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第七章 舞踏会
第百十八話 ジークとの食事
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ジークさんの許可によって、私はヴァイラン魔国で初めて、ジークさんと食事をすることになった。そして、本当ならハミルさんもこの食事に参加する予定だったのだけれど……何やら、仕事が入ったとのことで、ものすごく恨めしそうな顔でジークさんを見つめ、渋々と、本当に、渋々とリアン魔国へと帰っていた。
「ジークさん。我が儘を聞いてくださって、ありがとうございます」
「我が儘なんかじゃない。むしろ、もっと色々と甘えてほしいくらいなんだ。ユーカ、何かほしいものはないのか?」
「えっと、大丈夫です」
甘い視線に耐え兼ねて私は、少し視線を逸らす。最近のジークさんとハミルさんは、糖度が倍になっているのではないかと思えるくらい、私に甘い。側に居るときは必ずエスコートしてくるし、物理的な距離が近いと思うことは何度もあった。猫姿であれば緊張することもないのだけれど、人型で甘く囁かれると、どうしても赤面して、どうしたら良いのか分からなくなってしまう。
(相談……アマーリエさんにしておけば良かったかも)
リド姉さんは、ここ最近、社交界前で仕事が忙しいらしく、マリノア城に来ることはないし、そもそも男だ。レティシアさんは、リド姉さんについて、同じように忙しくしているらしいから頼れない。そして、メアリー達は、あくまでも私の専属侍女としての立場を崩さないので、やっぱり相談する相手という感じではない。その点、アマーリエさんは専属護衛ではあるものの、ハミルさんの妹として、忌憚のない意見をくれる貴重な人だ。年齢は聞いていないけれど、魔族である以上、見た目通りの年齢ということはないだろう。下手をすると、私の何十倍の年月を生きてきたのかもしれない。
マナーを注意しつつ、ローストビーフを一口食べると、幸せな味が口内に広がる。
(うん、今は、食事に集中しよう)
ルププ草と言われる、甘味のある、元の形はほうれん草に似た野菜のポタージュから始まり、ミカンのシャーベットで終わった食事。
相変わらずの美味しさと、一人じゃない食事による美味しさで、幸せを目一杯噛み締めていると、ふいに、ジークさんの甘い視線とかち合う。
「次からは、ぜひともお茶会の時のように、ユーカに食べさせたいな」
そして、『あーん』で食べさせたい宣言をするジークさんに、私は必死になって、マナーの練習だと言い張り、普通の食事時における『あーん』を阻止した。お茶会の時の『あーん』だけでも心臓に悪いのに、食事時に毎回それでは、心臓がもたない。
「そうか、残念だ」
本当に残念そうにするジークさんに、少しだけ罪悪感を覚えつつも、自分の心の平穏を優先する。それはきっと、間違っていないはずだ。
「そういえば、リアン魔国では、ハミルさんのご両親にお会いしたんですよ」
とにかく話を変えるべく、私は別の話題を振って、ふと思う。
「あれ? ジークさんのご家族って、どこにいらっしゃるんですか?」
ハミルさんの両親は、ほとんどエーテ城に居るらしかったのに、私はまだジークさんの両親に会っていない。滞在させてもらっているのに、顔も見せずにいた私は、もしかしたら、ものすごく失礼なことをしているのではないかと、今さらながらに思い至る。
「あぁ、俺の両親は居ないんだ」
「? どこか別の場所にお住まいなんですか?」
「いや、とうの昔に亡くなってるということだ」
「それは……その……」
まさか、ジークさんの両親が亡くなっているとは思っていなかった私は、反応に困ってしまう。
「ユーカは気にしなくて良い。もう、随分昔のことで、思い出すこともあまりなくなってきているからな」
「そう、なんですか?」
「あぁ、ただ、残念なのが伯父夫婦や従兄弟は居ても、俺に弟が居なかったということかな?」
「弟、ですか?」
なぜ、兄弟という言葉を使わず、弟だけに限定するのか分からず、私は首をかしげる。
「弟が居れば、ユーカと契りの儀式をした後、とっとと退位できたと思ってな」
そんな言葉に、そういえば、アマーリエさんから、魔王は片翼を得ると、自分の弟や息子に王位を譲りたがるものなのだという言葉を思い出す。ただ、分からない言葉もあった。
「『契りの儀式』?」
「……そうか、それは知らないのか……」
なぜか、ジークさんは顔をほんのり赤く染めて、私から視線を逸らす。
(えっと……? ジークさんが恥ずかしがるような内容、なのかな?)
「『契りの儀式』って、何ですか?」
珍しいジークさんの反応に、私は興味が赴くままに尋ねてみると、ジークさんは面白いくらいに狼狽える。
「いやっ、その……メアリーに、聞いてくれるか?」
「……ジークさんは、教えてくれないんですか?」
「そ、それは……」
ジークさんがここまで狼狽えるのは、見ていて面白い。普段、色々とやられている分、ここで仕返しができている気がする。
「で、できれば、ユーカも俺からは聞きたくない、と思うぞ?」
「そう、なんですか?」
必死になるジークさんは面白い。けれど、もしかしたら聞いたら自爆してしまう類いの話なのかもしれない。そう結論づけた私は、大人しく引き下がることにする。
「分かりました。後でメアリーから聞いてみますね」
「あ、あぁ」
未だに赤い顔でうなずいたジークさんは、何だか少し、可愛く見えた。
「ジークさん。我が儘を聞いてくださって、ありがとうございます」
「我が儘なんかじゃない。むしろ、もっと色々と甘えてほしいくらいなんだ。ユーカ、何かほしいものはないのか?」
「えっと、大丈夫です」
甘い視線に耐え兼ねて私は、少し視線を逸らす。最近のジークさんとハミルさんは、糖度が倍になっているのではないかと思えるくらい、私に甘い。側に居るときは必ずエスコートしてくるし、物理的な距離が近いと思うことは何度もあった。猫姿であれば緊張することもないのだけれど、人型で甘く囁かれると、どうしても赤面して、どうしたら良いのか分からなくなってしまう。
(相談……アマーリエさんにしておけば良かったかも)
リド姉さんは、ここ最近、社交界前で仕事が忙しいらしく、マリノア城に来ることはないし、そもそも男だ。レティシアさんは、リド姉さんについて、同じように忙しくしているらしいから頼れない。そして、メアリー達は、あくまでも私の専属侍女としての立場を崩さないので、やっぱり相談する相手という感じではない。その点、アマーリエさんは専属護衛ではあるものの、ハミルさんの妹として、忌憚のない意見をくれる貴重な人だ。年齢は聞いていないけれど、魔族である以上、見た目通りの年齢ということはないだろう。下手をすると、私の何十倍の年月を生きてきたのかもしれない。
マナーを注意しつつ、ローストビーフを一口食べると、幸せな味が口内に広がる。
(うん、今は、食事に集中しよう)
ルププ草と言われる、甘味のある、元の形はほうれん草に似た野菜のポタージュから始まり、ミカンのシャーベットで終わった食事。
相変わらずの美味しさと、一人じゃない食事による美味しさで、幸せを目一杯噛み締めていると、ふいに、ジークさんの甘い視線とかち合う。
「次からは、ぜひともお茶会の時のように、ユーカに食べさせたいな」
そして、『あーん』で食べさせたい宣言をするジークさんに、私は必死になって、マナーの練習だと言い張り、普通の食事時における『あーん』を阻止した。お茶会の時の『あーん』だけでも心臓に悪いのに、食事時に毎回それでは、心臓がもたない。
「そうか、残念だ」
本当に残念そうにするジークさんに、少しだけ罪悪感を覚えつつも、自分の心の平穏を優先する。それはきっと、間違っていないはずだ。
「そういえば、リアン魔国では、ハミルさんのご両親にお会いしたんですよ」
とにかく話を変えるべく、私は別の話題を振って、ふと思う。
「あれ? ジークさんのご家族って、どこにいらっしゃるんですか?」
ハミルさんの両親は、ほとんどエーテ城に居るらしかったのに、私はまだジークさんの両親に会っていない。滞在させてもらっているのに、顔も見せずにいた私は、もしかしたら、ものすごく失礼なことをしているのではないかと、今さらながらに思い至る。
「あぁ、俺の両親は居ないんだ」
「? どこか別の場所にお住まいなんですか?」
「いや、とうの昔に亡くなってるということだ」
「それは……その……」
まさか、ジークさんの両親が亡くなっているとは思っていなかった私は、反応に困ってしまう。
「ユーカは気にしなくて良い。もう、随分昔のことで、思い出すこともあまりなくなってきているからな」
「そう、なんですか?」
「あぁ、ただ、残念なのが伯父夫婦や従兄弟は居ても、俺に弟が居なかったということかな?」
「弟、ですか?」
なぜ、兄弟という言葉を使わず、弟だけに限定するのか分からず、私は首をかしげる。
「弟が居れば、ユーカと契りの儀式をした後、とっとと退位できたと思ってな」
そんな言葉に、そういえば、アマーリエさんから、魔王は片翼を得ると、自分の弟や息子に王位を譲りたがるものなのだという言葉を思い出す。ただ、分からない言葉もあった。
「『契りの儀式』?」
「……そうか、それは知らないのか……」
なぜか、ジークさんは顔をほんのり赤く染めて、私から視線を逸らす。
(えっと……? ジークさんが恥ずかしがるような内容、なのかな?)
「『契りの儀式』って、何ですか?」
珍しいジークさんの反応に、私は興味が赴くままに尋ねてみると、ジークさんは面白いくらいに狼狽える。
「いやっ、その……メアリーに、聞いてくれるか?」
「……ジークさんは、教えてくれないんですか?」
「そ、それは……」
ジークさんがここまで狼狽えるのは、見ていて面白い。普段、色々とやられている分、ここで仕返しができている気がする。
「で、できれば、ユーカも俺からは聞きたくない、と思うぞ?」
「そう、なんですか?」
必死になるジークさんは面白い。けれど、もしかしたら聞いたら自爆してしまう類いの話なのかもしれない。そう結論づけた私は、大人しく引き下がることにする。
「分かりました。後でメアリーから聞いてみますね」
「あ、あぁ」
未だに赤い顔でうなずいたジークさんは、何だか少し、可愛く見えた。
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