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第七章 舞踏会
第百三十七話 不安の心(ジークフリート視点)
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寝起きのユーカが可愛い。今すぐに、キスして、抱き締めてしまいたい。
そう思いつつも、俺はどうにか、ユーカから離れる。
昨日の事の顛末は、すでにルティアスから報告を受けている。あの公爵令嬢がしでかしたことは、到底許せることではない。ユーカの心を傷つけるなど、もってのほかだ。
ただ、ユーカからは、あの女から言われた言葉によって、何を思ってしまったのかだけは聞いておきたかった。その不安を、全て払ってあげたかった。
「ユーカ、昨日のことは、覚えてるか?」
俺とハミルトンが一応距離を取ったことで安心した様子だったユーカは、俺の言葉を理解して、サァッと青ざめる。
「ユーカ、あんな女の言うことを真に受けちゃダメだよ」
「俺達は、ユーカさえ居れば良い。あんな女、どうでも良いんだ」
不安そうに瞳を揺らすユーカに、俺達は懸命に言葉を尽くす。
「ユーカ、不安に思うことがあるなら言って?」
「俺達が、その不安を全て払ってやる」
ベッドの上で、真剣に告げると、ユーカはしばらく悩んだ後、ゆっくりと、震える唇を開く。
「わ、たし……ジークさん達に、相応しくないの、かなって……」
「そんなわけないよっ!」
「待て、ハミル。ユーカ、なぜそう思うんだ? ユーカは、可愛くて、頭も良くて、優しくて、力もあって、可愛い。何がそんなに不安だ?」
即座に反論するハミルトンをなだめて、俺はユーカに根本的な部分を問いかける。ハミルトンのように反論することも必要ではあるが、それで上部だけだと捉えられることはあってはならない。ユーカには、心から安心してもらう必要がある。
「わ、私は、可愛くなんか、ないし、背も低いし、胸だってないし、甘えてばっかりで、何も返せてないし、頭もそんなに良いわけじゃないし、優しくもない、から……」
「ユーカは、誰が何と言おうと、可愛いよ。背が低くても、胸がなくても、僕達はユーカだから愛しいと思えるんだ」
「甘えてばかりの何が悪い? 俺は、ユーカに甘えられるのは嬉しいし、もっと甘えてほしいくらいだぞ? それに、何も返せてないというのは違う。ユーカがそこに居るだけで、俺達は幸せなんだ」
「ユーカが頭悪いなんてあり得ないよ。ユーカは、必死に文字を覚えて、今では本を読めるようにまでなっているだろう? 魔法だって、僕達が教えてない応用を考え出してしまうんだから、どちらかといえば天才の部類に入るんだよ?」
「ユーカが優しくないなど、あるはずがない。ユーカは、俺達の愚行を許してくれた。そして、その上で俺達を受け入れてくれたんだ。それが、優しさでないなど、俺は認めない」
ユーカが言った全ての言葉を否定して、優しく、優しく包み込む。しかし、ユーカはまだ悩みがあるのか、その表情は暗いままだ。
「ユーカ? まだ悩むことがあるのなら、今、言ってしまえば良い」
「僕達は、どんなユーカでも受け入れるよ。だから、話してごらん?」
怯えた表情すら見せるユーカに、俺達は懸命優しく説得する。ユーカの低すぎる自己評価を、何としても変えたかった。
「わ、私、は……」
悩みながら震えながら、それでも、ユーカは話そうとしてくれている。それを見て、俺達は静かにその時を待つ。
「私、私は……違うんです」
「何が違うのかな? ユーカ?」
上手く言えないらしいユーカに、ハミルトンが足りない部分を問いかける。
「私、私……黙っててごめんなさい。でもっ……」
「ユーカ、落ち着け。俺達は、ユーカに怒ることはない」
泣き出しそうになっているユーカに、俺はこれ以上聞き出そうとすべきではないのかもしれないと思い始める。そしてそれは、ハミルトンも同じだったらしい。
「ユーカ? 言いづらいなら、無理して言わなくても良いよ?」
「い、え……話し、ます」
ただ、譲歩しようとしても、ユーカは話すと宣言する。だから、俺達は静かにその時を待つ。
「私は……この世界の、人間じゃ、ないんです」
そんなユーカの言葉の意味が、最初、俺は理解できなかった。
(この世界の人間じゃない?)
しかし、そこでかつてナリクに言われた言葉を思い出す。
『ここまで情報がないと、異世界からの転移者ではないかとさえ思えてくる』
(確か、ナリクはそう言っていなかったか?)
「異世界からの、転移者……?」
同じ結論に辿り着いたハミルトンの、呆然とした言葉が、嫌に部屋の中に響いた。
「そうか。ユーカは異世界から来たのか。それで、何か問題があるのか?」
「えっ? ……えっと、気味が悪かったりは……」
「「そんなことないっ!」」
「ひぅっ、えっ? えっ?」
なぜそう思うのか、甚だ疑問だが、これで、ユーカの情報が集まらなかった理由が分かった。さすがのナリクも、異世界の情報までは手が出せない。
(いや、それよりも今はユーカだ)
「ユーカはユーカだ。異世界から来たのだとしても、それは変わらない。だから、俺達の愛情も変わらない」
「見くびってもらっちゃ困るよ。僕は、ユーカだからこそ愛してるんだ。ユーカが異世界から来たなんて、関係ないよ」
今度、異世界からの転移者についての文献をあたろう。もしかしたら、ユーカが悩んだ時、その知識が何か解決の糸口になるかもしれない。
そんなことすら考えながら、俺達は精一杯ユーカを口説く。
「ユーカ。誰よりも、何よりも愛してる」
「ジークに分けなきゃいけないのは癪だけど、僕もユーカを世界一愛してるよ」
そうして、片手ずつ、ユーカの手を取り、口付けを落とす。その瞬間、真っ赤になったユーカを愛しいと思いながら、その魅惑の唇に引き寄せられて……。
ドンドンドンという扉を叩く音に、我に返ったユーカから悲鳴を上げられ、逃げられてしまうのだった。
そう思いつつも、俺はどうにか、ユーカから離れる。
昨日の事の顛末は、すでにルティアスから報告を受けている。あの公爵令嬢がしでかしたことは、到底許せることではない。ユーカの心を傷つけるなど、もってのほかだ。
ただ、ユーカからは、あの女から言われた言葉によって、何を思ってしまったのかだけは聞いておきたかった。その不安を、全て払ってあげたかった。
「ユーカ、昨日のことは、覚えてるか?」
俺とハミルトンが一応距離を取ったことで安心した様子だったユーカは、俺の言葉を理解して、サァッと青ざめる。
「ユーカ、あんな女の言うことを真に受けちゃダメだよ」
「俺達は、ユーカさえ居れば良い。あんな女、どうでも良いんだ」
不安そうに瞳を揺らすユーカに、俺達は懸命に言葉を尽くす。
「ユーカ、不安に思うことがあるなら言って?」
「俺達が、その不安を全て払ってやる」
ベッドの上で、真剣に告げると、ユーカはしばらく悩んだ後、ゆっくりと、震える唇を開く。
「わ、たし……ジークさん達に、相応しくないの、かなって……」
「そんなわけないよっ!」
「待て、ハミル。ユーカ、なぜそう思うんだ? ユーカは、可愛くて、頭も良くて、優しくて、力もあって、可愛い。何がそんなに不安だ?」
即座に反論するハミルトンをなだめて、俺はユーカに根本的な部分を問いかける。ハミルトンのように反論することも必要ではあるが、それで上部だけだと捉えられることはあってはならない。ユーカには、心から安心してもらう必要がある。
「わ、私は、可愛くなんか、ないし、背も低いし、胸だってないし、甘えてばっかりで、何も返せてないし、頭もそんなに良いわけじゃないし、優しくもない、から……」
「ユーカは、誰が何と言おうと、可愛いよ。背が低くても、胸がなくても、僕達はユーカだから愛しいと思えるんだ」
「甘えてばかりの何が悪い? 俺は、ユーカに甘えられるのは嬉しいし、もっと甘えてほしいくらいだぞ? それに、何も返せてないというのは違う。ユーカがそこに居るだけで、俺達は幸せなんだ」
「ユーカが頭悪いなんてあり得ないよ。ユーカは、必死に文字を覚えて、今では本を読めるようにまでなっているだろう? 魔法だって、僕達が教えてない応用を考え出してしまうんだから、どちらかといえば天才の部類に入るんだよ?」
「ユーカが優しくないなど、あるはずがない。ユーカは、俺達の愚行を許してくれた。そして、その上で俺達を受け入れてくれたんだ。それが、優しさでないなど、俺は認めない」
ユーカが言った全ての言葉を否定して、優しく、優しく包み込む。しかし、ユーカはまだ悩みがあるのか、その表情は暗いままだ。
「ユーカ? まだ悩むことがあるのなら、今、言ってしまえば良い」
「僕達は、どんなユーカでも受け入れるよ。だから、話してごらん?」
怯えた表情すら見せるユーカに、俺達は懸命優しく説得する。ユーカの低すぎる自己評価を、何としても変えたかった。
「わ、私、は……」
悩みながら震えながら、それでも、ユーカは話そうとしてくれている。それを見て、俺達は静かにその時を待つ。
「私、私は……違うんです」
「何が違うのかな? ユーカ?」
上手く言えないらしいユーカに、ハミルトンが足りない部分を問いかける。
「私、私……黙っててごめんなさい。でもっ……」
「ユーカ、落ち着け。俺達は、ユーカに怒ることはない」
泣き出しそうになっているユーカに、俺はこれ以上聞き出そうとすべきではないのかもしれないと思い始める。そしてそれは、ハミルトンも同じだったらしい。
「ユーカ? 言いづらいなら、無理して言わなくても良いよ?」
「い、え……話し、ます」
ただ、譲歩しようとしても、ユーカは話すと宣言する。だから、俺達は静かにその時を待つ。
「私は……この世界の、人間じゃ、ないんです」
そんなユーカの言葉の意味が、最初、俺は理解できなかった。
(この世界の人間じゃない?)
しかし、そこでかつてナリクに言われた言葉を思い出す。
『ここまで情報がないと、異世界からの転移者ではないかとさえ思えてくる』
(確か、ナリクはそう言っていなかったか?)
「異世界からの、転移者……?」
同じ結論に辿り着いたハミルトンの、呆然とした言葉が、嫌に部屋の中に響いた。
「そうか。ユーカは異世界から来たのか。それで、何か問題があるのか?」
「えっ? ……えっと、気味が悪かったりは……」
「「そんなことないっ!」」
「ひぅっ、えっ? えっ?」
なぜそう思うのか、甚だ疑問だが、これで、ユーカの情報が集まらなかった理由が分かった。さすがのナリクも、異世界の情報までは手が出せない。
(いや、それよりも今はユーカだ)
「ユーカはユーカだ。異世界から来たのだとしても、それは変わらない。だから、俺達の愛情も変わらない」
「見くびってもらっちゃ困るよ。僕は、ユーカだからこそ愛してるんだ。ユーカが異世界から来たなんて、関係ないよ」
今度、異世界からの転移者についての文献をあたろう。もしかしたら、ユーカが悩んだ時、その知識が何か解決の糸口になるかもしれない。
そんなことすら考えながら、俺達は精一杯ユーカを口説く。
「ユーカ。誰よりも、何よりも愛してる」
「ジークに分けなきゃいけないのは癪だけど、僕もユーカを世界一愛してるよ」
そうして、片手ずつ、ユーカの手を取り、口付けを落とす。その瞬間、真っ赤になったユーカを愛しいと思いながら、その魅惑の唇に引き寄せられて……。
ドンドンドンという扉を叩く音に、我に返ったユーカから悲鳴を上げられ、逃げられてしまうのだった。
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