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第六章 建国祭
第百八話 夕夏の推理
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ハミルさんの機嫌がどうにもよろしくない。それは、たまたまハミルさんが移動しているところを目撃して、抱いた感想だった。
(多分、あの件が関係してる、よね?)
ハミルさんとお祭りを楽しんでいる時に起こった何者かの襲撃。ハミルさんは何も教えてくれないし、アマーリエさんもにっこりと笑ってごまかすけれど、十中八九、それが原因だろう。
再び探知魔法を発動させた私は、護衛であろう人達が部屋の外に配置されているのを確認して、ハミルさんの周りも観察してみる。
(うーん、ハミルさんの周りには、護衛の人は居ない? じゃあ、狙われてたのは、私?)
何も話してもらえないことから、私は推測することしかできない。本当は、じっとしていた方が良いのだろうけれど、どうにも気になって仕方がない。
「ユーカお嬢様? どうなさいましたか?」
まだお昼過ぎという時間で、ぼんやりと窓の外を眺めていた私に、リーアは心配そうな声音で尋ねてくる。
「ううん、何でもないよ」
さすがに、犯人探しをするのは危ないということくらい分かっている。だから、とっても気になりはするけれど、大人しくしておくつもりだ。
「リーアは、どこまでのことを聞いてるの?」
ただ、身近なところで情報収集をするくらいは許してもらいたい。
「私どもは何も……ただ、ユーカお嬢様に危害を加える者に手加減は無用だとしか」
その、『手加減は無用』というのは、ハミルさんの言葉だろうかと思いながらも、思った以上に情報が得られなさそうな雰囲気に、少しばかり不満だった。かといって、今、忙しそうなハミルさんの元に行くのも気が引ける。
「……そうだっ、アマーリエさんには会えないかな?」
「アマーリエ様、ですか? 少々お待ちください。確認を取って参ります」
私の周りで護衛をしてくれているらしい人達とは面識はないけれど、専属護衛になると言ってくれたアマーリエさんは別だ。そして、専属護衛というからには、私を取り巻く現状について、ある程度は知っているはずだった。
「失礼します。ユーカ、何のご用ですか?」
相変わらず、可愛いアマーリエさんが入ってきて、私はすぐにリーアへお茶の用意をお願いして、アマーリエさんを席へ誘導する。
「その、どうしても気になることがあって、アマーリエさんなら知ってるんじゃないかなと思ったので……聞いても良いですか?」
「はいっ、もちろんですわ。ユーカ!」
とても良い笑顔で応えるアマーリエさんに、私はティーカップが目の前に置かれるのを横目に、質問してみる。
「今、私の周りでは何が起こってるんですか? 昨日も今日も、襲撃があったんですよね?」
「あら、何もありませんわよ。あったとしても、それは、ただのイベントの一環ですわ」
ただ、アマーリエさんは、どうやら一筋縄ではいかないらしい。一切の動揺も見せずに、そうのたまったアマーリエさんに、私はジーッと疑いの視線を注ぐ。
「……ちょっと前にも襲撃がありましたよね?」
「っ、何のことですか?」
実は、少し前に何やら慌ただしく人が行き来している時間があった。その時は、何があったのかなんて分からなかったけれど、鎌をかけてみれば、かろうじて分かるくらいに、アマーリエさんが反応する。どうやら、本当に襲撃があったらしい。
「……分かりました。あくまでもしらを切るというのであれば、私にも考えがあります」
本当は、特に何かをする予定はない。けれど、そう告げた直後のアマーリエさんは、何を想像したのか、サァアッと顔を青ざめさせる。
「何をするつもりですか?」
「自分が置かれてる状況の説明もしてくれない専属護衛さんに話す必要はありますか?」
「っ!?」
言い方は、少しきついけれど、こうでも言わなければアマーリエさんから情報を引き出せそうにないと判断した私は、躊躇いなくそう告げる。アマーリエさんは、それでもしばらく悩んでいたけれど、自分の中で折り合いがついたのか、その重い口を開いてくれた。
「ユーカは、何者かに狙われているようですわ」
「それは、どんな理由かは分かってる?」
「いえ、まだ目的までは分かっておりませんわ」
「……ハミルさんの片翼である私を害したら、誰かに得があるのかな?」
「その……婚約者候補達のことを考えれば、ユーカさえ居なければと思う者が居ないとは限りませんわね」
そう言われて、私は昨日出会った女狐さん達のことを思い出す。確かに、あれは私さえ居なければと思っているような言い方だった。
「でも、あの人達は、ここに刺客を送り込めるほどの人達なのかな? このお城の防衛は結構頑強らしいって聞いてたけれど……スパイが居る、とか? だとしたら、どこに……?」
ブツブツと一人で考えをまとめている中、私はアマーリエさんが目を見開いていたことなど知るよしもなかった。そして……。
「……アマーリエさん、ハミルさんの昔話をしてください」
「えっ? は、はい……?」
唐突な私の要求に、アマーリエさんは困惑しながらも、ゆっくりと話してくれるのだった。
(多分、あの件が関係してる、よね?)
ハミルさんとお祭りを楽しんでいる時に起こった何者かの襲撃。ハミルさんは何も教えてくれないし、アマーリエさんもにっこりと笑ってごまかすけれど、十中八九、それが原因だろう。
再び探知魔法を発動させた私は、護衛であろう人達が部屋の外に配置されているのを確認して、ハミルさんの周りも観察してみる。
(うーん、ハミルさんの周りには、護衛の人は居ない? じゃあ、狙われてたのは、私?)
何も話してもらえないことから、私は推測することしかできない。本当は、じっとしていた方が良いのだろうけれど、どうにも気になって仕方がない。
「ユーカお嬢様? どうなさいましたか?」
まだお昼過ぎという時間で、ぼんやりと窓の外を眺めていた私に、リーアは心配そうな声音で尋ねてくる。
「ううん、何でもないよ」
さすがに、犯人探しをするのは危ないということくらい分かっている。だから、とっても気になりはするけれど、大人しくしておくつもりだ。
「リーアは、どこまでのことを聞いてるの?」
ただ、身近なところで情報収集をするくらいは許してもらいたい。
「私どもは何も……ただ、ユーカお嬢様に危害を加える者に手加減は無用だとしか」
その、『手加減は無用』というのは、ハミルさんの言葉だろうかと思いながらも、思った以上に情報が得られなさそうな雰囲気に、少しばかり不満だった。かといって、今、忙しそうなハミルさんの元に行くのも気が引ける。
「……そうだっ、アマーリエさんには会えないかな?」
「アマーリエ様、ですか? 少々お待ちください。確認を取って参ります」
私の周りで護衛をしてくれているらしい人達とは面識はないけれど、専属護衛になると言ってくれたアマーリエさんは別だ。そして、専属護衛というからには、私を取り巻く現状について、ある程度は知っているはずだった。
「失礼します。ユーカ、何のご用ですか?」
相変わらず、可愛いアマーリエさんが入ってきて、私はすぐにリーアへお茶の用意をお願いして、アマーリエさんを席へ誘導する。
「その、どうしても気になることがあって、アマーリエさんなら知ってるんじゃないかなと思ったので……聞いても良いですか?」
「はいっ、もちろんですわ。ユーカ!」
とても良い笑顔で応えるアマーリエさんに、私はティーカップが目の前に置かれるのを横目に、質問してみる。
「今、私の周りでは何が起こってるんですか? 昨日も今日も、襲撃があったんですよね?」
「あら、何もありませんわよ。あったとしても、それは、ただのイベントの一環ですわ」
ただ、アマーリエさんは、どうやら一筋縄ではいかないらしい。一切の動揺も見せずに、そうのたまったアマーリエさんに、私はジーッと疑いの視線を注ぐ。
「……ちょっと前にも襲撃がありましたよね?」
「っ、何のことですか?」
実は、少し前に何やら慌ただしく人が行き来している時間があった。その時は、何があったのかなんて分からなかったけれど、鎌をかけてみれば、かろうじて分かるくらいに、アマーリエさんが反応する。どうやら、本当に襲撃があったらしい。
「……分かりました。あくまでもしらを切るというのであれば、私にも考えがあります」
本当は、特に何かをする予定はない。けれど、そう告げた直後のアマーリエさんは、何を想像したのか、サァアッと顔を青ざめさせる。
「何をするつもりですか?」
「自分が置かれてる状況の説明もしてくれない専属護衛さんに話す必要はありますか?」
「っ!?」
言い方は、少しきついけれど、こうでも言わなければアマーリエさんから情報を引き出せそうにないと判断した私は、躊躇いなくそう告げる。アマーリエさんは、それでもしばらく悩んでいたけれど、自分の中で折り合いがついたのか、その重い口を開いてくれた。
「ユーカは、何者かに狙われているようですわ」
「それは、どんな理由かは分かってる?」
「いえ、まだ目的までは分かっておりませんわ」
「……ハミルさんの片翼である私を害したら、誰かに得があるのかな?」
「その……婚約者候補達のことを考えれば、ユーカさえ居なければと思う者が居ないとは限りませんわね」
そう言われて、私は昨日出会った女狐さん達のことを思い出す。確かに、あれは私さえ居なければと思っているような言い方だった。
「でも、あの人達は、ここに刺客を送り込めるほどの人達なのかな? このお城の防衛は結構頑強らしいって聞いてたけれど……スパイが居る、とか? だとしたら、どこに……?」
ブツブツと一人で考えをまとめている中、私はアマーリエさんが目を見開いていたことなど知るよしもなかった。そして……。
「……アマーリエさん、ハミルさんの昔話をしてください」
「えっ? は、はい……?」
唐突な私の要求に、アマーリエさんは困惑しながらも、ゆっくりと話してくれるのだった。
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