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第六章 建国祭
第九十五話 リアン魔国
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自分の気持ちを自覚した結果、私はまたしばらくジークさんとハミルさんの前ではギクシャクとしたけれど、それ以上に二人と居られることが嬉しかった。ジークさんがルーシャさんを好きなのではないかという疑惑も、ロリコン疑惑も晴れて、それに安心したというのも大きい。そして、今日は……。
「ようこそ。リアン魔国へ」
大きな黒いお城の前で、おどけたように告げるハミルさん。
そう、私は今、リアン魔国に来ていた。
「えっと、お招きいただき、ありがとうございます?」
「ふふっ、そんなに固くならなくて良いよ。ユーカ。今回は、ユーカに建国祭を楽しんでもらいたくて呼んだんだからね」
「……できれば、馬車で移動したかったがな」
背後に居たジークさんの不機嫌そうな声に、ハミルさんは唇を尖らせる。
「そんなこと言って、二人でイチャイチャするつもりだったんでしょっ。僕は散々仕事を頑張ってきたんだから、ジークじゃなくて僕にご褒美があってしかるべきだと思うんだ」
そんなハミルさんの反論に、私は数日前のできごとを思い出す。
(確か、転移魔法で一気にリアン魔国に飛ぼうっていうのがハミルさんの意見で、馬車でゆっくり向かおうっていうのがジークさんの意見だったよね)
転移魔法では私と二人っきりの時間が取れないと考えるジークさんと、馬車では自分がのけ者にされてしまうと考えるハミルさんとで、意見が真っ向から対立したのだ。とはいえ、結果としてはハミルさんの意見に軍配が上がった。
ジークさんは普段から同じ城に居る私と触れ合う機会が多いから、今回は譲れみたいな流れだったと思う。
「……せっかく、ユーカと二人っきりで旅ができると思ったのに……」
「やっぱりそれが狙いじゃないかっ!」
残念そうにするジークさんと突っ込みを入れるハミルさんの様子を微笑ましく観察していると、ふいに、誰かの熱い視線らしきものを感じてそちらの方へと視線を向ける。
「「じーっ」」
そこには、黒を基調としたメイド服を着た魔族の少女二人が、私達の方をキラキラとした目で眺めていた。
「あの、ハミルさん、あそこに居る人達は……?」
「ん? あぁ、マーサ、リーア、おいで」
ジークさんと言い合っていたハミルさんは、すぐに私の視線の先を辿って、二人を呼び寄せる。そして、こちらにその二人が来たことで分かったのだけれど……そのキラキラとした視線の先は、どうやら私のようだった。
「あなた様が、ハミル坊っちゃんの片翼様ですねっ!」
「きゃあっ、どこもかしこも小さくて可愛らしいお方っ! ハミル坊っちゃんっ、絶対、ぜーったいっ、逃してはなりませんよっ!」
「うん、もちろんだよ。でもね、リーア。ユーカは――――」
「小さい、私、小さい……ふふふふっ、そっかぁ、小さいかぁ……」
二人して赤い髪をしたマーサとリーアに興味を持たれているのは分かっていたけれど、まさか初めに強烈な一撃を食らうことになるとは思わなかった。これでも、ちゃんと食事をするようになって、少しは身長も伸びた気がするのだ。ただ、この世界の人達は大きい。全体的に、男性は二メートル超えは普通だし、女性でも百七十センチでも低いくらいだ。百五十センチに届かない……もしくは、届いているかもしれないと思われる程度の私では、そもそも比べ物にならないのだ。
「……カ、ユーカっ、戻ってきてっ!」
「はっ、私は、いったい何を……?」
『小さい』という言葉に過剰反応したことは覚えているものの、そこから先の記憶が曖昧だ。別に、場所が変わっているということはないのだけれど、私に対して『小さい』発言をした方の少女が土下座をしていることが気になる。
「ほんっとーに、申し訳ありませんでしたぁっ!!」
「えっ? えっ?」
「あー、うん、もう大丈夫みたいだから、顔を上げようか、リーア」
「は、はい」
どうやら、『小さい』発言をした少女はリーアというらしい。マーサとリーアは、髪の色こそ似ているものの、顔立ちは、マーサが美人と呼ばれるものであるのに対して、リーアは可愛いと呼ばれるものだ。似ているパーツも見当たらないことから、恐らくは姉妹ではないのだろう。
「リーアの失言については、僕も謝るよ。ごめんね。ユーカ」
「いえ、私も大人げなかったです。すみません」
なぜかリアン魔国に着いて早々、謝罪し合うことになる私達。その事実に少し笑い合って、私達はようやく城の方へと向かい始める。
「ここはエーテ城という名前の城でね、ジークのところのマリノア城とは双子の城だと言われているんだ」
「双子のお城、ですか?」
マリノア城は、内部を散策することはあっても、外から眺めたことがないため、ハミルさんの言葉にはいまいちピンとこない。
「うん、何でも、双子の建築家がそれぞれに建てた城で、外観も、内部構造もとても良く似てるんだ」
そうして案内されてみると、なるほど、確かに、調度品の違いや色の違いこそあれ、造りはとても覚えのあるものだった。
双子の建築家の逸話や、マーサとリーアが私につける専属侍女だという紹介やらを聞いてしばらくすれば、私には見覚えのない区画へと案内される。
「こっちは、賓客をもてなすための場所でね、マリノア城ではプライベート区画の外にあたるから、覚えはないかもね」
そうして、賓客用だと言われた部屋の扉を開けられると、そこはクリスタルフラワーが飾られ、猫のぬいぐるみが置かれた、少し可愛らしい部屋だった。
「ようこそ。リアン魔国へ」
大きな黒いお城の前で、おどけたように告げるハミルさん。
そう、私は今、リアン魔国に来ていた。
「えっと、お招きいただき、ありがとうございます?」
「ふふっ、そんなに固くならなくて良いよ。ユーカ。今回は、ユーカに建国祭を楽しんでもらいたくて呼んだんだからね」
「……できれば、馬車で移動したかったがな」
背後に居たジークさんの不機嫌そうな声に、ハミルさんは唇を尖らせる。
「そんなこと言って、二人でイチャイチャするつもりだったんでしょっ。僕は散々仕事を頑張ってきたんだから、ジークじゃなくて僕にご褒美があってしかるべきだと思うんだ」
そんなハミルさんの反論に、私は数日前のできごとを思い出す。
(確か、転移魔法で一気にリアン魔国に飛ぼうっていうのがハミルさんの意見で、馬車でゆっくり向かおうっていうのがジークさんの意見だったよね)
転移魔法では私と二人っきりの時間が取れないと考えるジークさんと、馬車では自分がのけ者にされてしまうと考えるハミルさんとで、意見が真っ向から対立したのだ。とはいえ、結果としてはハミルさんの意見に軍配が上がった。
ジークさんは普段から同じ城に居る私と触れ合う機会が多いから、今回は譲れみたいな流れだったと思う。
「……せっかく、ユーカと二人っきりで旅ができると思ったのに……」
「やっぱりそれが狙いじゃないかっ!」
残念そうにするジークさんと突っ込みを入れるハミルさんの様子を微笑ましく観察していると、ふいに、誰かの熱い視線らしきものを感じてそちらの方へと視線を向ける。
「「じーっ」」
そこには、黒を基調としたメイド服を着た魔族の少女二人が、私達の方をキラキラとした目で眺めていた。
「あの、ハミルさん、あそこに居る人達は……?」
「ん? あぁ、マーサ、リーア、おいで」
ジークさんと言い合っていたハミルさんは、すぐに私の視線の先を辿って、二人を呼び寄せる。そして、こちらにその二人が来たことで分かったのだけれど……そのキラキラとした視線の先は、どうやら私のようだった。
「あなた様が、ハミル坊っちゃんの片翼様ですねっ!」
「きゃあっ、どこもかしこも小さくて可愛らしいお方っ! ハミル坊っちゃんっ、絶対、ぜーったいっ、逃してはなりませんよっ!」
「うん、もちろんだよ。でもね、リーア。ユーカは――――」
「小さい、私、小さい……ふふふふっ、そっかぁ、小さいかぁ……」
二人して赤い髪をしたマーサとリーアに興味を持たれているのは分かっていたけれど、まさか初めに強烈な一撃を食らうことになるとは思わなかった。これでも、ちゃんと食事をするようになって、少しは身長も伸びた気がするのだ。ただ、この世界の人達は大きい。全体的に、男性は二メートル超えは普通だし、女性でも百七十センチでも低いくらいだ。百五十センチに届かない……もしくは、届いているかもしれないと思われる程度の私では、そもそも比べ物にならないのだ。
「……カ、ユーカっ、戻ってきてっ!」
「はっ、私は、いったい何を……?」
『小さい』という言葉に過剰反応したことは覚えているものの、そこから先の記憶が曖昧だ。別に、場所が変わっているということはないのだけれど、私に対して『小さい』発言をした方の少女が土下座をしていることが気になる。
「ほんっとーに、申し訳ありませんでしたぁっ!!」
「えっ? えっ?」
「あー、うん、もう大丈夫みたいだから、顔を上げようか、リーア」
「は、はい」
どうやら、『小さい』発言をした少女はリーアというらしい。マーサとリーアは、髪の色こそ似ているものの、顔立ちは、マーサが美人と呼ばれるものであるのに対して、リーアは可愛いと呼ばれるものだ。似ているパーツも見当たらないことから、恐らくは姉妹ではないのだろう。
「リーアの失言については、僕も謝るよ。ごめんね。ユーカ」
「いえ、私も大人げなかったです。すみません」
なぜかリアン魔国に着いて早々、謝罪し合うことになる私達。その事実に少し笑い合って、私達はようやく城の方へと向かい始める。
「ここはエーテ城という名前の城でね、ジークのところのマリノア城とは双子の城だと言われているんだ」
「双子のお城、ですか?」
マリノア城は、内部を散策することはあっても、外から眺めたことがないため、ハミルさんの言葉にはいまいちピンとこない。
「うん、何でも、双子の建築家がそれぞれに建てた城で、外観も、内部構造もとても良く似てるんだ」
そうして案内されてみると、なるほど、確かに、調度品の違いや色の違いこそあれ、造りはとても覚えのあるものだった。
双子の建築家の逸話や、マーサとリーアが私につける専属侍女だという紹介やらを聞いてしばらくすれば、私には見覚えのない区画へと案内される。
「こっちは、賓客をもてなすための場所でね、マリノア城ではプライベート区画の外にあたるから、覚えはないかもね」
そうして、賓客用だと言われた部屋の扉を開けられると、そこはクリスタルフラワーが飾られ、猫のぬいぐるみが置かれた、少し可愛らしい部屋だった。
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