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第七章 舞踏会
第百二十三話 とある作戦
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舞踏会まで、あと八日。
昨日、私が気絶してしまった後、アマーリエさん達はジークさんとハミルさんにしっかりと叱られたらしい。ただし、何を話したかに関しては、黙秘を貫いたという。
(何だか、申し訳ない)
ちなみに、黙秘を貫くための方法は、『ユーカに嫌われても良いんですの?』の一言だったそうだ。
(それにしても……『契りの儀式』って……)
昨日知ったばかりの知識に、私はポンッと一人顔を赤くする。現在、図書室に籠っている私を見る人は居ないけれど、温度が高くなった顔を誰かに見られてないかと、思わず辺りを見渡してしまう。
(だ、誰も居ない、ね)
そう、一安心した直後だった。
「ユーカ!」
「ひゃあぁぁあっ」
パンっと図書室の扉が開いたかと思えば、そこにはアマーリエさんが息を切らせた状態で立っていた。
「あっ、ごめんなさい。ユーカ。驚かせてしまいましたわね」
「い、いえ」
バクバクと鳴る心臓を抑えながら、ちょっと涙目でどうにか返事をすると、アマーリエさんはなぜか顔を赤くして何事かを呟いていた。
「えっと、アマーリエさん?」
「はっ、そうでしたわっ! ユーカ、今、時間はありますわねっ」
疑問系ではなく、確信した様子で詰め寄ってくるアマーリエさんに、そこはかとなく嫌な予感がする。
「今日こそ、色々と話してもらいますわよ!」
(嫌な予感が当たった!?)
『今日こそ』、ということは、昨日の続きをやろうというのだろう。
「メアリー達に聞きましたわっ。ユーカ、お兄様達との添い寝は、猫姿で行っていると! そんなのでは、ロマンチックな雰囲気が生まれないではないですかっ! あぁ、いえ、ユーカを責めるのはお門違いですわね。ここは、しっかりとお兄様に言って聞かせなくてはっ」
しかも、勘違いされていたことが解消された結果、何やら良からぬ方向に物事が進みそうな気配さえある。
「えっと……」
「さぁっ、お茶の準備はもう整っているはずですわっ。行きますわよ、ユーカ!」
そうして、私は有無を言わさず、アマーリエさんに拉致されるのだった。
「では、ユーカはまだキスすらしていない、と?」
「は、はい」
結局、アマーリエさんの圧力に勝つことなど無謀でしかなかったらしい。私は、洗いざらいジークさんやハミルさんとの触れ合いの度合いを語らされるはめになって、もう、恥ずかしいやら何やらでいたたまれない。メアリー達は生暖かい視線を投げてくるばかりで、全く助けてはくれないし、今回もジークさん達は男子禁制と言いつけられているらしく、こちらに来る様子はない。
(いや、ジークさん達に知られる方がもっと問題だけれど……)
そうして、悶々としていると、ふいに、アマーリエさんは席を立ち、私の手を取ってくる。
「わたくし、ここでの役割を見つけましたわっ。必ず、ユーカとお兄様達を結びつかせてみせましょう!」
「ふぇ?」
目の前で真剣に語られるものの、私は何が何やら分からない。ただ、そんなアマーリエさんの宣言に、メアリー達が拍手をしていることしか分からない。
「まず手始めに、キスからですわね。さぁ、全員で作戦を考えますわよ!」
「えっ? あの? えっ?」
「では、僭越ながら、わたくしが。まずは、ユーカお嬢様が誘ってみるというのはいかがでしょうか?」
「確かに。ご主人様達は慎重ですから、ユーカお嬢様のアプローチが必要かもしれません」
「そこは、ユーカお嬢様の方からブチュッといっちゃえば良いんじゃないですかっ?」
「それができるのであれば、一番ですわね」
何か、とんでもないことが話し合われている気はするのだけれど、私の頭はフリーズしたまま動かない。
「お茶会時は、お互いの距離も近いですし、チャンスはあるのではないでしょうか?」
そんなメアリーの言葉を受けて、全員の視線が私に集中する。
「どうですか? ユーカお嬢様。頬にでも構いませんので、ご主人様やハミルトン様にできますか?」
「へっ? えっ?」
「だいじょーぶですっ。きっと一瞬ですからっ」
(うん? …………私から、キス?)
事態を理解した時には、もう、何もかもが遅かった。アマーリエさん達は、私がジークさん達にキスをするものだと完全に思い込んでしまい、詳細な作戦まで詰めていく始末だ。
「では、明日のお茶会で、ユーカには頑張ってもらいましょう」
「目一杯、着飾らせて差し上げますね」
「ユーカお嬢様、お覚悟を」
「楽しみですねっ」
いつの間にか、私は明日のお茶会で、ジークさん達へキスを行うことに決まっていた。そうして、否定ができないまま、その日は過ぎていくのだった。
昨日、私が気絶してしまった後、アマーリエさん達はジークさんとハミルさんにしっかりと叱られたらしい。ただし、何を話したかに関しては、黙秘を貫いたという。
(何だか、申し訳ない)
ちなみに、黙秘を貫くための方法は、『ユーカに嫌われても良いんですの?』の一言だったそうだ。
(それにしても……『契りの儀式』って……)
昨日知ったばかりの知識に、私はポンッと一人顔を赤くする。現在、図書室に籠っている私を見る人は居ないけれど、温度が高くなった顔を誰かに見られてないかと、思わず辺りを見渡してしまう。
(だ、誰も居ない、ね)
そう、一安心した直後だった。
「ユーカ!」
「ひゃあぁぁあっ」
パンっと図書室の扉が開いたかと思えば、そこにはアマーリエさんが息を切らせた状態で立っていた。
「あっ、ごめんなさい。ユーカ。驚かせてしまいましたわね」
「い、いえ」
バクバクと鳴る心臓を抑えながら、ちょっと涙目でどうにか返事をすると、アマーリエさんはなぜか顔を赤くして何事かを呟いていた。
「えっと、アマーリエさん?」
「はっ、そうでしたわっ! ユーカ、今、時間はありますわねっ」
疑問系ではなく、確信した様子で詰め寄ってくるアマーリエさんに、そこはかとなく嫌な予感がする。
「今日こそ、色々と話してもらいますわよ!」
(嫌な予感が当たった!?)
『今日こそ』、ということは、昨日の続きをやろうというのだろう。
「メアリー達に聞きましたわっ。ユーカ、お兄様達との添い寝は、猫姿で行っていると! そんなのでは、ロマンチックな雰囲気が生まれないではないですかっ! あぁ、いえ、ユーカを責めるのはお門違いですわね。ここは、しっかりとお兄様に言って聞かせなくてはっ」
しかも、勘違いされていたことが解消された結果、何やら良からぬ方向に物事が進みそうな気配さえある。
「えっと……」
「さぁっ、お茶の準備はもう整っているはずですわっ。行きますわよ、ユーカ!」
そうして、私は有無を言わさず、アマーリエさんに拉致されるのだった。
「では、ユーカはまだキスすらしていない、と?」
「は、はい」
結局、アマーリエさんの圧力に勝つことなど無謀でしかなかったらしい。私は、洗いざらいジークさんやハミルさんとの触れ合いの度合いを語らされるはめになって、もう、恥ずかしいやら何やらでいたたまれない。メアリー達は生暖かい視線を投げてくるばかりで、全く助けてはくれないし、今回もジークさん達は男子禁制と言いつけられているらしく、こちらに来る様子はない。
(いや、ジークさん達に知られる方がもっと問題だけれど……)
そうして、悶々としていると、ふいに、アマーリエさんは席を立ち、私の手を取ってくる。
「わたくし、ここでの役割を見つけましたわっ。必ず、ユーカとお兄様達を結びつかせてみせましょう!」
「ふぇ?」
目の前で真剣に語られるものの、私は何が何やら分からない。ただ、そんなアマーリエさんの宣言に、メアリー達が拍手をしていることしか分からない。
「まず手始めに、キスからですわね。さぁ、全員で作戦を考えますわよ!」
「えっ? あの? えっ?」
「では、僭越ながら、わたくしが。まずは、ユーカお嬢様が誘ってみるというのはいかがでしょうか?」
「確かに。ご主人様達は慎重ですから、ユーカお嬢様のアプローチが必要かもしれません」
「そこは、ユーカお嬢様の方からブチュッといっちゃえば良いんじゃないですかっ?」
「それができるのであれば、一番ですわね」
何か、とんでもないことが話し合われている気はするのだけれど、私の頭はフリーズしたまま動かない。
「お茶会時は、お互いの距離も近いですし、チャンスはあるのではないでしょうか?」
そんなメアリーの言葉を受けて、全員の視線が私に集中する。
「どうですか? ユーカお嬢様。頬にでも構いませんので、ご主人様やハミルトン様にできますか?」
「へっ? えっ?」
「だいじょーぶですっ。きっと一瞬ですからっ」
(うん? …………私から、キス?)
事態を理解した時には、もう、何もかもが遅かった。アマーリエさん達は、私がジークさん達にキスをするものだと完全に思い込んでしまい、詳細な作戦まで詰めていく始末だ。
「では、明日のお茶会で、ユーカには頑張ってもらいましょう」
「目一杯、着飾らせて差し上げますね」
「ユーカお嬢様、お覚悟を」
「楽しみですねっ」
いつの間にか、私は明日のお茶会で、ジークさん達へキスを行うことに決まっていた。そうして、否定ができないまま、その日は過ぎていくのだった。
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