私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第三章 歩み寄り

第六十三話 大いなる誤算

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(どうして、こうなっちゃったのかなぁ?)


 右手にはジークフリートさん。左手にはハミルトン様。椅子に座った状態の私は、逃げ出すこともできずに、赤面する。


「ほら、ユーカ。あーん」

「こちらのチョコケーキも中々のものだぞ。そら、あーん」


 美形二人に挟まれて、『あーん』と言われながらフォークを差し出される。そう、これは、つまりは、恋人同士のあの行動なのだ。


(どうして、こうなっちゃったの!?)


 専属侍女達から生暖かい視線を注がれる中、私はもう一度自問するのだった。







 今日の魔力コントロールの訓練は、ちょっと上手くいっていたような気がする。ジークフリートさんの提案で、行使する魔法の種類を変えて、結界魔法と伝音魔法という二つの魔法を使ってみたのだけれど、これがそこそこ上手くいった。
 結界魔法は、ハミルトン様が打ってきた水魔法を跳ね返したし、伝音魔法は、遠く離れた人の声を拾ってきたり、逆に近くの音を遠くに伝えたりといったことがちゃんとできた。ようやくまともに発動した魔法に、私は少し前まで恐怖心に包まれていたことも忘れることができた。
 そうして喜んでいると、さらに、喜ばしい提案がジークフリートさんからもたらされる。


「ユーカ、今日からお茶会を再開したいと思うのだが、どうだろうか?」

「(お茶会ですか!?)」


 訓練を終えた後に聞かされたその話に、私は目を合わせられないことも忘れ、一にも二にもなく飛び付く。リド姉さんとのお茶会は、いつもいつも楽しくて、準備が大変そうで申し訳ないと思いつつも、一番楽しみにしていたことなのだ。


「(ぜひ、お願いしますっ)」


 その言葉をメアリーに通訳してもらいながら、ふと、私は大切なことに気づく。


(そういえば、リド姉さん、もう帰ってきたのかなぁ?)


 ただ、そんな疑問は一瞬だけ。きっと、帰ってきたから提案してくれているのだと、すぐに思考を修正してしまう。それが、大きな間違いだとも気づかずに……。


「では、ユーカ。俺にエスコートさせてほしいのだが、良いだろうか?」

「(ふぇ?)」


 まさか、エスコートされるとは思わずに、私は一気に距離を取りたい衝動に駆られる。先程までは、お茶会を再開すると言われたから、一時的に目を合わせられないことを忘れていただけなのだ。こうして、意識せざるを得ない状況になれば、私はまた視線をさまよわせることとなる。


「ジークが嫌だったら、僕でも良いよ?」


 しばらく答えられずにいると、今度はやはり目を合わせることが難しい相手であるハミルトン様から声がかかる。


「(え、えっと……)」


 できることなら、エスコートはリド姉さんに頼みたい。けれど、何だかそれを言えるような雰囲気ではなく、私は一人、縮こまる。


「ユーカお嬢様。できることなら、お二人のうちのどちらかをお選びください。……もしくは、お二人ともでもよろしいかと」


 そうして、いつもは味方してくれるはずのララからも突き放されてしまった。ただ……ララの最後の言葉は不味かった。


「なるほど、二人で、か……」

「良いね、それ。それなら、お互い嫉妬せずにすみそうだね」


 私が何か言う前に、二人の間で話がまとまってしまう。


「さぁ、行こうか。ユーカ」

「しっかり掴まっててね。ユーカ」


 サラッと手を取られた私は、抵抗する間もなく二人に引き寄せられ、大パニックを起こす。


(えっ? えっ? えぇぇぇえっ!?)


 最近、特に甘い二人。極上の美貌に、極上の笑みを浮かべる二人に、耐性が全くない私はポンッと顔が熱くなるのを感じる。もしかしたら、湯気も出ているかもしれない。


「(あ、あぅぅ)」

(大丈夫。きっと、二人はお茶会の会場に送ってくれるだけ。それだけだから、きっと、大丈夫っ!)


 わずかに残る理性で、大丈夫だと言い聞かせながら、顔を上げられないまま、二人の導きに従う。


「さぁ、着いたよ。顔を上げてごらん」


 優しく話すハミルトン様の声に、私は少しだけ悩んだ後、意を決して顔を上げた。


「(わぁっ)」


 そこにあったのは、精霊か妖精と思しき者達が飛び交う可愛らしいお茶会の会場だった。


「知り合いの精霊に頼んで、下級精霊達を呼び集めてもらった。どうだろうか? ユーカ?」


 おとぎ話の中に紛れ込んだかのような錯覚を抱きながら放心していると、ジークフリートさんが心配そうに私の様子を窺う。


「(とっても素敵ですっ)」


 思いがけず近くで眺めることとなった美形に、私は目の前の幻想的な光景も忘れ、ドギマギして視線を逸らしながらそう告げる。


(美形、怖い。破壊力、抜群過ぎる)


 思考が大混乱を起こす中、いつの間にか席についていた私は、ハッと我に返り……直後、もうちょっと思考を飛ばしておけば良かったと後悔する。


(な、何で、二人が両隣!?)


 そうして、話は冒頭に戻る。






(う、うぅ……これは、食べなきゃ、ダメ?)


 期待した目でキラキラと眺めてくる二人に、私は拒絶した場合にその目が曇るのかと考えてしまい、どうにも拒否できない。


(意地、根性、自棄、何でも良いから、力を貸してーっ)


 そうして、意地だか根性だか自棄だか分からない原動力で、羞恥心を振り払った私は、まず、ジークフリートさんのフォークからチョコケーキをいただく。その途端、ジークフリートさんの表情が蕩けて、それを見た瞬間むせそうになったものの、何とか耐える。


「美味いか? ユーカ?」

(うぅ……恥ずかし過ぎて、味が分からないよぉ)


 とりあえずコクコクうなずいて、もう一つの試練にも向き直る。


「こっちはラズベリーのケーキだよ。ほら、あーん」


 そう、試練を課してくるのは一人ではない。もう一人、ハミルトン様第二の試練が居るのだ。
 私は、もう一度色々な力を振り絞って、ハミルトン様の『あーん』に応える。
 パクリとフォークからケーキを奪い取ると、こちらもまた、蕩けるような笑顔を浮かべてくる。もう、お腹いっぱいだ。

 そうして、ようやく試練を乗り越えたと思った私に待っていたのは……。


「もっと食べるだろう? ユーカ」

「ふふっ、ユーカとのお茶会は楽しいなぁ。ほら、あーん」


 試練はまだまだ終わっていなかったという現実だった。


(うわあぁぁっ、どどど、ど、どうしようぅぅっ)


 もう、気力は使い果たした。もう一度『あーん』に応じる度胸はない。そうして、一周回って、斜め上に飛んでいった思考の中、高速で算出された結論。それは……。


(そうだっ、私が『あーん』される側だからいけないんだっ)


 大混乱の末に出た、混乱に満ちた答えだった。
 私は、未だ手つかずのフォークを手に取ると、目の前にあったイチゴのショートケーキをすくう。そして、勢いのままジークフリートさんにそれを差し出す。


「っ!?」


 ジークフリートさんは、そんな私の行動に驚いた様子だったものの、その意図をすぐに察知して極上の笑みを浮かべる。


(……あれ? こっちもこっちでかなり恥ずかしい?)


 ようやくその事実に気づいたものの、時、既に遅し。フォークからジークフリートさんの口にケーキが消えていき、ジークフリートさんは唇についたクリームをペロリと舐め取る。その様子は、あまりにも妖艶で、私は火が出るかと思うくらいに真っ赤になる。


「ユーカ、僕にもお願い」


 そうしてジークフリートさんに気を取られていると、背後から甘く、耳許で囁かれて、思わずビクッと反応する。
 それからは、羞恥心の限界をどんどん更新していく勢いで、お互いに食べさせ合うこととなり、お茶会が終わる頃には完全に燃え尽きた私と、良い笑顔を浮かべる二人の姿があった。
 私が部屋に戻った後、しばらく悶絶し続けたのは言うまでもない。
 そして……一つ誤算だったのは、このお茶会を大いに気に入った二人によって、頻繁にお茶会に誘われ、その度に羞恥に悶える結果となることだった。
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