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第五章 戻った日常?
第九十話 お悩み相談
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「それで、リドったら、わたくしが好きだからという理由だけで、リトルナイトだけの庭園を別邸に用意したんです。信じられませんでしょう?」
「すごいですね。リド姉さんがそこまでするなんて、レティさんはとっても愛されてるんですね」
「うふふ、そうね。わたくしもリドを愛していますし、相思相愛のおしどり夫婦です」
最初の緊張はどこへやら。ほんのりと頬を赤く染めたレティさんののろけ話を興味津々で聞いているうちに、いつの間にかレティさんとは打ち解けていた。
「ところで、ユーカちゃん。ユーカちゃんはどうなのですか?」
「どう、とは?」
「リドから聞きましたよ。あのジークフリートさんとハミルトンさんから求愛されているのだと」
『求愛』という直接的な言葉に、私は飲んでいた紅茶を吹き出しかける。
「え、えぇっと、その……」
「二人のことだから、さぞかし熱烈に求愛されているのでしょう? それこそ、夜も離してもらえないとか?」
そう言われて思い浮かぶのは、くーちゃんとあーちゃん姿の二人。
(うん、確かに、夜も離してもらえないのかも?)
レティさんが思っているのとは、かなり意味の違いがあるように思えるが、間違ってはいない。ただ、そんな時、チラリとあの美女の姿が脳裏を過り、ズクリと胸に痛みが走る。
「ユーカちゃん?」
「あっ、いえ、何でもないです」
私の様子に気づいたらしいレティさんに問われるものの、咄嗟にごまかすことを選ぶ。けれど……。
「何でもないという顔ではありませんよ。それに、精霊に嘘は通じません。もし、よろしければわたくしに話してみませんか?」
「えっと……」
話す、といっても、私自身、なぜ胸が痛むのか分からない。だから、何を話せば良いのかも分からなかった。
「すみません。その、何を話したら良いのかも分からなくて……」
「そうですねぇ……では、何があって、何を思ったのか、というのを話してくださいませんか? そうすれば、何か分かるかもしれません」
そう言われて、私はゆっくりと話してみる。ジークさんに、その日は来客があるから、部屋をあまり出ないでほしいと言われたこと。それでも許可をとって、一時的に外に出たこと。そこで、来客と思われる美女を目撃したこと。そして、それを見た時、胸が痛かったり、モヤモヤしたりしたこと。
静かに話を聞いていたレティさんは、私が話を終えると、ニッコリと微笑む。
「原因が分かりましたよ。ユーカちゃん」
「っ、本当ですか!?」
自分では分からなかったことを、あっさりと見抜いたらしいレティさんに、私は驚いて声を上げる。
「と、いっても、わたくしだけじゃなく、この話を聞いた者全員が分かっているのではないかしら?」
「えっ!?」
相変わらず優しく微笑むレティさんにそう言われて周りを見てみると、メアリーとリリはどこか嬉しそうにうなずき、ライナードさんは、気まずそうに目を逸らす。
(えぇっ!? 分からないの、私だけ!?)
どうやら、レティさんの言う通り、分かっていないのは私だけだったようだ。こんなことなら、もっと早くに相談すべきだったろうかと思っていると、レティさんはその笑みをいたずらっぽいものに変える。
「ユーカちゃんの抱えている感情。それは、ズバリ、嫉妬ですっ」
「しっと……?」
まるで初めて聞いた言葉のように、レティさんの言葉を繰り返した私は、しばらく呆然とする。
「そうです。きっと、ユーカちゃんはその女性とジークフリートさんが親密な関係であると予測したのでしょう?」
問われて、確かにその通りだと私はうなずく。
「だから、ユーカちゃんはジークフリートさんを取られたくないって、その女性に嫉妬したんです。胸の痛みも、モヤモヤも、嫉妬心から来るもので間違いないでしょう」
ニコニコと衝撃的な言葉を紡ぐレティさん。そこまで聞いた私は、ようやく、思考が戻り初めて……現状を認識して、ポンッと顔が熱くなる。
「……えっ? えっ? 嫉妬!? 私が!? それって、それって……」
(そんなの、まるで……)
嫉妬なんて、まるで、私がジークさんのことを……。
「随分と、ジークフリートさんのことを愛しているのですね」
「あっ、あいっ!?」
直球過ぎるその言葉に、すでに熱くなっていた頬は、さらに熱くなる。
「ふふっ、良かった。ユーカちゃんは、しっかりとジークフリートさんに想いを抱けているのですね」
そこで納得しないでほしい。そして、メアリーとリリは、手を取り合って喜ばないでほしい。できれば、ライナードさんみたいに、何も聞かなかったことにしてほしい。
そんな希望を抱きながらも、自分が嫉妬していたという考えに反論しかけて……言葉が出ないことに気づく。
(……あれ? もしかして、本当に、私……?)
嫉妬なんてしていない。そう言いかけた私は、自分の中に否定できる要素がないことに気づく。それどころか、ストンと納得できる答えであったことに、私は少しずつ焦りを覚える。
「わ、私は……」
「ユーカちゃん。ジークフリートさんは、ユーカちゃん以外見えてませんよ。その女性だって、仕事の関係上関わらなければならない相手だったなんてオチだと思いますしね」
「えっと……」
そう言われても、やはり気分は晴れずにグルグルモヤモヤとする。
(これが、嫉妬……?)
「どうしても気になるのであれば、直接聞いてみると良いです。魔族は、自身の片翼に弱いですから、ねだれば大抵のことはしてくれますよ」
「直接……」
(聞いて、答えてくれるのかな?)
「不安でしたら、わたくしも一緒に聞きに行って差し上げますよ?」
「い、え。一人で、大丈夫です」
レティさんを煩わせるわけにはいかないと、私は反射的にそう答えていた。
「では、善は急げ、です。わたくしはそろそろお暇させていただきますので、良い結果報告を期待していますね」
「えっ? あっ、はい」
何となく話の流れで聞きに行くことが決定してしまい、どうしようと思わなくもなかったけれど、今はレティさんの見送りが先だ。
レティさんが馬車に乗って帰っていく様子を見送った私は、ふと振り返り……期待に満ちた目で見つめるメアリーとリリの姿に、頬を引きつらせるのだった。
「すごいですね。リド姉さんがそこまでするなんて、レティさんはとっても愛されてるんですね」
「うふふ、そうね。わたくしもリドを愛していますし、相思相愛のおしどり夫婦です」
最初の緊張はどこへやら。ほんのりと頬を赤く染めたレティさんののろけ話を興味津々で聞いているうちに、いつの間にかレティさんとは打ち解けていた。
「ところで、ユーカちゃん。ユーカちゃんはどうなのですか?」
「どう、とは?」
「リドから聞きましたよ。あのジークフリートさんとハミルトンさんから求愛されているのだと」
『求愛』という直接的な言葉に、私は飲んでいた紅茶を吹き出しかける。
「え、えぇっと、その……」
「二人のことだから、さぞかし熱烈に求愛されているのでしょう? それこそ、夜も離してもらえないとか?」
そう言われて思い浮かぶのは、くーちゃんとあーちゃん姿の二人。
(うん、確かに、夜も離してもらえないのかも?)
レティさんが思っているのとは、かなり意味の違いがあるように思えるが、間違ってはいない。ただ、そんな時、チラリとあの美女の姿が脳裏を過り、ズクリと胸に痛みが走る。
「ユーカちゃん?」
「あっ、いえ、何でもないです」
私の様子に気づいたらしいレティさんに問われるものの、咄嗟にごまかすことを選ぶ。けれど……。
「何でもないという顔ではありませんよ。それに、精霊に嘘は通じません。もし、よろしければわたくしに話してみませんか?」
「えっと……」
話す、といっても、私自身、なぜ胸が痛むのか分からない。だから、何を話せば良いのかも分からなかった。
「すみません。その、何を話したら良いのかも分からなくて……」
「そうですねぇ……では、何があって、何を思ったのか、というのを話してくださいませんか? そうすれば、何か分かるかもしれません」
そう言われて、私はゆっくりと話してみる。ジークさんに、その日は来客があるから、部屋をあまり出ないでほしいと言われたこと。それでも許可をとって、一時的に外に出たこと。そこで、来客と思われる美女を目撃したこと。そして、それを見た時、胸が痛かったり、モヤモヤしたりしたこと。
静かに話を聞いていたレティさんは、私が話を終えると、ニッコリと微笑む。
「原因が分かりましたよ。ユーカちゃん」
「っ、本当ですか!?」
自分では分からなかったことを、あっさりと見抜いたらしいレティさんに、私は驚いて声を上げる。
「と、いっても、わたくしだけじゃなく、この話を聞いた者全員が分かっているのではないかしら?」
「えっ!?」
相変わらず優しく微笑むレティさんにそう言われて周りを見てみると、メアリーとリリはどこか嬉しそうにうなずき、ライナードさんは、気まずそうに目を逸らす。
(えぇっ!? 分からないの、私だけ!?)
どうやら、レティさんの言う通り、分かっていないのは私だけだったようだ。こんなことなら、もっと早くに相談すべきだったろうかと思っていると、レティさんはその笑みをいたずらっぽいものに変える。
「ユーカちゃんの抱えている感情。それは、ズバリ、嫉妬ですっ」
「しっと……?」
まるで初めて聞いた言葉のように、レティさんの言葉を繰り返した私は、しばらく呆然とする。
「そうです。きっと、ユーカちゃんはその女性とジークフリートさんが親密な関係であると予測したのでしょう?」
問われて、確かにその通りだと私はうなずく。
「だから、ユーカちゃんはジークフリートさんを取られたくないって、その女性に嫉妬したんです。胸の痛みも、モヤモヤも、嫉妬心から来るもので間違いないでしょう」
ニコニコと衝撃的な言葉を紡ぐレティさん。そこまで聞いた私は、ようやく、思考が戻り初めて……現状を認識して、ポンッと顔が熱くなる。
「……えっ? えっ? 嫉妬!? 私が!? それって、それって……」
(そんなの、まるで……)
嫉妬なんて、まるで、私がジークさんのことを……。
「随分と、ジークフリートさんのことを愛しているのですね」
「あっ、あいっ!?」
直球過ぎるその言葉に、すでに熱くなっていた頬は、さらに熱くなる。
「ふふっ、良かった。ユーカちゃんは、しっかりとジークフリートさんに想いを抱けているのですね」
そこで納得しないでほしい。そして、メアリーとリリは、手を取り合って喜ばないでほしい。できれば、ライナードさんみたいに、何も聞かなかったことにしてほしい。
そんな希望を抱きながらも、自分が嫉妬していたという考えに反論しかけて……言葉が出ないことに気づく。
(……あれ? もしかして、本当に、私……?)
嫉妬なんてしていない。そう言いかけた私は、自分の中に否定できる要素がないことに気づく。それどころか、ストンと納得できる答えであったことに、私は少しずつ焦りを覚える。
「わ、私は……」
「ユーカちゃん。ジークフリートさんは、ユーカちゃん以外見えてませんよ。その女性だって、仕事の関係上関わらなければならない相手だったなんてオチだと思いますしね」
「えっと……」
そう言われても、やはり気分は晴れずにグルグルモヤモヤとする。
(これが、嫉妬……?)
「どうしても気になるのであれば、直接聞いてみると良いです。魔族は、自身の片翼に弱いですから、ねだれば大抵のことはしてくれますよ」
「直接……」
(聞いて、答えてくれるのかな?)
「不安でしたら、わたくしも一緒に聞きに行って差し上げますよ?」
「い、え。一人で、大丈夫です」
レティさんを煩わせるわけにはいかないと、私は反射的にそう答えていた。
「では、善は急げ、です。わたくしはそろそろお暇させていただきますので、良い結果報告を期待していますね」
「えっ? あっ、はい」
何となく話の流れで聞きに行くことが決定してしまい、どうしようと思わなくもなかったけれど、今はレティさんの見送りが先だ。
レティさんが馬車に乗って帰っていく様子を見送った私は、ふと振り返り……期待に満ちた目で見つめるメアリーとリリの姿に、頬を引きつらせるのだった。
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