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第七章 舞踏会
第百十六話 二人で相談(ジークフリート視点)
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リアン魔国で、ユーカは何度も襲撃を受けた。そして、そのどれもがユーカに傷を負わせることはなかったものの、危険だと判断するに足りる状態だった。だから、社交界に関する仕事をこなしながらでも、ユーカを受け入れる体制を整えたのだが……。
「なぜ、お前も居る? ハミル」
「ん? だって、僕のところは建国祭終わったし、ユーカの側に居れば、護衛にもなるでしょ?」
「それ以前に、ユーカを襲った襲撃者の黒幕を探すと言っていなかったか?」
そうだ。リアン魔国で起こったユーカを襲撃した者の黒幕は、まだ判明していなかった。……証拠がないだけで、怪しいと思う家はあるらしいが。
「それがさ、さっぱり進まないんだよ」
「だったら、進められるように考えておけ」
「それで分かるんだったら、僕はいくらでも考えるさ。もう、今回は完敗なんだ。鮮やかすぎる手並みで、証拠は全滅。証人すらも居ないんだから、僕はもうこれ以上手出しできないんだよ」
きっと、そう言いながらも怪しいと断じた家に揺さぶりくらいはかけているのだろう。ただ、それでも効果が出ないだけで。
実際に、ある程度詳しい状況を教えてもらっている俺から見ても、今回の黒幕は相当手が込んでいると分かる。だから、ハミルトンは本当に仕事をサボっているわけではなく、暇になったから来たのだろう。
「……分かった」
そう渋々と認めれば、ハミルトンはホッとしたような表情になる。もしかしたら、手際が悪いと責められるとでも思っていたのかもしれない。
「あぁ、そうそう。それとちゃんと、用件もあるんだ」
「何だ?」
書類仕事と同時に、夜会への招待状を見て、それぞれに返事をしながら問えば、すぐに答えが返ってくる。
「ジーク。ユーカを舞踏会に出席させるつもりはある?」
サラサラとサインをしていた手が、その言葉で止まる。
「ユーカの殺害防止か?」
「うん、ユーカが両翼だと分かれば、拐おうとする者は出ても、危害を加えようとか、殺害しようとか考えるバカは居なくなると思うんだ」
ハミルトンの言葉には一理あった。確かに両翼は、それを害した時の魔族の反応が凄まじいため、そうそう害されることはない。ただし、ユーカさえ押さえてしまえば、ヴァイラン魔国とリアン魔国を手に入れたも同然だと考えるバカが出ないとも限らない。
「……考えていなかったわけじゃないが、ユーカの返事次第だとも思っている」
「それもそうだね」
結局のところ、ユーカ次第だ。どんなに害される危険があったとしても、今度こそ、俺もハミルトンも遅れは取らない。どんな状況であろうとも、ユーカを守ってみせると言えるだけの気概は持っていた。もちろん、殺害の危険性がなくなるのは魅力的だが、ユーカは恐らく、多分、きっと、魔族に虐待された過去を持つはずなのだ。それなのに、いきなりあまり友好的ではない魔族が多く居そうな舞踏会へ招くのは難しいと思われた。
「片翼の条件が曖昧な今、確実かは分からないが、ユーカは魔族に虐げられていたかもしれない。そんなユーカを、魑魅魍魎が跋扈する舞踏会にいかせるのは、あまり気が進まない」
「それは……僕もそう思うよ。けど、いずれは、出てもらいたいとも思うんだ。さすがに、ジークみたいに参加するかどうかも分からない段階で舞踏会用のドレスを仕立てることはしないだろうけど」
「……なぜ、それを知ってる?」
ユーカのドレスについては、まだハミルトンには話していないはずだと睨めば、なぜか、ハミルトンは驚いたような表情をする。
「まさか、本当に仕立ててるとは思わなかったよ」
「……鎌をかけたのか」
どうやら、ハミルトンの鎌かけに引っ掛かってしまったらしい。
ただ、これは俺とハミルトンが幼い頃から一緒に過ごしてきて、互いの行動を予想できるからでもあるような気はした。
「まぁ、ジークならやりそうだと思っただけなんだけどね」
「……そうか」
やはり、予想されていたのかと脱力する俺に、ハミルトンは苦笑を浮かべる。
「あぁ、それと、もう一つ。もし、ユーカが舞踏会に出るって返事をした場合は、極力周りに注意した方が良いよ。僕の方もそうだけど、ジークのところも、結構腹黒いのが居るだろう?」
「もちろん、分かっている。舞踏会中、ユーカと離れることがあるとしても、ハミルか、護衛の誰かは置いていく」
残念ながら、舞踏会でずっとユーカと一緒に居るというわけにはいかないだろう。挨拶回りもあるし、魔王として、全く踊らないわけにもいかない。できれば、ダンスはユーカを誘いたいものの、ユーカにこれからダンスのステップを覚えてほしいというのは厳しいだろう。
「あっ、そうそう。向こうでのユーカの専属侍女だったリーアから伝えられたことなんだけど、ユーカは、マナーは及第点までできるようになったし、ダンスも少しなら踊れるようになってるみたいだよ」
「そうなのか?」
「うん、できることなら、こっちでもそういった勉強をさせた方が良いらしいけど、手配してもらえるかな?」
「ならば、メアリーに指導を任せよう。メアリーならば全て教えられるしな」
もしかしたら、ユーカをダンスに誘えるかもしれないことが判明して、俺は知らず知らずのうちに口角を上げる。メアリーに毎日報告させて、ダンスに誘えるようならば誘ってみようと決意する。
「それじゃあ、言いたいことは全部言ったし、僕はユーカのところに行ってくるね」
「……分かった」
ハミルトンがユーカのところに行くのは面白くないが、ここで喧嘩をするつもりはない。そうして、ハミルトンを見送った俺は、視線を手元に落として、仕事を再開するのだった。
「なぜ、お前も居る? ハミル」
「ん? だって、僕のところは建国祭終わったし、ユーカの側に居れば、護衛にもなるでしょ?」
「それ以前に、ユーカを襲った襲撃者の黒幕を探すと言っていなかったか?」
そうだ。リアン魔国で起こったユーカを襲撃した者の黒幕は、まだ判明していなかった。……証拠がないだけで、怪しいと思う家はあるらしいが。
「それがさ、さっぱり進まないんだよ」
「だったら、進められるように考えておけ」
「それで分かるんだったら、僕はいくらでも考えるさ。もう、今回は完敗なんだ。鮮やかすぎる手並みで、証拠は全滅。証人すらも居ないんだから、僕はもうこれ以上手出しできないんだよ」
きっと、そう言いながらも怪しいと断じた家に揺さぶりくらいはかけているのだろう。ただ、それでも効果が出ないだけで。
実際に、ある程度詳しい状況を教えてもらっている俺から見ても、今回の黒幕は相当手が込んでいると分かる。だから、ハミルトンは本当に仕事をサボっているわけではなく、暇になったから来たのだろう。
「……分かった」
そう渋々と認めれば、ハミルトンはホッとしたような表情になる。もしかしたら、手際が悪いと責められるとでも思っていたのかもしれない。
「あぁ、そうそう。それとちゃんと、用件もあるんだ」
「何だ?」
書類仕事と同時に、夜会への招待状を見て、それぞれに返事をしながら問えば、すぐに答えが返ってくる。
「ジーク。ユーカを舞踏会に出席させるつもりはある?」
サラサラとサインをしていた手が、その言葉で止まる。
「ユーカの殺害防止か?」
「うん、ユーカが両翼だと分かれば、拐おうとする者は出ても、危害を加えようとか、殺害しようとか考えるバカは居なくなると思うんだ」
ハミルトンの言葉には一理あった。確かに両翼は、それを害した時の魔族の反応が凄まじいため、そうそう害されることはない。ただし、ユーカさえ押さえてしまえば、ヴァイラン魔国とリアン魔国を手に入れたも同然だと考えるバカが出ないとも限らない。
「……考えていなかったわけじゃないが、ユーカの返事次第だとも思っている」
「それもそうだね」
結局のところ、ユーカ次第だ。どんなに害される危険があったとしても、今度こそ、俺もハミルトンも遅れは取らない。どんな状況であろうとも、ユーカを守ってみせると言えるだけの気概は持っていた。もちろん、殺害の危険性がなくなるのは魅力的だが、ユーカは恐らく、多分、きっと、魔族に虐待された過去を持つはずなのだ。それなのに、いきなりあまり友好的ではない魔族が多く居そうな舞踏会へ招くのは難しいと思われた。
「片翼の条件が曖昧な今、確実かは分からないが、ユーカは魔族に虐げられていたかもしれない。そんなユーカを、魑魅魍魎が跋扈する舞踏会にいかせるのは、あまり気が進まない」
「それは……僕もそう思うよ。けど、いずれは、出てもらいたいとも思うんだ。さすがに、ジークみたいに参加するかどうかも分からない段階で舞踏会用のドレスを仕立てることはしないだろうけど」
「……なぜ、それを知ってる?」
ユーカのドレスについては、まだハミルトンには話していないはずだと睨めば、なぜか、ハミルトンは驚いたような表情をする。
「まさか、本当に仕立ててるとは思わなかったよ」
「……鎌をかけたのか」
どうやら、ハミルトンの鎌かけに引っ掛かってしまったらしい。
ただ、これは俺とハミルトンが幼い頃から一緒に過ごしてきて、互いの行動を予想できるからでもあるような気はした。
「まぁ、ジークならやりそうだと思っただけなんだけどね」
「……そうか」
やはり、予想されていたのかと脱力する俺に、ハミルトンは苦笑を浮かべる。
「あぁ、それと、もう一つ。もし、ユーカが舞踏会に出るって返事をした場合は、極力周りに注意した方が良いよ。僕の方もそうだけど、ジークのところも、結構腹黒いのが居るだろう?」
「もちろん、分かっている。舞踏会中、ユーカと離れることがあるとしても、ハミルか、護衛の誰かは置いていく」
残念ながら、舞踏会でずっとユーカと一緒に居るというわけにはいかないだろう。挨拶回りもあるし、魔王として、全く踊らないわけにもいかない。できれば、ダンスはユーカを誘いたいものの、ユーカにこれからダンスのステップを覚えてほしいというのは厳しいだろう。
「あっ、そうそう。向こうでのユーカの専属侍女だったリーアから伝えられたことなんだけど、ユーカは、マナーは及第点までできるようになったし、ダンスも少しなら踊れるようになってるみたいだよ」
「そうなのか?」
「うん、できることなら、こっちでもそういった勉強をさせた方が良いらしいけど、手配してもらえるかな?」
「ならば、メアリーに指導を任せよう。メアリーならば全て教えられるしな」
もしかしたら、ユーカをダンスに誘えるかもしれないことが判明して、俺は知らず知らずのうちに口角を上げる。メアリーに毎日報告させて、ダンスに誘えるようならば誘ってみようと決意する。
「それじゃあ、言いたいことは全部言ったし、僕はユーカのところに行ってくるね」
「……分かった」
ハミルトンがユーカのところに行くのは面白くないが、ここで喧嘩をするつもりはない。そうして、ハミルトンを見送った俺は、視線を手元に落として、仕事を再開するのだった。
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