私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第三章 歩み寄り

第六十一話 建国史

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 ハミルトン様に『また作ってくれると嬉しい』と言われ、自分が作ったものを褒められたと喜んだ私は、ハミルトン様が居なくなった後、すぐにお菓子作りに取りかかる。

 私は今日、朝はジークフリートさんから、そして、お昼近くにはハミルトン様から、それぞれ贈り物をもらっている。ジークフリートさんからの贈り物は、どうやら昨日のうちに渡す予定のものだったらしいけれど、朝、メアリーとリリの無邪気な言葉に翻弄された後に、差し出された。『雷が鳴る日は、必ず側に居よう』という言付けとともに。
 そこで、私がまた赤面して悶絶したのは言うまでもないけれど、贈り物自体はとっても嬉しかった。
 私は、贈り物である、クリスタルフラワーを模した髪飾りを思い出して、そっと笑う。どうやら、私がクリスタルフラワーを気に入ったという情報が二人に伝わっていたらしい。私のためだと分かる贈り物をもらうのは初めての経験で、どこか心がむず痒いけれど、同時にとっても暖かかった。


(あれは、ジークフリートさんとお出かけすることがあれば、その時につけよう)


 上品な造りのそれは、日常的に使用するには向かないため、いつか、声が戻って、一緒に出かけられる日を夢見て取っておくことにする。ちなみに、ハミルトン様からもらったぬいぐるみは、枕元で待機中だ。


「(さて、と……美味しくできたと思うけれど……)」


 今回作ったのは、ベイクドチーズケーキだ。ビスケットを砕いて土台にし、きつね色に焼き上げたそのケーキは、ゴッツさんのお弟子さんが氷魔法で冷ましてくれた。後は、切り分けて、ジークフリートさんとハミルトン様に渡すだけだ。


(残りはメアリー達やゴッツさん達にもあげようかな?)


 さすがにこれを全て渡すのは多すぎるだろうと思ってメアリーに尋ねれば、なぜか、『今日のお食事のデザートに、お二人へお出しすることにしますね』と返ってくる。理由を聞けば、『片翼の手作りの品を他の者が食べたとなると、何があるか分かりませんので』と言われ、ますます首をかしげる結果となった。
 とりあえず、メアリー達に渡すのは問題があるらしいので、そこは任せて二人の元に向かい……目を合わせるのさえ難しかったことを対面したことで思い出して、ケーキを渡すと、逃げるように退出したのだった。


(うぅ、二人とも、顔が良いのと、何だかとっても甘いのとで心臓に悪い……)


 まだバクバクと鳴る心臓をなだめながら、とりあえず魔法関係の本を手に取る。


(……あっ、そういえば、そろそろ読み終わるんだった)


 定期的に本を借りている私は、最近、魔法の練習のために魔法を勉強できる本を借りていたのだけれど、それがもうほとんど読み終わる状態だった。


(うん、誰か呼んで、一緒に図書室に行ってもらおう)


 本当は一人でも行けるとは思うのだけれど、メアリー達からは部屋を出る時は必ず自分達を呼ぶようにと言われている。だから、私はベルを鳴らして、やってきたリリとともに図書室へと向かった。







(……いつもながらに、ここはすごいなぁ)


 天井まで棚が続いているのをぼんやり見ながら、私は魔法関連の本を探す。とりあえずは、基本が分かるような本が良い。


(『召喚魔法の基本』かぁ……召喚って、何が出てくるんだろう? こっちは、『生活魔法十選』。面白そうだから、見てみよう)


 借りるのは、全部で五冊までと決めている私は、興味の赴くままに借りる本を選んでいく。


(あれ? ここは、ジャンルが違う?)


 背表紙を眺めながら歩いていると、どうやら別ジャンルの棚に来てしまったらしい。


(うーん、歴史関係の本、かなぁ?)


 そこにあったのは、どうも歴史本らしかった。『シヴォーグ王朝の真実』とか、『魔法王の悲劇』だとか、何やら色々な本が並んでいる。


(歴史は、今は良いよね)


 今、勉強すべきは、魔法のことであって、歴史ではない。断じて、学校で歴史の授業が苦手だったからではない。
 そうして、元の棚に目線を移しかけたところで、それを見つける。


(これ……『建国史』?)


 そこで蘇ったのは、ララとの会話。異世界からの転移者を片翼に持つ魔王がこの国を作ったという話。


(この本に、アキモトさんのことが書いてあるかもしれない?)


 『アキモト・ナギ』という名前の異世界からの転移者。名前からして、日本人らしい気はするけれど、それはただの予測だ。本当のところは分からない。


(でも、日本語が通じることといい、『パティシエ』って言葉といい、日本人っぽいんだよね)


 そうだとするなら、気になるのは、その人物が元の世界に帰ったのかどうか。
 しばらくじっとその場に立ち尽くした私は、ゆっくりと、五冊目になるそれを抜き取り、リリと合流した。






(……よしっ、読んでみようっ)


 部屋に戻った私は、まだ魔力コントロールの訓練まで時間があることを確認して、『建国史』を開く。最初は、目次を見ても、何が何だか分からないだろうと思っていたけれど、それはすぐに見つかる。


(『アキモト・ナギの功績』か……)


 どうやら、アキモトさんは、目次の中で名指しされる程度には大きなことを成し遂げているらしい。
 ひとまずそのページまで本を捲り、ゆっくりと目を通していくと、そこにはお菓子作りのために何を開発したかだとか、どんなものが食べられるものとして普及しただとか、全般的にお菓子に関することしか書かれていなかった。


(私の覚悟は、いったい……)


 異世界について、何か書かれているかもしれないと思い、ページを開いていた私は、あまりにお菓子一色な功績の数々に脱力する。
 そうしてページを捲っていくと、ふいに、何か分厚い紙が挟まれていることに気づく。


(? 何だろう?)


 しおりにしては、分厚過ぎるそれに、私はついつい内容をそっちのけで取り出してみる。そして……。


(えっ?)


 ドクリ、と、心臓が嫌な音を立てる。


(こ、れ……)


 そこにあったのは、分厚い便箋。


(何で……)


 そこに書かれていた宛名は、『異世界から来たあなたへ』。しかも、それは日本語で書かれていた。


(秋元、凪、さん?)


 差出人の名前は、漢字でそう書かれている。となると、これは、建国史に登場するアキモトさん本人の直筆ということとなる。


(やっぱり、日本人、だよね?)


 これを読めば、もしかしたら秋元さんの命運が分かるかもしれない。この世界に残ったのか、それとも、元の世界に戻ったのか。

 知りたいという気持ちと同時に、怖いという気持ちが沸き起こる私は、便箋を持ったまま固まる。


(どう、しよう……)


 どうにもならない感情に押し潰されて、震えていると、ふいに、ノックが響き、私は慌てて便箋を建国史に挟んで隠す。


「ユーカお嬢様。魔力訓練の時間です」


 そう言って入ってきたララは、私を見て、一度だけ首をかしげるけれど、即座に元の状態に戻って私を促す。


(もっと、心の整理がついてから読もう)


 そう決意しながら、私は未だに暴れる心臓をなだめて、訓練場へと向かった。
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