私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第七章 舞踏会

第百二十六話 キス作戦3(前半アマーリエ、後半夕夏視点)

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 舞踏会まで、あと五日。

 わたくしは、今日、お兄様とジークフリート様が揃っている執務室に突撃をかけることにした。理由は簡単。ユーカのために考えた作戦が、ヘタレ……げふんげふん、お兄様達の行動で全て台無しになってしまったため、その抗議だ。


(それに、昨日のあれはあり得ませんわ)


 昨日、ユーカの前にジークフリート様を置いて来たのだが、何を思ったか、ジークフリート様は窓を突き破ってユーカから逃げたのだ。おかげで、ユーカは自分が何かしてしまったのではないかと泣きそうになっていた。
 わたくしとララ、リリでユーカを慰め、メアリーには何としてもジークフリート様から事情を聞き出してもらおうと送り出したものの、その結果は、何とも情けないものだった。


(ユーカに欲情して、それを隠すために駆け出すなどっ! 性欲くらい抑え込まずして、何が魔王ですかっ!)


 ユーカを傷つける者は、例え魔王であっても許しはしない。せっかく、わたくしに可愛い義姉ができるかもしれないところまできているのだ。その関係を壊しかねないジークフリート様の行動は、許しがたいものだった。


「お兄様、ジークフリート様、少し、お話したいことがありますの」


 メアリーに連れられて執務室に入室の許可をもらったわたくしは、開口一番に宣戦布告する。


「う、うん、良いけど……?」

「あ、あぁ」


 さすがに、魔王二人はわたくしが怒り心頭なことには気づいているらしい。戸惑った様子で、それでも何かを感じたのか、大人しくわたくしの話を聞く態勢に入ってくれる。


「では、まず……お兄様っ! 鈍すぎですわっ!」

「へっ?」

「一昨日のユーカを見て、何も感じませんでしたのっ? このっ、ヘタレっ!」

「えっ? ちょっと待って? 一昨日? そりゃあ、ユーカは綺麗だと思ったけど……」

「そこで止まってはダメなんですっ! そして、ジークフリート様っ!」

「あ、あぁ」

「昨日のあれは何ですか! おかげでユーカは嫌われたのではないかと泣きそうになってましたのよ!?」

「ユ、ユーカが!?」

「あぁぁあっ、もうっ、二人を足して二で割ったらちょうど良いと思いますのにっ! こんなヘタレどもに振り回されているユーカが可哀想ですわっ!」


 一通り罵倒をしたわたくしは、ユーカの雰囲気に気づくことがなかったお兄様と、ユーカの雰囲気に気づいて、それに呑まれたジークフリート様をギロリと睨む。


「わたくしが間違ってましたわ。最初から諦めるのではなく、最初からお兄様達をどうにかする努力をしなくてはいけなかったのですわっ」

「えっと、アマーリエ? いったい何を……?」

「お兄様っ、ジークフリート様! ユーカにキスをしなさいっ」

「へっ?」

「はっ?」


 とうとう言い切った。そう思って二人を見てみると、気持ち悪いことに、だんだんと頬を赤く染めていく。


「い、いや、ユーカは、きっとそんなことされたくないんじゃないかな?」

「それをユーカに聞きましたの?」

「それは、ない、けど……」


 歯切れ悪く応えるお兄様に、次はジークフリート様が口を開く。


「いきなりキスなんて……ユーカがどう思うか……」

「そんなことを言っていたら、いつまで経っても進展しませんわよ?」

「それは、そう、だが……」


 視線を宙にさまよわせるジークフリート様は、今は魔王としての風格などない。


「ヘタレてないで、さっさと行動に移すのですわっ! さぁっ、さぁっ!」

「ちょっ、ちょっと待ってよっ! 何でいきなりそんなこと「いきなりではありませんわっ!」」


 あまりにもヘタレているお兄様に、わたくしは思わず言葉を遮って声を出す。そして……。


「ユーカに出会って二ヶ月。キスの一つもしていないなど、何事ですかっ!」

「いや、たったの二ヶ月だよ?」

「たった!? 『もう』、二ヶ月ですわっ! そもそも、ユーカの気持ちの確認すらしていないのでしょうっ! まずは、そこからでも良いから、早く確認しなさいっ」


 メアリー達に聞けば、このヘタレどもは自分の気持ちは前面に出すくせに、ユーカの気持ちを一度も尋ねたことがないらしい。ユーカは奥ゆかしいから、そう簡単に想いを告げることなどできないというのに、このヘタレどもはそれを察していながら、そこを安全圏にしてのうのうとしているのだ。これが、許せるわけなどなかった。


「気持ちの、確認……」

「嫌われてはいないと、思うけど……」


 難しい顔をして悩む二人ヘタレを見て、わたくしは一緒に来ていたメアリーに目配せする。


「では、ユーカお嬢様のお部屋へ参りましょうか」

「う、うん」

「わ、分かった」


 ひとまず、どこまで行動できるかは分からないものの、土俵に上がらせることはできるようだ。


(あとは、この二人次第ですわね)


 そうして、わたくしはユーカの部屋の前で待機することに決めたのだった。








 部屋で本を読んでいると、なぜかメアリーが、ジークさんとハミルさんを連れてやってきた。昨日、ジークさんは緊急のお仕事が入ってしまったらしく、それで急いで出ていったらしい。それにしても、窓を突き破る必要はなかったのではないかと思ったけれど、どうも、本当に緊急で慌てていたそうだ。


(嫌われてなくて、良かった)


 もしかしたら、キスしようとしていたのを察知して、嫌がったのかもしれないと思うと、とっても悲しくて、泣きそうになってしまったけれど、ただのお仕事だったと分かり、今は安心している。


「ユーカ。昨日は、すまなかった」

「いえ、お仕事が大変だったのは聞いていますので、大丈夫ですよ?」

「そ、そうか……それで、だな。一つ、聞きたいことがあるのだが……」

「何ですか?」


 今日は、キスをする作戦は発動していないため、一昨日や昨日と比べれば話しやすい。


(聞きたいことって、二人ともが聞きたいのかなぁ?)


 そう思っていると、二人はなぜか何度も何度も目配せをし合っていた。


(? 聞きにくいことなのかなぁ?)


 こんなに二人が躊躇うのは珍しい。そう思っていると、決着がついたのか、ハミルさんが口を開く。


「えっと、ね。ユーカは、その……ぼ、僕達のこと、どう、思ってる?」

「…………」


 あまりに想定外な質問に、私は少しの間、答えを返せないまま固まる。


(ど、どう、思ってるか? えっ? これって、どう応えたら……)


 そうして、散々悩んだ私は、どうにか、自分の気持ちを伝えることにする。


「そ、その……好き、ですよ?」


 顔に熱が集まるのを感じながらも、私は必死に言葉を捻り出す。

 そう、好きなのだ。二人のことが、どうしようもないくらいに、好きなのだ。

 私の言葉を聞いた直後、ハミルさんはゴクリと喉を鳴らす。そして……。


「その、『好き』の種類は、どんなものか、聞いても良いか?」


 ジークさんのその問いかけで、二人して緊張した面持ちで見つめてくるため、私にもその緊張が移る。けれど、どうやら二人は真剣に聞いてきているらしいことが分かるため、ちゃんと応えなければと頭の片隅で強く意識する。


「そ、その……れ、恋愛の、意味……です」


 自分の中では、必死に勇気を絞り出した答え。尻すぼみにはなってしまったものの、聞こえないような声量ではなかったはずだ。


(あぅぅうっ)


 もう、二人を直視することができず、顔をうつむかせると、ふいに、長い指が私の顎を引き上げる。


(ふぇ?)


 そうして、両頬に響くリップ音。右にジークさん、左にハミルさん。
 何が起こったのか数瞬遅れて理解した私は……そのまま意識を失ってしまうのだった。
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