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第二章 訪問者
第三十九話 食い違う対峙
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最初のお茶会の翌日、またリド姉さんに誘われてお茶会に向かった私は、途中までは確かに楽しんでいた。けれど……。
「ここですのっ? お兄様を傷付ける片翼が居るという場所はっ!」
和やかなお茶会に相応しくない怒声が響き、私は小さく悲鳴を上げて固まる。
大きな声や、大きな物音は苦手だ。父の暴力を思い出して、どうしようもなく震えてしまう。寒い冬の日に、何度も殴られて、外に放り出されたことを思い出す。
「っ、ユーカお嬢様っ。大丈夫ですよっ」
「(あ……リリ……)」
私に一番近い位置に立っていたリリは、乱入者から私を隠すようにして抱き締めてくれる。そのことに、少しだけホッとして、過去に捕らわれていた思考がまともに動き出す。
「ちょっと、貴女っ! その女をこっちに寄越しなさいっ! わたくしっ、そいつに言ってやらないと気がすまないのよっ」
知らない女性に怒鳴られて、私が再び体を震わせると、リリがギュッと抱き締める腕に力を込めてくれる。そして、リド姉さんとララは、乱入者を睨んで、こちらに来ないようにしてくれている。守られている実感に、私はいつフラッシュバックを起こしてもおかしくない状況でどうにか正気を保てていた。
「アマーリエ嬢、これはいったいどういうことかしら?」
「あら? リドル、貴方も居たの? でも、今は貴方なんかに用はないの。その女をこっちに渡しなさい」
どうやら、アマーリエという女性はリド姉さんの知り合いらしい。ただ、その知り合いが私に何の用なのかいまいち分からない。
「っ、ユーカちゃん、ここはワタシが足止めするから逃げなさいっ!」
どうにか落ち着きを取り戻した私は、リド姉さんの言葉に驚きつつも、リリの抱擁から抜け出して前に出る。守ってくれようとするのはありがたいけれど、このアマーリエさんは私に用がある様子。ならば、私が対処しなければならないだろう。
「っ、ユーカちゃん!?」
「(大丈夫)」
まだ少し震えは残っているものの、とりあえず大丈夫そうだ。むしろ、リリやララがなぜか力が抜けたように座り込んでしまったこととか、リド姉さんが動けなくなっていそうな状態なのが気になる。
(この人が、何かしてるの、かな?)
じっと観察してみると、その人はとても美人で、胸もとっても大きかった。
(……負けた……じゃなくて、誰かに似てる?)
勝てる人の方が少ないであろう勝負の負けを実感しながらじーっと見つめると、何だか知っている人に似ている気がして、内心首をかしげる。
「あら? 殊勝なことね。自ら出てくるなんて」
思いっきり目を宙に漂わせて、動揺をあらわにそう言う彼女は、何だか可愛らしい。
(悪い人じゃ、なさそう?)
そう思っていると、アマーリエさんは意を決したように話し始める。
「あなた、お兄様の片翼ね。だいたい、いつもいつも、あんなにお優しいお兄様に怯えるなんて失礼極まりないのよっ! 分かってますのっ?」
(『お兄様』『片翼』……髪の色といい、もしかして、ハミルトン様の妹さん?)
「部屋に閉じ籠ってばかりでっ、お兄様が来たら悲鳴を上げる。貴女が魔族に虐げられたことくらい知ってはいますけれどねっ、それでも、限度ってものがあるでしょうっ!」
(部屋に閉じ籠っていたのは、ハミルトン様が原因な気が……それに、魔族に虐げられたって、どういうこと?)
「お兄様に愛を囁かれたら、普通応えるものでしょうがっ! こんのっ、愚か者っ!」
(……あれ? 『愛を囁かれ』って…………もしかして、『片翼』の意味って、一目惚れって意味で合ってたの!?)
そうして、怒鳴られつつも、なぜか平常心でいられた私は、様々な疑問を抱えて内心、首をかしげる。
「……ユーカ、お嬢様は、そんなん、じゃ、ないですっ!」
「ユーカお嬢様、を、悪く、言わないで、くださいません、か?」
(……あれ? 私、悪く言われてたの?)
リリとララの判断基準がよく分からず、さらに内心、首をかしげたところで、一気に肌が粟立つ感覚に襲われる。
(っ、何?)
何が起こっているのかは理解できなかったものの、粟立つ感覚と平行して、自分の中から何かが溢れてくるような感覚も湧き起こる。
「こんのっ、吹き飛びなさいっ!」
『危ないっ』という警鐘と、溢れた何かが全身から解き放たれるのは同時だった。
「きゃあぁぁぁあっ!」
その直後、アマーリエさんはなぜか風に連れていかれる形で後方に引きずられていく。
「(へっ?)」
「ユーカっ!」
「無事かいっ!!」
そうして、遅れてやってきたジークフリートさんとハミルトン様の姿に、私は目をパチパチさせて混乱する。
二人は、飛ばされた(とはいっても、そんなに勢いはなかったため大丈夫だろうとは思える)アマーリエさんを無視して、血相を変えて私の方へと駆け寄る。
「ごめんよ。僕の妹が」
「すまない。うかつだった」
いつもの険しい表情が取れた二人は、全身で心配だということを表現して私の体に怪我がないかと観察してくる。
「ユーカちゃんに怪我はないわよ」
「リドっ、何でユーカを逃がしてやれなかったんだいっ!」
「威圧されて動けなかったんだから、仕方ないでしょ? そんなことより、あんた達の到着が遅くて、こっちはハラハラしたわよっ」
「すまない。リド」
「ご、ごめん」
バツが悪そうに謝る二人は、何だか子供のようにも見える。
「ユーカちゃん? ユーカちゃん!?」
「なっ、ユーカ!?」
「ど、どうしたのっ、ユーカ!」
何だか、緊張の糸が切れたらしく、私はリド姉さんやジークフリートさん、ハミルトン様の声が遠くに聞こえるのを感じて……そのまま意識を失った。
「ここですのっ? お兄様を傷付ける片翼が居るという場所はっ!」
和やかなお茶会に相応しくない怒声が響き、私は小さく悲鳴を上げて固まる。
大きな声や、大きな物音は苦手だ。父の暴力を思い出して、どうしようもなく震えてしまう。寒い冬の日に、何度も殴られて、外に放り出されたことを思い出す。
「っ、ユーカお嬢様っ。大丈夫ですよっ」
「(あ……リリ……)」
私に一番近い位置に立っていたリリは、乱入者から私を隠すようにして抱き締めてくれる。そのことに、少しだけホッとして、過去に捕らわれていた思考がまともに動き出す。
「ちょっと、貴女っ! その女をこっちに寄越しなさいっ! わたくしっ、そいつに言ってやらないと気がすまないのよっ」
知らない女性に怒鳴られて、私が再び体を震わせると、リリがギュッと抱き締める腕に力を込めてくれる。そして、リド姉さんとララは、乱入者を睨んで、こちらに来ないようにしてくれている。守られている実感に、私はいつフラッシュバックを起こしてもおかしくない状況でどうにか正気を保てていた。
「アマーリエ嬢、これはいったいどういうことかしら?」
「あら? リドル、貴方も居たの? でも、今は貴方なんかに用はないの。その女をこっちに渡しなさい」
どうやら、アマーリエという女性はリド姉さんの知り合いらしい。ただ、その知り合いが私に何の用なのかいまいち分からない。
「っ、ユーカちゃん、ここはワタシが足止めするから逃げなさいっ!」
どうにか落ち着きを取り戻した私は、リド姉さんの言葉に驚きつつも、リリの抱擁から抜け出して前に出る。守ってくれようとするのはありがたいけれど、このアマーリエさんは私に用がある様子。ならば、私が対処しなければならないだろう。
「っ、ユーカちゃん!?」
「(大丈夫)」
まだ少し震えは残っているものの、とりあえず大丈夫そうだ。むしろ、リリやララがなぜか力が抜けたように座り込んでしまったこととか、リド姉さんが動けなくなっていそうな状態なのが気になる。
(この人が、何かしてるの、かな?)
じっと観察してみると、その人はとても美人で、胸もとっても大きかった。
(……負けた……じゃなくて、誰かに似てる?)
勝てる人の方が少ないであろう勝負の負けを実感しながらじーっと見つめると、何だか知っている人に似ている気がして、内心首をかしげる。
「あら? 殊勝なことね。自ら出てくるなんて」
思いっきり目を宙に漂わせて、動揺をあらわにそう言う彼女は、何だか可愛らしい。
(悪い人じゃ、なさそう?)
そう思っていると、アマーリエさんは意を決したように話し始める。
「あなた、お兄様の片翼ね。だいたい、いつもいつも、あんなにお優しいお兄様に怯えるなんて失礼極まりないのよっ! 分かってますのっ?」
(『お兄様』『片翼』……髪の色といい、もしかして、ハミルトン様の妹さん?)
「部屋に閉じ籠ってばかりでっ、お兄様が来たら悲鳴を上げる。貴女が魔族に虐げられたことくらい知ってはいますけれどねっ、それでも、限度ってものがあるでしょうっ!」
(部屋に閉じ籠っていたのは、ハミルトン様が原因な気が……それに、魔族に虐げられたって、どういうこと?)
「お兄様に愛を囁かれたら、普通応えるものでしょうがっ! こんのっ、愚か者っ!」
(……あれ? 『愛を囁かれ』って…………もしかして、『片翼』の意味って、一目惚れって意味で合ってたの!?)
そうして、怒鳴られつつも、なぜか平常心でいられた私は、様々な疑問を抱えて内心、首をかしげる。
「……ユーカ、お嬢様は、そんなん、じゃ、ないですっ!」
「ユーカお嬢様、を、悪く、言わないで、くださいません、か?」
(……あれ? 私、悪く言われてたの?)
リリとララの判断基準がよく分からず、さらに内心、首をかしげたところで、一気に肌が粟立つ感覚に襲われる。
(っ、何?)
何が起こっているのかは理解できなかったものの、粟立つ感覚と平行して、自分の中から何かが溢れてくるような感覚も湧き起こる。
「こんのっ、吹き飛びなさいっ!」
『危ないっ』という警鐘と、溢れた何かが全身から解き放たれるのは同時だった。
「きゃあぁぁぁあっ!」
その直後、アマーリエさんはなぜか風に連れていかれる形で後方に引きずられていく。
「(へっ?)」
「ユーカっ!」
「無事かいっ!!」
そうして、遅れてやってきたジークフリートさんとハミルトン様の姿に、私は目をパチパチさせて混乱する。
二人は、飛ばされた(とはいっても、そんなに勢いはなかったため大丈夫だろうとは思える)アマーリエさんを無視して、血相を変えて私の方へと駆け寄る。
「ごめんよ。僕の妹が」
「すまない。うかつだった」
いつもの険しい表情が取れた二人は、全身で心配だということを表現して私の体に怪我がないかと観察してくる。
「ユーカちゃんに怪我はないわよ」
「リドっ、何でユーカを逃がしてやれなかったんだいっ!」
「威圧されて動けなかったんだから、仕方ないでしょ? そんなことより、あんた達の到着が遅くて、こっちはハラハラしたわよっ」
「すまない。リド」
「ご、ごめん」
バツが悪そうに謝る二人は、何だか子供のようにも見える。
「ユーカちゃん? ユーカちゃん!?」
「なっ、ユーカ!?」
「ど、どうしたのっ、ユーカ!」
何だか、緊張の糸が切れたらしく、私はリド姉さんやジークフリートさん、ハミルトン様の声が遠くに聞こえるのを感じて……そのまま意識を失った。
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