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第八章 再びリアン魔国へ
第百四十一話 手紙の続き
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(うん、落ち着いた)
あの予言が書かれた手紙を中途半端に読んで、一人でパニックになっていた私は、必死になだめてくれるジークさんとハミルさんを前に、ようやく落ち着きを取り戻していた。
そもそも、この予言はちゃんと、ジークさん達を守る方法を書いてくれている。まだ何も起こっていないのに、パニックになるのは早過ぎたわけだ。
「ごめんなさい。仕事中だったのに……」
「いや、ユーカのためなら、仕事を中断するくらい、どうということもない」
「そうだよ。ユーカが落ち着いてくれて良かった」
パニックから回復した私は、ただただ恥ずかしくて、迷惑をかけたことが申し訳なくて、一人小さくなる。
カモミールティーを運んできてくれたメアリーをチラリと見れば、どこか安心したようにニコニコしていて、さらに申し訳なさが募る。
「それで、ユーカ。その予言書には何が書いてあったんだ?」
ジークさんにそう言われて、私はまだ予言の内容すら話せていなかったことを思い出し、ずっと握っていたその手紙をテーブルの上に広げてみる。
「これは、秋元凪さん……私と同じ世界から来た人が書いた手紙で、ここには、邪王の復活が書かれていています」
そうして、『まだ全部を読んだわけじゃないけれど』と前置きして、読んだ内容を話す。
「邪王討伐に、ユーカの存在が鍵、か……」
「ジーク、その前に、事実確認が先だよ」
「分かっている」
一気に真剣な表情になった二人を見て、やっぱり、予言というのは本当にあるのだと確信してしまう。
「ユーカ、続きは何が書いてある?」
ジークさんにそう問われて、私は途中で読むのを止めた手紙の続きを読んでみる。
『不吉な予言になってしまって、ごめんなさい。ですが、これはユウカさんが居る世界で起こりうることなんです。不安であれば、当代の予言者に確認を取ると良いでしょう。国事に関係する予言ならば、多分、ユウカさんの時代の予言者は引き受けてくれるでしょうから』
手紙を指でなぞりながら読んでいくと、どうやら今の時代にも予言者が居るらしいことが書かれていて、思わずジークさんとハミルさんの顔を見てみる。
「当代の予言者か、確かに、国が関わってくることとなると、要請は出せるな」
「僕のところも、要請を出しておくよ。これで、予言が一致すれば、いよいよ危険だしね」
どうやら、予言者については、二人が何とかしてくれるらしい。ただ、予言者がどういった存在なのか私はあまり知らないので、後から聞いておこうとは思う。
「続き、読みますね」
まだ、手紙には続きがある。そのため、私はゆっくりと続きを口に出して読む。
『ユウカさんが調べるべきは、『建国神話』とリアン魔国の城、あと、ヴァイラン魔国の城です。ヴァイラン魔国の城にあるものは、リアン魔国で手に入れるものがなければ開けられないので、先にリアン魔国を調べてください。そこには、討伐に必要な道具を眠らせています。そして、討伐するかどうかの判断は、ユウカさんにお任せします』
そんな内容を読んで、私は大きく困惑する。国が滅びるような原因を、私が放置できるはずがないのに、討伐以外に選択肢などないのに、なぜ、私に任せるなどと書くのか、意味が分からなかった。
「城を調べろと言っても……手がかりが何もないぞ?」
「もしかして、この、『建国神話』ってやつが手がかりになるんじゃないのかな?」
「……『建国史』なら知っているが、『建国神話』なんてあったか?」
「それを探すのが僕達の仕事だよ」
どうやら、『建国史』はあっても、『建国神話』はないらしい。私も、図書室で『建国神話』という文字を見かけた覚えがないため、これはかなり大変かもしれない。
『あと、それぞれを調べるのは、必ずユウカさんが行うこと。夫となる二人に手伝ってもらうのは構いませんが、それを見つけるのは、ユウカさんでなければ不可能です』
続きの文章を何気なく読んで、私は、『夫となる二人』の部分は『ジークさんとハミルさん』に言い換えておこうと決意する。そして、やはり続きを促してきたジークさん達に、そうやって言葉を紡ぐと、またしても二人は考え込む。
「ユーカじゃなければ、不可能?」
「……これでも、僕達、能力は高い方なんだけどなぁ。どういう意味なんだろう?」
「できたら、ユーカを危険にさらしたくはないが……とりあえずは、予言者の予言を聞くことが先決だな」
「うん、そうだね」
どことなく釈然としないと言いたげな二人を前に、私は最後まで手紙を読む。
『この手紙を読んで、ユウカさんがどう行動するのかによって、未来は決まります。随分な重荷を背負わせてしまうことになりますが、どうか、未来をよろしくお願いします』
そこまで読むと、部屋はしん、と沈黙が漂う。ジークさんとハミルさんは真剣に手紙を見つめ、何かを考えているようで、口を挟むこともできない。
しばらくの時間が経って、ようやく一つ、大きな息を吐いたジークさんは、私に優しい笑みを浮かべる。
「ユーカは何も心配しなくて良い。俺達が、なんとかしてみせる」
「うん、ちゃんと予言者に要請をして、破滅を回避するようにするから、安心してね」
そんな言葉に、私は知らず知らずのうちに緊張して強張っていた体の力を抜くのだった。
あの予言が書かれた手紙を中途半端に読んで、一人でパニックになっていた私は、必死になだめてくれるジークさんとハミルさんを前に、ようやく落ち着きを取り戻していた。
そもそも、この予言はちゃんと、ジークさん達を守る方法を書いてくれている。まだ何も起こっていないのに、パニックになるのは早過ぎたわけだ。
「ごめんなさい。仕事中だったのに……」
「いや、ユーカのためなら、仕事を中断するくらい、どうということもない」
「そうだよ。ユーカが落ち着いてくれて良かった」
パニックから回復した私は、ただただ恥ずかしくて、迷惑をかけたことが申し訳なくて、一人小さくなる。
カモミールティーを運んできてくれたメアリーをチラリと見れば、どこか安心したようにニコニコしていて、さらに申し訳なさが募る。
「それで、ユーカ。その予言書には何が書いてあったんだ?」
ジークさんにそう言われて、私はまだ予言の内容すら話せていなかったことを思い出し、ずっと握っていたその手紙をテーブルの上に広げてみる。
「これは、秋元凪さん……私と同じ世界から来た人が書いた手紙で、ここには、邪王の復活が書かれていています」
そうして、『まだ全部を読んだわけじゃないけれど』と前置きして、読んだ内容を話す。
「邪王討伐に、ユーカの存在が鍵、か……」
「ジーク、その前に、事実確認が先だよ」
「分かっている」
一気に真剣な表情になった二人を見て、やっぱり、予言というのは本当にあるのだと確信してしまう。
「ユーカ、続きは何が書いてある?」
ジークさんにそう問われて、私は途中で読むのを止めた手紙の続きを読んでみる。
『不吉な予言になってしまって、ごめんなさい。ですが、これはユウカさんが居る世界で起こりうることなんです。不安であれば、当代の予言者に確認を取ると良いでしょう。国事に関係する予言ならば、多分、ユウカさんの時代の予言者は引き受けてくれるでしょうから』
手紙を指でなぞりながら読んでいくと、どうやら今の時代にも予言者が居るらしいことが書かれていて、思わずジークさんとハミルさんの顔を見てみる。
「当代の予言者か、確かに、国が関わってくることとなると、要請は出せるな」
「僕のところも、要請を出しておくよ。これで、予言が一致すれば、いよいよ危険だしね」
どうやら、予言者については、二人が何とかしてくれるらしい。ただ、予言者がどういった存在なのか私はあまり知らないので、後から聞いておこうとは思う。
「続き、読みますね」
まだ、手紙には続きがある。そのため、私はゆっくりと続きを口に出して読む。
『ユウカさんが調べるべきは、『建国神話』とリアン魔国の城、あと、ヴァイラン魔国の城です。ヴァイラン魔国の城にあるものは、リアン魔国で手に入れるものがなければ開けられないので、先にリアン魔国を調べてください。そこには、討伐に必要な道具を眠らせています。そして、討伐するかどうかの判断は、ユウカさんにお任せします』
そんな内容を読んで、私は大きく困惑する。国が滅びるような原因を、私が放置できるはずがないのに、討伐以外に選択肢などないのに、なぜ、私に任せるなどと書くのか、意味が分からなかった。
「城を調べろと言っても……手がかりが何もないぞ?」
「もしかして、この、『建国神話』ってやつが手がかりになるんじゃないのかな?」
「……『建国史』なら知っているが、『建国神話』なんてあったか?」
「それを探すのが僕達の仕事だよ」
どうやら、『建国史』はあっても、『建国神話』はないらしい。私も、図書室で『建国神話』という文字を見かけた覚えがないため、これはかなり大変かもしれない。
『あと、それぞれを調べるのは、必ずユウカさんが行うこと。夫となる二人に手伝ってもらうのは構いませんが、それを見つけるのは、ユウカさんでなければ不可能です』
続きの文章を何気なく読んで、私は、『夫となる二人』の部分は『ジークさんとハミルさん』に言い換えておこうと決意する。そして、やはり続きを促してきたジークさん達に、そうやって言葉を紡ぐと、またしても二人は考え込む。
「ユーカじゃなければ、不可能?」
「……これでも、僕達、能力は高い方なんだけどなぁ。どういう意味なんだろう?」
「できたら、ユーカを危険にさらしたくはないが……とりあえずは、予言者の予言を聞くことが先決だな」
「うん、そうだね」
どことなく釈然としないと言いたげな二人を前に、私は最後まで手紙を読む。
『この手紙を読んで、ユウカさんがどう行動するのかによって、未来は決まります。随分な重荷を背負わせてしまうことになりますが、どうか、未来をよろしくお願いします』
そこまで読むと、部屋はしん、と沈黙が漂う。ジークさんとハミルさんは真剣に手紙を見つめ、何かを考えているようで、口を挟むこともできない。
しばらくの時間が経って、ようやく一つ、大きな息を吐いたジークさんは、私に優しい笑みを浮かべる。
「ユーカは何も心配しなくて良い。俺達が、なんとかしてみせる」
「うん、ちゃんと予言者に要請をして、破滅を回避するようにするから、安心してね」
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