私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第四章 ヘルジオン魔国

第六十八話 試み

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『やめてっ。出して、出してよぉっ』

『うるさいっ! そこで反省してろっ!』

『やだぁ、暗いよっ、怖いよぉ』

『黙れっ!』


 真っ暗闇の中、大きな音が響き渡り、私の心臓は大きく跳ねる。恐怖に閉ざされた空間で、私は、ただ耐えるしかない。耐えていればきっと、いつかはこの暗闇から出してもらえる。そのはずなのだと、信じるしかない。例え、その後にまだまだ地獄が続くのだとしても……。


『怖い、怖いよぉ……誰か、誰か……』

「(助けて……)」


 苦しみに満ちた記憶の淀みから浮上した私は、涙が横に流れ落ちていく感覚に、ようやく目を開ける。


「(……ここ、どこ?)」


 久々に見た悪夢に、心がずっしりと重くなる中、見たことのない暗いその場所に、私は悪夢の余韻を、恐怖を抱えたまま、そっと身を起こす。すると……。

 ジャラッ。


「(えっ? ……何で、鎖……?)」


 事態が全く呑み込めない私は、しばらく鈍く光るそれを見たまま呆然とする。
 けれど、その間に、徐々に記憶が蘇ってきた。


(確か、ジークフリートさんの姿をした誰かが来て、急に眠くなって……もしかして、誘拐、された?)


 あまり考えたくない現実に、私は、無理矢理、この鎖がハミルトン様の指示ではないだろうかと考え、すぐにあり得ないと否定する。


(ハミルトン様は、私を鎖で繋いだことを後悔してた。私に謝ってもくれた。だから、それは絶対にない)


 あの謝罪は、とても真摯なものだった。私には、どうしても、あれが嘘だったとは思えない。それに、ハミルトン様ならきっと、こんな錆びて重々しい鎖なんて使わないだろう。

 その部屋は、どこかジメジメしていて、暗い部屋だった。窓は一つだけ。しかも、格子がついた小さな窓だけで、その他は、安っぽいベッド以外に何もない。
 空気の流れも悪いらしいその部屋で、私は必死に沸き起こる恐怖心と戦う。


(怖い、怖いよぉ)


 それは、夢で見た幼い頃の感情と酷似していた。けれど、一つだけ、夢とは違うことがある。


(助けてっ、ジークフリートさん、ハミルトン様っ!)


 幼い夢の中の私には居なかった、助けを求められる相手。それが、今の私には存在していた。そして、そのことが、私の心を強くする。


(二人は、もう私が居なくなったことに気づいてるかな? どうしたら、居場所を知らせられるんだろう?)


 恐怖に震えながらも考えるのは、この状況を打開する手だて。今の私はもう、恐怖に耐えるだけの私ではない。


(何で、私が拐われたんだろう? 犯人に心当たりなんてないよ? 目的は何なんだろう?)


 懸命に考えを巡らせ、結論づけるのは、まだ、今のところ、私を殺すつもりはなさそうだということ。ただし、暴行を加えられることはあり得るかもしれないという、悲しい事実。


(何とか、しなきゃ)


 暴力を受けて、身を守る手段がない現在、とにかく慎重に行動する必要がある。


(まずは、犯人の目的を知らなきゃ。後、ジークフリートさん達と連絡を取る手段とかはないかな?)


 幸い、魔法が使えないという状態ではないらしく、試しに風を操ってみると、生温い風が吹く。


(魔法で連絡……私にできる魔法は、物を浮かせて運ぶこと、結界を張ること、飛ぶこと、後は……そうだっ、伝音魔法っ!)


 遠くの音を聞くだけとか、自分の周りの音を伝えるだけということにしか使えない魔法。連絡を取り合うのに最適な魔法。けれど、それをするには、相手の位置が分かっていなければならないという問題があった。


(ここがどこかも分からないのに、ジークフリートさん達がどのくらい離れた場所に居るのかなんて、分からないよ……)


 使える魔法かもしれないと一瞬思ったものの、即座にそれは違うのだと分かってしまい、落胆する。


(……ジークフリートさんとハミルトン様の魔力は覚えてるから、それで何とかならないかなぁ?)


 まだ習ってはいないものの、読んでいる本の中には、探知魔法と呼ばれる魔法があり、他人の魔力を手がかりに人捜しができるものらしいということは知っていた。


(魔法の基本はイメージ。となると……レーダーみたいなものをイメージすれば良いかなぁ?)


 本当は、一人での魔法の行使は禁止されている。まだ、魔力の総量を理解できていない私では、魔力を使い過ぎてしまうことがあるかららしいのだけれど、今は緊急時だ。魔力が尽きたとしても、頭痛がして倒れる程度なのは勉強の結果、分かっていることなので、ベッドに寝転がったままやれば安全だろう。


(レーダー、レーダー……目印は、ジークフリートさんとハミルトン様の魔力で、位置を感覚的に理解できれば大丈夫なんだよね? そこは、風で、速度で……うーん、よしっ、試してみようっ!)


 魔法に意識を集中させることで恐怖を紛らわせる私は、早速、即席の魔法を発動してみる。


「(探知魔法、発動!)」


 本来は、呪文が必要な魔法だけれど、イメージがしっかりしているのならば、呪文がなくとも発動させることはできるらしい。ただ、それは慣れなければ危険なことでもあるので、私はまだ、それを試したことがない。
 何もかも初めての挑戦で、不安だらけではあったものの、その魔法は、見事、発動した。


(ここは、大きな建物? 人がたくさん……? でも、二人の反応はないなぁ)


 初めての魔法が成功したらしいことは分かったけれど、私は慎重に風で調べる範囲を広げていく。


(やっと、建物を抜けられたっ。けれど……本当に、ここ、どこなんだろう?)


 グルリグルリと渦を巻くように風の魔力を広げながら、調べていく。けれど、一向に二人の反応は見つからない。
 そうこうするうちに、人の反応がどんどん疎らになっていくのを感じる。


(うぅ、何か、頭痛い……)


 そろそろ魔力が切れるのだろうと予測しながらも、私は必死にジークフリートさんかハミルトン様の気配を探る。けれど……。


(あっ、無理……)


 パチンと電気のスイッチが切れたかのように、私の視界は、再び闇に包まれてしまうのだった。
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