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第七章 舞踏会
第百十九話 参加表明
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「ゴホンッ、ところでユーカ。十日後に舞踏会があるんだが、出てみないか?」
「えっ、舞踏会、ですか?」
顔の赤さを落ち着かせたジークさんは、一つ咳払いした後に、そんな提案をしてくる。私にとって、それは寝耳に水だ。
「舞踏会って……大勢の人が、来ますよね?」
「人、というか、魔族だがな」
大勢の人というのには、良い思い出など一つもない。それが例え魔族であったとしても、角以外は、同じ人の形をしているわけで、どうにも前向きにはなれない。
「……私は、隅っこに隠れていれば良いんでしょうか?」
「いや、俺とハミルの両翼として紹介したいと思っている」
せめて、目立たないようになら何とかなるかもしれないと思ったのだけれど、どうやらジークさんは私を目立たせたいらしい。こんな、可愛くも何ともない私が、きらびやかな舞踏会で目立たなければならないなど、何の拷問だろうかと思ってしまう。
「……どうしても、出なきゃダメですか?」
「ユーカが出たくないのであれば、出なくとも良いぞ」
そう言いながらも、ジークさんは私に出てほしいらしい。少し困った顔で話すジークさんの期待を、私は裏切りたくはない。
「……なぜ、いきなりそんな提案をしたんですか?」
せめて、理由があれば頑張れるかもしれない。そう思って尋ねてみると、ジークさんは大きくうなずいて話し出す。
「リアン魔国で、ユーカが危険な目に遭った話は聞いている。そこで、俺達は、ユーカが俺達の両翼だと知られていれば、少なくとも命を狙われることはなくなるだろうという結論に達したんだ」
「? なぜ、両翼だと狙われなくなるんですか?」
すると、『そういえば、説明していなかったか』と言いながら、ジークさんは目を閉じる。
「『両翼を手に入れた者は、最高の栄華を誇る。ただし、両翼を失った者は、その悲しみを制御すること能わず』それが、魔族に伝わる両翼という存在なんだ」
何かの一節を諳じたジークさんは、ゆっくり目を開き、サファイアの瞳で私を見つめる。
「過去に両翼を得た者達は、いずれも歴史に残る偉業を達成している。そして、反対に、両翼を奪われた者達は、歴史に残る大犯罪を犯している。両翼とは、それほどまでに魔族を左右する存在なんだ」
「……」
私は、つい先程まで、『両翼』は『片翼』とそんなに変わらないものだと思っていた。ただ、想ってくれる魔族が二人に増えるだけだと思っていた、のだけれど、この話を聞く限り、どうもそんなに単純ではないらしい。
「あまり、脅すようなことを言いたくはないが……俺達がユーカを失えば、少なくともヴァイラン魔国とリアン魔国は滅びるだろうな」
「えっ? えぇっ!?」
かなりの重大事項をサラリと言われた私は、思わず叫ぶ。けれど、その言葉で何となく、ジークさんがどういう考えで私を舞踏会に連れて行きたいのかは分かった。
「……つまりは、両翼だと紹介された私に手を出せば、国が滅びるから誰も手を出さない、ということですか?」
「その通りだ」
混乱する頭でどうにか出した結論に、ジークさんは大きくうなずく。
「でも、そうなると誘拐とかはあり得るってことですよね?」
「あぁ、だが、そちらは何としてでも阻止してみせよう」
真摯な表情で告げるジークさんには、随分と意気込みを感じる。その様子に、私はしばらく葛藤して、ようやく口を開く。
「分かりました。舞踏会、出席します」
「っ、そうかっ。ありがとう、ユーカ」
「いえ、こちらこそ、私の安全を考えてくださり、ありがとうございます」
「ユーカの安全を考えるのは当たり前のことだ。あぁ、舞踏会用のドレスは、明日、届く予定だ。喜んでもらえるかは分からないが、俺が選んでおいた。何か足りないものがあれば、いつでも言ってくれ」
「は、はい」
(明日!? あれ? もしかして、断られるとは思ってなかったとか? ……でも、ドレスはちょっと楽しみかも)
ドレスをもらうとなると、気後れはしてしまうけれど、やはり、綺麗なドレスは憧れるものがある。リアン魔国でも何回かは着る機会はあったものの、何度着ても、少し嬉しくなる。
「ありがとうございます。楽しみにしていますね」
ジークさんは、なぜか青や緑のドレスが好きらしいから、今回もそういった色合いのドレスなのかもしれない。
(後は……メアリー達が興奮し過ぎないと良い、かな?)
興奮した専属侍女達に着せ替えられるのは、かなり、怖いものがある。
リアン魔国で、リーアに着替えさせられた時のことを思い出した私は、少し青ざめる。あれは、怖かった。
そうして、翌日に届いたドレスは、見事なマリンブルーを基調とした、鮮やかなものだった。
「えっ、舞踏会、ですか?」
顔の赤さを落ち着かせたジークさんは、一つ咳払いした後に、そんな提案をしてくる。私にとって、それは寝耳に水だ。
「舞踏会って……大勢の人が、来ますよね?」
「人、というか、魔族だがな」
大勢の人というのには、良い思い出など一つもない。それが例え魔族であったとしても、角以外は、同じ人の形をしているわけで、どうにも前向きにはなれない。
「……私は、隅っこに隠れていれば良いんでしょうか?」
「いや、俺とハミルの両翼として紹介したいと思っている」
せめて、目立たないようになら何とかなるかもしれないと思ったのだけれど、どうやらジークさんは私を目立たせたいらしい。こんな、可愛くも何ともない私が、きらびやかな舞踏会で目立たなければならないなど、何の拷問だろうかと思ってしまう。
「……どうしても、出なきゃダメですか?」
「ユーカが出たくないのであれば、出なくとも良いぞ」
そう言いながらも、ジークさんは私に出てほしいらしい。少し困った顔で話すジークさんの期待を、私は裏切りたくはない。
「……なぜ、いきなりそんな提案をしたんですか?」
せめて、理由があれば頑張れるかもしれない。そう思って尋ねてみると、ジークさんは大きくうなずいて話し出す。
「リアン魔国で、ユーカが危険な目に遭った話は聞いている。そこで、俺達は、ユーカが俺達の両翼だと知られていれば、少なくとも命を狙われることはなくなるだろうという結論に達したんだ」
「? なぜ、両翼だと狙われなくなるんですか?」
すると、『そういえば、説明していなかったか』と言いながら、ジークさんは目を閉じる。
「『両翼を手に入れた者は、最高の栄華を誇る。ただし、両翼を失った者は、その悲しみを制御すること能わず』それが、魔族に伝わる両翼という存在なんだ」
何かの一節を諳じたジークさんは、ゆっくり目を開き、サファイアの瞳で私を見つめる。
「過去に両翼を得た者達は、いずれも歴史に残る偉業を達成している。そして、反対に、両翼を奪われた者達は、歴史に残る大犯罪を犯している。両翼とは、それほどまでに魔族を左右する存在なんだ」
「……」
私は、つい先程まで、『両翼』は『片翼』とそんなに変わらないものだと思っていた。ただ、想ってくれる魔族が二人に増えるだけだと思っていた、のだけれど、この話を聞く限り、どうもそんなに単純ではないらしい。
「あまり、脅すようなことを言いたくはないが……俺達がユーカを失えば、少なくともヴァイラン魔国とリアン魔国は滅びるだろうな」
「えっ? えぇっ!?」
かなりの重大事項をサラリと言われた私は、思わず叫ぶ。けれど、その言葉で何となく、ジークさんがどういう考えで私を舞踏会に連れて行きたいのかは分かった。
「……つまりは、両翼だと紹介された私に手を出せば、国が滅びるから誰も手を出さない、ということですか?」
「その通りだ」
混乱する頭でどうにか出した結論に、ジークさんは大きくうなずく。
「でも、そうなると誘拐とかはあり得るってことですよね?」
「あぁ、だが、そちらは何としてでも阻止してみせよう」
真摯な表情で告げるジークさんには、随分と意気込みを感じる。その様子に、私はしばらく葛藤して、ようやく口を開く。
「分かりました。舞踏会、出席します」
「っ、そうかっ。ありがとう、ユーカ」
「いえ、こちらこそ、私の安全を考えてくださり、ありがとうございます」
「ユーカの安全を考えるのは当たり前のことだ。あぁ、舞踏会用のドレスは、明日、届く予定だ。喜んでもらえるかは分からないが、俺が選んでおいた。何か足りないものがあれば、いつでも言ってくれ」
「は、はい」
(明日!? あれ? もしかして、断られるとは思ってなかったとか? ……でも、ドレスはちょっと楽しみかも)
ドレスをもらうとなると、気後れはしてしまうけれど、やはり、綺麗なドレスは憧れるものがある。リアン魔国でも何回かは着る機会はあったものの、何度着ても、少し嬉しくなる。
「ありがとうございます。楽しみにしていますね」
ジークさんは、なぜか青や緑のドレスが好きらしいから、今回もそういった色合いのドレスなのかもしれない。
(後は……メアリー達が興奮し過ぎないと良い、かな?)
興奮した専属侍女達に着せ替えられるのは、かなり、怖いものがある。
リアン魔国で、リーアに着替えさせられた時のことを思い出した私は、少し青ざめる。あれは、怖かった。
そうして、翌日に届いたドレスは、見事なマリンブルーを基調とした、鮮やかなものだった。
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