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第五章 戻った日常?
閑話 縛られたハミルトン(ハミルトン視点)
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時系列は、第八十八話と第八十九話の間のお話です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ユーカとぜひとも建国祭に招待したいと思って、それでも、あーちゃんの正体がバレてしまったことから、無理かもしれないと苦悩しながら、僕は懸命に仕事をこなしていた。ユーカとの時間を取るために、仕事を早く終わらせたい一心で、書類仕事や謁見をこなしていく。建国祭が終われば、視察がいくつか入っているため、そのための書類にも目を通さなければならない状態で、目まぐるしく時間が過ぎていく。
「ロウ、後はどのくらい残ってる?」
仕事の残り具合を確認する頃にはすでに日が落ち、暗くなりつつあった。
「はい。書類に関しましては、急ぎのものはございません。それ以外の書類も、ほぼ終了しております。後は、謁見の申し込みと婚約者候補を決めるための夜会の開催などがそれぞれ残っておりますね」
「謁見はともかく、婚約者候補を決めるための夜会なんて、僕は許可してないよ」
「はい。ですが、元老院の方がやかまし、いえ、失礼。少々煩く、強引に決めたようです」
ユーカが居るのに、婚約者など冗談ではない。僕は、魔力を溢れさせそうになるのをどうにか我慢して、元老院へどうやり返してやろうかと思案する。
「もし、片翼様の許可があれば、お二人でその夜会に参加されるのはいかがでしょう?」
「うーん、確かに、元老院への当てつけにはなるけど……ユーカが危険に晒されるかもしれないって考えるとなしだよね」
「陛下は、片翼様を守る自信がないと?」
「そんなことは言ってないよっ。でも、狐と狸が化かし合っているような場所にユーカを連れていきたくなんてない。もちろん、ずっとそう言ってられるわけじゃないことくらい分かってるけど……せめて、契りを結べるくらいまでの状態になってからにしたい」
「出過ぎたことを申しました」
「ううん、良いよ」
黄色の頭を下げるロウに、僕は苦笑気味に告げる。ロウの言うことは間違っていないのだから、謝る必要などない。
「それじゃあ、ロウはそろそろ下がって――――」
『下がって良い』と言いかけたその時、窓からコツコツという音が響く。ふっとそちらへ視線を向ければ、そこには二十センチくらいのふっくらとした白い鳥が窓を叩いていた。
「クルッポー速達?」
可愛らしいその鳥は、クルッポーという名の魔鳥で、主に緊急の手紙のやり取りに使われる。誰からの手紙かは分からないものの、急いで確認すべきだろう。
窓を開け、足に結びつけられている便箋を取り上げると、すぐにその手紙へと目を通す。
「……っ!?」
手紙はジークフリートからのもので、書かれている内容は、ユーカが倒れたというものだった。
「ロウっ! 僕は今すぐ、マリノア城へ向かうっ」
「片翼様に何かおありだったのですか?」
「ユーカが倒れたって。心配はないとは書いてあるけど、今すぐ行かないと気がすまないんだっ」
「承知いたしました。後のことはお任せを」
「頼むよっ」
ロウに仕事を増やしてしまった罪悪感はあれど、僕はユーカのことが心配でならなかった。即座に転移を発動させてマリノア城前まで来ると、制止する執事を振り切り、さっさとユーカの部屋の前まで来る。しかし……。
「こんな夜遅くに、淑女の部屋を訪ねるのは失礼ですよっ」
ピシィッと鞭を鳴らして佇むリリ。
「ユーカお嬢様の安眠を邪魔する方は、誰であろうと容赦はいたしません」
不気味なまでの無表情で告げるララ。
「ハミルトン様、どうか、お引き取り願います」
丁寧な口調で、しかし、魔力はあまりないはずなのに、異様な威圧感を漂わせるメアリー。
彼女ら三人に囲まれた僕は、本能的に逆らうと不味いとは思ったものの、ユーカへの心配がそれを上回る。
「僕は、ユーカの様子を見にきただけだよ」
前に夜中にユーカのベッドへ侵入した時にはなかった出迎えを疑問に思うことなくそう告げると、次の瞬間、一斉に鞭が三方向から飛んでくる。
「っ!」
咄嗟に避けるものの、なぜか、彼女達の鞭の扱いは上手い。巧みに僕が進む方向を鞭で遮り、ビシバシと音を立てていく。そして……。
「今入れば、ユーカお嬢様に嫌われますよ?」
ララのその一言が、決定的だった。あまりにも強烈な一言に、動きを止めた僕を、鞭は一斉に襲いかかってきて……とうとう、僕を縛り上げた。
「くっ、何で、そんなことが言えるんだいっ?」
鞭で縛られたとしても何とかなると高をくくっていた僕は、なぜか魔法が使えなくなっていることに内心慌てる。
「ユーカお嬢様は、ここ最近眠れてませんっ。それをハミルトン様が起こすなど、言語道断ですっ」
「ユーカお嬢様は、もしかしたら広いお心で許されるかもしれませんが、ハミルトン様はユーカお嬢様に負担をかけるおつもりですか?」
「今夜だけは、邪魔者が入らないようにしたいと、私達全員で警戒していたのですから、ハミルトン様は諦めてくださいね」
初めて知らされたユーカが眠れていないという情報に驚く間もなく、彼女達は的確に僕の心を折っていく。
「さぁ、お帰りになってくださいますよね?」
ただ、メアリーからのその言葉に、僕は首を横に振った。
「いや、せめてここで、ユーカが目覚めるのを待たせてほしい」
それは、僕ができる最大限の譲歩で……しかし、次の瞬間、三人から獰猛な気配が感じられて、思わず顔を引きつらせそうになる。リアン魔国の魔王たる、この僕が、だ。
「承知いたしました。では、物音を立てないために、猿轡を用意いたしましょう」
「はい、メアリー」
なぜか常備していたらしい猿轡をメアリーに渡すララ。
「私は、鞭でしっかり縛っておきますねっ」
もう縛られているのだが、それよりもさらにグルグル巻きに縛り上げようとするリリ。
「えっ? えっ?」
縛られたまま動揺する僕に、彼女達は……容赦なく襲いかかった。ちなみに、やはり魔法は使えなくなっているため、きっとこの鞭には魔法を封じる鉱石が埋め込まれているのだろうと思われる。
「専属侍女、怖い……」
そうして僕は、朝になるまで床に転がされて、ユーカの姿を確認した後、再びやってきたララとリリに解放してもらった。
もう二度と、この専属侍女達を敵に回すまいと僕は決意し、ユーカと会うまでの時間、ジークにぶつくさと文句を言うのだった。
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ユーカとぜひとも建国祭に招待したいと思って、それでも、あーちゃんの正体がバレてしまったことから、無理かもしれないと苦悩しながら、僕は懸命に仕事をこなしていた。ユーカとの時間を取るために、仕事を早く終わらせたい一心で、書類仕事や謁見をこなしていく。建国祭が終われば、視察がいくつか入っているため、そのための書類にも目を通さなければならない状態で、目まぐるしく時間が過ぎていく。
「ロウ、後はどのくらい残ってる?」
仕事の残り具合を確認する頃にはすでに日が落ち、暗くなりつつあった。
「はい。書類に関しましては、急ぎのものはございません。それ以外の書類も、ほぼ終了しております。後は、謁見の申し込みと婚約者候補を決めるための夜会の開催などがそれぞれ残っておりますね」
「謁見はともかく、婚約者候補を決めるための夜会なんて、僕は許可してないよ」
「はい。ですが、元老院の方がやかまし、いえ、失礼。少々煩く、強引に決めたようです」
ユーカが居るのに、婚約者など冗談ではない。僕は、魔力を溢れさせそうになるのをどうにか我慢して、元老院へどうやり返してやろうかと思案する。
「もし、片翼様の許可があれば、お二人でその夜会に参加されるのはいかがでしょう?」
「うーん、確かに、元老院への当てつけにはなるけど……ユーカが危険に晒されるかもしれないって考えるとなしだよね」
「陛下は、片翼様を守る自信がないと?」
「そんなことは言ってないよっ。でも、狐と狸が化かし合っているような場所にユーカを連れていきたくなんてない。もちろん、ずっとそう言ってられるわけじゃないことくらい分かってるけど……せめて、契りを結べるくらいまでの状態になってからにしたい」
「出過ぎたことを申しました」
「ううん、良いよ」
黄色の頭を下げるロウに、僕は苦笑気味に告げる。ロウの言うことは間違っていないのだから、謝る必要などない。
「それじゃあ、ロウはそろそろ下がって――――」
『下がって良い』と言いかけたその時、窓からコツコツという音が響く。ふっとそちらへ視線を向ければ、そこには二十センチくらいのふっくらとした白い鳥が窓を叩いていた。
「クルッポー速達?」
可愛らしいその鳥は、クルッポーという名の魔鳥で、主に緊急の手紙のやり取りに使われる。誰からの手紙かは分からないものの、急いで確認すべきだろう。
窓を開け、足に結びつけられている便箋を取り上げると、すぐにその手紙へと目を通す。
「……っ!?」
手紙はジークフリートからのもので、書かれている内容は、ユーカが倒れたというものだった。
「ロウっ! 僕は今すぐ、マリノア城へ向かうっ」
「片翼様に何かおありだったのですか?」
「ユーカが倒れたって。心配はないとは書いてあるけど、今すぐ行かないと気がすまないんだっ」
「承知いたしました。後のことはお任せを」
「頼むよっ」
ロウに仕事を増やしてしまった罪悪感はあれど、僕はユーカのことが心配でならなかった。即座に転移を発動させてマリノア城前まで来ると、制止する執事を振り切り、さっさとユーカの部屋の前まで来る。しかし……。
「こんな夜遅くに、淑女の部屋を訪ねるのは失礼ですよっ」
ピシィッと鞭を鳴らして佇むリリ。
「ユーカお嬢様の安眠を邪魔する方は、誰であろうと容赦はいたしません」
不気味なまでの無表情で告げるララ。
「ハミルトン様、どうか、お引き取り願います」
丁寧な口調で、しかし、魔力はあまりないはずなのに、異様な威圧感を漂わせるメアリー。
彼女ら三人に囲まれた僕は、本能的に逆らうと不味いとは思ったものの、ユーカへの心配がそれを上回る。
「僕は、ユーカの様子を見にきただけだよ」
前に夜中にユーカのベッドへ侵入した時にはなかった出迎えを疑問に思うことなくそう告げると、次の瞬間、一斉に鞭が三方向から飛んでくる。
「っ!」
咄嗟に避けるものの、なぜか、彼女達の鞭の扱いは上手い。巧みに僕が進む方向を鞭で遮り、ビシバシと音を立てていく。そして……。
「今入れば、ユーカお嬢様に嫌われますよ?」
ララのその一言が、決定的だった。あまりにも強烈な一言に、動きを止めた僕を、鞭は一斉に襲いかかってきて……とうとう、僕を縛り上げた。
「くっ、何で、そんなことが言えるんだいっ?」
鞭で縛られたとしても何とかなると高をくくっていた僕は、なぜか魔法が使えなくなっていることに内心慌てる。
「ユーカお嬢様は、ここ最近眠れてませんっ。それをハミルトン様が起こすなど、言語道断ですっ」
「ユーカお嬢様は、もしかしたら広いお心で許されるかもしれませんが、ハミルトン様はユーカお嬢様に負担をかけるおつもりですか?」
「今夜だけは、邪魔者が入らないようにしたいと、私達全員で警戒していたのですから、ハミルトン様は諦めてくださいね」
初めて知らされたユーカが眠れていないという情報に驚く間もなく、彼女達は的確に僕の心を折っていく。
「さぁ、お帰りになってくださいますよね?」
ただ、メアリーからのその言葉に、僕は首を横に振った。
「いや、せめてここで、ユーカが目覚めるのを待たせてほしい」
それは、僕ができる最大限の譲歩で……しかし、次の瞬間、三人から獰猛な気配が感じられて、思わず顔を引きつらせそうになる。リアン魔国の魔王たる、この僕が、だ。
「承知いたしました。では、物音を立てないために、猿轡を用意いたしましょう」
「はい、メアリー」
なぜか常備していたらしい猿轡をメアリーに渡すララ。
「私は、鞭でしっかり縛っておきますねっ」
もう縛られているのだが、それよりもさらにグルグル巻きに縛り上げようとするリリ。
「えっ? えっ?」
縛られたまま動揺する僕に、彼女達は……容赦なく襲いかかった。ちなみに、やはり魔法は使えなくなっているため、きっとこの鞭には魔法を封じる鉱石が埋め込まれているのだろうと思われる。
「専属侍女、怖い……」
そうして僕は、朝になるまで床に転がされて、ユーカの姿を確認した後、再びやってきたララとリリに解放してもらった。
もう二度と、この専属侍女達を敵に回すまいと僕は決意し、ユーカと会うまでの時間、ジークにぶつくさと文句を言うのだった。
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