私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第三章 歩み寄り

第五十六話 ヴァイラン魔国を知る

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 ハミルトン様が厨房に来てしまった事件から、三日が経った。相変わらず魔力コントロールの訓練はしているものの、そこにハミルトン様の姿はない。そして、それと同時にリド姉さんの姿もなかった。


「(ララ、今さらだけれど、ハミルトン様とリド姉さんはどうしたの?)」


 最初は、何か用事でもあったのだろうとあまり気にしていなかったものの、こうも会えない日が続くと気になってくる。そんなわけで、部屋でお茶を飲みながら頼りになるララへと質問すると、ララは快く答えてくれる。


「ハミルトン様は、仕事のために自国へとお帰りになっておられます。そろそろ一度戻ってはこられると思われますが、まだのようです」


 そうして一息吐くと、次はリド姉さんのことを教えてくれる。


「リドル様は現在、片翼休暇中です。何でも、片翼の方と何か行き違いがあったらしく、精霊の国に向かっておられるはずです」


 どうやら、二人とも別々の国に行っているらしい。と、そこで、私はこの国のことすらよく知らないことに気づいた。


「(ねぇ、ララ。この国のこと、教えてくれる?)」

「この国のこと、ですか? そうですね……具体的にどのようなことをお知りになりたいのでしょうか?」


 改めて問いかけられて、私は少しだけ考えると、その答えを出す。


「(じゃあ、名産品とか、名所とか、どんな種族が暮らしてるとか?)」

「では、順番にお答えします。まず、最も有名な名所は、このマリノア城です。開放はされておりませんが、外から見るだけならできますので、この国の象徴になっております」


 そう言いながら、他にもケーキ発祥の店だとか、大闘技場、植物園などの名所を紹介してくれる。そして……。


「次に、名産品ですが……これは、お菓子の一択に尽きます。焼き菓子、生菓子、飴細工などなど、とにかく様々な種類のお菓子がこの地には集まっています」

「(お菓子……じゃあ、他の国だと、私がいつも食べてるようなお菓子はなかったりするの?)」

「物によっては、その場合もございます」


 日本では特に珍しくもなかったお菓子が、どうやらこの国限定でしかないものだったりするらしい。それは、私にとって衝撃の事実で、これからは、出されるお菓子をもっと味わって食べようと心に決める。


「この国は、元々異世界からの転移者を片翼に持つ魔王が作ったとされています。そして、その片翼の方がパティシエというお菓子職人だったことから、様々なお菓子が有名になったそうです」


 そうしてぼんやりと話を聞いていると、何とも聞き捨てならない単語が飛び出してくる。

 『異世界』、『転移者』、『パティシエ』。それは、どれも、私の元居た世界のことを彷彿ほうふつとさせるものだった。


「(その、異世界からの転移者って人は、何て名前の人だったの?)」

「名前は確か、アキモト・ナギでしたね」


 その名前に、ドクリと心臓が鳴る。それは、明らかに日本人の名前だ。


「アキモトは、多種の言語でバラバラだった魔族達に、一つの全く違う言語をもたらして、それを共通語にしたという功績もございます。今、話している言葉は、その共通語なのです」


 そう言われて、私はようやく、この世界で言葉に困らなかった理由を知る。やはり、この言葉は日本人が伝えた日本語なのだ。
 そして、その事実に、私は一つだけ、恐怖が芽生える。


「(その、アキモトさんは、結局異世界に帰ったりしたの?)」

「? いいえ、そのような話は伝わっておりません」


 恐怖の元は、いつか、元の世界に戻されてしまうのではないかということ。私は、元の世界には戻りたくなどない。この世界に居たかった。


「(じゃあ、異世界に戻る方法とかは伝わってたりする?)」

「……申し訳ございません。その辺りは、私も知識が不足しており、正確なことをお答えすることはできません」

「(そっか……)」


 私の質問に訝しげな様子のララだったけれど、今の私は、もしも元の世界にいきなり戻ってしまったらどうしようという不安でいっぱいだった。


(戻りたくない。私は、ジークフリートさんや、ハミルトン様達が居る、この世界が良いっ)


 元の世界に、未練は一つもない。だから、どうか勝手に戻るようなことにならないでほしいと、静かに祈ることしかできない。


「ユーカお嬢様? どうなさいましたか?」


 嫌な想像に囚われていると、ララが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。


「(ううん、何でもないの)」

(そう、大丈夫。今までだって戻らなかったんだから、きっと……)


 私を見つめたままのララは、何か言いたげだったものの、しばらくすると諦めた様子で、先ほどの会話の続きを再開する。


「この国に住む種族は、多種多様です。魔族はもちろんのこと、人間、エルフ、ドワーフ、精霊、獣人などがそれぞれ住んでおります」

「(へぇ、それはすごいね。でも、色々居すぎて喧嘩になったりはしないの?)」

「魔族以外の種族は、基本的に片翼として連れて来られた者や、その子孫だったりしますが、魔族と多少のいざこざはあっても、大きな問題に発展したことはございませんね」

(それって、かなりすごいことなんじゃないのかな?)


 普通に考えれば、多種多様な人種は多種多様ないざこざに繋がる。下手をすれば、内乱に発展することだってあり得るのに、大きな問題に発展したことがないということは、それだけ統治者が優れているということにほかならないだろう。


「(ジークフリートさんって、すごいんだね)」

「えぇ、自慢のご主人様です」


 そうして、その日はヴァイラン魔国に関する知識を増やすことに費やすのだった。
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