私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第七章 舞踏会

第百三十五話 ユーカの暴走(ジークフリート視点)

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 ユーカに言われて、ハミルトンを追いかけた俺は、泣きそうな表情で途方に暮れているハミルトンを見つけ、声をかける。


「ハミル」

「……ジーク? ははっ、笑いたければ、笑えば良いよ。これで、僕はユーカに嫌われた。せっかく、ユーカと話せるようになったのに、こんな……」


 絶望の表情で立ち尽くすハミルトン。すでにユーカから嫌われたものだと思っているハミルトンは、放っておけば何をしでかすか分からない。ユーカの側を離れたくはなかったが、ハミルトンを追いかけたのは正解だったのかもしれない。
 ここは、さっさとユーカの気持ちを伝えてやった方が安全だろう。


「それが、ユーカにハミルのことを尋ねたら、『独占欲が強い』としか思ってないようだったぞ?」

「……えっ?」


 ポカーンとするハミルトンのその表情は、俺でも初めて見るもので、随分と衝撃が大きかったのだと見受けられた。


(まぁ、あれだけのことを言って、『独占欲が強い』だけですませるユーカのことを思うと、分からなくもないが……)

「いや、でも、ユーカに嫌われたんじゃ……」

「そんな様子はなかった」


 即答してやると、ハミルトンは目に見えて狼狽える。


「えっと、ジーク? 気休めはいらないよ? 本当のことを言ってくれて良いんだよ?」

「気休めでも何でもない。……俺は、ユーカの危機管理意識が不安になった」


 監禁して陵辱する宣言をしていたハミルトンに対して、『独占欲が強い』の一言で表現してみせたユーカは、大物というよりは、危機感がないのではないかと心配になる。


「……えっ? 本当に? 本当に、ユーカは、僕のことを『独占欲が強い』って言葉だけで表現してのけたわけ!?」

「本当だと言っているだろう」


 疑いたくなる気持ちは、とてもよく分かる。しかし、それが事実だ。ハミルトンも、俺が嘘を吐いたり誤魔化したりしている様子がないことを見てとって、信じられないとでも言いたげに目を丸くする。


「……ユーカって、天使?」

「当然だ。……いや、そうではなく、危機意識に問題がある可能性が高いと思うが?」


 つい、ユーカが天使であるという事実に同意してしまったが、問題はそこではない。そのことにハミルトンも思い至ったのか、すぐに真剣な表情へと切り替わる。


「天使なユーカは、僕達が守ろう」

「もちろんだ」


 俺達に騙されてくれるユーカは可愛いが、他の奴らに騙されるのだけは嫌だ。ユーカを守るのは、俺達の仕事だ。


「戻るぞ」

「うん」


 ここで多く語る必要はない。今は、一人残してきたユーカのために、すぐに引き返す必要がある。
 走るわけにはいかないため、できるだけ早く歩いて、ユーカの反応を探す。今日のユーカは、特に気配を消しているわけではないため、すぐに薔薇園の奥に居ることが分かり、途中で声をかけてくる者達を適当に受け流してさっさと進む。すると……。


「「っ!?」」


 突如として、俺達に匹敵するだけの魔力が、薔薇園の方で発生する。
 魔力は、ユーカのもので間違いない。しかも、暴走している様子だ。何かがあったのだと知った俺達は、あまりの魔力に会場の魔族達が膝をついているのを無視して走り出す。


「「ユーカっ!!」」


 薔薇園を突っ切って、ユーカの元へと駆けつけると、ユーカはうつむき、その側には腰を抜かした様子のどこぞの令嬢、そして、警戒した瞬間、敵を取られでもしたかのように、中途半端に固まっている騎士やルティアス達を見つける。


「ユーカっ、大丈夫!? 魔力を使ったみたいだけど、気分悪かったりしない!?」

「ユーカ、大丈夫か!? 怪我してないか!?」


 令嬢も騎士もルティアスも無視して、俺達はとにかくユーカへと駆け寄り、膝をつく。すると、ユーカの表情が、どこか傷ついているように見えて、俺達は大いに慌てる。


「ユーカ? 何があったんだ?」

「ユーカ? この女に何か言われでもした?」


 ハミルトンが適当に当たりをつけて聞いた言葉に、ユーカは小さく反応を示す。その事実に、俺達は一斉に側に居た女へと殺意を向ける。


「ひぃいっ」


 俺達の殺気を一身に浴びた女は、すぐに白目を剥いて気絶してしまう。しかし、もし、ユーカがこんなに傷ついている原因がこの女ならば、容赦するつもりはない。側にはルティアスも居たはずだから、事情はその辺りから聞いてしまえば確実だろう。


「ユーカ、この女は、俺が厳正に処分する」

「心配いらないよ。ユーカ。ユーカを傷つける者を、僕達は許したりしないから」


 未だ、一言も喋らないユーカに、俺達は必死でなだめるための言葉を尽くす。それというのも、ユーカは未だ、何かの魔法に魔力を使い続けている様子で、このままでは倒れるのも時間の問題だと思われたからだ。


「ユーカ。もう大丈夫だ」

「ほら、ゆっくり力を抜いて? 魔力の使い過ぎは良くないよ?」


 俺はユーカの小さな体を抱き締め、ハミルトンはユーカの頭を優しく撫でる。不自然なほどに静かな空間で、俺達は、ただただ、ユーカが魔力を使うのを止めてくれるように説得を続ける。すると、空から何人かの刺客らしき者達が泡を吹いて気絶した状態で下ろされ、ユーカの魔力の気配が霧散した。


「ジーク、さん。私、私……」


 ただ、ユーカ自身、暴走していたためか、何かを言いかけて、そのままゆっくりと意識を失ってしまうのだった。
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