私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

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第三章 歩み寄り

第四十五話 独白と怒り

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 全く進まない訓練を終えて、部屋に戻った私は、しばらくして灰色の猫を連れてきてくれたララにお礼を言い、一人でくつろぐ。ただ、一人になったところで考えるのは、片翼という存在の意味。


「(ジークフリートさんも、ハミルトン様も、私をそういう目で見てるってことだよね?)」


 どうせここには猫しか居ない。それに、声も出ないのだから、ブツブツ呟いて考え事をしても良さそうだと、灰色の猫を膝の上に乗せて、優しく撫でながら愚痴を溢す。


「(何で、私なんだろう? ジークフリートさんが私を助けてくれたのって、片翼だったから、なのかなぁ?)」

「ニャー」

「(そういえば、結局まだお礼が言えてない……この状況で言えるとも思えないけれど)」


 サラサラの毛並みを堪能しながら、私はやっぱり両翼ということを考えてしまう。


「(……両翼って、二人に愛される存在なんだよね。二人、二人……常識がぁっ)」

「フニャッ」


 突然、顔を赤くしながら頭を抱え出した私に、猫は驚いたように跳び跳ねる。


「(あぁ、ごめんごめん。ちょっと、日本での常識と格闘してた。……この世界で生きるからには、いずれ受け入れなきゃいけないとは思うんだけれど……まだまだ決心なんてつかないよ)」


 猫を落ち着かせるようにまた撫で始めると、猫はトロンと眠そうな目で大きくあくびをする。


「(二人のこと、嫌いではないけれど、まだ、恋なんて分からないし……今は、自分のことでいっぱいだし)」


 せめて、声くらいは出せるようになりたいものだ。精神的なものが大きいのだろうから、そんなに簡単に声を取り戻せるとは思っていないものの、たまに不便を感じる。主に、鞭で誰かを攻撃しようとするララを止める際、声は絶対に必要だと思う。


「(今みたいな時は、誰にも聞かれる心配もなくて安心なんだけれどねっ)」


 そうして、ニャンニャン鳴く猫に頬擦りしていると、ノックの音がする。


(あれ? 何かあったっけ?)


 お茶会は、あの騒動以来、庭で開催するのは問題だということで、一度テラスで猫カフェ風のお茶会があっただけだ。その時の猫達の様子は何だかおかしかった記憶があるものの、きっと、マタタビでも用意してあったのだろうと思っている。そして、今日は、お茶会の予定は入っていなかったはずで、夕飯にも早過ぎる。つまり、このノックの音の意味が分からない。


「(どうぞ)」


 聞こえないながらも、心情的に返事をすると、その返事が聞こえたかのようなタイミングで扉が開く。そうして、そこに居たのは……。


「やぁやぁ、初めましてっ。私の名はナリク・シーカー。お会いできて光栄だっ。小さなレディ」


 無駄にキンキラキンの輝きを放つ、存在感のある男だった。その男は、部屋に入るや否や、私のところまでズンズンと進み、私の手を取って口づけを落とす。どこまでもキザなその行動に、鳥肌が止まらない。


「ナリク様。ユーカお嬢様から離れてくださいませんか?」


 メアリーはいつも通りニッコリと……ニッコリと? ……とっても黒い笑顔を浮かべて、部屋に入室するや否や、脅すように声をかける。


(……メアリー、怖いね)


 メアリーのいつもと違う雰囲気に、思わず猫と目で会話をする。


「ふっ、やきもちかい? 私の存在は、そこまで罪だというのかっ」


 銀色の髪をかき上げて笑うナリクを前に、私はどうしようもなく逃げ出したい衝動に駆られる。ただ、抑えきれない衝動はもう一つあった。


「(……メアリー、この人、追い出してもらっても良いかな?)」


 私は、久しぶりに怒りの感情を覚えていた。

 そんな私の様子に、メアリーは大きく目を見開いた直後、すぐに返事をくれる。


「かしこまりました。全力をもって、排除させていただきますね」

「えっ?」

「ニャッ!?」


 なぜか猫も驚いたように見えたけれど、今はそれに構っている暇はない。何せ、このナリクという人は、言ってはいけないことを言ったのだから。


(『小さなレディ』……ふふふっ、小さい、小さい……ふふふふふっ)


 ナリクにとっては何気ない一言でも、私の胸にはグサリと刺さったその一言。もう十八であるというのに、まるで幼子に対するかのような物言いに、私が怒るのは必然だった。


「(メアリー、一人じゃどうにもならないなら、ララとか、リリとかも応援に呼んだ方が良いかな?)」


 いつもは鳴らすのにも躊躇うベルに、私はゆっくり手をかけて提案する。


「それは良案ですね。二人なら鞭も常備していますし、適任ですね」


 いつもなら、鞭などという武器を持ち出して来ようものなら必死に止める。けれど、私はその言葉に少し迷って……。


「えっ? ちょっと待っておくれよ、小さなレディ? 何がそんなに気に食わなかったんだ?」

「(うん、呼ぼう)」


 二度目の地雷踏み抜き事件を起こしたナリクに、同情の余地などなかった。
 必死に言い募ってメアリーの拘束から逃れようとしていたナリクだったものの、案外あっさりと捕まる。そうして、後から来たララとリリに、鞭で縛られて連れ去られるのだった。
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