私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第三章 歩み寄り

第五十七話 雨(ジークフリート視点)

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 朝から濁流のような雨が降りしきる中、俺は執務室でユーカの魔力について考えていた。


「結界は、ほれぼれするくらいに強力だったな」


 あまりにも攻撃魔法が上手くいかないことから、できないことを前提に風の結界魔法を教えたところ、そちらは恐ろしく精巧に発動できたのだ。きっと、あの結界を破るのは、俺やハミルトンでも苦労することだろう。


「精神的な問題、か?」


 まだ、他の魔法は試していないものの、攻撃以外の風魔法を試してみて、上手くいくようであれば、ユーカは魔法が苦手なのではなく、攻撃魔法が苦手ということになる。そして、その原因として考えられるのは、精神的な問題だった。


「ハミルが居れば、話し合えたんだがな」


 残念ながら、ハミルトンが帰ってくるのは明日だ。魔力においてはハミルトンの方が秀でているため、こういう時は意見を聞きたいところだったのだが、仕方ない。


「ご主人様。そろそろユーカお嬢様の元に参られますか?」

「あぁ、そうしよう」


 最近、意識されているせいで避けられているように思えていたのだが、ハミルトンがこの城を出る前日、ユーカからの贈り物として、焼き菓子をもらうことができた。
 ユーカは友達の証として贈ってくれたそうだが、俺にとっては初めての片翼からの贈り物。つい、部屋に飾ろうとすると、今もここに居るメアリーから止められ、結局味わって食べることになった。幸せ過ぎて、いつまでも味わっていたかったが、さすがにそういうわけにもいかず、やがて、焼き菓子はなくなった。そうして、いつまでも未練たらしく手元を眺めていたのが気になったのか、メアリーから一つ、提案された。『『訪れ』を再開させてはどうか』と。

 猫の姿だけではなく、魔力の訓練では元の姿でも会えるようになっていたため、ユーカに会えずに禁断症状が出ることはなくなったものの、確かに、会うためだけの機会というものはなくなっていた。
 俺は、即断し、ハミルトンに倣って何か贈り物をしようと商人を呼びつけたりもした。だから今は、贈り物の準備も万端だった。

 雷がゴロゴロと鳴る天気でも、俺の心は浮き立っていた。もしかしたら、上手く話すこともできないかもしれないが、それはただ意識されているだけなのだと思えば、それすらもいとおしい。
 そうして、俺は扉の前で一つ深呼吸をすると、意を決してノックをする。今までの片翼とは違うユーカなら、ノックをしても大丈夫……むしろ、ノックをした方が良いとのことで、最近はしっかりノックをすることにしていた。
 声が出ないため、返事はないながらも入室すると、なぜか、ユーカはベッドに潜り込んでいた。


「ユーカ?」


 『どうしたんだ?』と聞こうとした直後、ピシャンッと雷が落ちる音がして、同時に布団の塊がビクゥッと震える。


(もしかして……?)


 一月も前ならば、きっと自分に怯えているのだと思っただろう。しかし、今は違う。ユーカは、俺達が険しい顔でもしない限り怯えることはないと知っている。
 贈り物の箱をサイドテーブルに置き、ベッドの布団を取り払う。すると、そこには、枕をギュッと抱き締め、目をしっかりと閉じて震えるユーカの姿があった。


「ユーカ」


 優しく声をかけると、恐る恐るといった様子でその目を開き、黒い瞳を覗かせる。しかし、その目は未だに恐怖に包まれていて、大きく揺れていた。
 そんな状態でも、俺の姿を認識したユーカは、オズオズと体を起こす。そして、その直後。

 ピシャンッ、ゴロゴロゴロッ!


「(――――――!)」


 雷の音に驚いたユーカは、何と、俺に抱き着いてきた。


「ユ、ユーカ!?」

(どどど、どうするっ!? 柔らかくて甘い香りが……いやいやいや、しっかりしろっ、俺っ!)


 一瞬……どころか、数秒は意識が幸せの彼方に飛んでいたものの、どうにか正気に戻って、ギュウギュウと締め付けるようにしてくるユーカの背中に、そっと手を回す。


「大丈夫だ。ここには、怖いものなんて、何もない。大丈夫、大丈夫だ」


 何を置いても優先すべきは、ユーカを慰めることだと判断した俺は、頭の中で大繁殖した煩悩の大軍を、どうにか押し留めて半分以上を撃退し、その背をゆっくりさすってやる。
 ブルブルと震えるユーカは、本当に雷が苦手ならしく、ゴロゴロと音がする度にギュウギュウと抱き締める手に力を入れてくる。その温もりが、不謹慎ながらも嬉しいと感じてしまい、すぐにその考えを打ち消す。


(ユーカを慰めることが優先だ)


 そうして、ほぼ二時間、俺達は抱き合った状態で、雷が遠ざかる瞬間を待つ。その間は、とてもゆっくりと時間が流れ、雷の音がしなくなった頃には、スゥスゥという規則正しい小さな寝息が聞こえてくるのだった。
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