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第五章 戻った日常?
第九十一話 悩んで悩んで
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『ちょっと考えさせて』という一言を出すのは、とっても勇気が必要だった。何せ、メアリーとリリはすぐに私が執務室へ向かうものだと思って、期待に目を輝かせていたのだから。
部屋に戻って、一人になった私は、つい先ほど自覚したばかりの気持ちを再確認する。
(ジークさんが、好き……?)
ジークさんは、この世界で初めて会った人で、二度も命を救ってくれた恩人だ。最初の頃は険しい顔をしていたけれど、それはすぐに甘く蕩けるような微笑みに取って代わった。気を抜けばすぐにスキンシップを図ろうとするジークさんを、私はいったいいつから好きになったのだろう?
そんな疑問を抱くも、それには何となく、いつの間にか好きになったとしか答えようがないと思ってしまう。
(強く記憶に残ってることといえば、助け出された時のこと、なぜかジークさんが私と添い寝していたこと、後は……あの大雨の日のこと)
今思えば、ジークさんが添い寝をしていたのは、くーちゃんをベッドに引き込んだせいだと分かる。そして、その時のことを思い浮かべると、その時には感じなかった恥ずかしさやドキドキ感が襲いかかってくる。
(うん、きっと、添い寝をされた時は、まだそれほどジークさんのことを想ってなかったんだよね)
想っていたらきっと、あそこまで冷静な対応などできなかっただろう。
(大雨の日は……私、完全に取り乱してたよね)
雨と雷に記憶を刺激されて、とても苦しかったことを覚えている。
(けれど、ジークさんが来てくれた)
ジークさんは、私が眠るまで、取り乱す私をなだめてくれた。ただ、その後は別の意味で取り乱したけれど……。
(じゃあ、私、あの時にはもう、ジークさんのこと、好きだったの?)
けれど、それより前の記憶を遡って、違うと考える。
(違う。私は、片翼の意味を知った時からおかしかった)
視線を合わせるのも、声をかけられるのも、何だか緊張してしまっていた日々を思い出して、私は納得する。
(あぁ、そっか……私、あの時から二人を意識して…………二人?)
自然とジークさんとハミルさんの二人を思い浮かべていた私は、その言葉の意味に気づいて途端に焦る。
「ちょっと待って? 二人? 私、二人とも好きなの?」
声に出してみると、驚くほどストンとその考えが入ってくる。
(いやいやいや、二人はないっ。選ぶなら、どちらか……あれ? でも、私は両翼だから、二人を選ばないといけない? ……あれぇ?)
思考が混乱してきたところで、私は一度首を振り、そもそもの原点へと立ち返る。
(そう、そもそもは、あの女性が問題なんだよねっ)
そう、私がすべきことは、あの美女が何者なのかを問い詰めることだ。美女とジークさんが親しい仲だと思うだけでモヤモヤするのは、嫉妬だと認めよう。だから、今は、ハミルさんのことは後回しだ。
(二人……いや、うん、後回しっ)
中々に衝撃的なことだったため、つい考えそうになってしまうものの、後回しにしないと延々と考えることになりそうだった。
(私は、ここに居るだけで、お世辞にも誰かの役に立っているとは言えないし、胸も背も小さくて、可愛くないし……あれ? あの女性に勝てる要素が見当たらないよ?)
無理矢理思考を戻した影響か、どうにもネガティブな方向へと向かってしまう。
少なくとも、あの美女はジークと親しくしているし、胸も背も……というより、スタイル抜群で、美人だった。仕事が何かまでは知らないけれど、私みたいな穀潰しというわけではないだろう。
(こんなんで、ジークさんを盗られたくないなんて、言えないよ……)
あの美女が本当に恋のライバルだったら、勝てる見込みなんて薄い。いや、私が片翼という事実は変えられないはずだから、大丈夫なのだろうか?
片翼というものがどこまでも絶対的な存在なのだとは思えない私は、ふっわふわの白いウサギのぬいぐるみをギュウッと抱き締める。ぬいぐるみは、言わずもがな、ハミルさんにもらったものだ。
(でも、聞かなきゃ何も分からない、よね?)
聞きに行くのは、とても怖い。けれど、知らないままで苦しむのも嫌だった。
(もし、あの人がジークさんの大切な人だったら……)
私は、泣くかもしれないと思ってしまう。それくらいに、私はジークさんのことが好きなのだと自覚した。
一回、二回と深呼吸をして、私はゆっくり覚悟を決める。ベルを鳴らしてしばらく待てば、ララとリリがひょっこりと顔を出す。
「何のご用でしょうか? ユーカお嬢様」
「うん、ジークさんのところに行こうと思って……一緒に来てくれる?」
「承知いたしました」
「わっかりましたーっ」
護衛はライナードさんのまま変わってはいないようで、私は強い覚悟を胸にジークさんの元へと向かったのだった。
部屋に戻って、一人になった私は、つい先ほど自覚したばかりの気持ちを再確認する。
(ジークさんが、好き……?)
ジークさんは、この世界で初めて会った人で、二度も命を救ってくれた恩人だ。最初の頃は険しい顔をしていたけれど、それはすぐに甘く蕩けるような微笑みに取って代わった。気を抜けばすぐにスキンシップを図ろうとするジークさんを、私はいったいいつから好きになったのだろう?
そんな疑問を抱くも、それには何となく、いつの間にか好きになったとしか答えようがないと思ってしまう。
(強く記憶に残ってることといえば、助け出された時のこと、なぜかジークさんが私と添い寝していたこと、後は……あの大雨の日のこと)
今思えば、ジークさんが添い寝をしていたのは、くーちゃんをベッドに引き込んだせいだと分かる。そして、その時のことを思い浮かべると、その時には感じなかった恥ずかしさやドキドキ感が襲いかかってくる。
(うん、きっと、添い寝をされた時は、まだそれほどジークさんのことを想ってなかったんだよね)
想っていたらきっと、あそこまで冷静な対応などできなかっただろう。
(大雨の日は……私、完全に取り乱してたよね)
雨と雷に記憶を刺激されて、とても苦しかったことを覚えている。
(けれど、ジークさんが来てくれた)
ジークさんは、私が眠るまで、取り乱す私をなだめてくれた。ただ、その後は別の意味で取り乱したけれど……。
(じゃあ、私、あの時にはもう、ジークさんのこと、好きだったの?)
けれど、それより前の記憶を遡って、違うと考える。
(違う。私は、片翼の意味を知った時からおかしかった)
視線を合わせるのも、声をかけられるのも、何だか緊張してしまっていた日々を思い出して、私は納得する。
(あぁ、そっか……私、あの時から二人を意識して…………二人?)
自然とジークさんとハミルさんの二人を思い浮かべていた私は、その言葉の意味に気づいて途端に焦る。
「ちょっと待って? 二人? 私、二人とも好きなの?」
声に出してみると、驚くほどストンとその考えが入ってくる。
(いやいやいや、二人はないっ。選ぶなら、どちらか……あれ? でも、私は両翼だから、二人を選ばないといけない? ……あれぇ?)
思考が混乱してきたところで、私は一度首を振り、そもそもの原点へと立ち返る。
(そう、そもそもは、あの女性が問題なんだよねっ)
そう、私がすべきことは、あの美女が何者なのかを問い詰めることだ。美女とジークさんが親しい仲だと思うだけでモヤモヤするのは、嫉妬だと認めよう。だから、今は、ハミルさんのことは後回しだ。
(二人……いや、うん、後回しっ)
中々に衝撃的なことだったため、つい考えそうになってしまうものの、後回しにしないと延々と考えることになりそうだった。
(私は、ここに居るだけで、お世辞にも誰かの役に立っているとは言えないし、胸も背も小さくて、可愛くないし……あれ? あの女性に勝てる要素が見当たらないよ?)
無理矢理思考を戻した影響か、どうにもネガティブな方向へと向かってしまう。
少なくとも、あの美女はジークと親しくしているし、胸も背も……というより、スタイル抜群で、美人だった。仕事が何かまでは知らないけれど、私みたいな穀潰しというわけではないだろう。
(こんなんで、ジークさんを盗られたくないなんて、言えないよ……)
あの美女が本当に恋のライバルだったら、勝てる見込みなんて薄い。いや、私が片翼という事実は変えられないはずだから、大丈夫なのだろうか?
片翼というものがどこまでも絶対的な存在なのだとは思えない私は、ふっわふわの白いウサギのぬいぐるみをギュウッと抱き締める。ぬいぐるみは、言わずもがな、ハミルさんにもらったものだ。
(でも、聞かなきゃ何も分からない、よね?)
聞きに行くのは、とても怖い。けれど、知らないままで苦しむのも嫌だった。
(もし、あの人がジークさんの大切な人だったら……)
私は、泣くかもしれないと思ってしまう。それくらいに、私はジークさんのことが好きなのだと自覚した。
一回、二回と深呼吸をして、私はゆっくり覚悟を決める。ベルを鳴らしてしばらく待てば、ララとリリがひょっこりと顔を出す。
「何のご用でしょうか? ユーカお嬢様」
「うん、ジークさんのところに行こうと思って……一緒に来てくれる?」
「承知いたしました」
「わっかりましたーっ」
護衛はライナードさんのまま変わってはいないようで、私は強い覚悟を胸にジークさんの元へと向かったのだった。
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