私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第六章 建国祭

第百十三話 釣竿の活用法(ハミルトン視点)

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 ユーカに攻撃を放った刺客達は、ひとまず護衛達に任せることにして、僕はユーカを庇いつつ、レイと対峙する。もちろん、威圧で動きを封じた状態で。


「さて、申し開きがあるのなら、聞こうか?」


 そうは言ったものの、この言葉にある意味は、背後関係に関して何か話してくれないだろうかという小さな希望しか込められていない。くだらないことを喚き続けるのならば、僕はこいつを容赦なく処刑するつもりだ。


(ユーカが怒ってるのも気になるし、早くしてほしいけどね)


 ユーカが何に怒っているのかは、今のところ不明だ。いや、もしも、僕のために怒ってくれているのだとすれば、この上なく嬉しいのだが、期待して裏切られた時がつらいのは分かっているため、過度な期待はしない。


「お、お前が悪いのだっ! 姉上を苦しめる諸悪の根源めっ! 姉上を狂わせた忌み子めっ! お前さえ、お前さえ居なければ、姉上はっ!」

「バカなの? 母上は、自分で僕という存在を望んだんだよね? それで、都合が悪くなったら諸悪の根源? 忌み子? はっ、バカバカしいっ」

「お、お前など生まれてこなければ良かったのだっ! 化け物めっ!」


 姉を思う弟として、レイは甥である僕に喚き立てる。その様子に、これでは情報を得られそうにないなと判断して、さっさと拘束してしまおうと思ったのだが……突如として、僕に匹敵するだけの魔力が、ユーカから発せられ、巨大な木……いや、形状からして、釣竿らしきものを作り上げる。その先端は遥か天空にあるため、釣竿と呼んで良いのかは定かではないものの、形は恐らく釣竿だ。


「ひぃっ!」


 そして、そのユーカから迸る魔力の衝撃で、僕の威圧にかろうじて耐えていたレイは失神してしまう。


「ユーカ?」


 魔力コントロールの訓練ではまだ教えていない、大量の魔力を使用した魔法。それを使おうとしているユーカに、僕は慌てて振り向いて様子を確認すると……ユーカの目は、据わっていた。

 どう声をかけて良いのかも、そもそもこの魔法が何を目的としたものかも分からず、途方に暮れていると、ふいに、どこからか男の悲鳴が三つ、響き渡る。それと同時に、釣竿に三つの人影が釣り上げられ、とんでもない勢いで空へと持ち上げられるのを目撃してしまい、その三つの人影が悲鳴の主だと確信する。


「えっと、ユーカ? 彼らは……?」


 とうとう、三つの人影が天空で点にしか見えなくなったところで、僕は恐る恐る尋ねてみる。


「はい。ハミルさんを侮辱していたので、捕まえてみました」

「えっ? えっと、僕には聞こえなかったけど……?」

(どうしよう、本当に、僕を侮辱しただけでユーカがこんな行動に出たのだとしたら……不謹慎ではあるものの、とても嬉しい)


 ただ、ユーカよりも僕の方が聴覚は優れているはずなので、どこでそんなことを聞いたのだろうかと尋ねると、とんでもない答えが返ってくる。


「当然です。伝音魔法で、周りに音が漏れないように結界を張って聞いていたので」

「……気づかなかった」


 ユーカが魔力の気配を消すのが上手いことは知っていたものの、まさかそこまでとは思わずに、僕は息を呑む。


「ちなみに、彼らは私に魔法を放って来た人達です」

「うん、分かった。僕がしっかりと処罰を決めることにしよう」


 ついでとばかりにもたらされたその情報に、僕は殺気をみなぎらせる。ユーカに攻撃した魔族を生かしておくつもりなどさらさらない。ユーカがヴァイラン魔国に戻るまでの間に、拷問を全て終わらせて、ユーカに知られないように処刑してしまうことにしよう。
 そうして、今は、ユーカが魔力不足で倒れたりしないかの心配の方が先だと頭を切り替えた僕は、ユーカに声をかけようとして、その前に前方から走ってくるアマーリエの姿を見つける。


「お兄様っ! 先ほど、刺客達が空に吸い上げられていったのですがっ、何をなさった……の?」

「あっ、アマーリエさん」


 アマーリエは、最初は街路樹か何かかと思って見ていたであろう釣竿をしっかりと目にして、僕達の目の前で固まる。


「えっ? これ、釣竿、ですの? 魔力は、ユーカの? えっ? えっ?」

「うん、ユーカが釣り上げたみたいだ。多分、あれは気絶してるだろうね」

「釣り、上げた……?」

「私を攻撃してきた刺客達です」


 そうして、首が痛くなるほどに釣竿を見上げて、アマーリエはサァアッと青ざめる。きっと、天空にある三つの点の正体に気づいたのだろう。


「え、えっと、ご協力、ありがとうございます?」

「どういたしまして」

「ユーカ、彼らを下ろすことはできるかい?」

「はい」


 挙動不審なアマーリエは無視して、僕はユーカに大切なことを問いかける。にっこりと笑って返事をしたユーカに安心した僕は、それじゃあ、すぐに下ろしてもらおうと口を開きかけるが、その前に、ユーカが言葉を放つ。


「でも、彼らには少し撤回をしてもらいたいので、その後でも良いですか?」

「えっ? うん?」

「ありがとうございます」


 何かはよく分からなかったものの、ユーカが望むならと返事をした僕は、直後、判断を間違ったかもしれないと実感することになる。
 巨大釣竿にユーカが魔力を注げば、遥か上空から三人の悲鳴が聞こえてくる。そして、次の瞬間、その三人が落下を始めた。


「ユーカ!?」

「大丈夫です。死ぬことはありませんので」


 数秒ほどの時間で、僕達の目線よりも少し高いくらいの位置で止まった彼らは、その顔を涙と鼻水でグチャグチャにして気絶していた。


「ハミルさん、彼らを起こしてもらえますか?」

「う、うん」


 あれだけの高さからの落下は、相当に怖かっただろうと思いつつも、何だか逆らえない空気を醸し出しているユーカに、僕は素直に従って、水球をそれぞれの顔にぶつけてみる。


「ゲホッ、ゴホッ」

「ぐ、うぅ」

「ひっ、はひっ」


 三人は、すでに心が折れているのか、ガタガタと震えながら泣いている。そして、そこに、ユーカの声がかかる。


「撤回してください」


 その声は、怒りに満ちていて、思わず僕自身も震えてしまいそうなくらいのものだった。そして、ユーカの怒気に当てられた男達は、声も出せずに縮こまる。


「ハミルさんを侮辱した言葉、撤回してください」


 しかし、男達は震えるばかりで、返事をする様子がない。


「……仕方ないですね」


 そして、ユーカが残念そうに呟いたかと思えば、男達はまた、凄まじい勢いで上空に持ち上げられていき、絶叫が響き渡る。


「ユ、ユーカ?」

「撤回してもらえるまでは、動きませんよ」

(う、うん、そんなことを尋ねるつもりじゃなかったんだけど、ね?)

「愛されてますわね、お兄様……」


 どこか遠い目で僕に告げるアマーリエに、普段なら嬉しいはずなのに、これからの男達のことを考えてしまって、どうにも喜べない。
 それから二回ほど、上下に揺さぶられて、気絶と覚醒を繰り返した彼らは、聞き取りづらい震えた声で、必死に『何でも話す』と、『撤回する』という言葉を放つのだった。
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