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第六章 建国祭
第百十四話 甘い一時
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刺客達に『撤回する』の一言を吐かせた後、しばらくして、現在。私はなぜか、エーテ城のテラスで、ハミルさんの膝の上に乗せられて、ティータイムを過ごしていた。
「えっと、ハミル、さん?」
「何かな? ユーカ?」
ドロリとした砂糖を煮詰めたような甘い声が耳をくすぐり、私は声にならない声で抗議する。
(な、何で、こんなに甘い空気なのっ!?)
刺客達を恐怖のドン底に落とした後、さすがに我に返った私は慌てて、ハミルさんに『どうしよう、どうしよう』と言っていた記憶はある。そして、ハミルさんには、自分のために怒ってくれてありがとう、といった内容のこと告げられたのも覚えている。けれど、なぜ、そこから現状に繋がるのかが全くもって分からない。
「ふふっ、赤くなって、かーわいいっ」
後ろからギュウッと抱き締められる私は、もう、オーバーヒート寸前だ。バクバクという心臓の音を気にするどころですらない。
「あ、あああ、あのっ、ハミルさんっ」
「なぁに?」
「そ、そのっ、刺客の人達は、どう、なったんですか?」
とにかく、何か話そう。そして、あわよくば、ここから脱出しようというつもりで問いかけると、ハミルさんはギュムギュムと私を抱き締めて、肩に頭を乗せて甘えてくる。
「んー? 彼らは、尋問(拷問)中だよ。でも、ユーカがあんな奴らを気にするなんて、妬けるなぁ。担当者(拷問官)にはしっかり言っておかなきゃね」
なぜだろう。『尋問』という言葉の副音声として、『拷問』という言葉が聞こえた気がする。しかも、『担当者』は『拷問官』と変換されてしまい……何だか不穏な空気しかない。
すぐさま、話題選びに失敗したことを悟った私は、ハミルさんから漂う黒い雰囲気を変えるために、必死に頭を働かせる。
「えっと、えっと……そ、そうだっ、お祭り、また来年も行きましょうねっ」
「ユーカっ! もちろんだよっ! 今度は絶対邪魔なんてさせないから、一緒に見て回ろうねっ」
一気に明るくなったハミルさんに、私はホッとするものの、やはり背後からの拘束は解けない。これは、もしかしたら、ハミルさんが満足するまでこのままなのかもしれない。
それでも、私は勇気をちょこっと振り絞ってみる。
「ハミルさん? その、そろそろ離してもらえないかなぁって、思うんですけれど……」
「やだ」
「や、やだって……」
肩に頭を埋めてグリグリとし出したハミルさんに、私は言葉を失ったまま途方に暮れる。と、そんな時だった。テラスに通じる扉が勢い良く開け放たれたのは。
「ハミルっ! ユーカは無事かっ!」
「ジークさん?」
そこに居たのは、仕事のためにヴァイラン魔国に戻っていたはずの、ジークさんだった。ジークさんは、ここまで走って来たのか、その髪を振り乱した状態だ。
「ユーカっ、怪我はないか? 怖かったなっ。もう大丈夫だぞっ」
私の姿を見つけたジークさんは、すぐに私の側に駆け寄って、膝をついて視線を合わせてくる。
「ジーク、僕は、ユーカのことなら心配ないって手紙に書いておいたはずなんだけど?」
「『心配ない』の一言だけで、ユーカを見に来ないなどあり得ないだろうっ!」
「……まぁ、それもそうだね」
なぜ、ジークさんがここに居るのか分からず、目を白黒させていた私は、二人の話した内容から、どうやら手紙で連絡を取っていたらしいということに気づく。
「えっと、私は大丈夫です。怪我も、ありません」
「だが、魔力が随分と減っている。ハミルから魔力補給をしているようだが、それでは足りないだろう?」
「えっ? 『魔力補給』?」
「大丈夫だよ。ユーカがびっくりしないように、ゆっくり注いでるだけだから」
どういうことか分からないなりに、私は魔力を意識してみると、何やらお腹に回されたハミルさんの手から、魔力が注がれているのが分かる。
(……もしかして、この体勢は魔力補給のため?)
魔力補給という言葉を聞くのは初めてだけれど、意味が分からないわけではない。きっと、魔力を使い過ぎた私のために、ハミルさんは魔力を注いでくれているのだ。そして、もしかしたら、お腹に手を当てないと注げないのかもしれない。
「なら、ハミルも色々あって、疲れているだろう? 俺に代われ」
「嫌だよ。ユーカとの至福の時を簡単に手放すはずがないじゃないかっ!」
「ユーカ不足で死にそうだ。代われ」
「そんな堂々と『死にそう』だなんて言われて、納得するわけないでしょっ」
「俺は、ずっとユーカに会ってなかったんだ。今くらいは代われ」
「いーやーだー」
そうして、しばらくジークさんとハミルさんの口論が続き……なぜか、交代で私に魔力補給をするということになり、話が落ち着く。
(えっ? ちょっと待って? 私、ハミルさんの膝の上と、ジークさんの膝の上を交互に移動することになるのっ!?)
私の心の平穏は、まだしばらく訪れてはくれないようだった。
「えっと、ハミル、さん?」
「何かな? ユーカ?」
ドロリとした砂糖を煮詰めたような甘い声が耳をくすぐり、私は声にならない声で抗議する。
(な、何で、こんなに甘い空気なのっ!?)
刺客達を恐怖のドン底に落とした後、さすがに我に返った私は慌てて、ハミルさんに『どうしよう、どうしよう』と言っていた記憶はある。そして、ハミルさんには、自分のために怒ってくれてありがとう、といった内容のこと告げられたのも覚えている。けれど、なぜ、そこから現状に繋がるのかが全くもって分からない。
「ふふっ、赤くなって、かーわいいっ」
後ろからギュウッと抱き締められる私は、もう、オーバーヒート寸前だ。バクバクという心臓の音を気にするどころですらない。
「あ、あああ、あのっ、ハミルさんっ」
「なぁに?」
「そ、そのっ、刺客の人達は、どう、なったんですか?」
とにかく、何か話そう。そして、あわよくば、ここから脱出しようというつもりで問いかけると、ハミルさんはギュムギュムと私を抱き締めて、肩に頭を乗せて甘えてくる。
「んー? 彼らは、尋問(拷問)中だよ。でも、ユーカがあんな奴らを気にするなんて、妬けるなぁ。担当者(拷問官)にはしっかり言っておかなきゃね」
なぜだろう。『尋問』という言葉の副音声として、『拷問』という言葉が聞こえた気がする。しかも、『担当者』は『拷問官』と変換されてしまい……何だか不穏な空気しかない。
すぐさま、話題選びに失敗したことを悟った私は、ハミルさんから漂う黒い雰囲気を変えるために、必死に頭を働かせる。
「えっと、えっと……そ、そうだっ、お祭り、また来年も行きましょうねっ」
「ユーカっ! もちろんだよっ! 今度は絶対邪魔なんてさせないから、一緒に見て回ろうねっ」
一気に明るくなったハミルさんに、私はホッとするものの、やはり背後からの拘束は解けない。これは、もしかしたら、ハミルさんが満足するまでこのままなのかもしれない。
それでも、私は勇気をちょこっと振り絞ってみる。
「ハミルさん? その、そろそろ離してもらえないかなぁって、思うんですけれど……」
「やだ」
「や、やだって……」
肩に頭を埋めてグリグリとし出したハミルさんに、私は言葉を失ったまま途方に暮れる。と、そんな時だった。テラスに通じる扉が勢い良く開け放たれたのは。
「ハミルっ! ユーカは無事かっ!」
「ジークさん?」
そこに居たのは、仕事のためにヴァイラン魔国に戻っていたはずの、ジークさんだった。ジークさんは、ここまで走って来たのか、その髪を振り乱した状態だ。
「ユーカっ、怪我はないか? 怖かったなっ。もう大丈夫だぞっ」
私の姿を見つけたジークさんは、すぐに私の側に駆け寄って、膝をついて視線を合わせてくる。
「ジーク、僕は、ユーカのことなら心配ないって手紙に書いておいたはずなんだけど?」
「『心配ない』の一言だけで、ユーカを見に来ないなどあり得ないだろうっ!」
「……まぁ、それもそうだね」
なぜ、ジークさんがここに居るのか分からず、目を白黒させていた私は、二人の話した内容から、どうやら手紙で連絡を取っていたらしいということに気づく。
「えっと、私は大丈夫です。怪我も、ありません」
「だが、魔力が随分と減っている。ハミルから魔力補給をしているようだが、それでは足りないだろう?」
「えっ? 『魔力補給』?」
「大丈夫だよ。ユーカがびっくりしないように、ゆっくり注いでるだけだから」
どういうことか分からないなりに、私は魔力を意識してみると、何やらお腹に回されたハミルさんの手から、魔力が注がれているのが分かる。
(……もしかして、この体勢は魔力補給のため?)
魔力補給という言葉を聞くのは初めてだけれど、意味が分からないわけではない。きっと、魔力を使い過ぎた私のために、ハミルさんは魔力を注いでくれているのだ。そして、もしかしたら、お腹に手を当てないと注げないのかもしれない。
「なら、ハミルも色々あって、疲れているだろう? 俺に代われ」
「嫌だよ。ユーカとの至福の時を簡単に手放すはずがないじゃないかっ!」
「ユーカ不足で死にそうだ。代われ」
「そんな堂々と『死にそう』だなんて言われて、納得するわけないでしょっ」
「俺は、ずっとユーカに会ってなかったんだ。今くらいは代われ」
「いーやーだー」
そうして、しばらくジークさんとハミルさんの口論が続き……なぜか、交代で私に魔力補給をするということになり、話が落ち着く。
(えっ? ちょっと待って? 私、ハミルさんの膝の上と、ジークさんの膝の上を交互に移動することになるのっ!?)
私の心の平穏は、まだしばらく訪れてはくれないようだった。
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