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第二章 訪問者
第三十七話 服飾商会の商会長(リドル視点)
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「販売部門っ! 作業効率が落ちてるようだけれど、原因は? えっ? 即戦力が五人も片翼休暇? 全員、片翼の出産が間近? そう、それは仕方ないわね。生まれたらいつものように報告しなさい。販売部門でお祝いするくらいの代金なら出してあげるから。それと、新人育成の方から、良さそうなのが居たら、一時的にでも引き抜いて代わりをさせなさいっ」
楽しい楽しいお茶会を終えた後、ワタシは仕事に呼び戻され、一時的にマリノア城を離れていた。
服飾商会の商会長。それが、ワタシの肩書きで、今居る場所は、そんな服飾商会本部。その会長室だった。何人もの魔族が行き交う商会内で、ビシバシと指示を飛ばし、重要な仕事をこなしていく。
公爵家とはいえ三男であるワタシは、家督を継ぐわけでもなく、かといって、他の兄妹のように武に秀でているわけでもなかった。必然的に、ワタシはワタシが興味を持っていた服飾関係の道を選ぶこととなり、現在はこの国一番の服飾商会の商会長として名を馳せていた。けれど……。
(あぁっ、もうっ、ハミルがユーカちゃんに会う様子を観察しておこうと思ったのにっ)
時に商会長という肩書きは重石になる。他にやりたいことがある時に、商会長の肩書きがあるせいで動けないこともあるのだ。
(報告もまだできてないし、やることが多過ぎるわね)
内心では文句タラタラではあったものの、親友達に頼られるのは悪い気はしない。むしろ、今まで頼られなかった分、張り切って行動していた。
(お茶会は、毎日に切り替えても良いわね。それと、散歩の時間も取らなきゃ、運動不足になっちゃうわ。他には……そうね、ユーカちゃん自身の意見も聞きたいところだわ)
とりあえず、必要な分だけの仕事をこなしたワタシは、後のことを部下に任せて馬車がある表通りへと早足で向かう。
「っと、忘れるところだった。ユーカちゃん用のドレスを発注しておかなきゃね」
玄関口まで来たところで、ワタシはユーカちゃんへドレスを贈らなければならないことを思い出す。今現在、ユーカちゃんが着ている服は、どれもこれもシンプルなワンピースばかりだ。メアリーに尋ねたところ、フリルの多い子供らしいドレスなんかは、見ただけで拒否されたらしい。よっぽど、子供に見られるのが嫌なのだろう。
「先にオーダーメイドの発注をかけないとどうにもならないわよね。あの体格だと……」
既製品でユーカちゃんのサイズの服と言えば、確実に子供服ばかりだ。百五十もない身長で大人というのは、まず居ない。病気でもない限り、十八歳となれば、どんなに低くても百七十くらいの高さはある。
(ジーク達から要望を聞いておいて良かったわね)
年齢が判明した後、ワタシはユーカちゃんのためのドレスを作ろうと、ジーク達からどんなドレスが良いかの要望を聞いておいたのだ。次回は、ジーク達が直々に渡せば良いと思って、色やドレスの種類、小物やアクセサリーに至るまで事細かに尋ねている。
「ちょっと良いかしら?」
「は、はいっ、姐さんっ!」
ゴツい魔族の男が受付をしているその場所に引き返すと、勢いの良過ぎる返事がくる。
「今は商会長よ。それで、この要望書通りのドレス、及び小物類を揃えてほしいの。できるだけ早急に」
「はいっ、全力でもって対応させていただきやすっ」
要望書の提出さえしてしまえば、後は待っていれば良い。小物やアクセサリーに関しては、城に現物を持ってきてもらって、ジーク達……もしくは、ユーカちゃんに選んでもらうつもりだ。
(さて、急いでマリノア城に行って……早めに報告をすませたら、レティのところに戻って癒されましょう)
そう、自らの片翼を思い浮かべて微笑むワタシは、要望書を見た魔族の男が首をかしげていることにも気づかずに馬車へと乗り込む。
「また、マリノア城へお願い」
「はいっ」
御者に一声かけると、馬車の中で一息吐く。ここからマリノア城まではそう時間もかからない。だから、馬車での移動時間はちょっとした休憩くらいの感覚だった。
(ハミルはユーカちゃんと上手く話せたかしら? ワタシに対しては普通の態度だったけれど……ジークやハミルは怯えられているのよね?)
ぼんやりと考えるのは、両翼だと言われるユーカちゃん。きっと、ユーカちゃんに何かあれば、この国は崩壊する。いや、この国だけではなく、リアン魔国もだろう。それだけ、ジークとハミルの魔王としての資質は強い。あの二人が同時に狂うなど、悪夢でしかない。
(この国やリアン魔国のためにも、ワタシとレティの幸せのためにも、ユーカちゃんには恐怖を克服してもらわなきゃね)
何年かかっても構わない。とにかく、ユーカちゃんがジークとハミルに心を開いて、契りを交わしてくれるなら、それだけで皆幸せになれるのだから。
(さて、そろそろね。最初は報告で、次にハミルからユーカちゃんと会ってどうだったかを聞かなきゃならないわね)
もし、ユーカちゃんに無体なことをしていたら、鉄拳制裁をする必要が出てくる。ただ……あまりに二人がヘタレ過ぎて、その可能性は薄いかもしれないけれど……。
「今戻ったわ。ジークとハミルのところに案内してくれるかしら?」
そうして、マリノア城に着いたワタシは、出迎えた使用人に案内を頼み、歩き出すのだった。
楽しい楽しいお茶会を終えた後、ワタシは仕事に呼び戻され、一時的にマリノア城を離れていた。
服飾商会の商会長。それが、ワタシの肩書きで、今居る場所は、そんな服飾商会本部。その会長室だった。何人もの魔族が行き交う商会内で、ビシバシと指示を飛ばし、重要な仕事をこなしていく。
公爵家とはいえ三男であるワタシは、家督を継ぐわけでもなく、かといって、他の兄妹のように武に秀でているわけでもなかった。必然的に、ワタシはワタシが興味を持っていた服飾関係の道を選ぶこととなり、現在はこの国一番の服飾商会の商会長として名を馳せていた。けれど……。
(あぁっ、もうっ、ハミルがユーカちゃんに会う様子を観察しておこうと思ったのにっ)
時に商会長という肩書きは重石になる。他にやりたいことがある時に、商会長の肩書きがあるせいで動けないこともあるのだ。
(報告もまだできてないし、やることが多過ぎるわね)
内心では文句タラタラではあったものの、親友達に頼られるのは悪い気はしない。むしろ、今まで頼られなかった分、張り切って行動していた。
(お茶会は、毎日に切り替えても良いわね。それと、散歩の時間も取らなきゃ、運動不足になっちゃうわ。他には……そうね、ユーカちゃん自身の意見も聞きたいところだわ)
とりあえず、必要な分だけの仕事をこなしたワタシは、後のことを部下に任せて馬車がある表通りへと早足で向かう。
「っと、忘れるところだった。ユーカちゃん用のドレスを発注しておかなきゃね」
玄関口まで来たところで、ワタシはユーカちゃんへドレスを贈らなければならないことを思い出す。今現在、ユーカちゃんが着ている服は、どれもこれもシンプルなワンピースばかりだ。メアリーに尋ねたところ、フリルの多い子供らしいドレスなんかは、見ただけで拒否されたらしい。よっぽど、子供に見られるのが嫌なのだろう。
「先にオーダーメイドの発注をかけないとどうにもならないわよね。あの体格だと……」
既製品でユーカちゃんのサイズの服と言えば、確実に子供服ばかりだ。百五十もない身長で大人というのは、まず居ない。病気でもない限り、十八歳となれば、どんなに低くても百七十くらいの高さはある。
(ジーク達から要望を聞いておいて良かったわね)
年齢が判明した後、ワタシはユーカちゃんのためのドレスを作ろうと、ジーク達からどんなドレスが良いかの要望を聞いておいたのだ。次回は、ジーク達が直々に渡せば良いと思って、色やドレスの種類、小物やアクセサリーに至るまで事細かに尋ねている。
「ちょっと良いかしら?」
「は、はいっ、姐さんっ!」
ゴツい魔族の男が受付をしているその場所に引き返すと、勢いの良過ぎる返事がくる。
「今は商会長よ。それで、この要望書通りのドレス、及び小物類を揃えてほしいの。できるだけ早急に」
「はいっ、全力でもって対応させていただきやすっ」
要望書の提出さえしてしまえば、後は待っていれば良い。小物やアクセサリーに関しては、城に現物を持ってきてもらって、ジーク達……もしくは、ユーカちゃんに選んでもらうつもりだ。
(さて、急いでマリノア城に行って……早めに報告をすませたら、レティのところに戻って癒されましょう)
そう、自らの片翼を思い浮かべて微笑むワタシは、要望書を見た魔族の男が首をかしげていることにも気づかずに馬車へと乗り込む。
「また、マリノア城へお願い」
「はいっ」
御者に一声かけると、馬車の中で一息吐く。ここからマリノア城まではそう時間もかからない。だから、馬車での移動時間はちょっとした休憩くらいの感覚だった。
(ハミルはユーカちゃんと上手く話せたかしら? ワタシに対しては普通の態度だったけれど……ジークやハミルは怯えられているのよね?)
ぼんやりと考えるのは、両翼だと言われるユーカちゃん。きっと、ユーカちゃんに何かあれば、この国は崩壊する。いや、この国だけではなく、リアン魔国もだろう。それだけ、ジークとハミルの魔王としての資質は強い。あの二人が同時に狂うなど、悪夢でしかない。
(この国やリアン魔国のためにも、ワタシとレティの幸せのためにも、ユーカちゃんには恐怖を克服してもらわなきゃね)
何年かかっても構わない。とにかく、ユーカちゃんがジークとハミルに心を開いて、契りを交わしてくれるなら、それだけで皆幸せになれるのだから。
(さて、そろそろね。最初は報告で、次にハミルからユーカちゃんと会ってどうだったかを聞かなきゃならないわね)
もし、ユーカちゃんに無体なことをしていたら、鉄拳制裁をする必要が出てくる。ただ……あまりに二人がヘタレ過ぎて、その可能性は薄いかもしれないけれど……。
「今戻ったわ。ジークとハミルのところに案内してくれるかしら?」
そうして、マリノア城に着いたワタシは、出迎えた使用人に案内を頼み、歩き出すのだった。
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