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第三章 歩み寄り
第五十八話 大混乱
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「(わーっ、わーっ、わーっ)」
雷が止んで、眠りに落ちた私は、目を覚ますと当然のごとく荒れ狂った。
「(わ、私、ジークフリートさんに、抱き着いちゃった!?)」
抱き着いた時のガッシリとした体つきや、爽やかな香りを思い出して、私はブンブンブンブンと首を振る。
「(あうぅ……何で、何でっ、抱き着いたの! 私っ!)」
確かに、雷は怖い。
私は、幼い頃、父親に大雨の中を置いてきぼりにされたことがあった。その時、ずっと雷がゴロゴロと鳴っていたというのもあるけれど、問題はその後。何と、その雷がが近くに落ちて、私は感電してしまったのだ。気絶した私は、大雨で体温を奪われて、生死の境をさまようこととなった。幸い、通りかかった人が救急車を呼んでくれたため、一命はとりとめたものの、それ以来、雨と雷の組み合わせはトラウマになっていた。
「(でもっ、だからといって、あれはないっ)」
雨と雷が怖くて震えるのはいつものことだったけれど、近くに来た人に抱き着くのは初めてだ。しかも、私を恋愛対象として見ているらしいジークフリートさんに、私は何も意識せずに抱き着いてしまった。今さらになって赤面するも、もう、きっと、遅い。余計にジークフリートさんと目を合わせられなくなってしまった事実に、私は枕にポフンと頭を埋めて唸る。
と、そうやって悶えている時だった。いつまで経ってもベルを鳴らさない私に、業を煮やしたメアリー達がノックをしたのは。
「ユーカお嬢様? 入りますよ?」
そんなメアリーの声に、私はまだ顔が赤い自覚があるため、慌てて布団に潜り込む。
直後、扉が開き、メアリーとリリが入ってきた。
「ユーカお嬢様っ、おはようございますっ」
元気に挨拶してくれるリリに、普段なら挨拶を返すのだけれど、今日ばかりは無理だ。
「ユーカお嬢様? お着替えの用意をしたいのですが……」
ベッドから動こうとしない私に、メアリーは不思議そうに声をかけてくる。けれど、やはり私は動けない。
(うぅぅ、こんな時、声が出ないのはつらいっ。後にしてほしいのにーっ)
赤面が治るのには、まだまだかかりそうだ。けれど、メアリー達は私の事情なんて知らない。反応のない、私に、いよいよおかしいと思い始めたメアリー達は、強行手段に出た。
「失礼しますっ。ユーカお嬢様っ」
リリが一気に布団を剥ぎ取る。私は、急に流れ込む新鮮な空気に、パクパクと口を動かす。
「メアリーっ、ユーカお嬢様のお顔が赤いですっ」
「熱がおありなのかもしれません。急いで医師を手配しましょうっ!」
『赤い顔を見られたっ』と思う間もなく、何やら不穏な方向に話が進む。
「(ま、待って!)」
「大丈夫ですっ。お医者様は優しい方ですからねっ」
そう、見当違いな慰めをするリリ。
「少し失礼しますね」
そう言って、おでこに手を当ててくるメアリー。もはや、赤面しているどころではない。
「(大丈夫だからっ。ちょっと色々あっただけだからっ!)」
色々が何かは考えないようにしながら、必死に訴えると、熱を測っていたメアリーが首をかしげる。
「熱はないようですね」
「(うんっ、体調は良いからっ)」
「ではっ、何が問題だったんでしょうっ?」
「(それは、その……)」
(言えない。ジークフリートさんに抱き着いてしまって、悶々としていたなんて、言えない)
ただ、この専属侍女達は、察しが良過ぎた。
「もしかして、ご主人様と何かありましたか?」
メアリーのその一言に、私はポンッと音を立てて顔が真っ赤になったのを感じる。
「ご主人様と進展ですかっ!? いったい何があったんですっ?」
キラキラとした目で、興味津々に尋ねてくるリリに私は必死に目を逸らす。
(お願いだから、忘れてっ!)
「いけませんよ。リリ。そのような野暮なことを聞いては。きっと、素敵な一時を過ごされたに違いありませんっ」
なぜか力説するメアリーに、私は涙目でブンブンと首を振る。
「なるほどっ、うふふ、あははな世界ですねっ」
(どんな世界!?)
何やら、二人の想像がとんでもなく不穏な気がする。内容は詳しくは分からないものの、絶対に、それはあり得ないと断言できる。
「(違うからっ。その想像は、絶対違うからっ!)」
思わず、そう宣言するものの、送られてくる視線は生暖かい。
「えぇ、えぇ、承知しておりますよ」
「はいっ、内緒、ですねっ。分かりましたっ!」
「(全然分かってないっ!?)」
そうして、朝から随分と疲れる攻防が繰り広げられるのだった。
雷が止んで、眠りに落ちた私は、目を覚ますと当然のごとく荒れ狂った。
「(わ、私、ジークフリートさんに、抱き着いちゃった!?)」
抱き着いた時のガッシリとした体つきや、爽やかな香りを思い出して、私はブンブンブンブンと首を振る。
「(あうぅ……何で、何でっ、抱き着いたの! 私っ!)」
確かに、雷は怖い。
私は、幼い頃、父親に大雨の中を置いてきぼりにされたことがあった。その時、ずっと雷がゴロゴロと鳴っていたというのもあるけれど、問題はその後。何と、その雷がが近くに落ちて、私は感電してしまったのだ。気絶した私は、大雨で体温を奪われて、生死の境をさまようこととなった。幸い、通りかかった人が救急車を呼んでくれたため、一命はとりとめたものの、それ以来、雨と雷の組み合わせはトラウマになっていた。
「(でもっ、だからといって、あれはないっ)」
雨と雷が怖くて震えるのはいつものことだったけれど、近くに来た人に抱き着くのは初めてだ。しかも、私を恋愛対象として見ているらしいジークフリートさんに、私は何も意識せずに抱き着いてしまった。今さらになって赤面するも、もう、きっと、遅い。余計にジークフリートさんと目を合わせられなくなってしまった事実に、私は枕にポフンと頭を埋めて唸る。
と、そうやって悶えている時だった。いつまで経ってもベルを鳴らさない私に、業を煮やしたメアリー達がノックをしたのは。
「ユーカお嬢様? 入りますよ?」
そんなメアリーの声に、私はまだ顔が赤い自覚があるため、慌てて布団に潜り込む。
直後、扉が開き、メアリーとリリが入ってきた。
「ユーカお嬢様っ、おはようございますっ」
元気に挨拶してくれるリリに、普段なら挨拶を返すのだけれど、今日ばかりは無理だ。
「ユーカお嬢様? お着替えの用意をしたいのですが……」
ベッドから動こうとしない私に、メアリーは不思議そうに声をかけてくる。けれど、やはり私は動けない。
(うぅぅ、こんな時、声が出ないのはつらいっ。後にしてほしいのにーっ)
赤面が治るのには、まだまだかかりそうだ。けれど、メアリー達は私の事情なんて知らない。反応のない、私に、いよいよおかしいと思い始めたメアリー達は、強行手段に出た。
「失礼しますっ。ユーカお嬢様っ」
リリが一気に布団を剥ぎ取る。私は、急に流れ込む新鮮な空気に、パクパクと口を動かす。
「メアリーっ、ユーカお嬢様のお顔が赤いですっ」
「熱がおありなのかもしれません。急いで医師を手配しましょうっ!」
『赤い顔を見られたっ』と思う間もなく、何やら不穏な方向に話が進む。
「(ま、待って!)」
「大丈夫ですっ。お医者様は優しい方ですからねっ」
そう、見当違いな慰めをするリリ。
「少し失礼しますね」
そう言って、おでこに手を当ててくるメアリー。もはや、赤面しているどころではない。
「(大丈夫だからっ。ちょっと色々あっただけだからっ!)」
色々が何かは考えないようにしながら、必死に訴えると、熱を測っていたメアリーが首をかしげる。
「熱はないようですね」
「(うんっ、体調は良いからっ)」
「ではっ、何が問題だったんでしょうっ?」
「(それは、その……)」
(言えない。ジークフリートさんに抱き着いてしまって、悶々としていたなんて、言えない)
ただ、この専属侍女達は、察しが良過ぎた。
「もしかして、ご主人様と何かありましたか?」
メアリーのその一言に、私はポンッと音を立てて顔が真っ赤になったのを感じる。
「ご主人様と進展ですかっ!? いったい何があったんですっ?」
キラキラとした目で、興味津々に尋ねてくるリリに私は必死に目を逸らす。
(お願いだから、忘れてっ!)
「いけませんよ。リリ。そのような野暮なことを聞いては。きっと、素敵な一時を過ごされたに違いありませんっ」
なぜか力説するメアリーに、私は涙目でブンブンと首を振る。
「なるほどっ、うふふ、あははな世界ですねっ」
(どんな世界!?)
何やら、二人の想像がとんでもなく不穏な気がする。内容は詳しくは分からないものの、絶対に、それはあり得ないと断言できる。
「(違うからっ。その想像は、絶対違うからっ!)」
思わず、そう宣言するものの、送られてくる視線は生暖かい。
「えぇ、えぇ、承知しておりますよ」
「はいっ、内緒、ですねっ。分かりましたっ!」
「(全然分かってないっ!?)」
そうして、朝から随分と疲れる攻防が繰り広げられるのだった。
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