私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第四章 ヘルジオン魔国

第七十五話 狂気の男(ジークフリート視点)

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 ユーカを助ける一日前。寝る間を惜しんでヘルジオン魔国へと向かっていた俺は、とうとうナリク達がヘルジオン魔国内で拠点にしている家まで辿り着いていた。
 ナリク達には、ユーカのサポートを全力で行うように命じているため、この拠点に居たのは一人だけだったが、それでも良かった。ユーカから、毎日のように連絡がある中、求める情報はさほど多くはない。


「報告せよ」

「はっ」


 黒い影が返事をし、淡々とヘルジオン魔国内の情報を報告し始める。


「片翼のお方は、ヘルジオン魔王には手違いで誘拐されたリアン魔王の片翼と報告されているようで、ヘルジオン魔王は、リアン魔王との対話を望んでいる模様」

「対話、か……到底不可能だな」


 ヘルジオンの魔王、ガークは事の真相を知らないのだろうが、そこに責任がないわけではない。むしろ、ヘルジオンの魔王がしっかりしてさえいれば、ユーカは誘拐されなかったのだ。そのツケは、きっちり払ってもらわなくてはならない。


「それと、ヘルジオン魔王の毒婦ですが、どうやら、彼女を毒婦に仕立てた魔族が居るとの情報が入っております」

「なるほど、それも制裁対象だな」


 そうして、報告者はパイロ・ネリウスという名の魔族を挙げる。前魔王の宰相であり、現在は魔王の側近として仕える彼に、どんな思惑があったのかは知らないが、ユーカが拐われる原因を作った存在を野放しにしておくつもりはない。


「毒婦は、まだ片翼のお方の存在を知りません。が、もしも知られた場合、その考えなしの頭で何をしでかすかは不明です」

「あぁ、もし、ユーカのことが知られるようなことがあれば、真っ先に報告せよ」

「御意」


 まさか、翌日、すぐにそんな事態が起こるとは思わずに、俺は指示を出す。


「では、ハミルトンの方はどうなっている?」

「はっ、ハミルトン様は現在、ヘルジオン魔国へと進軍し、半ばまで食い込んでおります。ヘルジオン勢は士気が低く、逃げ出す者が多いため、明日には城まで辿り着く目算です」

「なるほど、やはり、対話は蹴ったか」

「そのようですね」


 恐らく、対話の申し込みをされたであろうハミルトンは、その対話を蹴って、ひたすらに進軍しているらしい。
 俺もハミルトンと気持ちは同じで、ユーカに会いたくて仕方がなかった。だから、対話を無駄な時間だと考えたであろうハミルトンの気持ちが良く分かる。

 その後、関係があるかどうかは不明という前置きの元、リドルが出会った盗賊達が所持していた黒い珠が、割ると魔物を召喚するものであったことや、その出所が、ヘルジオン魔国らしいという情報を聞く。そして……。


「では、引き続き、ユーカに支援を。俺は、このままユーカの元へと急ぐ」

「……御意」


 影は何か言いたげだったが、俺はそれを無視する。きっと、少しは休んでほしいなどという言葉を呑み込んだであろう影。ただ、片翼が危機に陥っていて、休める魔族が居るわけもないことくらい分かっているのだろう。
 せめてもの心遣いなのか、携帯用の食料を持たされて、俺は再びユーカの元へと急ぐ。結果としては、それが最善だったわけだが……。






 そして翌日。ユーカに向けられた短剣を弾いた俺は、怒りのままに彼らを威圧する。


「くっ」

「ひっ」


 パイロという男が膝をつき、アンナという少女はへたり込む。


「私の片翼に手を出すことは許さない」


 もし、ここにユーカがいなければ、問答無用で彼らを殺していたであろう俺は、代わりとばかりに殺気を強める。


「ジーク、フリートさん?」


 そんな殺伐とした空気の中、愛しい愛しいユーカの声が聞こえてきて、俺はつい表情を緩めて振り返る。


「遅くなった。ユーカ。だが、もうこれで大丈夫だ」


 そう言葉をかけてやれば、ユーカは安心したように微笑む。


(ぬおぉぉぉおっ、今すぐ抱き締めたいっ!)


 一瞬にしてそんな衝動が沸き起こるものの、今は、目の前の不届き者どもの処理が優先だ。


「なぜ……なぜ、ヴァイラン魔国の魔王が?」


 憎々しげに俺を睨みつけるパイロ。やはり、両翼だという発想はなかったらしい。


「当然だ。彼女は、私とリアン魔王の片翼なのだからな」


 それを証明するかのように、両翼である事実を告げれば、その目を丸くする。しかし……。


「は、ははっ、これは傑作だ。ヴァイラン魔国にリアン魔国の魔王達の両翼。それに手を出したとなれば、ヘルジオンなどすぐにでも潰れるっ」


 アンナの方は、何もできずに震えるだけだというのに、とうとう恐怖でおかしくなったのか、パイロは笑い続ける。


「前魔王の宰相。パイロ。お前の目的は何だ?」


 ただ、その笑みには、見過ごせない狂気が淀んで見え、このまま放っておくのは危険だと頭の中で警鐘が鳴る。


「パイロ……? 前魔王の愛人疑惑の人?」


 と、そこで、思いがけない人物から、そんな言葉が発せられた。


「ユーカ?」

「それをどこで聞いたのですか?」


 ユーカの言葉に、途端にパイロの視線は鋭くなる。しかし、何かを思い直したのか、直後に首を横に振った。


「いえ、良いでしょう。そのような噂があることは確か。ただ、真実は、前魔王と私が片翼同士だったというものですがね」

「えっ……男同士なのに?」


 パイロの言葉を聞くために威圧を緩めると、アンナが信じられないといった目でパイロを見つめる。


「えぇ、男同士であるからこそ、私は、魔王様に私の存在を隠すよう言い含めました。そして、別の女を抱いてもらい、子孫も残してもらいました」


 確かに、魔王の片翼が同性だった場合の処理としては適切だ。……その心を度外視すればの話だが。


「なっ、穢らわしいわっ! 男同士なんてっ! 片翼って異性限定じゃないの!?」

「いいえ、異性限定とは限りません。むしろ、同性同士なんてざらにあります」


 信じられないものを見る目でパイロを見るアンナ。そして、ユーカはというと、何かを得心したようにパイロを見つめ、口を開く。


「じゃあ、パイロさんは、前魔王を殺した今の魔王が憎くてこんな行動を?」

「不吉の黒がバカなこと言ってんじゃないわよっ! そんなわけ「その通りです」……えっ?」


 ユーカに対する暴言に、思わず殺気を振り撒くところだったが、その前に、ユーカがギュッと腕を掴んできてくれたことで、意識がそちらに逸れる。


「これは復讐ですよ。愛しい人を殺したガークと、この国への、ね」


 そうして嗤う男は、確かに狂気に満ちていた。
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