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第七章 舞踏会
閑話 護衛の一日(ルティアス視点)
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舞踏会まで、あと三日。
三人で交代制の護衛任務。陛下の片翼の護衛なんて、今までこっそり影からできる奴らしか居なかったはずなのに、どういうわけか、今回の片翼は堂々と護衛をして良いことになった。……色々と、制約は設けられたけども。
そんな、今の僕の主であるユーカ様は、何というか……悪い男に騙されないか心配になるようなお人だった。今だってそうだ。
「ユーカ? 俺の膝の上に乗ってはくれないのか?」
「の、乗りませんっ! そもそもおかしいですよねっ!?」
「んー? おかしいことはないよ? 魔族の片翼は、普通にやること、常識だよ?」
庭で恒例のお茶会をしていた陛下とハミルトン様は、毎日の『あーん』だけには飽きたらず、ユーカ様に膝の上に乗ってもらおうと随分必死だ。ちなみに、ハミルトン様が言うような常識は存在しない。確かに、魔族の男は片翼に尽くしたくなるものだけども、皆が皆、片翼を膝に乗せるということはない、はずだ。
(こういう時、自分に片翼が居ないとちょっと自信がなくなるよね)
僕の片翼は、ずっと探し続けているものの、未だに見つからない。僕だけではなく、陛下の従兄弟にあたるライナードも見つけられていないらしく、僕らは恐らく、失翼ではないかと言われている。
失翼とは、一生のうちに一度も片翼を見つけることができない魔族のことで、そんな魔族は、百人に一人くらいの割合で居るとされている。だいたい、四百歳を過ぎても見つからなかったら、失翼だと言われ始める。
(あぁ、ピンクな空気が羨ましい……)
ハミルトン様の言葉に狼狽えたユーカ様は、ここぞとばかりに二人から丸め込まれている。しばらくすると、ユーカ様は渋々と、交代で膝の上に乗ることに納得してしまった。
(陛下やハミルトン様なら良いけど、他の者に騙されることがないよう、しっかり見張ってないといけないな)
真っ赤に染まったユーカ様の顔を極力見ないようにしながら(見たら、陛下やハミルトン様から洒落にならない殺気が飛んでくるための処置だ)、僕はここ最近の重要な報告を頭の中で繰り返してみる。
(舞踏会当日は、女性騎士も含めての配置。僕達三人は、特にユーカ様の動向に目を光らせつつ……あまり凝視しないこと、だったよね)
束縛が強過ぎるのではないかと思わなくもないけども、片翼を持つ友人に聞いてみたら、片翼に対する魔族の執着はそんなものだと言われた。
(……陛下達、ユーカ様に愛されてると分かって、より容赦がなくなってきてる気がするけど……そのうち、ユーカ様を見ただけで目を抉られたりしないよね!?)
わりと切実な心配をしつつ、僕は気を紛らわせようと必死になる。
(舞踏会当日は、陛下は魔族のご令嬢方に集られる可能性が高いのと、ハミルトン様は外交のために話さなければならない相手がそれなりに多いらしいから、常にユーカ様の元についているわけにはいかない、と。それで、もし、ユーカ様に傷一つでもつくようなことがあれば……その後は、黒い微笑みを浮かべて、教えてもらえなかったんだよなー。……こわっ!)
何が何でも、ユーカ様は守り抜く。きっと、守れなかったら、何か悲惨な目に遭わされるはずだ。陛下もハミルトン様も、殺気をビンビン放っていたからっ。
一人、青い顔をして、ピンクな空間に目を向けると、どうやら恒例の『あーん』が開始されているようで、ユーカ様はプルプル震えながらそれに応えていた。最初のうちは、もっとゆっくりだったそうだが、ためらっていたらいつまで経っても終わらないと学習したユーカ様は、ご自分から一生懸命お二人にフォークを差し出すようになったらしい。
(……僕も、片翼が居たらあんなことをするのかな?)
生まれてこのかた、片翼に対する渇望だけはあるのに、片翼を見つけられなかった僕は、目の前の光景が羨ましくて仕方がない。ただ、僕がこの護衛に選ばれたのは、ヴァイラン魔国を代表する三大魔将の一人ということもあるけども、何よりも失翼だったからだ。失翼は、何か重要な役目でもない限り、次第に生きる気力を失って死んでしまうものだから、それを考えて陛下は僕とライナードをここに据えたのだ。
ちなみに、ジェドは、片翼を持っているものの、僕やライナードが自殺を図らないとも限らないため、それを防止するために巻き込まれることにしたらしい。口数は少ないけども、優しい奴だ。
「も、もう、入りませんっ」
「そうか、ならば、残りは俺が食べよう」
「そうだね。僕も残りを食べてあげるね」
フルフルと首を横に振るユーカ様を見て、陛下もハミルトン様も、先程までユーカ様に差し出していたフォークを使って中途半端に残っていたケーキを食べ進める。自然な流れで間接キスをしているという事実は……それに全く気づかず、ホッとしている様子のユーカ様に伝えることはないだろう。
しばらくすると、お茶会は終わり、やっとピンクな空間から解放される。
(さぁ、警備警備)
やっとまともに警備ができるとホッとしながら、僕はユーカ様の前に、別の場所で待機していたジェドは後ろについて、ユーカ様の部屋まで歩いたのだった。
三人で交代制の護衛任務。陛下の片翼の護衛なんて、今までこっそり影からできる奴らしか居なかったはずなのに、どういうわけか、今回の片翼は堂々と護衛をして良いことになった。……色々と、制約は設けられたけども。
そんな、今の僕の主であるユーカ様は、何というか……悪い男に騙されないか心配になるようなお人だった。今だってそうだ。
「ユーカ? 俺の膝の上に乗ってはくれないのか?」
「の、乗りませんっ! そもそもおかしいですよねっ!?」
「んー? おかしいことはないよ? 魔族の片翼は、普通にやること、常識だよ?」
庭で恒例のお茶会をしていた陛下とハミルトン様は、毎日の『あーん』だけには飽きたらず、ユーカ様に膝の上に乗ってもらおうと随分必死だ。ちなみに、ハミルトン様が言うような常識は存在しない。確かに、魔族の男は片翼に尽くしたくなるものだけども、皆が皆、片翼を膝に乗せるということはない、はずだ。
(こういう時、自分に片翼が居ないとちょっと自信がなくなるよね)
僕の片翼は、ずっと探し続けているものの、未だに見つからない。僕だけではなく、陛下の従兄弟にあたるライナードも見つけられていないらしく、僕らは恐らく、失翼ではないかと言われている。
失翼とは、一生のうちに一度も片翼を見つけることができない魔族のことで、そんな魔族は、百人に一人くらいの割合で居るとされている。だいたい、四百歳を過ぎても見つからなかったら、失翼だと言われ始める。
(あぁ、ピンクな空気が羨ましい……)
ハミルトン様の言葉に狼狽えたユーカ様は、ここぞとばかりに二人から丸め込まれている。しばらくすると、ユーカ様は渋々と、交代で膝の上に乗ることに納得してしまった。
(陛下やハミルトン様なら良いけど、他の者に騙されることがないよう、しっかり見張ってないといけないな)
真っ赤に染まったユーカ様の顔を極力見ないようにしながら(見たら、陛下やハミルトン様から洒落にならない殺気が飛んでくるための処置だ)、僕はここ最近の重要な報告を頭の中で繰り返してみる。
(舞踏会当日は、女性騎士も含めての配置。僕達三人は、特にユーカ様の動向に目を光らせつつ……あまり凝視しないこと、だったよね)
束縛が強過ぎるのではないかと思わなくもないけども、片翼を持つ友人に聞いてみたら、片翼に対する魔族の執着はそんなものだと言われた。
(……陛下達、ユーカ様に愛されてると分かって、より容赦がなくなってきてる気がするけど……そのうち、ユーカ様を見ただけで目を抉られたりしないよね!?)
わりと切実な心配をしつつ、僕は気を紛らわせようと必死になる。
(舞踏会当日は、陛下は魔族のご令嬢方に集られる可能性が高いのと、ハミルトン様は外交のために話さなければならない相手がそれなりに多いらしいから、常にユーカ様の元についているわけにはいかない、と。それで、もし、ユーカ様に傷一つでもつくようなことがあれば……その後は、黒い微笑みを浮かべて、教えてもらえなかったんだよなー。……こわっ!)
何が何でも、ユーカ様は守り抜く。きっと、守れなかったら、何か悲惨な目に遭わされるはずだ。陛下もハミルトン様も、殺気をビンビン放っていたからっ。
一人、青い顔をして、ピンクな空間に目を向けると、どうやら恒例の『あーん』が開始されているようで、ユーカ様はプルプル震えながらそれに応えていた。最初のうちは、もっとゆっくりだったそうだが、ためらっていたらいつまで経っても終わらないと学習したユーカ様は、ご自分から一生懸命お二人にフォークを差し出すようになったらしい。
(……僕も、片翼が居たらあんなことをするのかな?)
生まれてこのかた、片翼に対する渇望だけはあるのに、片翼を見つけられなかった僕は、目の前の光景が羨ましくて仕方がない。ただ、僕がこの護衛に選ばれたのは、ヴァイラン魔国を代表する三大魔将の一人ということもあるけども、何よりも失翼だったからだ。失翼は、何か重要な役目でもない限り、次第に生きる気力を失って死んでしまうものだから、それを考えて陛下は僕とライナードをここに据えたのだ。
ちなみに、ジェドは、片翼を持っているものの、僕やライナードが自殺を図らないとも限らないため、それを防止するために巻き込まれることにしたらしい。口数は少ないけども、優しい奴だ。
「も、もう、入りませんっ」
「そうか、ならば、残りは俺が食べよう」
「そうだね。僕も残りを食べてあげるね」
フルフルと首を横に振るユーカ様を見て、陛下もハミルトン様も、先程までユーカ様に差し出していたフォークを使って中途半端に残っていたケーキを食べ進める。自然な流れで間接キスをしているという事実は……それに全く気づかず、ホッとしている様子のユーカ様に伝えることはないだろう。
しばらくすると、お茶会は終わり、やっとピンクな空間から解放される。
(さぁ、警備警備)
やっとまともに警備ができるとホッとしながら、僕はユーカ様の前に、別の場所で待機していたジェドは後ろについて、ユーカ様の部屋まで歩いたのだった。
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