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第七章 舞踏会
第百三十四話 一人の令嬢
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襲撃を警戒しながら待っていると、ふいに、別の反応がこちらへ近づいてきていることに気づく。その反応は、会場からこの薔薇園に向かってきているようだった。
(このままじゃ、巻き込んじゃう?)
さすがに、その反応が誰のものかまでは分からないけれど、その人物がここに来て、襲撃の準備が整ってしまえば、関係のないその人まで巻き込まれることになってしまう。
どうしたものかと考えていると、ふと、ルティアスと視線が合う。
(うん、こういう時の護衛騎士だよね)
「ルティアスさん、ちょっと良いですか?」
「はい。何のご用でしょうか?」
私は、どう言えば穏便に、何かを悟られることなく話せるかを計算して、口を開く。
「少し、一人になりたいので、ここに誰も来ないようにできますか?」
「誰も、ですか?」
私の言葉で考え込むルティアスさんに、私は慌てて訂正をする。
「あっ、えっと、護衛は構わないんですよ? ただ、ちょっと色々な人と話して疲れてしまったので……」
「……分かりましたっ。少し手配してきますね。多分、相手が相当な身分の人物でない限りは大丈夫です」
そう言って、近くの騎士に私の要望を伝えたらしいルティアスさんは、薔薇園の入り口へと向かう騎士を見送る。
「我が儘を言って、すみません」
「いえ、このくらいのこと、我が儘のうちにも入りませんよっ」
ニカッと笑うルティアスさんに、私は知らず知らず詰めていた息をホッと吐く。これで、見知らぬ誰かが巻き込まれるようなことはないはずだ。
不審者達が、ゆっくりと周りを囲む中、私は誰にも気づかれないように、うっすらと魔力の結界を自分に張り巡らせる。けれど、そこで予想外の事態が起こった。
(っ!? 騎士さんの反応が突破された!?)
この薔薇園に近づいていた何者かは、恐らく騎士に制止されたはずなのだけれど、それを突破してこちらへと一直線に向かっていた。
「ねぇ、ルティアスさん。騎士の方達が止められない身分の人って、どんな人なんですか?」
「そうですねー。魔王陛下方はもちろんのこと、公爵家に連なる方をお止めするのは難しいと思われます」
この魔力反応は、ジークさんでもハミルさんでもない。つまり、相手は公爵家に連なる誰かということだろう。
(面倒なことになっちゃったかも……)
よりにもよって、なぜ、今そんな身分の人がこちらに向かっているのだと嘆きたくなったけれど、そうこうする間に包囲網は完成されていき、反応はどんどん接近してくる。そして、とうとうその時はやってきた。
「まぁっ、今日の主役ともあろうお方が、なぜこんなところにいらっしゃるのかしら?」
接近してきた反応の持ち主であるご令嬢は、私の姿を見つけるや否や、侮蔑の瞳とともにそんな言葉を投げつけてきた。
(……よりにもよって、私を敵視してる人だったよ)
流れるような藍色の髪に茶色の角、紫の瞳を持つどこか傲慢そうに見える美少女が現れ、私は心底げんなりする。きっと、これから襲撃が起きて、この誰とも分からない少女も守らなければならないとなると、恐ろしく面倒だった。
けれど、どんなに私を敵視しているとはいっても、見捨てるわけにもいかない。
「ちょっと、聞いてますの?」
何も応えない私に苛立った様子の彼女に問いかけられ、私はゆっくりと口を開く。
「私は、ただ休憩していただけです。疲れが取れれば、また会場に戻りますので」
「ふんっ、人間は面倒な生き物ね。この程度で疲れるなんて」
「そうかもしれませんね」
とりあえず、一生懸命何でもないフリをして返事をしてみるものの、私を敵視しているご令嬢は目を吊り上げて怒鳴ってくる。
「その返事はなんですの!? あなたなど、ジークフリート様に相応しくはありませんわっ!」
ズキリ、と、彼女の言葉に心臓が嫌な痛みを訴える。それと同時に、日本で虐げられていた時の記憶が徐々に蘇り、私を蝕む。
「あなたのようなちんちくりんが、ジークフリート様を満足させることなんて到底無理ですわっ。あぁ、お可哀想なジークフリート様。そうですわっ、ここは、わたくしがお慰めいたさなければなりませんわねっ」
ズキリ、ズキリと、痛みがどんどん強くなる。
(ジークさん、私が相手だと、可哀想? 私、やっぱり、ダメ、なのかな?)
ドクリドクリという心臓の鼓動に合わせた痛みに、私の目の前の景色は、ゆっくりと滲んでいく。
「ジークフリート様のことを想うのならば、わたくしを婚約者にするよう、進言なさいっ」
(この人に? ジークさんが盗られちゃう? そんなの、そんなの、やだっ)
「どうなさったの? 返事くらいなさいっ」
「っ!?」
そう、彼女が言い放った直後だった。私を包囲していた不審者達が一斉に飛び出してきて…………感情が爆発してしまった私が、彼らを魔法で空高く釣り上げてしまったのは。
(このままじゃ、巻き込んじゃう?)
さすがに、その反応が誰のものかまでは分からないけれど、その人物がここに来て、襲撃の準備が整ってしまえば、関係のないその人まで巻き込まれることになってしまう。
どうしたものかと考えていると、ふと、ルティアスと視線が合う。
(うん、こういう時の護衛騎士だよね)
「ルティアスさん、ちょっと良いですか?」
「はい。何のご用でしょうか?」
私は、どう言えば穏便に、何かを悟られることなく話せるかを計算して、口を開く。
「少し、一人になりたいので、ここに誰も来ないようにできますか?」
「誰も、ですか?」
私の言葉で考え込むルティアスさんに、私は慌てて訂正をする。
「あっ、えっと、護衛は構わないんですよ? ただ、ちょっと色々な人と話して疲れてしまったので……」
「……分かりましたっ。少し手配してきますね。多分、相手が相当な身分の人物でない限りは大丈夫です」
そう言って、近くの騎士に私の要望を伝えたらしいルティアスさんは、薔薇園の入り口へと向かう騎士を見送る。
「我が儘を言って、すみません」
「いえ、このくらいのこと、我が儘のうちにも入りませんよっ」
ニカッと笑うルティアスさんに、私は知らず知らず詰めていた息をホッと吐く。これで、見知らぬ誰かが巻き込まれるようなことはないはずだ。
不審者達が、ゆっくりと周りを囲む中、私は誰にも気づかれないように、うっすらと魔力の結界を自分に張り巡らせる。けれど、そこで予想外の事態が起こった。
(っ!? 騎士さんの反応が突破された!?)
この薔薇園に近づいていた何者かは、恐らく騎士に制止されたはずなのだけれど、それを突破してこちらへと一直線に向かっていた。
「ねぇ、ルティアスさん。騎士の方達が止められない身分の人って、どんな人なんですか?」
「そうですねー。魔王陛下方はもちろんのこと、公爵家に連なる方をお止めするのは難しいと思われます」
この魔力反応は、ジークさんでもハミルさんでもない。つまり、相手は公爵家に連なる誰かということだろう。
(面倒なことになっちゃったかも……)
よりにもよって、なぜ、今そんな身分の人がこちらに向かっているのだと嘆きたくなったけれど、そうこうする間に包囲網は完成されていき、反応はどんどん接近してくる。そして、とうとうその時はやってきた。
「まぁっ、今日の主役ともあろうお方が、なぜこんなところにいらっしゃるのかしら?」
接近してきた反応の持ち主であるご令嬢は、私の姿を見つけるや否や、侮蔑の瞳とともにそんな言葉を投げつけてきた。
(……よりにもよって、私を敵視してる人だったよ)
流れるような藍色の髪に茶色の角、紫の瞳を持つどこか傲慢そうに見える美少女が現れ、私は心底げんなりする。きっと、これから襲撃が起きて、この誰とも分からない少女も守らなければならないとなると、恐ろしく面倒だった。
けれど、どんなに私を敵視しているとはいっても、見捨てるわけにもいかない。
「ちょっと、聞いてますの?」
何も応えない私に苛立った様子の彼女に問いかけられ、私はゆっくりと口を開く。
「私は、ただ休憩していただけです。疲れが取れれば、また会場に戻りますので」
「ふんっ、人間は面倒な生き物ね。この程度で疲れるなんて」
「そうかもしれませんね」
とりあえず、一生懸命何でもないフリをして返事をしてみるものの、私を敵視しているご令嬢は目を吊り上げて怒鳴ってくる。
「その返事はなんですの!? あなたなど、ジークフリート様に相応しくはありませんわっ!」
ズキリ、と、彼女の言葉に心臓が嫌な痛みを訴える。それと同時に、日本で虐げられていた時の記憶が徐々に蘇り、私を蝕む。
「あなたのようなちんちくりんが、ジークフリート様を満足させることなんて到底無理ですわっ。あぁ、お可哀想なジークフリート様。そうですわっ、ここは、わたくしがお慰めいたさなければなりませんわねっ」
ズキリ、ズキリと、痛みがどんどん強くなる。
(ジークさん、私が相手だと、可哀想? 私、やっぱり、ダメ、なのかな?)
ドクリドクリという心臓の鼓動に合わせた痛みに、私の目の前の景色は、ゆっくりと滲んでいく。
「ジークフリート様のことを想うのならば、わたくしを婚約者にするよう、進言なさいっ」
(この人に? ジークさんが盗られちゃう? そんなの、そんなの、やだっ)
「どうなさったの? 返事くらいなさいっ」
「っ!?」
そう、彼女が言い放った直後だった。私を包囲していた不審者達が一斉に飛び出してきて…………感情が爆発してしまった私が、彼らを魔法で空高く釣り上げてしまったのは。
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