私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第三章 歩み寄り

第五十五話 ユーカはどこっ!?(ハミルトン視点)

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 思いがけず拒絶され、入室を禁じられた昨日は、とても辛かった。しかし、猫姿で甘えに行けば、ユーカは快く受け入れてくれて、幸せな気分になると同時に複雑な気分にもなる。


(この変化へんげについては、墓場まで持っていく秘密になりそうだね)


 僕は寸でのところで、ユーカに雄か雌かの確認はされずにすんだものの、ジークフリートの場合、雄か雌かの確認を直接されたらしい。親友としても、この秘密は永遠に秘密のままにしておくべきだろう。


(今日は、また贈り物を贈ろう。それで、少しでも機嫌を直してもらうんだ)


 実を言うと、贈り物に喜んだユーカが可愛くて、またあの笑った顔が見たいがための口実ではあったものの、僕は真剣に贈り物を選んだ。
 姫雪花ひめゆきはなと呼ばれる、花弁がまるでドレスのようにふんわりと反り返り、その色は花弁の先だけがピンクだったり青だったりしながら、中心に向かうほど白くなっている花。それを贈り物として選び、他にも見栄えが良くなるように別の花を混ぜてもらう。そうして、準備を終えた僕は、そろそろ建国祭が一ヶ月後に迫っていて、一度はリアン魔国にしっかり帰らなければならないなと考えながら、マリノア城へ向かう。
 現在、僕は転移魔法で毎日ヴァイラン魔国とリアン魔国を行き来しており、緊急の仕事を中心に片付けてはいる。しかし、建国祭が近いとなれば、そうも言ってられない。すでに準備は始まっており、仕事もどんどん忙しくなるはずだ。それに、建国祭だけではなく、どうにも隣の国、ヘルジオン魔国がキナ臭いという噂もある。ジークフリートのところにもその報告は来ているらしいから、防衛もしっかり固めなければならなさそうだ。
 ただ……そんな風に仕事をしていれば、きっと、明日はユーカに会いに行けないだろう。それは、とんでもなく憂鬱だったが、ユーカの笑顔を見られれば、何とか頑張れる気がした。


(ユーカ、喜んでくれるかなぁ? 姫雪花は、女性に人気の花らしいけど……)


 少しドキドキしながら、リリを伴ってユーカの部屋へと向かう。そして……すぐに、異変に気がついた。


「ユーカの気配がない?」


 部屋に居るはずのユーカの気配が、そこには感じられなかった。


「おかしいですね? 入れ違いで何か報告がいっていたんでしょうかっ?」


 どうやら、リリもユーカがここに居ない理由を知らないらしい。ただ、それはまずあり得ないことだ。ユーカの居場所に関しては、厳しい報告義務を課していたのだから、最低でも専属侍女達は常にユーカの居場所を把握しているはずだった。
 そして、その瞬間、ヘルジオンからの間者がこの国にも来ている可能性が高いという情報を思い出してしまう。


(まさかっ、ユーカに何かあった!?)

「ユーカを探すっ。この花は保管しておいてっ!」

「はいっ!」


 僕は、大慌てでユーカの気配を探すため、目を閉じ、魔力を解き放って、城内から城下町までを含めた場所を調べる。すると……。


「……厨房?」


 どうやら、ユーカは厨房に居るらしい。しかも、そこにはリドルやメアリー、ゴッツといった覚えのある魔力反応ばかりで、危険らしい危険は見当たらない。


「……ちょっと行ってくる」


 報告義務を怠ったと思われる二人の魔族に対して、僕は怒り狂う感情を抑えて歩き出す。


「は、はいっ」


 魔力だけはまだ荒れ狂っているため、側にいるリリは、震えながらどうにか返事をしている有り様だったが、今の僕は、それを気にかけることもできない。ユーカに危険があったかもしれない。それだけで、僕は暴走寸前だった。
 リドル達も、僕が厨房に向かっていることに気づいたらしいが、僕の魔力に気圧されて、動くこともままならない。その様子に、僕は自分でも分かるほどに獰猛な笑みを浮かべて、その場へ転移した。


「(――――――?)」


 甘い香りが漂う厨房で、ユーカが真っ先に目を丸くして驚いた。その様子はとても愛しくて、すぐにでも愛を囁きたくなったものの、今は二人の処罰が先だ。


「ねぇ、二人とも? 何か言い分はあるかな?」


 意図的にリドルとメアリーへの威圧を強めれば、二人は声もなく、床に膝をつく。


「お、おいおい、ハミル坊っちゃん? 随分と物騒だな?」


 側に居たゴッツが、青ざめながら何かを言ってくるものの、今はどうでも良い。これから僕は、この二人を罰しなければならないのだから。
 すると、状況が掴めているのかいないのか、ふいに、ユーカが動いた。


「(――――――――っ!!)」

「っ、ユーカ?」


 リドルとメアリーを庇うように両手を広げて、何かを真剣に訴えるユーカに、僕はどうしたら良いのか分からなくなる。本当なら、許されないことをした二人には相応の罰が必要だ。しかし、どう見ても、ユーカはこの二人を罰することを否定していそうだ。


「……なるほど、大方、ハミル坊っちゃん達に内緒でのことだったんだな?」

「何を知ってるんだい? ゴッツ?」


 二人への威圧を解くことはできない。しかし、事情があるというならば、それを聞く用意くらいはある。そうして尋ねると、ゴッツは魔力に当てられているだろうに、なぜかニヤニヤとし出す。


「なぁに、この嬢ちゃんは、想い人への贈り物を内緒で用意したかっただけなんだ。それで、リド坊っちゃん達は、想い人であるお前らに内緒にしてたってわけさ。なぁ、嬢ちゃん?」


 『想い人』という言葉に、一瞬思考停止した僕は、次の瞬間、ユーカがポンッと真っ赤になるのを見て、今度こそ完全に思考が止まる。


「(――――――っ!!)」

「お、おぅ、何言ってっか分かんねぇけど、その、悪かった」


 ユーカはゴッツに何かを反論しているものの、どう見ても、想いをバラされて混乱しているようにしか見えない。と、そこで、僕自身、ハッと我に返り、段々と顔が熱くなるのを感じる。


「あ、うぁ、その……また後でっ!」


 そうして、僕は急いで転移を使って、その場から離脱した。二人に罰を与えようと思っていたことなんて、すっかり忘れて。だから、後にリドルが『ユーカちゃん、ハミルは『想い人』の言葉が嬉し過ぎて暴走しただけだから、気にしなくて良いのよ』とか、『誤解は……解けたら解いておいてあげるわね』とか言っていたことは知らない。
 とにかく、ユーカが僕達を想ってくれていたことが嬉し過ぎて、眠ることすらできなくなったのだった。
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