな部屋が一つ。そして、その部屋の中央に、一メートルほどの長さの石の台座が存在していた。長方形なそれは、中央部分が凹んでおり、何があるのかはここから見ることはできない。
恐る恐る近づいて、私はその台座の上にあるものを覗き込む。
「……鍵?」
そこに置かれていたのは、金に輝く、十センチほどの鍵だった。鍵の持ち手にはドーナツ状になっており、その円周を七色の宝石が散りばめられていた。
「もしかして、これが宝鍵?」
てっきり、エーテ城のどこかに存在するものだと思っていたものの、宝鍵らしきものは、今、目の前にある。
「……まさか、青の輝石を持った者がムルムルの森に入ったら、ここに転移させる仕掛けだった、とか?」
それなら、私がジークさんとハミルさんから引き離されたのも分からないでもない。
とにかくこの宝鍵を持って帰ろうと思って宝鍵をそこから動かそうとしたのだけれど、なぜか、宝鍵は台座に張り付いたまま動かない。
キョロキョロと辺りを見渡してみると、台座の両端に、何かを嵌め込めるような窪みが存在することに気づく。
「……大きさからすると、これ?」
私が持っているものといえば、青の輝石しかない。試しに片方を嵌め込んでみると、どうやらぴったりのようだ。
もう一つも嵌め込んで見ると、台座の中央部分がせり上がり、宝鍵が剥き出しになる。
「取れたっ!」
方法は間違っていなかったらしく、そのまま宝鍵に手を伸ばすと、今度は簡単に取れてしまう。これで、宝鍵は見つかった。
「後は……向こうに行けば戻れるのかなぁ?」
正直、元来た道を引き返し、更に奥に進んだとして、どこに出るのかは全く予想できない。宝鍵をポケットに入れて、私は不安な気持ちを必死に抑えながらもう一度歩く。
歩き始めて、十分以上が経っただろうか。そこは、行き止まりに見えた。
「そんなっ!」
これでは、帰れないと、私は絶望的な気持ちになる。けれど、ここで、私は呼吸が問題なくできているという事実に気づいた。
「酸素があるってことは、どこかに隙間がある、はずっ」
隙間があったとしても、もしかしたら届かない場所かもしれない。本当に隙間というだけで、出られないかもしれない。そんな恐怖を感じながらも、私は風を操って、どこに隙間があるのかを見てみる。
「? この石の回りが、結構隙間だらけ?」
行き止まりの壁。その一部に、風の通り道があることを知った私は、思わずその場所を押さえて……ガコンと簡単に押し込んでしまったのを確認して慌てる。
「えっ? えっ?」
(もしかして、罠!?)
こういう場合は、物語の中では罠の発動だと相場が決まっている。だから、私は咄嗟に身を固くして警戒をしたのだけれど……。
ズズズズズという音とともに、行き止まりだったはずの壁が横にスライドされていき、階段が見え始める。
「っ! 階段に続くスイッチっ!」
罠ではなかったことに安堵しつつ、今度こそ、出口へ向かおうと、私は短い階段を駆け上がり、頭上の扉を大きく開ける。
「きゃあっ!」
「へっ? リーア?」
そして、そこに居たのは、エーテ城に居るはずのリーアだった。
突然、ジークさんとハミルさんが消えた。それも、私の目の前で。
「ジークさんっ! ハミルさんっ!」
(どうしてっ! どこにっ!)
怖い。もし、ジークさんやハミルさんに何かあったのだとしたら……怖くて怖くて仕方がない。
霧の中だというのに、私は必死に探知魔法を展開したままジークさんとハミルさんの名前を呼び続ける。けれど、一向に返事はなく、不安ばかりが胸を占める。
「や、いや……一人に、しないでっ」
また、私は一人になってしまったのだろうか? また、日本に居た時のように、誰にも見向きされないのだろうか?
そんな不安で泣き出しそうになったその時だった。一陣の風が吹き、あれだけ濃かった霧が一気に晴れたのは……。
「ふぇ?」
目の前に現れたのは、あの森ではなかった。石造りの薄暗い回廊。どこか冷たい空気が流れるその場所に、私はキョロキョロと辺りを見渡して混乱する。
「ここ、どこ?」
(どうしよう、もう、泣きたい)
どうやら、私一人がジークさんやハミルさんと引き離されて、別の場所に移動してしまったらしい。いや、もしかしたら、この前の『建国神話』のように、ただ映像を見せられているだけなのかもしれなかったけれど、残念ながらそれを判別する方法は知らない。
とにかく不安で不安で仕方ない私は、うずくまってしまいそうな自分を懸命に叱咤する。
「進ま、なきゃ」
どちらの場合であっても、ここでじっとしているのは意味がない。何としてもここから脱出して、ジークさんとハミルさんの元に帰らなければならないのだから。
私は、ポケットに入れた青の輝石をギュッと握りしめて、ゆっくりと歩き出す。
「本当に、どこなんだろう? ここ?」
探知魔法は、展開したままだ。けれど、どうにもそれは妨害されているらしく、ここがどんな場所なのかの手がかりは全く掴めない。進めば進むほどに、空気は冷たくなっていき、ついには肌寒いといえるほどになる。
「扉……?」
肌を擦りながら歩いていくと、その先には大きな黒い扉があった。
「っ、入ってみないと、だよね?」
本当は、怖い。この先に何があるのか分からないから。そして何より、一人で居ることが怖い。
大きな扉に両手を当てると、力を込めていないにもかかわらず、扉は大きくきしんで開いていく。
「っ……」
心臓がいやにバクバクと音を立て、ブルリと震えが走る。それは、寒さゆえか、恐怖ゆえかは分からなかったけれど、良いものではないことだけは確かだった。
扉の奥には、小さな部屋が一つ。そして、その部屋の中央に、一メートルほどの長さの石の台座が存在していた。長方形なそれは、中央部分が凹んでおり、何があるのかはここから見ることはできない。
恐る恐る近づいて、私はその台座の上にあるものを覗き込む。
「……鍵?」
そこに置かれていたのは、金に輝く、十センチほどの鍵だった。鍵の持ち手にはドーナツ状になっており、その円周を七色の宝石が散りばめられていた。
「もしかして、これが宝鍵?」
てっきり、エーテ城のどこかに存在するものだと思っていたものの、宝鍵らしきものは、今、目の前にある。
「……まさか、青の輝石を持った者がムルムルの森に入ったら、ここに転移させる仕掛けだった、とか?」
それなら、私がジークさんとハミルさんから引き離されたのも分からないでもない。
とにかくこの宝鍵を持って帰ろうと思って宝鍵をそこから動かそうとしたのだけれど、なぜか、宝鍵は台座に張り付いたまま動かない。
キョロキョロと辺りを見渡してみると、台座の両端に、何かを嵌め込めるような窪みが存在することに気づく。
「……大きさからすると、これ?」
私が持っているものといえば、青の輝石しかない。試しに片方を嵌め込んでみると、どうやらぴったりのようだ。
もう一つも嵌め込んで見ると、台座の中央部分がせり上がり、宝鍵が剥き出しになる。
「取れたっ!」
方法は間違っていなかったらしく、そのまま宝鍵に手を伸ばすと、今度は簡単に取れてしまう。これで、宝鍵は見つかった。
「後は……向こうに行けば戻れるのかなぁ?」
正直、元来た道を引き返し、更に奥に進んだとして、どこに出るのかは全く予想できない。宝鍵をポケットに入れて、私は不安な気持ちを必死に抑えながらもう一度歩く。
歩き始めて、十分以上が経っただろうか。そこは、行き止まりに見えた。
「そんなっ!」
これでは、帰れないと、私は絶望的な気持ちになる。けれど、ここで、私は呼吸が問題なくできているという事実に気づいた。
「酸素があるってことは、どこかに隙間がある、はずっ」
隙間があったとしても、もしかしたら届かない場所かもしれない。本当に隙間というだけで、出られないかもしれない。そんな恐怖を感じながらも、私は風を操って、どこに隙間があるのかを見てみる。
「? この石の回りが、結構隙間だらけ?」
行き止まりの壁。その一部に、風の通り道があることを知った私は、思わずその場所を押さえて……ガコンと簡単に押し込んでしまったのを確認して慌てる。
「えっ? えっ?」
(もしかして、罠!?)
こういう場合は、物語の中では罠の発動だと相場が決まっている。だから、私は咄嗟に身を固くして警戒をしたのだけれど……。
ズズズズズという音とともに、行き止まりだったはずの壁が横にスライドされていき、階段が見え始める。
「っ! 階段に続くスイッチっ!」
罠ではなかったことに安堵しつつ、今度こそ、出口へ向かおうと、私は短い階段を駆け上がり、頭上の扉を大きく開ける。
「きゃあっ!」
「へっ? リーア?」
そして、そこに居たのは、エーテ城に居るはずのリーアだった。
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