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第七章 舞踏会
第百三十二話 小さな嫉妬
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あの後、リノリア様達の興奮についていけなかった私は、そろそろ会場の方に戻ると告げた。リノリア様達は一緒に行ってくれるつもりみたいだったけれど、それを断り、一人で薔薇園の外へ出る。
「ユーカ」
「ハミルさん」
探知魔法を展開し続けていた私は、ちょうどハミルさんがこちらに向かっていることを知って、一人で会場に戻ると言ったのだ。
「リノリア嬢とは楽しく話せたかい?」
「はいっ。とっても楽しかったです」
優しい眼差しを向けてくるハミルさんにそう答えれば、ハミルさんは安心したような表情になる。
「ユーカが楽しかったなら、何よりだよ。さて、これからどうする? 会場に戻るのも良いし、このまま薔薇園を見て回っても良いよ?」
「えっと、会場に戻ろうかと思ってます。まだ、あまり顔見せをしたとは言えないでしょうから……」
舞踏会に参加する目的は、顔見せをして、私には手出ししてはいけないと貴族達に覚えてもらうことだ。だから、できれば会場に居た方が良いに決まっている。
「そんなに気にしなくても良いと思うけど……ユーカが会場に行くと言うなら、僕も一緒に行こうかな?」
「ありがとうございます」
「ん? 当然のことだよ」
きっと、会場の方から抜け出してきたであろうハミルさんは、私が会場に戻ると言えば一緒に来てくれると言う。まだ、一人であの人数の中、注目されるのは慣れていないので、ハミルさんが一緒なのは心強い。
「それじゃあ、お手をどうぞ、ユーカ」
「はい」
ちょっとだけ、手を乗せるのは気恥ずかしいけれど、私はそっとハミルさんの大きな手に自分の手を重ねる。
ゆっくりと会場に戻れば、待ちかねていたかのように、様々な魔族の人達が私達の周りに集まってくる。……ただ、その集まってくる人の多くが、ハミルさんを特別な目で見る女性達だというのが、何となく嫌だ。しかも、スタイルも顔も良く、身長の釣り合いだって取れている相手だ。
「ハミルトン様、ワインはいかが?」
「ハミルトン様、今日は一段と麗しいですわっ」
「ハミルトン様、次の曲が始まりますわよ?」
ムカムカ、ムカムカ。何だか、胸がムカムカし続けて、ここに居たくない。恐らく、彼女達は、ハミルさんの愛人にでもなれたら、という心づもりなのだろう。実際、片翼を持っていても、その片翼に跡継ぎを残す能力がない場合、別の女性が宛がわれることはあるらしい。けれど、それを目の前で見せつけられて、冷静でいられるほど、私はできた人間じゃない。
「悪いけど、退いてくれるかな? 僕は、ユーカ一人が居れば十分なんだ」
無意識に、ギュウゥッとハミルさんの手を握っていた私は、ほとんど聞くことのないハミルさんの冷たい声に、ハッと顔を上げる。見れば、ハミルさんは全く笑っていない目で、彼女達を見ていた。
「「「ひっ」」」
それに怯えた彼女達は、口々に用事を思い出したと言い始め、さっさとその場から去っていく。
「……ハミルさんは、あんな女性が好みですか?」
「えっ?」
ただ、どうしてもいじけた心は、素直な言葉を吐き出してはくれない。
「ご、誤解だよっ。ユーカ! 僕は、あんな女狐は趣味じゃないっ。ユーカだけっ。ユーカだけなんだっ!」
「……本当に?」
私は、スタイルは良くないし、顔は平均的、身長は極端に低い。全然、ジークさんにもハミルさんにも釣り合わないことくらい分かっている。だから、ハミルさんの言葉が疑わしくて、つい、そんな言葉が口をついて出た。すると、ハミルさんはその瞳の色を暗くする。
「本当だよっ。僕にはユーカだけだ。あぁっ、どうすれば信じてくれる? そうだっ、今から休憩室に行こうっ! それで、ユーカの体に、嫌って言うほど、僕の愛を教え込んであげるよっ。あぁ、外にも出したくないなぁ。ずっと、僕の腕の中に閉じ込めておきたい。朝から晩まで、ずっとユーカの世話だけをして、ずっと愛を囁いていたい。ユーカ、ユーカ。僕の愛しい、最愛のユーカ。さぁ、それじゃあすぐに行こ、うぐっ」
「何をバカなことを言ってる。ハミル」
ほぼノンブレスで話していたハミルさんを止めたのは、いつの間にか近くに来ていたジークさんのげんこつだった。
「ジーク?」
「ユーカを怯えさせるつもりか?」
その言葉に、ハミルさんの暗い瞳に光が戻り、そして、恐怖の色が浮かぶ。
「あ……」
「ハミル、さん?」
どう声をかけようかと思いながら名前を呼べば、ハミルさんはビクッと体を震わせる。
「ご、ごめんっ。ユーカ。ちょっと、頭を冷やしてくるよっ」
早口で捲し立てたハミルさんは、そのまますごい勢いで会場の中に紛れてしまった。
「……ユーカ、大丈夫か?」
そんなハミルさんを見送り、しばらく呆然としていると、ジークさんが心配そうに私に声をかけてくる。だから、私は思ったことをそのまま言うことにする。
「えっと、ハミルさんって、独占欲が強い人だったんですね」
すると、ジークさんが固まった。
「…………それ、だけか?」
「? はい?」
「いや……あの、ハミルのセリフを聞いての感想は、それだけなのか?」
「えっと、そう、ですけど……?」
それ以外、どんな感想を抱けというのだろうか。むしろ、独占欲を表に出してもらったことで、私の不安はある程度解消されたのだけれど……それを言うのは、さすがに恥ずかしい。そう思っていると、ジークさんは一人でブツブツと呟き出す。
「これは……ハミルにとっては……いや、だが……」
ところどころ聞き取れないながらも、もしかしたらハミルさんのことを心配しているのではないかという結論に達する。
「ジークさん。私は一人で大丈夫ですから、ハミルさんのところに行ってあげてください」
「っ、ユーカ!?」
「ほらっ、早くっ」
ハミルさんがなぜあんなにも急いで去っていったのか、私には分からない。だから、理由が分かっていそうなジークさんに行ってもらおうとジークさんを押す。
「わ、分かった。ハミルのところへは行こう。だから、ユーカはちゃんと騎士達が目を光らせている場所で待機していてくれ」
「はい、分かりました」
私も、無用なトラブルに巻き込まれるつもりは毛頭ない。だから、ジークさんを送り出した後は、少し外の風に当たれる庭の一角で、近くにルティアスさんが居ることを確認して、休憩することにしたのだった。
「ユーカ」
「ハミルさん」
探知魔法を展開し続けていた私は、ちょうどハミルさんがこちらに向かっていることを知って、一人で会場に戻ると言ったのだ。
「リノリア嬢とは楽しく話せたかい?」
「はいっ。とっても楽しかったです」
優しい眼差しを向けてくるハミルさんにそう答えれば、ハミルさんは安心したような表情になる。
「ユーカが楽しかったなら、何よりだよ。さて、これからどうする? 会場に戻るのも良いし、このまま薔薇園を見て回っても良いよ?」
「えっと、会場に戻ろうかと思ってます。まだ、あまり顔見せをしたとは言えないでしょうから……」
舞踏会に参加する目的は、顔見せをして、私には手出ししてはいけないと貴族達に覚えてもらうことだ。だから、できれば会場に居た方が良いに決まっている。
「そんなに気にしなくても良いと思うけど……ユーカが会場に行くと言うなら、僕も一緒に行こうかな?」
「ありがとうございます」
「ん? 当然のことだよ」
きっと、会場の方から抜け出してきたであろうハミルさんは、私が会場に戻ると言えば一緒に来てくれると言う。まだ、一人であの人数の中、注目されるのは慣れていないので、ハミルさんが一緒なのは心強い。
「それじゃあ、お手をどうぞ、ユーカ」
「はい」
ちょっとだけ、手を乗せるのは気恥ずかしいけれど、私はそっとハミルさんの大きな手に自分の手を重ねる。
ゆっくりと会場に戻れば、待ちかねていたかのように、様々な魔族の人達が私達の周りに集まってくる。……ただ、その集まってくる人の多くが、ハミルさんを特別な目で見る女性達だというのが、何となく嫌だ。しかも、スタイルも顔も良く、身長の釣り合いだって取れている相手だ。
「ハミルトン様、ワインはいかが?」
「ハミルトン様、今日は一段と麗しいですわっ」
「ハミルトン様、次の曲が始まりますわよ?」
ムカムカ、ムカムカ。何だか、胸がムカムカし続けて、ここに居たくない。恐らく、彼女達は、ハミルさんの愛人にでもなれたら、という心づもりなのだろう。実際、片翼を持っていても、その片翼に跡継ぎを残す能力がない場合、別の女性が宛がわれることはあるらしい。けれど、それを目の前で見せつけられて、冷静でいられるほど、私はできた人間じゃない。
「悪いけど、退いてくれるかな? 僕は、ユーカ一人が居れば十分なんだ」
無意識に、ギュウゥッとハミルさんの手を握っていた私は、ほとんど聞くことのないハミルさんの冷たい声に、ハッと顔を上げる。見れば、ハミルさんは全く笑っていない目で、彼女達を見ていた。
「「「ひっ」」」
それに怯えた彼女達は、口々に用事を思い出したと言い始め、さっさとその場から去っていく。
「……ハミルさんは、あんな女性が好みですか?」
「えっ?」
ただ、どうしてもいじけた心は、素直な言葉を吐き出してはくれない。
「ご、誤解だよっ。ユーカ! 僕は、あんな女狐は趣味じゃないっ。ユーカだけっ。ユーカだけなんだっ!」
「……本当に?」
私は、スタイルは良くないし、顔は平均的、身長は極端に低い。全然、ジークさんにもハミルさんにも釣り合わないことくらい分かっている。だから、ハミルさんの言葉が疑わしくて、つい、そんな言葉が口をついて出た。すると、ハミルさんはその瞳の色を暗くする。
「本当だよっ。僕にはユーカだけだ。あぁっ、どうすれば信じてくれる? そうだっ、今から休憩室に行こうっ! それで、ユーカの体に、嫌って言うほど、僕の愛を教え込んであげるよっ。あぁ、外にも出したくないなぁ。ずっと、僕の腕の中に閉じ込めておきたい。朝から晩まで、ずっとユーカの世話だけをして、ずっと愛を囁いていたい。ユーカ、ユーカ。僕の愛しい、最愛のユーカ。さぁ、それじゃあすぐに行こ、うぐっ」
「何をバカなことを言ってる。ハミル」
ほぼノンブレスで話していたハミルさんを止めたのは、いつの間にか近くに来ていたジークさんのげんこつだった。
「ジーク?」
「ユーカを怯えさせるつもりか?」
その言葉に、ハミルさんの暗い瞳に光が戻り、そして、恐怖の色が浮かぶ。
「あ……」
「ハミル、さん?」
どう声をかけようかと思いながら名前を呼べば、ハミルさんはビクッと体を震わせる。
「ご、ごめんっ。ユーカ。ちょっと、頭を冷やしてくるよっ」
早口で捲し立てたハミルさんは、そのまますごい勢いで会場の中に紛れてしまった。
「……ユーカ、大丈夫か?」
そんなハミルさんを見送り、しばらく呆然としていると、ジークさんが心配そうに私に声をかけてくる。だから、私は思ったことをそのまま言うことにする。
「えっと、ハミルさんって、独占欲が強い人だったんですね」
すると、ジークさんが固まった。
「…………それ、だけか?」
「? はい?」
「いや……あの、ハミルのセリフを聞いての感想は、それだけなのか?」
「えっと、そう、ですけど……?」
それ以外、どんな感想を抱けというのだろうか。むしろ、独占欲を表に出してもらったことで、私の不安はある程度解消されたのだけれど……それを言うのは、さすがに恥ずかしい。そう思っていると、ジークさんは一人でブツブツと呟き出す。
「これは……ハミルにとっては……いや、だが……」
ところどころ聞き取れないながらも、もしかしたらハミルさんのことを心配しているのではないかという結論に達する。
「ジークさん。私は一人で大丈夫ですから、ハミルさんのところに行ってあげてください」
「っ、ユーカ!?」
「ほらっ、早くっ」
ハミルさんがなぜあんなにも急いで去っていったのか、私には分からない。だから、理由が分かっていそうなジークさんに行ってもらおうとジークさんを押す。
「わ、分かった。ハミルのところへは行こう。だから、ユーカはちゃんと騎士達が目を光らせている場所で待機していてくれ」
「はい、分かりました」
私も、無用なトラブルに巻き込まれるつもりは毛頭ない。だから、ジークさんを送り出した後は、少し外の風に当たれる庭の一角で、近くにルティアスさんが居ることを確認して、休憩することにしたのだった。
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