私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

文字の大きさ
上 下
102 / 173
第六章 建国祭

第九十八話 罪と罰

しおりを挟む
 何となく疲れた晩餐会を終えて、部屋へ戻ろうとしたところ、私はハミルさんに呼び止められる。


「ユーカ、ちょっと良いかい?」


 そのハミルさんの顔は真剣そのもので、私も自然と表情が引き締まる。


「はい。何ですか?」


 何か、マナーでおかしなところでもあっただろうかと緊張していると、ハミルさんは言いにくそうに口を開く。


「その……ユーカ、もしも、女狐やら古狸やらに会ったら、遠慮なく僕の名前を出して良いからね?」

「女狐、古狸……?」

「うん、一応、マーサ達にも気をつけるようには言ってるし、護衛もつけるけど、今回はユーカのことを賓客として呼んでるから、そんな奴らに会う可能性もあるんだ」


 良く話が見えないけれど、要するに、この城には女狐やら古狸やらと称されてしかるべき人物が出入りするということなのだろう。そして、そのことをハミルさんは心配してくれている、と。


「分かりました。できるだけ穏便に対処してみますね」

「いや、必ずしも穏便である必要はないよ。ユーカの安全の方が優先だから」


 ハミルさんの真剣なその表情に、どうやら本気でそう言っているということが伺える。けれど……。


「私は、ハミルさんに色々と抱え込んでほしくないので、穏便を心がけます」


 きっと、ハミルさんが登場する事態となれば、それは大事に発展する。ハミルさんは、周りからは冷酷無比だとか言われているらしいし、気にもしないかもしれないけれど、私はハミルさんに心穏やかに過ごしてほしいのだ。そのためなら、穏便な対処を心がけることくらい、何でもない。


「ユーカ……! 分かったよ。でも、そいつらに対抗できる護衛は必ずつけるから」

「はい。そこは、よろしくお願いしますね」


 そうして、私はハミルさんと別れて部屋へ戻ることとなった。今日はくーちゃんとあーちゃんの二匹と一緒に眠れるらしいので、正体を知らなければ純粋に楽しみだったのだろうなと思いつつ、出迎えたマーサに夜着への着替えを手伝ってもらう。


「ふぅ、ドレスって大変なんだね」


 やはり、さんづけと敬語を禁止された私は、メアリー達に話しかけるのと同様の話し方でマーサと接する。


「ですが、これもおしゃれです。そのうち、ハミル坊っちゃんを悩殺できるお衣装も揃えましょうねっ」

「悩さ……い、いやいやいや、それは、必要ないよっ」

「まぁまぁっ、余計なことを申しました。私としたことが……ユーカお嬢様なら、そのような装いをせずとも、十分、ハミル坊っちゃんを悩殺できますものね」

「いやいやいやっ! それこそあり得ないからっ!」


 なぜだろう。私につく専属侍女達は、揃いも揃ってどこか話を聞かないところがある気がする。
 脳裏に、ララとリリ、そして、メアリーが鞭を持っているところを思い浮かべた私は、フルフルと首を振って、その想像を振り払う。

 と、そうやって和気藹々(?)とマーサとの会話をしていると、小さなノック音が部屋に響く。


「? このような時間にどなたでしょうか? 少し失礼しますね?」


 入室許可を出そうとすれば、マーサに止められて、先に確認をしてもらうことになる。そうして、外に出たマーサが連れて来たのは……。


「……アマーリエさん?」


 おずおずと入ってきた彼女は、灰色の髪に赤い瞳を持つ姿形は美女なのに、内面はどこか可愛らしい女性。かつて、私がお茶会の席で魔法を使って吹き飛ばしてしまった、ハミルさんの妹だった。


「ぁ……えっと……その、ですね……」


 私を前に、モジモジとするその様子は、どうにも可愛くて仕方がない。ただ、私はアマーリエさんに一つだけ、言わなければならないことがあった。


「アマーリエさん。一つ、良いですか?」

「はっ、はぃっ」


 ビクンと顔を上げて、涙目になっている様子のアマーリエさんに私は少し狼狽えながらも、ずっと言いたかったことを口にする。


「初めて会った時は、風で吹き飛ばしてしまって、すみませんでしたっ」

「……ほぇ?」


 勢い良く頭を下げれば、アマーリエさんはしばらくの沈黙の後、何とも言えない可愛らしい声で鳴く。


「へっ? えっ? ち、ちょっと、あなたっ、顔を上げてっ!」

「は、はいっ!」


 やはり、怒らせてしまっただろうかと思いながら顔を上げると、なぜか真っ青なアマーリエさんが居た。そして、そのすぐ側に居るマーサは、何だか雰囲気が怖い。


「わ、わたくしは、その、この前のことを謝ろうと思って……それなのに、なぜあなたの方が謝るんですのっ!」

「えっと……?」

(謝る? ……何か謝られるようなこと、されたっけ?)


 やけに必死な様子のアマーリエさんの言動に、内心首をかしげていると、アマーリエさんはおもむろに土下座する。


「えっ? えっ? アマーリエさんっ!?」


 その姿が、どうにも先ほどのハミルさんと重なって、私は大慌てで止めさせようとするけれど、その前に、アマーリエさんは謝罪を開始した。


「あの時は、何も知らないのに、勝手に罵ってしまって申し訳ありませんわっ!!」

「えっ? あのっ」

「罰は覚悟の上。お兄様の片翼を罵倒したのですものっ。どんなにつらくとも耐えてみせますわ」

「えっとぉ?」

「どうか、わたくしを気のすむまで叩いてくださいませっ」

「えぇぇぇっ!?」


 まさかの罰を求めるという発言に、私は混乱して、近くにいたマーサへと助けを求める視線を送る。すると……。


「ユーカお嬢様。もちろん、鞭は預かっておりますので、どうぞご存分に」


 おもむろに鞭を差し出してきたマーサに、私は絶望しながらも、必死に二人を説得することになったのだった。
しおりを挟む
お気に入り登録や感想を、ありがとうございます。これを励みに楽しく更新していきますね。
感想 273

あなたにおすすめの小説

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

転生先は男女比50:1の世界!?

4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。 「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」 デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・ どうなる!?学園生活!!

私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる
恋愛
不憫系男子をこよなく愛するヒロインの恋愛ストーリーです。 私は確か、日本人のおばさんだったはずなんですが、気がついたら西洋風異世界の貴族令嬢になっていました。 せっかく美しく若返ったのだから、人生勝ち組で楽しんでしまいましょう。 そう思っていたのですが、自分らしき令嬢の日記を見ると、クラスメイトの男の子をいじめていた事が分かって……。 正義感強いおばさんなめんな! その男の子に謝って、きっとお友達になってみせましょう! 画像はフリー素材のとくだ屋さんからお借りしました。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

処理中です...