私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第五章 戻った日常?

第八十三話 モヤモヤ

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 とんでもない秘密の暴露に、悶絶し、精神をすり減らした私は、翌日もジークさんやハミルさんから逃げ回った。ジークさんとハミルさんは、その度に絶望的な表情をしていたらしいけれど、今の私には、それに構えるだけの心の余裕などなかった。


(何でっ、何でっ、気づかなかったんだろうっ、私っ!)


 何度も思うのは、もっと早くに気づいていればというただ一つのこと。ただ、いくらこの異世界に慣れてきたとはいえ、まだまだ魔法への理解なんて浅いものだ。まさか、猫に変身できる魔法があるなど、思いつきもしない。あれから少し、魔法書を探してみたものの、今のところ、猫に変身できる魔法のことは見つからないため、よほど難しいか、特殊な魔法なのであろう。


(うぅ、でも、二人が居なかったら、眠れない……)


 ただ、くーちゃんとあーちゃんがジークさんとハミルさんだったと分かった弊害は、ひどい羞恥心で悶絶するだけではすまなかった。
 毎日、くーちゃんかあーちゃん、もしくは、その両方と一緒に眠っていた私は、二匹のどちらかが居ないと、悪夢に苛まれるようになっていたのだ。つまりは、二匹が、二人が居なければ眠れないのだ。


(……眠い……でも、寝るのは怖い……)


 猫の正体が発覚してから、二日目の今日。私は目の下に隈を作りながら、ショボショボとした目を擦る。
 今日の夢は、あまり覚えていないものの、随分と怖かったような気がする。とても暗くて、怖い夢。夜中に飛び起きた私は、それからずっと眠れていない。


「うぅ……」


 眠いけれど、眠りたくない。そんな矛盾を抱える中、心配そうなララとリリにお風呂の用意をしてもらって、ゆっくりと浸かる。
 少しは目が覚めた状態で上がると、フカフカのバスタオルと着替え用のワンピースが用意されていた。


「まだ、顔は合わせづらいなぁ……」


 さすがに、事が事だ。今はまだ、まともに顔を合わせられる気がしない。


「ユーカお嬢様? もう上がられましたか?」

「あっ、うん」


 洗面所の外から聞こえた声に返事をすると、すぐにララとリリが洗面所へと入ってくる。


「ユーカお嬢様。何かすっきりするお飲み物をお持ちしましょうか?」

「うん、お願い」

「じゃあ、私はユーカお嬢様のお髪を整えますねっ」


 朝の準備を整える中、まだ少し眠い私が思うのは、くーちゃんとあーちゃんの温もり。


(ダメダメダメっ、あれは、ジークさんとハミルさんっ!)


 安眠のために、あの二匹が必要だったとはいえ、さすがに正体が分かっているのに猫になって一緒に眠ってほしいとは言えない。


(頑張らないと!)


 一応、まだ大丈夫だとは思えた。今は、ハミルさんからもらったぬいぐるみを抱き締めて眠っていて……効果のほどは、あまり感じられないけれど、そのうち、何とかなると信じている。


「あっ、そうだっ。今日は、ご主人様から言伝てがあったんでしたっ」

「……言伝て?」


 とりあえず、一昨日の一件以来、何度も謝罪の言伝てを受け取っていた私は、また謝罪だろうかと考えながら、髪を整えてくれているリリの言葉に耳を傾ける。


「はいっ、『今日は、できるだけ部屋から出ないようにしてほしい』とのことですっ!」


 予想とは違うリリの言葉に、私は一瞬戸惑って、次に疑問に思う。


「それは、理由は何か聞いてる?」

「えーっと、確か、訪問者があるとかで、正式に会うことができなくて、こっちの方に通さなきゃならないとかでしたねっ」

(それは、その訪問者とやらに私を会わせたくないということなのかな?)


 今、私が居る場所は、プライベート区画という場所で、部外者はほとんど入ってくることのない場所だと聞いている。そんなところに通す者といえば、ジークさんにとって、よほど大切な者だったり、親密な者、あるいは、屋敷の管理に必要な人員や、仕事上、安全上で必要な人材ということになってくるらしい。私の専属侍女達や護衛達は、屋敷の管理や安全上で必要な人材となってくる。


(大切な……親密な人……)


 ただ、今回の訪問者は、どうにも『必要な人材』という感じではない。むしろ、大切だったり親密だったりする部類の者のような気がする。


「どんな人か、とかは聞いてない?」


 つい気になって問いかけるものの、リリは詳しくは知らないらしく、首を横に振るのみだ。


(何だろう? ちょっと、胸の辺りが重い気がする……胸焼け、かな?)


 なぜかは分からないけれど、何だか胸の辺りがモヤモヤしてしまって仕方がない。


「気になるんでしたら、聞いてきましょうかっ?」

「ううん、そこまでしなくても良いよ」


 気にならないといえば嘘になるけれど、そこまでして知る必要はない。胸のモヤモヤは増したけれど、きっとしばらくすれば治るだろう。

 今日は、ジークさんに言われた通り、部屋で大人しくしていようと決めた私は、髪を可愛く結んでくれたリリにお礼を言って、本を取り出すのだった。
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