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第六章 建国祭
第百四話 女狐さんは、太ってました
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ハミルさんとの楽しいお祭り巡り。知らないことがたくさんで、日本でのお祭りを知らないから比べることはできなかったけれど、金魚すくいでもスーパーボールすくいでもなく、スライムすくいなんてものがあるのには驚いた。どうやら、網で生け捕りにできたスライムは、ペットとして持ち帰れるらしい。
食べ物も、見たことがないものが多く、ジャイアントカウの串焼き以外にもレインボーフロッグの炭火焼きだとか、クラーケン焼きだとか、赤モロコシのたれ焼きだとか、美味しそうなものがたくさんで楽しかった。……レインボーフロッグだけは、見た目が虹色だったこともあり、遠慮したけれど……。
そうして、色々な屋台を見て周り、少し足が疲れたかなと思い始めた頃、ふいに、ハミルさんは私を抱き上げた。そう、お姫様抱っこというやつだ。
「ふぇ? ハ、ハミル、さん?」
何が何だか分からない私は、とりあえず元凶のハミルさんに問いかけるものの、なぜか、ハミルさんはそろそろ帰ると告げて走り出した。
……色々な人に、その様子を目撃された事実は、もう忘れてしまいたい。
エーテ城に着いて、どこか安心した様子のハミルさんに、私は思い切って尋ねる。
「何で、何でっ、あんなこと、したんですかっ」
もう、恥ずかしくて恥ずかしくていたたまれない。完全に赤面しながら、私はハミルさんを見上げると、なぜかハミルさんは口元を押さえて一歩下がる。
「え、えぇっと、ね? その、急に走りたくなったというか……そうっ、ユーカがそろそろ疲れてきたんじゃないかなって思ったんだっ!」
「……それは、本当ですか?」
取ってつけたような言い訳に、私はとりあえずお姫様抱っこの件を頭の片隅に追いやって、じっとハミルさんを見つめてみる。
「うん、本当だよっ」
ただ、よほど言いたくないのか、ハミルさんは笑顔を浮かべながら断言してしまう。こうなると、聞き出せる自信はない。
「……分かりました」
魔王という地位にある以上、きっと言えないこともあると無理矢理自分を納得させた私は、どこか胸がズキズキ痛む気がするのを気のせいだと思い込んで、ハミルさんと別れ、部屋へと戻る。けれど……。
「あぁら、こんなところに、なぜ薄汚い人間が居るのかしら?」
リーアに先導されていた私は、前方から二人の女性を連れて歩いてきていた、ちょっと……いや、かなり、ふっくらとした化粧が濃い魔族の女性と出会う。
「クリント侯爵夫人、このお方は陛下の片翼でございます。何か、ご用がおありですか?」
すかさず、私の前で、クリント侯爵夫人とやらに反論したリーアだったけれど、それはどうやら火に油だったらしい。
「侍女風情が、だまらっしゃいっ! わたくしは、そこのみすぼらしい人間に聞いているのですっ!」
「そうですわっ、ハンネ様に口答えするなど、家を潰されたいのかしらっ?」
「それとも、そこの人間の侍女は、人間につくだけあって、無教養なのかしらぁ?」
何だか、随分な言われようだけれど、どうやらリーアの方が分が悪いらしい。後ろに居た、これまたふっくらとしていて、化粧お化けな魔族達の言葉に、リーアはギュウッと拳を握るのみで反論できないでいる。
(……これが、ハミルさんの言ってた女狐さん?)
思っていたより、少し……いや、かなり太っているその三人の女性を前に、私は少し戸惑いながらも、このままではリーアが危険だと、前に出ることにする。
「私に、何かご用ですか?」
正直、怖い。相手の人数が多いことも、身長が高いことも、私を威圧する原因にしかならない。
「お前ごときが、陛下に近づくなどっ、身の程を知りなさい!」
「そうですわっ、陛下には、ハンネ様の娘、婚約者候補筆頭のエヴェリーナ様が相応しいのですわっ」
「弱い人間などお呼びではないのですよぉ?」
『婚約者候補筆頭』という言葉に、私はガツンと頭を殴られたかのような衝撃を受ける。
(そう、だよね。ハミルさんにも、そんな相手が居てもおかしくはないんだよね)
ハミルさんの父、デルトラ様がそうであったように、ハミルさんも婚約者が居てもおかしくはなかった。けれど……。
「『候補』?」
「ふんっ、ゆくゆくは、我が娘、エヴェリーナが陛下に嫁ぐのです。そうして、栄えある魔王の血筋に名を連ねることになるのですわっ」
どうやら、まだ、ハミルさんは婚約者を決めるようなことはしていなかったらしい。その後の話を聞いてみると、ハミルさんはずっと片翼を求め続けて、婚約者を決めなかったらしい。
「陛下に我が娘が嫁げば、地位は安泰、いくらでも贅沢ができるというのに……今頃になってなぜ片翼などっ!」
そうして、しばらくは大人しく騒ぎ立てる彼女らの話を聞いていたのだけれど……何だか、だんだんと腹が立ってきた。
「そもそも、ふしだらな女の腹から生まれた者に我が娘が嫁ぐと言っているのですっ! 不満などあるはずがないでしょう?」
極めつけに、ハミルさんの出生について罵詈雑言をもらした女狐達に、私は、人生で初めて、キレるという現象を体感する。
「ハミルさんは、絶対にあなた方のようなくだらない考えを持つ者に揺らぐことなんてないですよ」
「何ですってっ!?」
「子供だからと下手に出ていれば、生意気なっ!」
「ハンネ様! こんな小娘、さっさと潰してしまいましょうっ!!」
「へぇ? 誰を、潰すって?」
怒りのために、魔力があふれていたせいか、いつの間にか、ハミルさんは女狐達の後ろに居た。
「ひっ!」
「へ、陛下!?」
「ち、違うのですっ。これはっ」
一気に狼狽える女狐達。それを、ハミルさんは冷たい視線で見つめると、一言、『失せろ』と告げて追い払う。
「「「ひぃぃいっ!」」」
そうして、女狐達は、私をスルーして、全員で逃げ出すのだった。
「ユーカ、ユーカ。ごめん、遅くなって。嫌な目に遭わせてごめん」
「大丈夫ですよ、ハミルさん。私は、ちょっと怒ってただけなので」
「ごめん、ユーカ。吐き出したいことがあれば、いくらでも聞くから、とりあえず、部屋に行こう?」
「はい」
そうして、私はハミルさんとも一緒に、部屋に戻り、暖かいお茶を用意してくれたリーアが退出した後は、ハミルさんと二人っきりになるのだった。
食べ物も、見たことがないものが多く、ジャイアントカウの串焼き以外にもレインボーフロッグの炭火焼きだとか、クラーケン焼きだとか、赤モロコシのたれ焼きだとか、美味しそうなものがたくさんで楽しかった。……レインボーフロッグだけは、見た目が虹色だったこともあり、遠慮したけれど……。
そうして、色々な屋台を見て周り、少し足が疲れたかなと思い始めた頃、ふいに、ハミルさんは私を抱き上げた。そう、お姫様抱っこというやつだ。
「ふぇ? ハ、ハミル、さん?」
何が何だか分からない私は、とりあえず元凶のハミルさんに問いかけるものの、なぜか、ハミルさんはそろそろ帰ると告げて走り出した。
……色々な人に、その様子を目撃された事実は、もう忘れてしまいたい。
エーテ城に着いて、どこか安心した様子のハミルさんに、私は思い切って尋ねる。
「何で、何でっ、あんなこと、したんですかっ」
もう、恥ずかしくて恥ずかしくていたたまれない。完全に赤面しながら、私はハミルさんを見上げると、なぜかハミルさんは口元を押さえて一歩下がる。
「え、えぇっと、ね? その、急に走りたくなったというか……そうっ、ユーカがそろそろ疲れてきたんじゃないかなって思ったんだっ!」
「……それは、本当ですか?」
取ってつけたような言い訳に、私はとりあえずお姫様抱っこの件を頭の片隅に追いやって、じっとハミルさんを見つめてみる。
「うん、本当だよっ」
ただ、よほど言いたくないのか、ハミルさんは笑顔を浮かべながら断言してしまう。こうなると、聞き出せる自信はない。
「……分かりました」
魔王という地位にある以上、きっと言えないこともあると無理矢理自分を納得させた私は、どこか胸がズキズキ痛む気がするのを気のせいだと思い込んで、ハミルさんと別れ、部屋へと戻る。けれど……。
「あぁら、こんなところに、なぜ薄汚い人間が居るのかしら?」
リーアに先導されていた私は、前方から二人の女性を連れて歩いてきていた、ちょっと……いや、かなり、ふっくらとした化粧が濃い魔族の女性と出会う。
「クリント侯爵夫人、このお方は陛下の片翼でございます。何か、ご用がおありですか?」
すかさず、私の前で、クリント侯爵夫人とやらに反論したリーアだったけれど、それはどうやら火に油だったらしい。
「侍女風情が、だまらっしゃいっ! わたくしは、そこのみすぼらしい人間に聞いているのですっ!」
「そうですわっ、ハンネ様に口答えするなど、家を潰されたいのかしらっ?」
「それとも、そこの人間の侍女は、人間につくだけあって、無教養なのかしらぁ?」
何だか、随分な言われようだけれど、どうやらリーアの方が分が悪いらしい。後ろに居た、これまたふっくらとしていて、化粧お化けな魔族達の言葉に、リーアはギュウッと拳を握るのみで反論できないでいる。
(……これが、ハミルさんの言ってた女狐さん?)
思っていたより、少し……いや、かなり太っているその三人の女性を前に、私は少し戸惑いながらも、このままではリーアが危険だと、前に出ることにする。
「私に、何かご用ですか?」
正直、怖い。相手の人数が多いことも、身長が高いことも、私を威圧する原因にしかならない。
「お前ごときが、陛下に近づくなどっ、身の程を知りなさい!」
「そうですわっ、陛下には、ハンネ様の娘、婚約者候補筆頭のエヴェリーナ様が相応しいのですわっ」
「弱い人間などお呼びではないのですよぉ?」
『婚約者候補筆頭』という言葉に、私はガツンと頭を殴られたかのような衝撃を受ける。
(そう、だよね。ハミルさんにも、そんな相手が居てもおかしくはないんだよね)
ハミルさんの父、デルトラ様がそうであったように、ハミルさんも婚約者が居てもおかしくはなかった。けれど……。
「『候補』?」
「ふんっ、ゆくゆくは、我が娘、エヴェリーナが陛下に嫁ぐのです。そうして、栄えある魔王の血筋に名を連ねることになるのですわっ」
どうやら、まだ、ハミルさんは婚約者を決めるようなことはしていなかったらしい。その後の話を聞いてみると、ハミルさんはずっと片翼を求め続けて、婚約者を決めなかったらしい。
「陛下に我が娘が嫁げば、地位は安泰、いくらでも贅沢ができるというのに……今頃になってなぜ片翼などっ!」
そうして、しばらくは大人しく騒ぎ立てる彼女らの話を聞いていたのだけれど……何だか、だんだんと腹が立ってきた。
「そもそも、ふしだらな女の腹から生まれた者に我が娘が嫁ぐと言っているのですっ! 不満などあるはずがないでしょう?」
極めつけに、ハミルさんの出生について罵詈雑言をもらした女狐達に、私は、人生で初めて、キレるという現象を体感する。
「ハミルさんは、絶対にあなた方のようなくだらない考えを持つ者に揺らぐことなんてないですよ」
「何ですってっ!?」
「子供だからと下手に出ていれば、生意気なっ!」
「ハンネ様! こんな小娘、さっさと潰してしまいましょうっ!!」
「へぇ? 誰を、潰すって?」
怒りのために、魔力があふれていたせいか、いつの間にか、ハミルさんは女狐達の後ろに居た。
「ひっ!」
「へ、陛下!?」
「ち、違うのですっ。これはっ」
一気に狼狽える女狐達。それを、ハミルさんは冷たい視線で見つめると、一言、『失せろ』と告げて追い払う。
「「「ひぃぃいっ!」」」
そうして、女狐達は、私をスルーして、全員で逃げ出すのだった。
「ユーカ、ユーカ。ごめん、遅くなって。嫌な目に遭わせてごめん」
「大丈夫ですよ、ハミルさん。私は、ちょっと怒ってただけなので」
「ごめん、ユーカ。吐き出したいことがあれば、いくらでも聞くから、とりあえず、部屋に行こう?」
「はい」
そうして、私はハミルさんとも一緒に、部屋に戻り、暖かいお茶を用意してくれたリーアが退出した後は、ハミルさんと二人っきりになるのだった。
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