私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第四章 ヘルジオン魔国

第六十四話 変わらない日々(ジークフリート視点)

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 ユーカとお茶会をして、ユーカの可愛らし過ぎる行動に内心悶絶した日から五日が過ぎた。その間に、リドルが帰ってきて、片翼休暇を取った事の顛末を説明してもらい、ハミルトンとともに平謝りになったり、レティシアがユーカに会いたいらしいという話を聞いて、日程を決めてみたりと、ほぼほぼ平和な日常が過ぎていた。


「はぁ、謁見か……面倒だな」

「そうおっしゃらずに、これを終えればユーカお嬢様が待っておいでですよ」

「すぐすませる」


 仕事を持ってきた侍従のロイド。主に、来客の案内や仕事の日程調整、時には御者の仕事を務めることもある緑の髪と目、赤の角を持つ彼は、ユーカのことを知る数少ない部下の一人だ。


「今日の謁見はどうなっている?」

「本日は、ギオス・ライカン様とヤック・リンデル様のみとなっております」

「……二人して、亡命してきたヘルジオンの貴族か。厄介なことにならなければ良いが」


 謁見の間まで歩く道中に、そんな懸念を告げると、ロイドは難しい顔で唸る。


「そこは分かりませんね。何せ、ヘルジオンの情勢は混乱していますし、愛国心のある貴族であるほど、国のための要求、そうでなければ、自分のための要求をしてくることでしょうね。ちなみに、お二方とも、愛国心の強い貴族らしいです」

「なら、国のための要求か……応じるつもりはないがな」


 そうして、執務室やユーカの部屋があるプライベート区画を越えると、そこからは一切無駄口を叩くことなく黙々と歩く。
 道中、出仕している貴族に挨拶をしたり、その一環で娘や孫を愛妾にと勧めてくる者達をかわしたりしながら、謁見の間へと辿り着く。

 魔族の性質上、片翼という存在は何よりも重要ではあったが、世継ぎを残すという面を重視した場合、邪魔な存在となることが時々起こり得る。例えば、片翼が子供を産めない体であるとか、そもそもその片翼から拒絶され続けているとか……。俺の場合は、明らかに後者で、『片翼の宿命』によって苦しめられていることは公然の秘密となっていた。
 そんな状態が続いていたせいで、跡継ぎを産むのは我が娘だとか、孫だとか言い張る争いが起こっている。きっと俺も、後百年しても片翼の問題がどうにもならないとなれば、好きでもない女を抱くこととなっていただろう。


(だが、今はユーカが居る)


 初めて、俺に笑いかけてくれた片翼。会話をし、穏やかな時間を過ごすことができた最愛の女性。彼女が居る限り、俺は他の女を抱くなどという馬鹿げたことをするつもりはない。

 玉座に腰を下ろすと、ほどなくしてギオス・ライカンとヤック・リンデルという名のヘルジオン貴族達が入室してくる。


「本日は、ご機嫌麗しく。謁見が叶いましたこと、感謝申し上げます」

「面を上げよ」

「「ははっ」」


 二人の壮年の男の姿に、俺は何を言われるのかを頭の中で一通り推測しておく。


「して、要望とはなんだ?」


 魔王に謁見してまで通したい要望。それはきっと、ヘルジオン貴族であることを鑑みればろくなものではない。


「はっ、魔王陛下には、ぜひともヘルジオンを平定していただきたく、こうしてお願いに参った次第でございます」


 赤い髪に紫の目をした巨漢の男、ギオスが告げる言葉に、俺は内心、嫌な予想が当たったとため息を吐く。


「それはならん」

「なぜでございましょうっ! このままでは、ヘルジオンは崩壊し、民達が傷つきますっ。どうか、どうか、お力をお貸しくださいっ」


 ギオスに比べれば随分と小柄に見える、赤い髪と青い目を持つ男、ヤックは、現実が見えていないのか、必死に頭を下げてくる。


「私は、内政干渉をするつもりはない。その国のことは、その国で対処するべきだ」


 いつもの俺という一人称から、私に変えて、その理由を述べると、やはり納得できないと二人は声を上げる。


「陛下は、周辺諸国の中でも随一の賢王とお聞きします。お望みであれば、我らの命をも差し出しましょう。ヘルジオンは現在、王の悪政によって滅びの一途を辿っております。どうか、手遅れになる前に、ご慈悲を!」


 一般的に、魔王に対抗できるのは魔王だけだとされる。だから、普通に考えれば彼らの言い分は全くの間違いというわけでもなかった。しかし……。


「ヘルジオンの魔王は、簒奪者であろう? しかも、前魔王の血族はまだ残っていると聞く。なぜ、そちらに助けを求めない?」


 そう、ヘルジオンの魔王は、姑息な手段を用いて王位を奪った者だ。だからこそ、今の状況は前王の血族を表舞台に出す良い機会のはずだった。


「それは……」


 言葉に詰まり、答えられない様子の二人に、俺は何かやましいことがあるのだろうかと推測する。


「前の王の血族よりも、かの有名なヴァイラン魔国魔王陛下に治めていただくことが、何よりも民の助けとなると確信しているのでございますっ」


 ようやく答えたかと思えば、ヤックのそれは、随分と見当違いな発言だった。


「ふむ、とにかく、私は干渉しない。以上だ」


 少々強引に話を切れば、ギオスとヤックは慌てる。


「お待ちくださいっ。どうか、ヘルジオンをっ」

「後悔なさいますぞっ!」


 話を終わらせたにもかかわらず喚く二人を、衛兵に摘まみ出させた俺は、長い長いため息を吐く。こうなる可能性が高いことは分かっていたものの、実際にその通りになるとどっと疲れが出る。


(愛国心、ね)


 果たして、彼らの愛国心は本当に純粋な愛国心なのか、今回の謁見で疑問に思う程度には怪しかった。


「調べさせるか」


 謁見の間を後にして、俺はあの二人の動向を調べさせることにする。
 そうして、疲れを癒すために、もうそろそろ始まるユーカとの訓練、及びお茶会に心を弾ませ……必然的に発生した煩悩軍を見事討ち滅ぼして、訓練場へ向かうのだった。
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