私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

文字の大きさ
上 下
131 / 173
第七章 舞踏会

第百二十七話 ダンスレッスン

しおりを挟む
 舞踏会まで、あと四日。


「ん……う?」


 爽やかな朝の光を受けて、私はゆっくりと起き上がり、ぐぐっと伸びをする。
 昨日、なぜか気絶してしまっていた私は、何があったのか思い出せずにメアリー達に問いかけたのだけれど、メアリー達はショックを受けた顔で、『ご主人様、おいたわしや……』と呟くだけだった。何があったのか、非常に気になるところではあるけれど、もしかしたら思い出さない方が良いのかもしれない。

 ベルを鳴らして、メアリー達に手伝われながら朝の準備をすませた私は、今日も別室でマナーとダンスのレッスンを受ける。
 マナーの方は、リアン魔国でリーアから習ったものがだいたい知識として入っているため、今はひたすら実践あるのみだ。ただ、ダンスの方は、最近になって一つの問題に直面しているような気がしてならなかった。メアリー達は何も言わないけれど、もしかしたら、完全に忘れているのかもしれない。


(でも、私の口からは言いたくないなぁ……)


 当日までにはその問題をどうにかしなければならないと分かっていても、私の口からは、それを認めるような言葉を告げることはできない。というより、したくない。


(でも、気づかれるのも、ショックだよね)


 自分の口で告げるにしても、気づかれるにしても、そのダメージは大きい気がして、私は一人憂鬱になる。そのせいか、今日はダンスのステップを間違えることが多くて、メアリーに心配されてしまった。


「ユーカお嬢様。お疲れですか?」

「あっ、ううん、何でもないの」


 首を横に振って否定していると、誰かが部屋の扉をノックしてきた。


「はい、どうぞ」


 一応、休憩に入っていたため、私が返事をして入室許可を出す。すると……。


「やぁ、ユーカ。ダンスは順調かい?」


 国での仕事は大丈夫なのか心配になるくらい、毎日マリノア城に訪れているハミルさんが、そこには居た。


「えっと……それがあまり……」


 メアリー相手なら、それなりにステップを踏むことはできる。リリやララ相手だと、少し辛いものの、それでも何とか大丈夫だ。ただ、ジークさんやハミルさん相手では、上手くいくとは思えなかった。


「うーん、じゃあ、僕と踊ってみる?」

「それは名案ですね」


 ハミルさんの提案に、私が口を挟む間もなく、手を合わせて喜ぶメアリー。どうやら、ダンスの問題は今日、気づかれてしまう運命にあるらしい。


「それでは向き合って……あら?」

「……あぁ、これは、まさか……」


 メアリーは、私とハミルさんが向き合った姿を見て、ハミルさんは、私と向き合い、手を取ろうとして、すぐにそれに気づく。そう、こういった社交ダンスは、身長差が重要になってくる。同じくらいの身長でも、身長差があり過ぎても、ダンスは踊りにくいものになってしまう。つまりは……。


「まさか、これじゃあ、踊れ、ない?」


 私とハミルさん、そして、私とジークさんとの身長差は、五十センチを越えている。ここまで身長差があれば、子供と大人が踊るようなものだ。


「うぅ……身長が、身長がほしいよぉ……」


 愕然とした様子のハミルさんを見て、身長差に気づいたことを理解した私は、そのままゆっくりとうずくまり、切実な想いを吐露する。


「えっと……ユ、ユーカ?」

「だ、大丈夫ですよっ。きっと、これから身長は伸びますともっ!」


 メアリーが何だか一生懸命励ましてくれて……とうとう、私の張り詰めていたものがブチンと切れる。


「ふふふっ、伸びる? 私の身長が? そう言われ続けて、十余年。私の身長が伸びるなんてことなかったのに、それでも伸びる? ふふっ、ふふふふふっ」

「ユ、ユーカお嬢様!?」


 狼狽えるメアリーを前に、錯乱した私は、とにかく嘆く。だいたい、この世界の人達がまずおかしいのだ。何だ、二メートル越えというのは。何だ、女性の平均身長が百八十センチというのはっ。


「ユーカ! 正気に戻って!」

「申し訳ございませんっ! ユーカお嬢様!」


 一通りブツブツと呪詛を吐いた私は、ふと、焦ったようなハミルさんとメアリーの声に瞳へ光を取り戻す。


「あ……わ、たし……」

「ユーカっ、ごめんっ! 舞踏会でダンスは踊らなくても良いからっ!」

「申し訳ございませんっ、申し訳ございませんっ」


 なぜ、ハミルさんがそんなことを言い出すのかも、メアリーが謝り続けているのかも分からない私は、首をかしげる。


「うん、ユーカは思い出さなくて良いよ。そうだっ、ちょっと早いけど、昼食にしようっ! ジークも誘ってさ」

「そ、そうですねっ。では、ご主人様に伺って参りますね」


 慌てた様子の二人を見ながら、『何だか最近記憶が曖昧なことが多いなぁ』と感想を抱き、私は大人しくハミルさんとともに待機した。
しおりを挟む
お気に入り登録や感想を、ありがとうございます。これを励みに楽しく更新していきますね。
感想 273

あなたにおすすめの小説

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

転生先は男女比50:1の世界!?

4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。 「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」 デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・ どうなる!?学園生活!!

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる
恋愛
不憫系男子をこよなく愛するヒロインの恋愛ストーリーです。 私は確か、日本人のおばさんだったはずなんですが、気がついたら西洋風異世界の貴族令嬢になっていました。 せっかく美しく若返ったのだから、人生勝ち組で楽しんでしまいましょう。 そう思っていたのですが、自分らしき令嬢の日記を見ると、クラスメイトの男の子をいじめていた事が分かって……。 正義感強いおばさんなめんな! その男の子に謝って、きっとお友達になってみせましょう! 画像はフリー素材のとくだ屋さんからお借りしました。

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

処理中です...