私、異世界で監禁されました!?

星宮歌

文字の大きさ
上 下
46 / 173
第三章 歩み寄り

第四十四話 魔力コントロール

しおりを挟む
「(《風よ、眼前の敵を切り裂け》)」

「…………そよ風、だな」

「(《風よ、全ての邪悪を吹き飛ばせ》)」

「…………丸太がゆらゆら送られていくね」

「(……《風よ、その形を球と変えよ》)」

「…………球は球だけれど、触ってみて初めて分かる状態ね」


 今、私は魔力のコントロールの練習をしている。けれど、ジークフリートさん達の感想にもあるように、成果は全く芳しくない。最初と最後に行使した魔法は、いつもいつも威力が弱い。それに対して、アマーリエさんを吹き飛ばしたのと同じ魔法は、妙に力んでいるせいで、どんなに重いものでもゆっくりと運んでしまうようなものになっている。本来なら、風をぶつけるだけの簡単な魔法なのに、ものを浮かせて送るという謎の仕様になってしまっていた。


「(うぅ、やっぱり、上手くいかない……)」


 ジークフリートさん同様、ハミルトン様とも訓練を行うことを了承した私は、その二人から大きく距離を取った場所でうなだれる。


「まだ初めて四日目くらい何だから、そんなに気落ちすることはないわよ」


 リド姉さんがそう言って慰めてくれるのを見て、私はコクンとうなずく。


「(頑張る)」


 近くに居たララに通訳をしてもらいながら、私はもう一度、魔法を繰り出す。
 私が使える魔法は、どうやら風魔法だけのようなので、とにかく簡単なもので挑戦あるのみだった。


「それにしても……あんた達、随分距離を取られてるわね。何かしたの?」

「いや」

「僕も、心当たりはないよ」

「確か、昨日からだったわよね?」

「ユーカお嬢様に変わったことは何もなかったと証言致します」


 そんな会話が繰り広げられているとも知らずに、私は一生懸命魔力を感じて、それを言葉とともに放つ。けれど……。


「(やっぱり、ダメかぁ)」


 本来の魔法とは異なる結果しか生み出さない現状に、私は大きくため息を吐きたくなる。一日目と二日目の、魔力を感じるというところは、何とかできるようになったのだ。後は、必要な時に、必要なだけの魔力を込められるようにさえなれば、魔力コントロールの半分はできたと言っても過言ではないらしい。そのための、比較的簡単な魔法だったのだけれど、それは今のところ、一度も成功していない。


「ユーカお嬢様。そろそろ休憩に入りましょう」


 何度も何度も練習して、それでも上手くいかない状態が続く中、どうやら休憩時間になってしまったらしい。魔力というのは、使えば使うだけ減っていくもので、適度に休憩を挟んで回復させておかないといけないものらしい。魔力が枯渇してしまえば、大抵、意識を失ってしまうから、魔力の管理は基本らしかった。


(まだ、そこまで魔力の感知力が高くないから、休憩はジークフリートさん達の判断でしなきゃならないんだけれど、ね)


 魔力を大量に使ったせいで起こる倦怠感に、少しふらつきながら、私は後方に置いてあった椅子へと座る。


「ユーカお嬢様、こちら、レモネードですっ」

「(ありがとう。リリ)」


 ニッコニッコと笑顔を浮かべるリリにお礼を言えば、嬉しそうにそのアーモンド色の瞳を柔らかくする。
 冷たいレモネードをコクリと飲めば、その清涼感にホッとする。そして、その甘さが体の疲れにスゥッと染み渡り余計な力が抜けていく。ただし……。

 ジリッ。ズズッ。ジリジリッ。ズズズッ。

 ジークフリートさんやハミルトン様が近寄って来ようとした瞬間、私は少しだけ後ろへと椅子ごと移動する。そして、近づけないと分かったジークフリートさんやハミルトン様は、絶望の表情を浮かべて、うなだれてしまう。


(ごめんなさい。ごめんなさいっ。でも、今は、今だけは、無理なんですっ)


 つい最近、片翼に関する実用書、『片翼の心構え』というタイトルの本を読んだ結果、片翼が魔族にとってどういう存在なのかを理解した私は、あまりの気まずさにジークフリートさん達の近くに寄ることが難しくなっていた。


(片翼が、魔族にとって唯一無二の恋愛対象とかっ、どうすれば良いの!?)


 その本には、主に行き過ぎた愛情表現をしてくる魔族に対しての対処法が書かれていたのだけれど、その愛情表現を一つ知るごとに、顔が赤くなるのを感じた。


(『あーん』とかはまだ良い方で、く、口移しが普通とかっ、毎日のキスの回数が最低でも二、三十回を超えるとかっ、全っ然、普通じゃないっ! しかも、それが両翼なら二人相手って……うわーんっ)


 自分がそういう対象に見られているという自覚は、ジークフリートさん達の側に寄れないという状態で現れた。本当なら、魔法を教えてくれる師匠でもあるため、そんなことではいけないと分かっているのだけれど、どうにも感情が制御できない。


(ジークフリートさんやハミルトン様が険しい顔だったのは、今までの周りの人の言動から、『片翼の宿命』ってものに問題があったからだろうとは予想できるし、多分、鎖もその一環なんだよね)


 本の中には、『片翼の宿命』によって、いかに魔族が傷つき、努力し、時には挫折するのかも書かれており、それを読んだことで、ようやく私は今までの片翼には問題があったのだろうということを理解した。ただ、私が一見問題なさそうな原因は、異世界から来たせいじゃないかということしか分からないけれど……。


「ユーカちゃん? あいつらはユーカちゃんに何かしたのかしら? 教えてくれたら、ぶん殴ってくるわよ?」


 自分勝手な気まずさからジークフリートさん達を遠ざけていた私は、リド姉さんからの言葉にハッと我に返る。


「(大丈夫っ、大丈夫だからっ!)」

「『大丈夫』だそうです。ですが、私は殴ることに賛成致します」

「(賛成しちゃダメだよ!)」

「では、鞭の出番ですね?」

「(鞭は永遠に仕舞う方向でお願いしますっ!)」


 嬉々として鞭を取り出すララは、最初の頃とは違って、自分を叩くようには言わないものの、ともすれば私の敵と認定した者に対して容赦なく使おうとする。


(私、何か間違えたっけ!?)


 主にララとリリの教育面で重大な問題があったかもしれないと自問自答しながら、必死にジークフリートさん達を攻撃しようとする二人を止める。
 そうして、休憩前よりも疲れたような気がしながら、また魔力コントロールの練習を再開するのだった。
しおりを挟む
お気に入り登録や感想を、ありがとうございます。これを励みに楽しく更新していきますね。
感想 273

あなたにおすすめの小説

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

私、確かおばさんだったはずなんですが

花野はる
恋愛
不憫系男子をこよなく愛するヒロインの恋愛ストーリーです。 私は確か、日本人のおばさんだったはずなんですが、気がついたら西洋風異世界の貴族令嬢になっていました。 せっかく美しく若返ったのだから、人生勝ち組で楽しんでしまいましょう。 そう思っていたのですが、自分らしき令嬢の日記を見ると、クラスメイトの男の子をいじめていた事が分かって……。 正義感強いおばさんなめんな! その男の子に謝って、きっとお友達になってみせましょう! 画像はフリー素材のとくだ屋さんからお借りしました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

転生先は男女比50:1の世界!?

4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。 「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」 デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・ どうなる!?学園生活!!

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

処理中です...