55 / 173
第三章 歩み寄り
第五十三話 ユーカお嬢様とのお話(ララ視点)
しおりを挟む
ユーカお嬢様のお部屋へ向かう道中、リリと合流して一緒に行くことになったまでは良かった。問題が発生したのは、ユーカお嬢様のお部屋の扉をノックした時だった。
パタパタと扉まで駆けてくる気配を感じて、私達はすぐに扉を開けることなく待ったのだが……なぜか、扉に少し衝撃が加わったかと思うと、そのまま微動だにしなくなった。
(? 扉を開けようとなさったわけではない?)
ユーカお嬢様の考えが分からず、私は一応声をかけることにする。
「開けますよ? ユーカお嬢様」
そうして、ノブをひねって扉を開けようとしたものの、なぜかその扉は動かない。いや、おそらくは、ユーカお嬢様によって押さえつけられていた。
「ユーカお嬢様?」
「どうしたのかしら?」
心配そうにする後ろの二人。そして、私自身も心配で、さっと考えを巡らせて、一つの方法を取る。
「ユーカお嬢様。ノック一回が『はい』、ノック二回が『いいえ』、ノック三回が『分からない』という返事になるということにして、会話を試みてもよろしいでしょうか?」
声が出ないユーカお嬢様のためにそう提案すると、即座にノックが一回、コンと返ってくる。
「それではまず、ユーカお嬢様自身に今、危険はありますか?」
そう尋ねれば、コンコンと返ってくる。どうやら、何者かが侵入して、ユーカお嬢様が危険にさらされているということはなさそうだ。
私が始めたその会話を、後ろの二人は固唾を呑んで見守っている。
「では、今、ユーカお嬢様が取っていらっしゃる行動は、ユーカお嬢様のご意志でしょうか?」
コン、と返ってきたため、これは肯定だ。いったい、ユーカお嬢様に何があったのかと思いながら、私は続けて質問をする。
「私達が何か粗相をしてしまったのでしょうか?」
コンコン、と返ってきて、少しだけホッとする。粗相をして怒らせてしまったわけではなさそうだ。
「私達全員が入るのはいけませんか?」
そう問いかけると、間髪を入れずにコンと返ってくる。粗相はしていないものの、何か問題があるらしい。
「今、ここに居るのは、リドル様、リリ、そして、私、ララの三人です。まず、リドル様だけならお部屋に入っても良いですか?」
リドル様とは、それなりに仲良くなっていたはずだと思い、真っ先に問いかけてみれば、コンコンと否定が返ってくる。
「そんなっ!?」
「リドル様は黙っていてください。それでは、リリだけなら入っても良いですか?」
地味にショックだったらしいリドル様は放置して、次はリリの名前を出してみると、今度は肯定が返ってくる。
「では、リリと一緒に私もお部屋に入ることは可能ですか?」
すると、またしても肯定のコンが返ってきて、私は異性がダメなのかもしれないと判断する。
「分かりました。リドル様には決して入らせませんので、私とリリは入室してもよろしいでしょうか?」
コンという返事とともに、ユーカお嬢様の気配が部屋の奥へ向かうのを確認した私は、少し沈んだ様子のリドル様へと向き直る。
「それでは、リドル様。しばらくお待ちください」
「分かったわ。同性同士でしか話したくないこともあるでしょうしね」
沈んだとはいえ、さすがに良識のあるリドル様は、快く同意してくれる。そうして、扉から少し離れてもらうと、私とリリはユーカお嬢様のお部屋へと入室するのだった。
「ユーカお嬢様っ? 大丈夫ですかっ?」
入ってすぐに真剣な面持ちでユーカお嬢様へと駆け寄るリリは、何度もうなずくユーカお嬢様を見て、ようやく表情を崩す。
「良かったですっ。もし、ユーカお嬢様が落ち込んでたりしてたら、私、ハミルトン様を許せなかったところですっ」
ただ、ハミルトン様の名前が出た途端、ユーカお嬢様はビクゥッと肩を跳ね上げる。
「ユーカお嬢様? ハミルトン様をシメますか?」
十中八九、私達が閉め出された原因はハミルトン様にあると気づき、私は良案を思いついたとばかりに提案する。しかし、お優しいユーカお嬢様は、フルフルと首を横に振って、その提案を否定する。
「(その、ハミルトン様が悪いわけじゃなくて、えっと……私の耐性がないというか、何というか……)」
「なるほど、やはり全てはハミルトン様がユーカお嬢様を抱き締めたことが原因だったのですね?」
「(何で知ってるの!?)」
「ほわっ!? ハミルトン様、そんなことをしたんですかっ!?」
さらっとハミルトン様の行動について話せば、ユーカお嬢様は目を大きく見開いて驚く。そして、リリは……きっと、私と同じように、どうやってハミルトン様を泣かせるかを考えていることだろう。
「……やっぱり、鞭は外せない?」
「(リリ、何のこと!?)」
物騒な方向に思考が逸れたリリに突っ込むユーカお嬢様は、今見る限りは普段通りにしか見えない。ただ、きっと、ハミルトン様を前にすれば、動揺してしまうのだろうということだけは、今までの行動からよく分かっていた。
「(えっと、問題は、ハミルトン様だけじゃないの。ジークフリートさんも、心臓に悪くて……私、どうすれば良いのかなぁ?)」
「ユーカお嬢様は、お二人のことが嫌いですか?」
ご主人様の名前が出てきたと分かった瞬間、私は思わずそう尋ねていた。そして、その話はリリも気になるらしく、じっとユーカお嬢様の唇を観察している。
「(嫌いでは、ないと、思う。けれど、とにかくどうしたら良いのか分からなくて……)」
途方に暮れた表情のユーカお嬢様だったが、私は不謹慎ながら、『嫌いではない』という言葉に強く感動を覚えていた。まだ、『好き』とまではいかなくとも、『嫌いではない』のなら可能性はある。後は、ご主人様が無理をしなければ、ユーカお嬢様の心を手に入れられる未来もあるかもしれない。ハミルトン様のことはどうでも良い
「少しずつ慣れたいということを話してみてはどうですかっ?」
リリがそう提案するのを聞きながら、ユーカお嬢様の反応を見てみると、パァッと表情が明るくなったのが分かった。
「(そっか、友達からってやつだねっ! ありがとう、リリ。そうしてみるっ!)」
(友達から……ご主人様。道のりは遠そうですよ?)
思わず、ご主人様を思って遠い目をした私は、それでも今までの片翼達とは全く違うユーカお嬢様の様子に微笑む。
「それではユーカお嬢様。何かご入り用のものはございますか?」
「(? うん? あの、用事は?)」
「それは、もうすみましたので、お気にならさず」
『嫌いではない』という言質は取った。後は報告だけなので、ユーカお嬢様に何か必要なものがないか聞くことは、なんらおかしなことではない。
そうして、まだしばらくは落ち着きたいから、男性は入室禁止という言葉と、ココアがほしいという言葉をもらった私達は退出し、それぞれに役目を果たすため動き出すのだった。
パタパタと扉まで駆けてくる気配を感じて、私達はすぐに扉を開けることなく待ったのだが……なぜか、扉に少し衝撃が加わったかと思うと、そのまま微動だにしなくなった。
(? 扉を開けようとなさったわけではない?)
ユーカお嬢様の考えが分からず、私は一応声をかけることにする。
「開けますよ? ユーカお嬢様」
そうして、ノブをひねって扉を開けようとしたものの、なぜかその扉は動かない。いや、おそらくは、ユーカお嬢様によって押さえつけられていた。
「ユーカお嬢様?」
「どうしたのかしら?」
心配そうにする後ろの二人。そして、私自身も心配で、さっと考えを巡らせて、一つの方法を取る。
「ユーカお嬢様。ノック一回が『はい』、ノック二回が『いいえ』、ノック三回が『分からない』という返事になるということにして、会話を試みてもよろしいでしょうか?」
声が出ないユーカお嬢様のためにそう提案すると、即座にノックが一回、コンと返ってくる。
「それではまず、ユーカお嬢様自身に今、危険はありますか?」
そう尋ねれば、コンコンと返ってくる。どうやら、何者かが侵入して、ユーカお嬢様が危険にさらされているということはなさそうだ。
私が始めたその会話を、後ろの二人は固唾を呑んで見守っている。
「では、今、ユーカお嬢様が取っていらっしゃる行動は、ユーカお嬢様のご意志でしょうか?」
コン、と返ってきたため、これは肯定だ。いったい、ユーカお嬢様に何があったのかと思いながら、私は続けて質問をする。
「私達が何か粗相をしてしまったのでしょうか?」
コンコン、と返ってきて、少しだけホッとする。粗相をして怒らせてしまったわけではなさそうだ。
「私達全員が入るのはいけませんか?」
そう問いかけると、間髪を入れずにコンと返ってくる。粗相はしていないものの、何か問題があるらしい。
「今、ここに居るのは、リドル様、リリ、そして、私、ララの三人です。まず、リドル様だけならお部屋に入っても良いですか?」
リドル様とは、それなりに仲良くなっていたはずだと思い、真っ先に問いかけてみれば、コンコンと否定が返ってくる。
「そんなっ!?」
「リドル様は黙っていてください。それでは、リリだけなら入っても良いですか?」
地味にショックだったらしいリドル様は放置して、次はリリの名前を出してみると、今度は肯定が返ってくる。
「では、リリと一緒に私もお部屋に入ることは可能ですか?」
すると、またしても肯定のコンが返ってきて、私は異性がダメなのかもしれないと判断する。
「分かりました。リドル様には決して入らせませんので、私とリリは入室してもよろしいでしょうか?」
コンという返事とともに、ユーカお嬢様の気配が部屋の奥へ向かうのを確認した私は、少し沈んだ様子のリドル様へと向き直る。
「それでは、リドル様。しばらくお待ちください」
「分かったわ。同性同士でしか話したくないこともあるでしょうしね」
沈んだとはいえ、さすがに良識のあるリドル様は、快く同意してくれる。そうして、扉から少し離れてもらうと、私とリリはユーカお嬢様のお部屋へと入室するのだった。
「ユーカお嬢様っ? 大丈夫ですかっ?」
入ってすぐに真剣な面持ちでユーカお嬢様へと駆け寄るリリは、何度もうなずくユーカお嬢様を見て、ようやく表情を崩す。
「良かったですっ。もし、ユーカお嬢様が落ち込んでたりしてたら、私、ハミルトン様を許せなかったところですっ」
ただ、ハミルトン様の名前が出た途端、ユーカお嬢様はビクゥッと肩を跳ね上げる。
「ユーカお嬢様? ハミルトン様をシメますか?」
十中八九、私達が閉め出された原因はハミルトン様にあると気づき、私は良案を思いついたとばかりに提案する。しかし、お優しいユーカお嬢様は、フルフルと首を横に振って、その提案を否定する。
「(その、ハミルトン様が悪いわけじゃなくて、えっと……私の耐性がないというか、何というか……)」
「なるほど、やはり全てはハミルトン様がユーカお嬢様を抱き締めたことが原因だったのですね?」
「(何で知ってるの!?)」
「ほわっ!? ハミルトン様、そんなことをしたんですかっ!?」
さらっとハミルトン様の行動について話せば、ユーカお嬢様は目を大きく見開いて驚く。そして、リリは……きっと、私と同じように、どうやってハミルトン様を泣かせるかを考えていることだろう。
「……やっぱり、鞭は外せない?」
「(リリ、何のこと!?)」
物騒な方向に思考が逸れたリリに突っ込むユーカお嬢様は、今見る限りは普段通りにしか見えない。ただ、きっと、ハミルトン様を前にすれば、動揺してしまうのだろうということだけは、今までの行動からよく分かっていた。
「(えっと、問題は、ハミルトン様だけじゃないの。ジークフリートさんも、心臓に悪くて……私、どうすれば良いのかなぁ?)」
「ユーカお嬢様は、お二人のことが嫌いですか?」
ご主人様の名前が出てきたと分かった瞬間、私は思わずそう尋ねていた。そして、その話はリリも気になるらしく、じっとユーカお嬢様の唇を観察している。
「(嫌いでは、ないと、思う。けれど、とにかくどうしたら良いのか分からなくて……)」
途方に暮れた表情のユーカお嬢様だったが、私は不謹慎ながら、『嫌いではない』という言葉に強く感動を覚えていた。まだ、『好き』とまではいかなくとも、『嫌いではない』のなら可能性はある。後は、ご主人様が無理をしなければ、ユーカお嬢様の心を手に入れられる未来もあるかもしれない。ハミルトン様のことはどうでも良い
「少しずつ慣れたいということを話してみてはどうですかっ?」
リリがそう提案するのを聞きながら、ユーカお嬢様の反応を見てみると、パァッと表情が明るくなったのが分かった。
「(そっか、友達からってやつだねっ! ありがとう、リリ。そうしてみるっ!)」
(友達から……ご主人様。道のりは遠そうですよ?)
思わず、ご主人様を思って遠い目をした私は、それでも今までの片翼達とは全く違うユーカお嬢様の様子に微笑む。
「それではユーカお嬢様。何かご入り用のものはございますか?」
「(? うん? あの、用事は?)」
「それは、もうすみましたので、お気にならさず」
『嫌いではない』という言質は取った。後は報告だけなので、ユーカお嬢様に何か必要なものがないか聞くことは、なんらおかしなことではない。
そうして、まだしばらくは落ち着きたいから、男性は入室禁止という言葉と、ココアがほしいという言葉をもらった私達は退出し、それぞれに役目を果たすため動き出すのだった。
73
お気に入り登録や感想を、ありがとうございます。これを励みに楽しく更新していきますね。
お気に入りに追加
8,219
あなたにおすすめの小説

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。


転生先は男女比50:1の世界!?
4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。
「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」
デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・
どうなる!?学園生活!!

おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23

私、確かおばさんだったはずなんですが
花野はる
恋愛
不憫系男子をこよなく愛するヒロインの恋愛ストーリーです。
私は確か、日本人のおばさんだったはずなんですが、気がついたら西洋風異世界の貴族令嬢になっていました。
せっかく美しく若返ったのだから、人生勝ち組で楽しんでしまいましょう。
そう思っていたのですが、自分らしき令嬢の日記を見ると、クラスメイトの男の子をいじめていた事が分かって……。
正義感強いおばさんなめんな!
その男の子に謝って、きっとお友達になってみせましょう!
画像はフリー素材のとくだ屋さんからお借りしました。

転生した世界のイケメンが怖い
祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。
第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。
わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。
でもわたしは彼らが怖い。
わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。
彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。
2024/10/06 IF追加
小説を読もう!にも掲載しています。
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる