私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

文字の大きさ
上 下
100 / 173
第六章 建国祭

第九十六話 楽しみなこと

しおりを挟む
 建国祭は三日に渡って行われる。一日目は建国を祝い、魔王からの挨拶と建国神話の演劇、そして、屋台が立ち並ぶ。二日目は、屋台はもちろん、様々な出し物が行われる。三日目は、引き続き屋台と、武闘大会や魔法大会といった各種大会が行われ、最後に魔王からの挨拶があって終わりという流れらしい。

 素敵な部屋に案内してもらい、マーサさんがジークさんを連れて他の場所へ案内しに行っている間、私はハミルさんにそんな説明を受けていた。


「じゃあ、ハミルさんは最初と最後の挨拶がお仕事ですか?」

「うん、そうなるね。通常なら、三日目の各種大会にも顔を出すんだけどね、今回はユーカを案内したいから、そちらを優先させたんだ」

「えっ!? 大丈夫なんですか?」


 まさか、私のせいで誰かに無理をさせてしまったのではないかと青ざめていると、ハミルさんは慌てる。


「大丈夫だよっ。顔を出すと行っても、特に仕事らしい仕事はないし、あったとしても十分代行を立てられる状態だったからねっ。皆、嬉々として受け入れてくれたんだよっ」


 リーアさんに紅茶を注がれながら、懸命に弁明するハミルさんの様子に、私はホッとする。どうやら、私の心配は無用だったらしい。


「それより、ユーカはどこか行きたいところはあるかな? これが、簡単にまとめた屋台の一覧と、出し物の一覧、後、大会の一覧もあるよ」

「えっと、ハミルさんはどのくらい時間を取れるんですか?」

「うん? 僕は、挨拶以外は全部の時間をユーカに使う予定だよ」


 お祭りなんて初めてで、かなり浮き立つ心を懸命に抑えながら尋ねてみると、ハミルさんは随分自由に動けるらしいことが分かる。


「まぁ、でも、ジークはもしかしたら途中で抜けるかもしれないね」

「ジークさんが、ですか?」

「うん、あいつは、そろそろ社交シーズンだから、準備が忙しいはずなんだ。謁見も多いだろうしね。だから、ユーカは建国祭が終わっても、しばらくはここに滞在してね」

「えっ!?」


 てっきり、建国祭の時だけの滞在になると思っていた私は、ハミルさんの言葉に驚く。ただ、そんな反応に、ハミルさんは途端に悲しそうな顔になる。


「ユーカは、ここに滞在するのは嫌かい?」


 目の錯覚だとは分かっているけれど、ハミルさんの頭には、シュンと垂れた犬耳が見えるかのようだった。


(その顔は、ズルいっ)


 元々、ただ驚いただけだった私は、ハミルさんの表情にほだされる形でフルフルと首を横に振る。


「そんなことないです。ただ、驚いただけで……」

「良かった! それじゃあ、この城に居る間は、一緒に楽しく過ごそうねっ」


 途端に明るくなったハミルさんの頭には、やはりピンと立った犬耳が見えるようだ。そのうち、ブンブンと振られる尻尾も見えるのではないかと思うけれど、とりあえず視線を下に下ろしてはいけないと言い聞かせてハミルさんの顔を見ることにする。


「ふふっ、ユーカと一緒に城で過ごせるなんて、夢みたいだ」

「えっと、ありがとうございます?」


 どう返すのが正解なのかは分からないけれど、とりあえずそう返すと、ハミルさんはその笑みを深める。


「それじゃあ、一緒に行きたい場所を選んでみようか?」


 そうして、しばらくはハミルさんとともに、ここが良さそうだとか、あそこが面白そうだとか話し合うのだった。


「ハミル坊っちゃん。そろそろ……」

「もう、そんな時間か……ごめんね、ユーカ。僕はそろそろ仕事に戻らないといけないみたいだ。夕食は一緒に摂れるようにするから、待っててくれるかい?」

「は、はいっ」


 仕事に戻らなければならないというのは少し残念ではあったけれど、夕食を一緒に摂ってくれるらしいとの言葉に、私は一瞬で舞い上がる。今までずっと一人の食事で、少し寂しかったのだ。


「あっ、でも、私、マナーとか分からなくて……」

「うーん、それは気にしなくて良いんだけど……もしどうしても気になるようだったら、ここに居るリーアか、後から来るだろうマーサに教えてもらうと良いよ」

「っ、はいっ、ありがとうございますっ」


 『気にしなくても良い』と言われても気になるのが私だ。そんな私のことを考えて、提案してくれたハミルさんに、私は満面の笑みで感謝を告げる。


「……不味い、ユーカが可愛い。仕事行きたくない……」

「? 何か言いましたか? ハミルさん?」

「い、いや、何でもないよ。それじゃあ、また後でね」

「はい、待ってますね」

(夕食、楽しみだなぁ)


 なぜかチラチラと私の方を何度も振り返るハミルさんを見送って、いざ、マナーを教えてもらおうとリーアさんに向き直ると、なぜか、リーアさんはギラッギラな目で私を見ていた。


「リ、リーアさん?」

「さぁ、マナーの前に準備の方を済ませてしまいましょうね」


 そう言うやいなや、リーアさんがパチンと指を鳴らすと、そこには、リーアさんそっくりな人が五人ほど現れていた。


「これぞ、我が家に伝わる秘術、分身の術です。これで、ユーカお嬢様をスベスベに磨きあげて、お支度をさせていただきますね」


 猛烈に嫌な予感はしたものの、なぜか足は全く動かない。まさに、蛇に睨まれた蛙状態で、あれよあれよという間に、私はリーアさんによって洗われ、磨かれ、塗られ、マッサージされ、そうしてドレスの着付けまで行われるのだった。
しおりを挟む
お気に入り登録や感想を、ありがとうございます。これを励みに楽しく更新していきますね。
感想 273

あなたにおすすめの小説

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる
恋愛
不憫系男子をこよなく愛するヒロインの恋愛ストーリーです。 私は確か、日本人のおばさんだったはずなんですが、気がついたら西洋風異世界の貴族令嬢になっていました。 せっかく美しく若返ったのだから、人生勝ち組で楽しんでしまいましょう。 そう思っていたのですが、自分らしき令嬢の日記を見ると、クラスメイトの男の子をいじめていた事が分かって……。 正義感強いおばさんなめんな! その男の子に謝って、きっとお友達になってみせましょう! 画像はフリー素材のとくだ屋さんからお借りしました。

転生先は男女比50:1の世界!?

4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。 「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」 デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・ どうなる!?学園生活!!

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

処理中です...