私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

文字の大きさ
上 下
83 / 173
第五章 戻った日常?

第八十話 事の顛末と護衛達(ジークフリート視点)

しおりを挟む
 ハミルトンがこの城に来ると聞いて、俺は覚悟を決めて待っていた。
 ユーカが拐われた時、俺の対策が機能していなかったことを怒っていたハミルトン。ご丁寧に、全てが終わったら殴ると宣言までしているのだから、それを違えることはないだろう。

 書類を片付け、しばらく待っていると、ハミルトンが入室してくる。


「数日ぶりだね。ジーク」

「あぁ」

「僕が、ユーカに会いに行く前にここに来た理由は分かってるよね」

「あぁ」


 ニコニコと笑みを浮かべるハミルトンだったが、その目は笑ってなどいない。一歩間違えれば、ユーカを失っていたのだから、それも当然だろう。


「まぁ、殴る前に報告しておくけど、拘束した奴らは、全員鉱山送りにして、ゴーストを取り憑かせたよ。ガークは結構粘ったけど、それでも、目の前にあの女を置いて取り憑かせる実験をしてやったら、もたなかったみたい。何を話したかまでは知らないけどね」

「そうか……」


 ハミルトンの容赦のなさに、俺は魔王としても、片翼を狙われた者としても納得する。それくらいでなければ、気が治まらないほどに、ガーク達のことを恨んでいたらしい。


「それじゃあ、殴らせて」

「あぁ、分かった」


 淡々と言うハミルトンに、俺も淡々と返す。一応、執務室の中でも、ものが壊れる心配のない場所に移動すると、直後、頬に強烈な衝撃が走る。
 さすがの一撃に、床に倒れ込む形となった俺は、すぐに体を起こして……。


「ジークさんっ、ハミルトン様っ!?」

「えっ?」

「ん?」


 ユーカが飛び込んできたことで、一気に張り詰めた空気が霧散するのを感じ取った。


(まぁ、その後のユーカは恐ろしかったが……)


 ユーカの静かな怒りは、魔王である俺達をも震え上がらせた。とりわけハミルトンは、俺を殴ってしまったものだから、大いに取り乱していた。
 しかし、ひとまずは、これでケジメがついた。本当なら、しばらくは治療するつもりなどなかったのだが、ユーカに治療するように言われては仕方がない。ハミルトンも率先して治療をしてくれたから、そこを責めてくることはないだろう。
 ケーキを受け取り、幸せいっぱいの空気の中、ふと、ハミルトンが問いかける。


「そういえば、ユーカ、この部屋に来る前に何かしたかい?」

「何か、ですか?」


 ハミルトンの言葉で、俺は扉の前までユーカが来ていても気づかなかったことを思い出す。


「ユーカちゃん、ハミルの真似をして、魔力の気配を絶ってみたそうよ。よかったわね、ユーカちゃん。実験は成功みたいよ」


 何のことか分からない様子で首をかしげていたユーカは、リドルの言葉に『そういえば、そうだった』と呟く。と、いうより……。


「居たのか、リド」

「ちょっ、失礼ねっ。ワタシもユーカちゃんと一緒に居たのよ?」

「うん、居るのは知ってたけど、僕達が居るんだから、付き添いはもう必要ないよ」

「あ、あんた達ねぇ」


 ヒクリと口角をひくつかせるリドルだったが、正直、俺も邪魔者はほしくない。そう思っていると、リドルの側に居たリリが反応する。


「それでは、失礼しますっ!」

「って、ちょっと、リリ!? 何でワタシの腕を掴んで引きずるの!? ワタシはまだあのポンコツどもにって、ギャアァァアッ」


 勢い良くリドルの腕を掴んで扉を閉めたリリは、リドルを連行し、途中で悲鳴を上げられるような何かをしたらしい。


「えっ? リド姉さん!?」


 ユーカが焦ったように反応するものの、他の男の心配など、面白くない。


「きゃあっ」


 ハミルトンが動く前に、俺はユーカを素早く抱き上げると、執務室の数少ない椅子に一緒になって座る。膝の上に居るユーカは可愛くて、至福だ。


「ジーク……それはズルくない?」

「ハミルのために椅子を一つ空けてやってるんだ。文句を言われる筋合いはないな」

「ジジジジ、ジークさんっ!?」


 わざと筋違いの反論をした俺は、赤くなったユーカの頬を優しく撫でる。


「何だ? ユーカ?」


 可愛くて可愛くて仕方がないユーカ。そのユーカは、口をパクパクさせて声も出せない様子だった。


「はぁ。そういえば、ユーカの護衛はもう紹介したの?」


 しばらくは恨みがましげな視線を送っていたハミルトンだったが、俺が動かないと分かると、あからさまに話題を変えてくる。


「今日、ちょうど選抜が終わった。本来なら、訓練後に紹介する予定だったが……ふむ、今でも良さそうだな」


 今までの片翼であれば、魔族というだけで拒絶反応を起こしていたため、ろくに護衛もつけられなかった。もちろん、影からの護衛はあったものの、それにも限界はある。しかし、ユーカなら、魔族というだけで嫌うことはないはずだ。だから、俺はユーカのための護衛を慎重に選んでいた。


「ルティアス・バルトラン、ライナード・デリク、ジェド・オブリコの三名は、即座に執務室へ来い」


 伝音魔法を使って命令を伝えると、それぞれからの返事が伝音魔法で返ってくる。


『分かりましたっ』

『承知』

『御意』

「今のは……?」


 伝音魔法の声を聞いた後、不思議そうな表情を浮かべるユーカに、俺は説明をすることにする。


「この城でユーカが動く際、護衛として付き従ってくれるものを呼んだ。これで、二度と誘拐されるようなことはない」

「そ、そうですか……って、待ってくださいっ、もしかして、今からその人達がここに来るんですか!?」

「あぁ」

「お、下ろしてくださいっ」


 ユーカからの拒絶に、俺は、一瞬言葉を失う。


「……どうしてもか?」

「どうしてもですっ」


 恐らくは恥ずかしいだけなのだろうが、地味にダメージが大きい。そして、その様子を満足そうに見るハミルトンを見て、俺はようやく、これがハミルトンの描いたシナリオの上だったことに気づき、今度は俺がハミルトンを恨みがましく睨む。


「さぁ、ユーカ。ユーカはこっちの椅子に座ると良いよ」


 椅子を勧めるハミルトンに、ユーカはそそくさとそちらへ向かってしまう。ユーカを抱いていた腕が、妙に寂しかった。


「ルティアス・バルトラン、ライナード・デリク、ジェド・オブリコの三名、到着しました!」


 そうこうしていると、執務室に護衛達が到着する。


「入れ」


 若干不機嫌にそう告げれば、三人の男達が入ってきた。
 ルティアス・バルトランは、アクアマリンの髪に、黄金の瞳、白い巻き角を持った人懐っこい顔立ちの青年で、治癒魔法と暗殺に優れた魔族だ。
 ライナード・デリクは、翡翠の髪に、ルビーの瞳、翡翠の角を持った、強面の男。腕力はピカイチで、その豪腕を活かして振るう戦鎚は恐ろしい威力だ。ただ、普段は長剣を装備している。一応、俺の従兄弟でもある。
 ジェド・オブリコは、桃色の髪に桃色の瞳、桃色の角を持つ、人形のように整った顔をした特殊な魔族だ。主に呪いに精通しているのだが、戦闘の腕も確かなもので、剣での勝負なら、先の二人にもひけを取らない。

 彼らを一人一人紹介すると、ユーカは丁寧に『よろしくお願いします』と告げる。


「こちらこそ、よろしくお願いしますね。ユーカ様っ」

「よろしくお頼み申す」

「よろしく」


 ルティアス、ライナード、ジェドの順に応えていき、これで、とりあえずの顔合わせは終了したのだった。
しおりを挟む
お気に入り登録や感想を、ありがとうございます。これを励みに楽しく更新していきますね。
感想 273

あなたにおすすめの小説

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

転生先は男女比50:1の世界!?

4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。 「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」 デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・ どうなる!?学園生活!!

私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる
恋愛
不憫系男子をこよなく愛するヒロインの恋愛ストーリーです。 私は確か、日本人のおばさんだったはずなんですが、気がついたら西洋風異世界の貴族令嬢になっていました。 せっかく美しく若返ったのだから、人生勝ち組で楽しんでしまいましょう。 そう思っていたのですが、自分らしき令嬢の日記を見ると、クラスメイトの男の子をいじめていた事が分かって……。 正義感強いおばさんなめんな! その男の子に謝って、きっとお友達になってみせましょう! 画像はフリー素材のとくだ屋さんからお借りしました。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

処理中です...