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第七章 舞踏会
第百二十七話 ダンスレッスン
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舞踏会まで、あと四日。
「ん……う?」
爽やかな朝の光を受けて、私はゆっくりと起き上がり、ぐぐっと伸びをする。
昨日、なぜか気絶してしまっていた私は、何があったのか思い出せずにメアリー達に問いかけたのだけれど、メアリー達はショックを受けた顔で、『ご主人様、おいたわしや……』と呟くだけだった。何があったのか、非常に気になるところではあるけれど、もしかしたら思い出さない方が良いのかもしれない。
ベルを鳴らして、メアリー達に手伝われながら朝の準備をすませた私は、今日も別室でマナーとダンスのレッスンを受ける。
マナーの方は、リアン魔国でリーアから習ったものがだいたい知識として入っているため、今はひたすら実践あるのみだ。ただ、ダンスの方は、最近になって一つの問題に直面しているような気がしてならなかった。メアリー達は何も言わないけれど、もしかしたら、完全に忘れているのかもしれない。
(でも、私の口からは言いたくないなぁ……)
当日までにはその問題をどうにかしなければならないと分かっていても、私の口からは、それを認めるような言葉を告げることはできない。というより、したくない。
(でも、気づかれるのも、ショックだよね)
自分の口で告げるにしても、気づかれるにしても、そのダメージは大きい気がして、私は一人憂鬱になる。そのせいか、今日はダンスのステップを間違えることが多くて、メアリーに心配されてしまった。
「ユーカお嬢様。お疲れですか?」
「あっ、ううん、何でもないの」
首を横に振って否定していると、誰かが部屋の扉をノックしてきた。
「はい、どうぞ」
一応、休憩に入っていたため、私が返事をして入室許可を出す。すると……。
「やぁ、ユーカ。ダンスは順調かい?」
国での仕事は大丈夫なのか心配になるくらい、毎日マリノア城に訪れているハミルさんが、そこには居た。
「えっと……それがあまり……」
メアリー相手なら、それなりにステップを踏むことはできる。リリやララ相手だと、少し辛いものの、それでも何とか大丈夫だ。ただ、ジークさんやハミルさん相手では、上手くいくとは思えなかった。
「うーん、じゃあ、僕と踊ってみる?」
「それは名案ですね」
ハミルさんの提案に、私が口を挟む間もなく、手を合わせて喜ぶメアリー。どうやら、ダンスの問題は今日、気づかれてしまう運命にあるらしい。
「それでは向き合って……あら?」
「……あぁ、これは、まさか……」
メアリーは、私とハミルさんが向き合った姿を見て、ハミルさんは、私と向き合い、手を取ろうとして、すぐにそれに気づく。そう、こういった社交ダンスは、身長差が重要になってくる。同じくらいの身長でも、身長差があり過ぎても、ダンスは踊りにくいものになってしまう。つまりは……。
「まさか、これじゃあ、踊れ、ない?」
私とハミルさん、そして、私とジークさんとの身長差は、五十センチを越えている。ここまで身長差があれば、子供と大人が踊るようなものだ。
「うぅ……身長が、身長がほしいよぉ……」
愕然とした様子のハミルさんを見て、身長差に気づいたことを理解した私は、そのままゆっくりとうずくまり、切実な想いを吐露する。
「えっと……ユ、ユーカ?」
「だ、大丈夫ですよっ。きっと、これから身長は伸びますともっ!」
メアリーが何だか一生懸命励ましてくれて……とうとう、私の張り詰めていたものがブチンと切れる。
「ふふふっ、伸びる? 私の身長が? そう言われ続けて、十余年。私の身長が伸びるなんてことなかったのに、それでも伸びる? ふふっ、ふふふふふっ」
「ユ、ユーカお嬢様!?」
狼狽えるメアリーを前に、錯乱した私は、とにかく嘆く。だいたい、この世界の人達がまずおかしいのだ。何だ、二メートル越えというのは。何だ、女性の平均身長が百八十センチというのはっ。
「ユーカ! 正気に戻って!」
「申し訳ございませんっ! ユーカお嬢様!」
一通りブツブツと呪詛を吐いた私は、ふと、焦ったようなハミルさんとメアリーの声に瞳へ光を取り戻す。
「あ……わ、たし……」
「ユーカっ、ごめんっ! 舞踏会でダンスは踊らなくても良いからっ!」
「申し訳ございませんっ、申し訳ございませんっ」
なぜ、ハミルさんがそんなことを言い出すのかも、メアリーが謝り続けているのかも分からない私は、首をかしげる。
「うん、ユーカは思い出さなくて良いよ。そうだっ、ちょっと早いけど、昼食にしようっ! ジークも誘ってさ」
「そ、そうですねっ。では、ご主人様に伺って参りますね」
慌てた様子の二人を見ながら、『何だか最近記憶が曖昧なことが多いなぁ』と感想を抱き、私は大人しくハミルさんとともに待機した。
「ん……う?」
爽やかな朝の光を受けて、私はゆっくりと起き上がり、ぐぐっと伸びをする。
昨日、なぜか気絶してしまっていた私は、何があったのか思い出せずにメアリー達に問いかけたのだけれど、メアリー達はショックを受けた顔で、『ご主人様、おいたわしや……』と呟くだけだった。何があったのか、非常に気になるところではあるけれど、もしかしたら思い出さない方が良いのかもしれない。
ベルを鳴らして、メアリー達に手伝われながら朝の準備をすませた私は、今日も別室でマナーとダンスのレッスンを受ける。
マナーの方は、リアン魔国でリーアから習ったものがだいたい知識として入っているため、今はひたすら実践あるのみだ。ただ、ダンスの方は、最近になって一つの問題に直面しているような気がしてならなかった。メアリー達は何も言わないけれど、もしかしたら、完全に忘れているのかもしれない。
(でも、私の口からは言いたくないなぁ……)
当日までにはその問題をどうにかしなければならないと分かっていても、私の口からは、それを認めるような言葉を告げることはできない。というより、したくない。
(でも、気づかれるのも、ショックだよね)
自分の口で告げるにしても、気づかれるにしても、そのダメージは大きい気がして、私は一人憂鬱になる。そのせいか、今日はダンスのステップを間違えることが多くて、メアリーに心配されてしまった。
「ユーカお嬢様。お疲れですか?」
「あっ、ううん、何でもないの」
首を横に振って否定していると、誰かが部屋の扉をノックしてきた。
「はい、どうぞ」
一応、休憩に入っていたため、私が返事をして入室許可を出す。すると……。
「やぁ、ユーカ。ダンスは順調かい?」
国での仕事は大丈夫なのか心配になるくらい、毎日マリノア城に訪れているハミルさんが、そこには居た。
「えっと……それがあまり……」
メアリー相手なら、それなりにステップを踏むことはできる。リリやララ相手だと、少し辛いものの、それでも何とか大丈夫だ。ただ、ジークさんやハミルさん相手では、上手くいくとは思えなかった。
「うーん、じゃあ、僕と踊ってみる?」
「それは名案ですね」
ハミルさんの提案に、私が口を挟む間もなく、手を合わせて喜ぶメアリー。どうやら、ダンスの問題は今日、気づかれてしまう運命にあるらしい。
「それでは向き合って……あら?」
「……あぁ、これは、まさか……」
メアリーは、私とハミルさんが向き合った姿を見て、ハミルさんは、私と向き合い、手を取ろうとして、すぐにそれに気づく。そう、こういった社交ダンスは、身長差が重要になってくる。同じくらいの身長でも、身長差があり過ぎても、ダンスは踊りにくいものになってしまう。つまりは……。
「まさか、これじゃあ、踊れ、ない?」
私とハミルさん、そして、私とジークさんとの身長差は、五十センチを越えている。ここまで身長差があれば、子供と大人が踊るようなものだ。
「うぅ……身長が、身長がほしいよぉ……」
愕然とした様子のハミルさんを見て、身長差に気づいたことを理解した私は、そのままゆっくりとうずくまり、切実な想いを吐露する。
「えっと……ユ、ユーカ?」
「だ、大丈夫ですよっ。きっと、これから身長は伸びますともっ!」
メアリーが何だか一生懸命励ましてくれて……とうとう、私の張り詰めていたものがブチンと切れる。
「ふふふっ、伸びる? 私の身長が? そう言われ続けて、十余年。私の身長が伸びるなんてことなかったのに、それでも伸びる? ふふっ、ふふふふふっ」
「ユ、ユーカお嬢様!?」
狼狽えるメアリーを前に、錯乱した私は、とにかく嘆く。だいたい、この世界の人達がまずおかしいのだ。何だ、二メートル越えというのは。何だ、女性の平均身長が百八十センチというのはっ。
「ユーカ! 正気に戻って!」
「申し訳ございませんっ! ユーカお嬢様!」
一通りブツブツと呪詛を吐いた私は、ふと、焦ったようなハミルさんとメアリーの声に瞳へ光を取り戻す。
「あ……わ、たし……」
「ユーカっ、ごめんっ! 舞踏会でダンスは踊らなくても良いからっ!」
「申し訳ございませんっ、申し訳ございませんっ」
なぜ、ハミルさんがそんなことを言い出すのかも、メアリーが謝り続けているのかも分からない私は、首をかしげる。
「うん、ユーカは思い出さなくて良いよ。そうだっ、ちょっと早いけど、昼食にしようっ! ジークも誘ってさ」
「そ、そうですねっ。では、ご主人様に伺って参りますね」
慌てた様子の二人を見ながら、『何だか最近記憶が曖昧なことが多いなぁ』と感想を抱き、私は大人しくハミルさんとともに待機した。
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