私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第六章 建国祭

第九十九話 新たな護衛

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 鞭で叩いた後は、さらなる罰を要求する予定だったとか、極刑に処されても構わないと覚悟していたとか、私としては絶対に避けたいようなことを説明してくるアマーリエさんとマーサに、少し気が遠くなるような思いをすること数十分。後はくーちゃんとあーちゃんに癒されて眠るだけを予定していた私は、精神的にとても疲れていた。


「前回のことは、私は何とも思っていませんので、罰も与えようとは思いません」

「でもっ」

「『でも』じゃないです。とにかく、私の意思は固いので、今日はもう帰ってください」


 冷たいかな、とは思うものの、何だかこれ以上話していても、ずっとごねられそうだった。それに、もしここにハミルさんが来てしまえば、一波乱ありそうな気もして、できることなら何も起こらないうちに帰ってほしい。
 ……けれど、世の中、そう上手くはいかないものだ。
 再びノックの音がして、マーサが確認に行ったかと思いきや、その腕には、くーちゃんとあーちゃんの二匹が居た。


「……お兄様、と、ヴァイラン魔王陛下……?」


 一目見た瞬間、アマーリエさんはその二匹の正体を見破り、目を大きく見開く。


「この姿の時は、くーちゃんとあーちゃんです」

「くーちゃん、あーちゃん……?」

「翡翠の猫がクールなくーちゃん。灰色の猫が、甘えん坊のあーちゃんです」

「……くーちゃん、あーちゃん……」


 何だか信じられないといった様子で私とくーちゃん達を交互に見つめるアマーリエさん。そして、私の姿をじっくりと見て、寝室の方へ視線を移すと少しずつ青ざめていく、


「……もしかして、お兄様とヴァイラン魔王陛下は、変態……?」

「アマーリエ様。そのように直球に言うものではありませんよ。この場合は……そう、ですね……………………申し訳ありません」

「「ニャアッ!」」


 恐らくは、何のフォローもしてくれなかったマーサに抗議の声を上げたくーちゃんとあーちゃん。けれど、私はアマーリエさんの言葉に酷く納得してしまう。


「そっか、確かに、変態なのかもしれない」

「「ニャアァアッ!?」」


 小さく呟くと、どうやらそれが聞こえていたらしいくーちゃんとあーちゃんから悲鳴が上がる。


「えーっと、確か、ユーカでしたわね? ちょっと、お兄様が普段あなたに対してどんな様子だったのか教えてくださらない?」


 くーちゃんとあーちゃんが来たら波乱が待っていると思っていた私は、案外何もない様子と、罰を求める話から逸れたことから、快くアマーリエさんの希望を叶える。そして……。


「知りませんでしたわ。お兄様達が、こんなに、こんなに……ヘタレだっただなんてっ」

「フニャーッ!」

「ヘタレ、ですか?」


 あーちゃんが懸命に椅子に座るアマーリエさんの足をテシテシするものの、アマーリエさんはそれに気づいた様子もなく、盛大に嘆く。


「申し訳ありません。ユーカ。わたくし、てっきり片翼の方の方が悪いのだと思い込んでいて……お兄様がこんなにヘタレていたと知っていれば、お兄様へ突撃したものを……本当に、申し訳ありません」


 求められるままに話した内容は、最初は鎖で繋がれていたことや、声が出せなかったこと。原因がハミルさんやジークさんだったことと、アマーリエさんが来た頃は、まだ愛を囁くなんて一度もなかったことなどなど、とりあえず、一通りのことは話したつもりだ。話している最中、くーちゃんとあーちゃんは悶えはしたものの、止めようとはしなかったので、話しても良かったのだろう。


「決めましたわ。ユーカ。わたくしは、ユーカの専属護衛になりますわっ」

「専属護衛? えっ? 何で!?」


 仮にも一国の王女であるアマーリエさんが、なぜ護衛になるという話になるのか分からない私は、混乱しながら咄嗟に聞き返す。


「もちろん、わたくしの罪滅ぼしもありますが、身内の尻拭いの面もありますわよ」

「尻拭い?」

「片翼を鎖で繋ぐなんて、言語道断ですわっ。ですから、ユーカはわたくしが守って差し上げますのっ」


 どうやら、アマーリエさんは、もうすでに私が許してしまった鎖で繋いでいたという事実が許せないらしい。熱く燃えているその様子に、私は助けを求めるべく、マーサへと視線を移すと、マーサは私を安心させるように大きくうなずく。


「アマーリエ様ならば、戦いになっても問題はないでしょう。それに、狐や狸の駆除にも役立ちます」

「いや、私はアマーリエさんを止めてほしかったんだけれどっ!?」


 意図したこととは正反対のことを告げたマーサに、私は思わず突っ込む。けれど、マーサは首をかしげるのみで、私の意思を理解してくれている様子はない。


「ニャア」

「はい、覚悟はしてますわ。この命にかえましても、ユーカのことは守ります」

「ニャ」

「ありがとうございます。お兄様」


 そして、アマーリエさんはアマーリエさんで、あーちゃんと何やら話しを勝手に進めてしまっている。


「ユーカ。お兄様の許可はいただけましたわ。本日より、わたくしがユーカの正式な護衛になりますので、よろしくお願いいたします」

「何でこうなるの!?」


 どこか嬉しそうに告げてくる美女に、私は押されて押されて……結局、護衛の許可を出すことしかできなかった。


「さっ、では、ユーカ。今日はもう眠った方が良いですわ。明日は朝から忙しいですからね。お父様やお母様も来られることですし」

「えっ? それ、聞いてないよ!?」

「ユーカお嬢様。それでは、お休みなさいませ」


 最後の最後で爆弾発言を残していったアマーリエさんは、マーサとともにさっさと退出してしまい、私は悶々とした気分で、くーちゃんとあーちゃんとともに眠ることになるのだった。
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