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第八章 再びリアン魔国へ
第百五十三話 ムルムルの森へ(ハミルトン視点)
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(危な、かった……)
ユーカとムルムルの森へ向かうために、僕はユーカを部屋に閉じ込めた。しかし、目の前に無防備なまま閉じ込められたユーカが居ると思うと、どうしようもなくユーカがほしくなってしまった。しかも、ユーカが大人しく僕の腕の中に入ってきてくれるのだから、なお、たちが悪い。
(気づかれてない、よね?)
極力冷静に、これからムルムルの森へと向かうと告げられた、はずだ。しかし、ユーカの顔が赤くなっているところを見ると、もしかしたらそんな雰囲気が漏れ出ていたのかもしれないと不安になる。
(ユーカを怯えさせるわけにはいかない。我慢しなきゃ、な……)
一つ深呼吸をして気持ちを落ち着けると、僕は早速転移魔法を使用する。
ここまでしっかりとユーカを閉じ込めているアピールができていれば、よっぽど緊急の案件でもない限り、部屋に踏み入れれることはないはずだ。最近は、忙しさに対して、重要度の低い案件ばかりを取り扱うことが多かったため、少しくらい抜けても問題はない。
(仕事が多いせいで、問題視してくる者も居るだろうけど、ユーカと部屋に籠ったとなれば、きっと上手い具合に誤解してくれるはずだ)
魔王と片翼との大切な一時を邪魔することは、よほどのことがない限り認められていない。もし、緊急でもない用件で邪魔しようものなら、物理的に首が飛ばされても仕方ないとまで言われている。
昼過ぎとはいえ、薄暗いムルムルの森の入り口に辿り着くと、すぐに背後からジークフリートの声がかかる。
「ハミル。ユーカ。ちゃんと抜けて来られたようだな」
「うん、一応工作もしておいたから、ある程度は大丈夫なはずだよ」
「では、向かおうか」
ほんのり赤い顔のユーカと手を繋いで、僕達はムルムルの森を探索することにする。
ムルムルの森は、半日もあれば全てを見て回れるほどに、小さな森だ。魔物もほとんど生息していないし、居たとしても子供でも倒せるスライムや角兎くらいしか居ない。ただ、特に森の恵みが豊富というわけでもないため、この森に踏み入れる者はほとんど居ない。
「足元に気をつけて、ユーカ」
「何だったら、また抱き上げて進むぞ?」
「け、結構ですっ」
ブンブンと涙目で首を振るユーカを見ていると、何だかいじめたくなってくる。
「疲れたらちゃんと言うんだよ。その時は、必ず僕が抱き上げてあげるから」
「ズルいぞ、ハミル。先程はハミルが抱き上げたのだから、次は俺だろうっ」
「じゃあ、一時間交代くらいで良いかい?」
「……分かった」
「絶対っ、疲れたなんて言いませんからっ!」
ジークフリートと一緒にそんな取り決めをすると、ユーカは涙目のまま反論してくる。
(あぁ、どうしようっ。すっごく可愛いっ)
このまま城に連れ帰って、本当にユーカを閉じ込めてしまいたい衝動と戦いながら、ユーカの歩幅に合わせてゆっくり進む。
薄暗くはあるものの、自然の中をそっと歩くユーカは女神のように美しく見え、思わずため息が漏れそうになる。
「この森って、危険はないんですか?」
「あぁ、ここは子供でも来れる森だ。とはいっても、近くの村までは歩いて半日以上かかるから、子供も来ないみたいだけどな」
この森は、数ある森の中でも最も安全な森だ。しかし、なぜスライムや角兎しか住み着かないのかは、長年研究されているものの、明らかにはなっていない。
「そうなんですね。私は、森といえばジークさんと出会った場所しか知らないから、全部あんな風に危険な場所なんだと思ってました」
「いや、実際、危険な森がほとんどだ。ここだけが安全といえる森なだけで、他は大抵、冒険者くらいしか立ち入らない」
「冒険者?」
「魔物を倒したり、薬草を採取したり、果物を狩ったり、要人の護衛をしたりといった仕事をする人達のことだよ」
「へぇ、果物狩りもお仕事っていうのは何だかおかしな感じもしますけれど、それなりに危険なお仕事なんですね」
「? うん、そうだね」
果物どもを狩る仕事こそ、危険極まりないだろうとは思うものの、ユーカが納得してくれたならそれで良いだろう。僕も、好き好んで暴れる果物をユーカに見せようとは思わない。
「あっ、霧が出てきましたね」
「うん? そう、だね……でも、この森で霧……?」
「ハミル、警戒を怠るなよ?」
「うん、分かってる」
今まで、ムルムルの森で霧が出たという情報は聞いたことがない。もちろん、ただ知らなかっただけという可能性もあるから、一概には言えないものの、何だか嫌な予感がした。
「ユーカ、僕達の手を絶対離しちゃダメだからね?」
「はい」
そんな会話をして、ギュッとユーカの手を握り込んだ瞬間だった。ユーカが、目の前から消えたのは。
「「ユーカ!?」」
思わずユーカの名を叫び、僕達は動こうとして……一瞬にして濃くなった霧を前に、動きを封じられるのだった。
ユーカとムルムルの森へ向かうために、僕はユーカを部屋に閉じ込めた。しかし、目の前に無防備なまま閉じ込められたユーカが居ると思うと、どうしようもなくユーカがほしくなってしまった。しかも、ユーカが大人しく僕の腕の中に入ってきてくれるのだから、なお、たちが悪い。
(気づかれてない、よね?)
極力冷静に、これからムルムルの森へと向かうと告げられた、はずだ。しかし、ユーカの顔が赤くなっているところを見ると、もしかしたらそんな雰囲気が漏れ出ていたのかもしれないと不安になる。
(ユーカを怯えさせるわけにはいかない。我慢しなきゃ、な……)
一つ深呼吸をして気持ちを落ち着けると、僕は早速転移魔法を使用する。
ここまでしっかりとユーカを閉じ込めているアピールができていれば、よっぽど緊急の案件でもない限り、部屋に踏み入れれることはないはずだ。最近は、忙しさに対して、重要度の低い案件ばかりを取り扱うことが多かったため、少しくらい抜けても問題はない。
(仕事が多いせいで、問題視してくる者も居るだろうけど、ユーカと部屋に籠ったとなれば、きっと上手い具合に誤解してくれるはずだ)
魔王と片翼との大切な一時を邪魔することは、よほどのことがない限り認められていない。もし、緊急でもない用件で邪魔しようものなら、物理的に首が飛ばされても仕方ないとまで言われている。
昼過ぎとはいえ、薄暗いムルムルの森の入り口に辿り着くと、すぐに背後からジークフリートの声がかかる。
「ハミル。ユーカ。ちゃんと抜けて来られたようだな」
「うん、一応工作もしておいたから、ある程度は大丈夫なはずだよ」
「では、向かおうか」
ほんのり赤い顔のユーカと手を繋いで、僕達はムルムルの森を探索することにする。
ムルムルの森は、半日もあれば全てを見て回れるほどに、小さな森だ。魔物もほとんど生息していないし、居たとしても子供でも倒せるスライムや角兎くらいしか居ない。ただ、特に森の恵みが豊富というわけでもないため、この森に踏み入れる者はほとんど居ない。
「足元に気をつけて、ユーカ」
「何だったら、また抱き上げて進むぞ?」
「け、結構ですっ」
ブンブンと涙目で首を振るユーカを見ていると、何だかいじめたくなってくる。
「疲れたらちゃんと言うんだよ。その時は、必ず僕が抱き上げてあげるから」
「ズルいぞ、ハミル。先程はハミルが抱き上げたのだから、次は俺だろうっ」
「じゃあ、一時間交代くらいで良いかい?」
「……分かった」
「絶対っ、疲れたなんて言いませんからっ!」
ジークフリートと一緒にそんな取り決めをすると、ユーカは涙目のまま反論してくる。
(あぁ、どうしようっ。すっごく可愛いっ)
このまま城に連れ帰って、本当にユーカを閉じ込めてしまいたい衝動と戦いながら、ユーカの歩幅に合わせてゆっくり進む。
薄暗くはあるものの、自然の中をそっと歩くユーカは女神のように美しく見え、思わずため息が漏れそうになる。
「この森って、危険はないんですか?」
「あぁ、ここは子供でも来れる森だ。とはいっても、近くの村までは歩いて半日以上かかるから、子供も来ないみたいだけどな」
この森は、数ある森の中でも最も安全な森だ。しかし、なぜスライムや角兎しか住み着かないのかは、長年研究されているものの、明らかにはなっていない。
「そうなんですね。私は、森といえばジークさんと出会った場所しか知らないから、全部あんな風に危険な場所なんだと思ってました」
「いや、実際、危険な森がほとんどだ。ここだけが安全といえる森なだけで、他は大抵、冒険者くらいしか立ち入らない」
「冒険者?」
「魔物を倒したり、薬草を採取したり、果物を狩ったり、要人の護衛をしたりといった仕事をする人達のことだよ」
「へぇ、果物狩りもお仕事っていうのは何だかおかしな感じもしますけれど、それなりに危険なお仕事なんですね」
「? うん、そうだね」
果物どもを狩る仕事こそ、危険極まりないだろうとは思うものの、ユーカが納得してくれたならそれで良いだろう。僕も、好き好んで暴れる果物をユーカに見せようとは思わない。
「あっ、霧が出てきましたね」
「うん? そう、だね……でも、この森で霧……?」
「ハミル、警戒を怠るなよ?」
「うん、分かってる」
今まで、ムルムルの森で霧が出たという情報は聞いたことがない。もちろん、ただ知らなかっただけという可能性もあるから、一概には言えないものの、何だか嫌な予感がした。
「ユーカ、僕達の手を絶対離しちゃダメだからね?」
「はい」
そんな会話をして、ギュッとユーカの手を握り込んだ瞬間だった。ユーカが、目の前から消えたのは。
「「ユーカ!?」」
思わずユーカの名を叫び、僕達は動こうとして……一瞬にして濃くなった霧を前に、動きを封じられるのだった。
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