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第五章 戻った日常?
第九十二話 庭での邂逅
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ジークさんの居る場所へ、ということで、私とララとリリ、そしてライナードさんは、庭へと来ていた。
「ジークさんが執務室以外に一人で居るのって、珍しい気がする」
「ご主人様は、お仕事で出かけることも多いですが……確かに、夕夏お嬢様が来てからはあまり出かけられることはございませんでした」
(それ、私のせいじゃないよね?)
ララの淡々とした説明に不安を覚えながらも、とりあえず足だけは前に進める。
「ご主人様は、たまにリラックスするために庭の散策をなさいますよっ」
「そっか、ここのお庭は素敵だから、考えてみれば、それも当然だよね」
と、そんな話をしていると、そろそろ着くだろうという話になってくる。けれど……。
(ジークさんの声?)
どうやら、ジークさんは一人ではなかったらしい。もしかしたら、ハミルさんか、リド姉さん、ナリクさんのうちの誰かと居るのかもしれないと思って耳をすませば、すぐにそれは違うと分かる。
(女の人の、声……)
話している内容までは分からないものの、その声は確かに、女性のものだった。
「大丈夫ですよっ、ユーカお嬢様っ」
リリからはそんな風に励まされるものの、私の頭の中では、先ほど聞いたばかりの情報が渦を巻く。
(リラックスするための散策に、女の人が一緒……それって……)
悪い方に、悪い方にと思考がズレて行く中、ようやく二人の姿が見えるところまで来た。
(あっ……)
その瞬間、ジークさんは、蕩けるような甘い笑みを、その女性に、あの、オッドアイの美女へ向けているのを目撃してしまう。
(やっぱり、あの人とはそういう……)
ズキリ、ズキリと胸が痛む。覚悟はしていたはずなのに、いざ、目の前にその事実が突きつけられてしまえば、苦しくて苦しくて仕方がない。
私は、これ以上ジークさんの姿を見ていたくなくて、さっと反転し、一直線に駆け出す。
「「ユーカお嬢様!?」」
「ユーカ様!?」
後ろでララとリリ、そしてライナードさんの声がする。そして……。
「ユーカ!?」
ジークさんの慌てたような声も響いてきて、涙腺が緩むのを必死に抑える。今泣くのは、あまりにも惨め過ぎた。
走って走って、走り続けて……けれど、元々体力もなく、高い身体能力があるわけでもない私は、すぐにライナードさんとリリに追いつかれてしまう。
「ユーカお嬢様っ。いきなりどうしたんですっ?」
「ユーカ様、今は、部屋へ戻りませぬか?」
心配してくれる二人には申し訳ないけれど、今はまともに言葉をしゃべれる気がしない。気を抜けば、すぐに嗚咽が漏れてしまう。とにかく、返事だけはしなければと思い、ライナードさんの言葉にうなずいて、部屋へと連れていってもらう。
部屋へ戻ってからも泣き続ける私に、リリはメアリーを呼んできて、ともに私をなだめようとしてくれたり、ハンカチを貸してくれたりした。
(勝てっこない……)
初めから、勝負になんてなるはずもなかったのだと、今なら分かる。見た目からして、天と地の差があるのに、それでもジークさんを好きになった私が愚かだったのだ。
何も言わないまま泣き続ける私は、その後、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。そして……目が覚めると、そこには土下座をしたジークさんが居た。
「すまないっ、ユーカ!」
「…………」
いきなりの謝罪。けれど、その行動に、私は胸の痛みがぶり返すのを感じる。ジクジク、ズキズキ痛むそれに、私はまた涙が滲むのを感じる。
きっと、謝罪をするということは、私の気持ちをララ辺りが伝えたに違いない。私を追いかけて来なかったのはララだけなので、それしか考えられなかった。
「……良いですよ。ジークさんが悪いわけではないので」
その言葉を絞り出すのには、恐ろしく時間がかかった。もちろん、本音では、どうして私を見てくれなかったのかと問いただしたい。けれど、そんなことをする資格なんて、私には欠片も存在しないことだって分かっていた。ジークさんの厚意に甘えて、働くこともせずに穀潰し状態になっているだけの私が、振り向いてほしかったなどと、言えるわけがなかった。
「その、すまない。ユーカ。俺は、何が悪かったのかも分からないんだ。だが、ユーカが望むならばいくらでも謝るし、何でもする。だから、泣かないでくれ」
土下座したままに告げたジークさんの言葉に、私はぼんやりと、ララが私の気持ちを告げたわけではないことを知り、ホッとする。そして、同時にただただ悲しくて涙が後から後から溢れ出す。私の気持ちは、全く気づいてもらえてなかったことが、安堵と同時にどうしようもないほどの悲しみへと変換される。自分勝手だと分かっているのに、私はその感情を抑えることができない。
「何でもないんです。だから、だから……ごめんなさい」
「ユーカ……頼む。泣くわけを聞かせてくれ。俺は、ユーカを悲しませるものを放っておくわけにはいかない。それが例え、俺のことでも」
ジークさんは優しくそう言ってくれるけれど、今回ばかりは言うわけにはいかなかった。首を横に振り続ける私に、最終的にジークさんは諦めて、何か話せることがあれば、いつでも言ってほしいとだけ残して去っていった。
「ジークさんが執務室以外に一人で居るのって、珍しい気がする」
「ご主人様は、お仕事で出かけることも多いですが……確かに、夕夏お嬢様が来てからはあまり出かけられることはございませんでした」
(それ、私のせいじゃないよね?)
ララの淡々とした説明に不安を覚えながらも、とりあえず足だけは前に進める。
「ご主人様は、たまにリラックスするために庭の散策をなさいますよっ」
「そっか、ここのお庭は素敵だから、考えてみれば、それも当然だよね」
と、そんな話をしていると、そろそろ着くだろうという話になってくる。けれど……。
(ジークさんの声?)
どうやら、ジークさんは一人ではなかったらしい。もしかしたら、ハミルさんか、リド姉さん、ナリクさんのうちの誰かと居るのかもしれないと思って耳をすませば、すぐにそれは違うと分かる。
(女の人の、声……)
話している内容までは分からないものの、その声は確かに、女性のものだった。
「大丈夫ですよっ、ユーカお嬢様っ」
リリからはそんな風に励まされるものの、私の頭の中では、先ほど聞いたばかりの情報が渦を巻く。
(リラックスするための散策に、女の人が一緒……それって……)
悪い方に、悪い方にと思考がズレて行く中、ようやく二人の姿が見えるところまで来た。
(あっ……)
その瞬間、ジークさんは、蕩けるような甘い笑みを、その女性に、あの、オッドアイの美女へ向けているのを目撃してしまう。
(やっぱり、あの人とはそういう……)
ズキリ、ズキリと胸が痛む。覚悟はしていたはずなのに、いざ、目の前にその事実が突きつけられてしまえば、苦しくて苦しくて仕方がない。
私は、これ以上ジークさんの姿を見ていたくなくて、さっと反転し、一直線に駆け出す。
「「ユーカお嬢様!?」」
「ユーカ様!?」
後ろでララとリリ、そしてライナードさんの声がする。そして……。
「ユーカ!?」
ジークさんの慌てたような声も響いてきて、涙腺が緩むのを必死に抑える。今泣くのは、あまりにも惨め過ぎた。
走って走って、走り続けて……けれど、元々体力もなく、高い身体能力があるわけでもない私は、すぐにライナードさんとリリに追いつかれてしまう。
「ユーカお嬢様っ。いきなりどうしたんですっ?」
「ユーカ様、今は、部屋へ戻りませぬか?」
心配してくれる二人には申し訳ないけれど、今はまともに言葉をしゃべれる気がしない。気を抜けば、すぐに嗚咽が漏れてしまう。とにかく、返事だけはしなければと思い、ライナードさんの言葉にうなずいて、部屋へと連れていってもらう。
部屋へ戻ってからも泣き続ける私に、リリはメアリーを呼んできて、ともに私をなだめようとしてくれたり、ハンカチを貸してくれたりした。
(勝てっこない……)
初めから、勝負になんてなるはずもなかったのだと、今なら分かる。見た目からして、天と地の差があるのに、それでもジークさんを好きになった私が愚かだったのだ。
何も言わないまま泣き続ける私は、その後、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。そして……目が覚めると、そこには土下座をしたジークさんが居た。
「すまないっ、ユーカ!」
「…………」
いきなりの謝罪。けれど、その行動に、私は胸の痛みがぶり返すのを感じる。ジクジク、ズキズキ痛むそれに、私はまた涙が滲むのを感じる。
きっと、謝罪をするということは、私の気持ちをララ辺りが伝えたに違いない。私を追いかけて来なかったのはララだけなので、それしか考えられなかった。
「……良いですよ。ジークさんが悪いわけではないので」
その言葉を絞り出すのには、恐ろしく時間がかかった。もちろん、本音では、どうして私を見てくれなかったのかと問いただしたい。けれど、そんなことをする資格なんて、私には欠片も存在しないことだって分かっていた。ジークさんの厚意に甘えて、働くこともせずに穀潰し状態になっているだけの私が、振り向いてほしかったなどと、言えるわけがなかった。
「その、すまない。ユーカ。俺は、何が悪かったのかも分からないんだ。だが、ユーカが望むならばいくらでも謝るし、何でもする。だから、泣かないでくれ」
土下座したままに告げたジークさんの言葉に、私はぼんやりと、ララが私の気持ちを告げたわけではないことを知り、ホッとする。そして、同時にただただ悲しくて涙が後から後から溢れ出す。私の気持ちは、全く気づいてもらえてなかったことが、安堵と同時にどうしようもないほどの悲しみへと変換される。自分勝手だと分かっているのに、私はその感情を抑えることができない。
「何でもないんです。だから、だから……ごめんなさい」
「ユーカ……頼む。泣くわけを聞かせてくれ。俺は、ユーカを悲しませるものを放っておくわけにはいかない。それが例え、俺のことでも」
ジークさんは優しくそう言ってくれるけれど、今回ばかりは言うわけにはいかなかった。首を横に振り続ける私に、最終的にジークさんは諦めて、何か話せることがあれば、いつでも言ってほしいとだけ残して去っていった。
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